看護師として勤務していれば、誰もが一度は「ラダー」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
最近は、ラダー制度を導入している医療機関が多くなっています。
そこで今回は、看護師のラダーに関して、概要や活用方法、メリットなどを詳しく解説します。
ラダーについて理解を深めたい人は、ぜひ参考にしてください。
目次
看護師の「ラダー」とは?
看護師のラダーとは、看護師個々の能力やキャリアを段階的に評価し、看護師の質の向上や成長を促すためのツールであり、システムです。
ラダーには英語で「はしご」という意味があり、キャリアアップの道筋を示したキャリアラダーと、看護実践能力の水準として定められたクリニカルラダーの2種類があります。
クリニカルラダーとは
クリニカルラダーは、看護に必要な実践能力を段階的に表したものです。
看護師の能力が段階的に表現されているため、自分が看護師として現在どのレベルにあるのかを把握でき、明確化された目標に向かって努力していけるようになります。
看護師としての経験年数ではなく、知識や技術などの看護実践能力が重要視される点が特徴です。
日本看護協会のクリニカルラダーが一般的ですが、病院や施設ごとに独自のラダーを定めているところもあります。
今後の動きとして、全国レベルでの看護師の継続教育を体系化する目的で、クリニカルラダーを標準化していくことが計画されています。
日本看護協会のクリニカルラダーの開発目的は、以下のとおりです。
- 看護実践の場や看護師の背景に関わらず、すべての看護師に共通する看護実践能力の指標の開発と支援
- 看護実践能力の適切な評価による担保および保証
- 患者や利用者等への安全で安心な看護ケアの提供
出典元:「看護師のクリニカルラダー (日本看護協会版)」 活用のための手引き
キャリアラダーとは
キャリアラダーは、看護職としてキャリアアップしていくための一つの指標です。
看護師の専門的な能力の発達や開発、臨床実践能力のみならず、管理的な能力が問われる段階や、専門看護師・認定看護師・特定行為研修修了看護師としての段階なども含まれます。
病院や施設のなかで、主任や看護師長、看護部長などと役職を上げていくための評価基準になることが多く、看護実践能力に加えて、マネジメント能力が問われるのが特徴です。
看護師のクリニカルラダーの構成は?
看護師のクリニカルラダーの構成を、日本看護協会のクリニカルラダーを例に解説します。
日本看護協会のクリニカルラダーでは、看護師が活動するどの場においても必要とされる力として、「意思決定を支える力」「ニーズをとらえる力」「協働する力」「ケアする力」の4つの実践能力を掲げています。
以下は、日本看護協会による4つの実践能力の定義です。
- 意思決定を支える力
ケアの受け手が立ち会う場面(治療、最期の迎え方等)において、その人らしい選択ができるための意思決定を支える- ニーズをとらえる力
ケアの受け手をとらえ、判断し、その人に適した方略を選択する- 協働する力
ケアの受け手を中心に、情報やデータを多職種間で共有し、ケアの方向性を検討、連携する- ケアする力
ケアの実施・評価を行う(PDCAサイクルや看護過程の展開)
出典元:「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」活用のための手引き3. 学習内容編
Ⅰ~Ⅴのレベルに分かれている
クリニカルラダーでは、4つの看護実践能力について、Ⅰ~Ⅴのレベル毎に目標が定められています。
日本看護協会における各レベルの定義は、以下のとおりです。
- レベルⅠ:基本的な看護手順に従い必要に応じ助言を得て看護を実践する
- レベルⅡ:標準的な看護計画に基づき自立して看護を実践する
- レベルⅢ:ケアの受け手に合う個別的な看護を実践する
- レベルⅣ:幅広い視野で予測的判断をもち看護を実践する
- レベルⅤ:より複雑な状況において、ケアの受け手にとっての最適な手段を選択しQOLを高めるための看護を実践する
先述のとおり、日本看護協会のクリニカルラダーでは目標や能力などを経験年数別ではとらえていないため、各レベルの経験年数の目安などは一切表示されていません。
レベル毎の目標・行動目標・学習目標の3つからなる
クリニカルラダーのレベル毎の目標には、さらに細かい行動目標・学習目標がそれぞれ設定されています。
行動目標とは、レベル毎の目標を達成するためにすべきことで、すべての行動目標を達成することで各レベルに到達できます。
また学習目標とは、各レベルに到達するための学習における目標のことで、実践(OJT)や知識の学習内容を含むものです。
看護師のクリニカルラダーの活用方法
看護師のクリニカルラダーは、個人としてはもちろんのこと、組織としても活用可能です。
組織内で活用していくことで、病院や施設全体の看護の質やレベルの向上が見込めます。
看護師個人としての活用方法
まず、看護師個人としては、看護実践能力の自己評価・自己研鑽ツールとして活用します。
専門職である自分自身の成長のために、現在の自分のレベルを正しく把握し、スキルアップのため目標に向かって努力していくことが重要です。
看護や医療に関しては、日々新しい知識や技術が更新されるため、看護師免許取得後も、生涯にわたった継続学習が求められます。
自己研鑽のための具体的な方法や目的がわかりやすく示されているクリニカルラダーを、大いに活用しましょう。
また、目標達成のためには、目標への進捗状況を定期的に評価することも重要です。
病院や施設によっては評価のタイミングが定められていることもありますが、個人で活用する際にも定期的な評価を忘れないようにしましょう。
看護師が所属する組織としての活用方法
クリニカルラダーは、組織としても活用していく必要があります。
病院や部署の理念や方針、目的と照らし合わせながら、人材育成・教育支援ツールとして、看護師を教育するために活用されます。
看護師個人がスキルアップしていくためには、組織の教育体制の整備や支援が欠かせません。
教育体制の柱として、クリニカルラダーが大いに役に立つでしょう。
看護師のクリニカルラダーを活用するメリット
看護師がクリニカルラダーを活用するメリットは、以下のとおりです。
- 看護実践能力の客観的な評価が可能
- 目標が明確化される
- モチベーションの向上につながる
- 部署異動・転職しても自分の能力を示しやすい
順に解説します。
看護実践能力の客観的な評価が可能
クリニカルラダーでは看護実践能力を客観的に評価できるため、自分の立ち位置やめざすべき姿を正しく理解できます。
日々の業務のなかで、自分が看護師としてどのように進んでいくべきかわからなくなってしまったときにも、力になってくれることでしょう。
また教育の場面において、教育を受ける側とする側が同じシステムを用いて客観的な評価ができるのも、大きなメリットであるといえるでしょう。
目標が明確化される
クリニカルラダーでは、5つのレベルにランク付けされるため、めざすべき目標が明確化されます。
何を目標に努力すれば良いのかがわかり、自己研鑽のための指標となることでしょう。
モチベーションの向上につながる
目標が明確化されることによって、「スキルアップしよう」という向上心やモチベーションにつながりやすくなるのも、クリニカルラダーのメリットです。
モチベーションにつなげるためには、クリニカルラダーを「ランク付けするためのツール」ではなく「成長するためのツール」であるととらえることが重要です。
自分自身で振り返る際や教育場面での活用の際には、できていることにも目を向け、肯定的なフィードバックができると良いでしょう。
部署異動・転職しても自分の能力を示しやすい
現在クリニカルラダーの共通化が推進されているため、部署異動や転職の際にも自分の能力を正しく示せ、目標に向かって努力を継続できるのも、クリニカルラダーのメリットです。
同じ病院内、ひいては全国あらゆる病院や施設で、働く場所に関係なく看護師としてスキルアップできたら、それほど良いことはありません。
クリニカルラダーは看護師として成長するために必要な評価システム
今回は、クリニカルラダーを解説しました。
クリニカルラダーは、看護師が個人として、そして組織全体のなかで成長するために必要な、目標管理・評価システムです。
日々の業務や自己研鑽の際に、活用していきましょう。