「臨床工学技士は業務拡大されるって聞いたけど、どのような業務が追加されるの?」
「業務拡大にともなう告示研修ってどのような内容?」
このように悩んでいる方はいませんか。
本記事では、法改正により追加された業務内容や告示研修の内容、業務拡大によるメリット・デメリットを解説します。
目次
臨床工学技士のこれまでの業務内容や範囲
臨床工学技士が、今まで行うことができた業務内容を把握できているでしょうか。
きちんと把握していないと、どのような業務が拡大されたのかがわかりません。
まずは臨床工学技士がこれまで行えた業務内容を振り返ります。
そのうえで、法改正により拡大した業務について確認しましょう。
これまでの主な業務内容
臨床工学技士が今まで行えた業務内容は下記です。
- 人工呼吸器の作動確認や点検、管理
- 体外循環装置である人工心肺の操作や点検、管理
- 穿刺や人工透析装置の操作や管理
- 手術室内の医療機器の操作や事前の管理
- 高気圧酸素療法の装置の操作や管理
- 集中治療室における生命維持管理装置である人工呼吸器、持続的血液浄化装置の操作・管理
- 心臓カテーテル検査における、検査一連の記録を行うためのコンピュータや検査機器の操作
- ペースメーカーや除細動器の植え込み手術における機器の操作や管理
- 医療施設内のさまざまな医療機器の保守・点検
2021年の改正により業務拡大
次に、法改正により拡大された臨床工学技士の業務内容を確認してみましょう。
法改正が行われた背景には、医師の働き方改革・各職種の専門性の活用・地域ごとの医療体制の確保 があります。
- 血液浄化装置の穿刺における、表在化された動脈また表在静脈への接続および除去
- 手術室や集中治療室で生命維持管理装置を使用し、輸液ポンプやシリンジポンプに接続するため の静脈路の確保・接続
- 生命維持管理装置を使用する治療において、輸液ポンプ・シリンジポンプを用いた薬剤投与のための操作。なお、薬剤は手術室や集中治療室で使用するものに限る
- 生命維持管理装置を使用する治療において、薬剤投与のための輸液ポンプ、シリンジポンプに接続された静脈路の抜針および止血
- 心臓や血管のカテーテル治療における、身体へ電気的刺激を送るための装置の操作
- 鏡診下手術における、体内挿入中の内視鏡用ビデオカメラの保持および、手術野の視野確保のための内視鏡用ビデオカメラの操作
以上のように、手術中の新たな機械操作や患者さんへの直接的な処置が追加されています。
業務拡大により追加された臨床工学技士の業務内容を紹介
ここからは、拡大された業務内容について具体的に紹介します。
また、それら業務を臨床工学技士に分担することで得られる、業務上の利点も把握しましょう。
臨床工学技士が穿刺できるようになった
臨床工学技士は、一部の人工透析業務に限り医師の指示のもとで穿刺可能です。
しかし、基本的に患者さんへ静脈穿刺をできたのは、今まで看護師と医師だけでした。
法改正後は、臨床工学技士も輸液ポンプやシリンジポンプにつなげるための、静脈穿刺が可能になったのです。
ただし、手術室や集中治療室の業務に限ります。
臨床工学技士が静脈穿刺をできると、穿刺前後の患者さんの状態観察、穿刺前後の機器の動作確認および管理ができます。
それにより、不測の事態への即時対応やリスク軽減が可能 です。
医師の指示のもとで電気刺激の機械操作ができるようになった
心臓カテーテル治療や人工心肺装置を用いる手術において、患者の身体へ電気的刺激を与える機器があります。
今までは、この電気的刺激の機械操作を行えるのは医師だけでした。
しかし、今回の法改正により医師の指示のもとで、臨床工学技士も実施可能になりました。これにより、臨床工学技士の専門性を活かして治療を行えます。
加えて、医師は、医師にしかできない業務に専念でき、手術の効率化や医師の負担を軽減することが可能です。
内視鏡手術のカメラを操作できるようになった
内視鏡手術の際に、身体に穴を開けてビデオカメラを入れる施術があります。
業務拡大前にこの施術を行えたのは、医師や看護師だけです。
しかし、業務拡大により、このビデオカメラの保持や操作を臨床工学技士が実施可能になりました。
これにより、医師や看護師の業務負担を軽減でき、その職種にしかできない業務に専念できます。
加えて、臨床工学技士にも役割を分担することで、手術の効率性を高めることが可能です 。
人工透析業務における動脈への穿刺ができるようになった
動脈は血圧が高く、多くの血液が流れているため、穿刺するのに大量出血のリスクがあります。
そのため、動脈穿刺を行えるのは医師だけでした。
しかし、業務拡大により、臨床工学技士も表在した動脈に限り穿刺可能となりました。
これにより、穿刺前後の患者さんの状態、穿刺前後の血液浄化装置の動作確認および管理が可能です。
そのため、今までよりも不測の事態への対応やリスクの軽減ができます。
他にも、人工透析業務の作業性の向上や医師の負担の軽減につながります。
臨床工学技士業務拡大による告示研修とは
臨床工学技士の業務拡大にともない、告示研修が実施されるようになりました。
しかし、告示研修の目的や概要を詳細まで把握しきれていない方もいるでしょう。
ここからは、告示研修の目的や研修の概要について解説します。
告示研修について
臨床工学技士の業務拡大における告示研修とは、臨床工学技士が新たに行える業務に必要な知識・技能を習得するための研修です。
研修内容は、基礎研修と実技研修に分かれています。
以下が基礎研修の内容です。
- ガイダンス(法改正と業務範囲の追加について)
- 手術における清潔操作
- 鏡診下手術のビデオカメラの保持および操作
- 静脈路からの薬液投与
- 静脈路の確保、静脈路の抜針および止血
- 動脈表在化の穿刺
- 心臓手術における血管カテーテルの電気的負荷
これら研修内容を約20時間かけて実施します。
実技研修は、基礎研修で学んだ内容を、2人1組で2日間かけて実践します。
研修の概要
研修の概要について下記の表にまとめました。
研修の概要 | ||
研修主催 | 公益社団法人日本臨床工学技士会 | |
受講の対象者 | 2025年4月1日以前に臨床工学技士の資格を保有した者 | |
実施期間 | 2021年9月〜2027年3月 | |
受講料 | ・会員:3万8千円 ・非会員:6万円 |
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基礎研修 | オンデマンド型eラーニング(インターネットを通じてパソコンなどで学習を行うこと)による基礎知識の習得、約20時間 |
(参照元:研修の開催概要 | 臨床工学技士の業務範囲追加に伴う厚生労働大臣指定による研修 | 公益社団法人 日本臨床工学技士会)
業務拡大によるメリットとデメリット
「臨床工学技士の業務が増えて何かメリットがあるの?」「デメリットもあるのでは?」と疑問をもっている方はいませんか。
ここからは、臨床工学技士の業務拡大におけるメリット・デメリットについて解説します。
メリット:担当できる業務が増えてやりがいが増える
業務拡大におけるメリットは、臨床工学技士のやりがいの向上が挙げられます。
今までの臨床工学技士の業務は、主に医療機器の管理と操作でした。
しかし、法改正により、手術中の新たな機械操作、患者さんへの穿刺、薬剤投与など、患者さんへの直接的ケアを含めて責任ある業務が拡大しています。
ほかにも、他職種との連携が重要になり、スタッフ間の信頼関係の向上が求められるでしょう。
以上のように、臨床工学技士の業務における責任の向上、チーム医療の質の向上により 、やりがいが増加すると考えられます。
デメリット:勤務時間が増える・責任の所在が不明確
臨床工学技士の業務拡大におけるデメリットは主に2つ挙げられます。
1つ目は勤務時間の増加です。
今までも多忙であったのに加えて業務拡大してしまうと、元々の業務を勤務時間内に回せない可能性があります。
2つ目は責任の所在です。
臨床工学技士が拡大された業務を行った際にトラブルが発生したとします。
そのトラブルの責任を、医師が負うのか当人が負うのかが不明確です。
この責任問題が解決しなければ、積極的な業務拡大の導入は難しいでしょう。
その他にも、臨床工学技士だけでなくタスクシェアにおけるデメリットとして、以下が挙げられます。
- 医療の質の低下リスク
- 人件費や研修費の増加
- 組織や職種間における調整コストが必要
このように、タスクシェアはメリットもありますがさまざまな課題も抱えています。
業務拡大は成長のチャンス!自ら積極的に業務をこなしていこう
臨床工学技士の業務拡大は、さまざまなメリット・デメリットがありますが、自らの成長のチャンスでもあります。
なぜなら、今まで行う機会がなかった穿刺や機械操作の技術を身につけられるためです。
この業務拡大が浸透すれば、臨床工学技士の仕事の幅も広がり、職種としての需要も高まります。
医療の現場でのさらなる活躍が期待される臨床工学技士になるために、積極的に業務をこなしていきましょう。