医療の仕事に携わりたい人のなかには、臨床工学技士について知りたい人もいるでしょう。
臨床工学技士は医療機器を扱うスペシャリストとして、さまざまな医療現場で活躍しています。
本記事では、臨床工学技士の役割や仕事内容、働く場所、なる方法など、臨床工学技士について幅広くかつ詳しく解説します。
臨床工学技士に興味がある方やめざしている方は、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
目次
臨床工学技士とは
臨床工学技士とは、厚生労働省が認定する国家資格を有する者で、医師の指示を受けて生命維持管理装置の操作や管理を担う医療従事者のことです。
臨床工学技士の役割
臨床工学技士の仕事は、医師の指示を受けて生命維持管理装置の操作・管理を行うことであり、具体的な業務内容はおもに以下の4つです。
- 人工呼吸器・人工心肺装置・血液浄化装置など生命維持管理装置の操作や保守点検
- 人工呼吸器装置の身体への接続・除去
- 血液浄化装置のシャント接続・除去
- 生命維持管理装置の導出電極の皮膚への接続・除去
また、新たな医療機器の導入を検討して提案したり、費用対効果を算定するなど医院運営の重要な役割も期待されています。
臨床工学技士と医師との関係
臨床工学技士の多くは病院などの医療機関で働いており、医師や医療スタッフとチームを組んで働くことになります。
そもそも、臨床工学技士は医師の指示に従って生命維持管理装置の操作を行ったり、医療機器を調整・制御したりするのが仕事です。
つまり、医師とのやりとりは避けられず、関わりが深いのが特徴です。
しかし、ただ医師の指示に従えば良いわけではありません。
医療機器は日々進化しているため、臨床工学技士は機器の専門家として、医師に必要な設備を提案することも求められるのです。
ときにはアップデートさせた知識から医師に適切なアドバイスを行うなど、医療機器の専門家として医師と関わります。
臨床工学技士の平均年収
臨床工学技士の年収がいくらくらいなのか、気になる人も多いのではないでしょうか。
厚生労働省が発表した令和4年度賃金構造基本統計調査 によると、臨床工学技士の平均年収は433.3万円でした。
臨床工学技士は8割近くが専門学校で教育を受けており、学歴には大きな差がない傾向です。
そのため、学歴よりも勤務先によって年収が異なります。
例えば、国公立病院は公務員に準ずるため安定した収入が見込まれますが、民間の病院の場合は規模や手当、経験などによって年収に幅があります。
また、首都圏と地方でも月収に差があるため、一概にいくらとは言い難いでしょう。
とはいえ、働くにあたって年収は重要なポイントです。
臨床工学技士の平均年収については次の記事で紹介しています。
詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
臨床工学技士の仕事内容
臨床工学技士の主な業務は、医療機器の操作と管理です。
以下では、臨床工学技士の業務が具体的にどのような内容なのかを詳細に解説します。
呼吸治療業務
呼吸治療業務とは、臨床工学技士が人工呼吸器の点検や管理を行う業務のことです。
肺など呼吸器の機能が低下し、十分に呼吸ができなくなった患者さんには、呼吸器の代わりとなる人工呼吸器が装着されます。
臨床工学技士は院内を巡回して人工呼吸器が装着されている患者さんのもとへ行き、以下のことを確認します。
- 安全に人工呼吸器が使用できているか
- 人工呼吸器に異常はないか
また、人工呼吸器の保守点検も行います。
人工心肺業務
人工心肺業務とは、心臓手術の際に心臓や肺の代わりとなる体外循環装置(人工心肺)の操作と管理です。
心臓手術では数十台におよぶ医療機器が同時並行して使われることもあり、それらの医療機器の操作や点検の業務を行うのが、臨床工学技士になります。
もちろん、使用前や使用後の体外循環装着を保守点検するのも、臨床工学技士の業務の一つです。
血液浄化業務
血液浄化とは、主に腎臓の機能が低下し体内の老廃物を代謝・排泄できなくなった患者さんに行う治療法です。
その種類は血液透析療法、血液吸着法、血漿交換療法など多岐にわたり、臨床工学技士が人工透析装置の操作などを行います。
血液浄化療法において臨床工学技士が担う業務は以下のとおりです。
- 透析を始める際の穿刺針シャント接続
- 人工透析装置の操作
- 治療中の透析装置の稼働確認
治療が終了するたび、次の治療に備えて装置を保守管理するのも、臨床工学技士の大切な役割となっています。
手術室業務
手術室での臨床工学技士の業務は、手術に使われるさまざまな医療機器の操作や管理です。
例えば、心臓血管外科手術で臨床工学技士が扱う医療機器は、以下のようになります。
- 心臓と肺の代わりとなる人工心肺装置
- 手術による出血を返血するための自己血回収装置
- 心臓機能が低下した場合に一時的な代行をする補助循環装置
臨床工学技士は、あらゆる手術が円滑に行われるよう、多岐にわたる医療機器を管理・操作できなければなりません。
集中治療業務
集中治療室での臨床工学技士の業務も、生命維持管理装置の管理や操作になります。
具体的には以下のような業務が求められます。
- 医師の指示のもと、患者さんの状態に合わせて人工呼吸器の設定を調整
- 人工呼吸器の装着が必要かどうかを毎日評価し、看護師や医師と情報共有
- 血液浄化療法における血液浄化装置の管理や操作を行い、その内容を医師や薬剤師と情報共有
臨床工学技士は重篤な急性機能不全を起こした患者をケアする集中治療室でも、重要な役割を持っています。
心血管カテーテル業務
心血管カテーテル業務では、各種造影検査や血管内治療の際に使用する医療機器や、アブレーションなど不整脈治療に必要な機器の管理・操作を行います。
具体的には以下のような作業となります。
- 血管内治療:医療機器を使用しプラークの性質や血管内腔、血管径の解析、ポリグラフを用いたバイタルサインの管理
- アブレーション:治療に使用する高度医療機器の管理・操作
- 各種造影検査:各種造影検査機器の管理と操作、ポリグラフを用いたバイタルサイン管理
心疾患の診断・治療に欠かせない心血管カテーテルでも、臨床工学技士は重要な役割を担っています。
高気圧酸素業務
高気圧酸素治療とは、標準の10倍以上の酸素を患者の体内に取り込ませ、血液中の酸素濃度を上げる治療法です。
低酸素状態の改善、組織浮腫の軽減などを目的とし、幅広い疾患の治療に用いられる高気圧酸素治療においても、臨床工学技士が重要な役割を果たします。
臨床工学技士は高気圧酸素治療のなかで、以下のような業務を行います。
- 高気圧酸素機器の管理や操作
- 患者さんへの治療説明
- 治療の安全性を保つための患者さんへのボディチェック
- 治療中の血圧や心電図の観察
臨床工学技士には高度医療機器を扱う知識や技術だけでなく、患者さんの治療に対する不安や疑問を解消するコミュニケーション能力も求められます。
ペースメーカ/ICD業務
ペースメーカ・ICD(植込み型除細動器)は、不整脈の患者さんの体内に植込む医療機器です。
不整脈を監視し、万一の際には心筋に電気信号による刺激を与えて治療します。
ペースメーカ・ICDの植込みや交換の際にも、臨床工学技士が役割を果たします。コンピュータを用いて機器が正常に機能するように設定したり、モニタリングしたりするのが主な業務です。
医療機器管理業務
医療現場では低圧持続吸引器や生体情報モニタ、人工呼吸器など、さまざまな医療機器が活用されており、これらの使用後の点検や定期点検も臨床工学技士の大切な役割です。
また、各病棟に設置されている除細動器や人工呼吸器などの管理・操作の業務もあります。
このように、院内にある医療機器を常にトラブルなく使用できる状態にしておくことが、臨床工学技士の業務になります。
なお、2021年の10月から臨床工学技士の業務内容が拡大されました。
業務拡大の詳細については、下記の記事を参照してください。
臨床工学技士が働く場所
臨床工学技士が働く場所は多岐にわたります。
ここからは臨床工学技士が働く場所を、以下の4つに分けて紹介します。
- 大規模な病院
- 透析クリニック
- 医療機器メーカー
- 教育機関
では、各機関について見ていきましょう。
大規模な病院
総合病院や大学病院などの大規模な病院では、手術室や集中治療室、透析室などが臨床工学技士の働く現場になります。
最新の医療機器や治療方法に触れる機会が多く、同僚の臨床工学技士もいるため、スキルアップしやすい環境といえるでしょう。
また、チーム医療を支えるために、医師や看護師など他の医療スタッフとの関わりも多いです。
1年目は基本業務、2年目以降はスキルアップをめざし、5年目以降はリーダーとして活躍することもあります。
また、病院によっては救命救急センターで治療のサポートを行うこともあります。
大規模な病院は、さまざまな業務に触れて経験を高めたい人や、進化する医療技術に関わって知識をアップデートしたい人に向いている職場だといえるでしょう。
透析クリニック
透析クリニックとは、おもに腎不全の患者さんに人工透析を行う病院のことです。
臨床工学技士は血液透析業務のプロフェッショナルとして、基本的に一人で何人もの患者さんを担当します。
具体的な仕事は人工透析装置の操作や点検になります。
透析クリニックでの業務は血液透析業務に特化しており、専門性を高めやすいのがメリットです。
なかには夜間透析を行うクリニックもありますが、そうでなければ夜勤はありません。
また、オンコールで突然の仕事が入る心配がほぼないのも特徴です。
週休2日の8時間勤務など勤務が安定していることが多く、オンオフの切り替えがしやすいため、ワークライフバランスを重視したい人に向いているでしょう。
医療機器メーカー
臨床工学技士には医療施設以外にも活躍できる場があり、そのうちの1つが医療機器メーカーです。
医療機器メーカーでの臨床工学技士の仕事は、顧客に自社製品の特徴や操作方法を説明することで、配属先は営業部や製造開発部になります。
働く場所は国内とは限らず、海外赴任になることも考えられます。
医療機器メーカーでは、臨床工学技士の経験と知識を活かすことができるのが、メリットといえるでしょう。
病院などの医療施設に比べると求人は少ないですが、医療施設よりも年収が高い傾向があります。
教育機関
医療施設以外で活躍できるもう一つの場所に、教育機関があります。
教育機関には専門学校や大学があり、学生向けに授業をする、いわゆる先生という立場になるでしょう。
また、授業だけではなく研究に携わる可能性もあるため、医療と学問の発展に貢献したいという気持ちがある人におすすめです。
臨床工学技士の仕事内容については、次の記事で詳しく紹介しています。
ぜひ参考にしてください。
臨床工学技士になるには
では、臨床工学技士になるには具体的にどうしたら良いのでしょうか。
ここからは臨床工学技士になるために学ぶべきことや、必要な資格について解説します。
ぜひ参考にしてください。
学ぶこと
臨床工学技士には適切な知識と技術が必要です。
そのため、まずは臨床工学技士になるために何を学ぶのか、学ぶ場所にはどのようなところがあるのか知る必要があります。
以下で詳しく見ていきましょう。
学ぶ内容
臨床工学技士になるにはまず、養成施設で医学・工学の基礎分野として「人体のしくみ」と「機械のしくみ」を学びます。
具体的には、医学的基礎や理工学的基礎、医療情報技術とシステム工学の基礎などです。
その後、専門分野として、治療に必要な「医学知識」や「医療機器の技術」を学びます。
具体的には、医用生体工学や医用機器学、集中治療室での人工呼吸器実習や手術室実習での人工心肺装置実習などです。
それらを学びながら臨床実習も行うことで、将来の自分に備えます。
詳しくは以下のサイトをご覧ください。
日本臨床工学技士教育施設協議会
必要な資格
臨床工学技士になるには、臨床工学技士の国家資格が必要です。
養成施設を修了後、国家試験に合格し、臨床工学技士名簿に登録されたあとに免許を発行されることによって名乗れます。
臨床工学技士国家試験は誰でも受けられるわけではなく、以下の要件を満たす必要があります。
- 高校卒業後、臨床工学技士の養成施設で3年間学ぶ
- 医療系や医用工学系の大学で専門科目を履修し、1〜2年の短期コースを修了する
- 大学で指定科目を修了して卒業する
臨床工学技士の仕事を目指そう
高度な医療機器の専門知識が必要な臨床工学技士は、透析室や手術室、集中治療室など、さまざまな現場で重要な役割を担っています。
そのため、業務内容や将来性なども考慮して、自分が求めている仕事であるのか慎重に検討する必要があります。
臨床工学技士の仕事に興味がある方は、本記事を参考にして転職や就職をめざすべきかを判断しましょう。