
近年、医療サービスの質の向上が求められるなか、調剤薬局の役割も大きく変化しています。
患者さんにとって、より身近で頼りになる存在として、調剤薬局が機能することが期待されているのです。
そこで注目されているのが、厚生労働省が策定した「患者のための薬局ビジョン」です。
このビジョンは、調剤薬局がこれからどのような役割を果たすべきか、そしてどのように変革していくべきかを示しています。
本記事では、「患者のための薬局ビジョン」の内容や、それを実現するための考え方、そして調剤薬局が持つべき機能について詳しく解説します。
目次
厚生労働省策定「患者のための薬局ビジョン」とは
「患者のための薬局ビジョン」は、平成27年10月に厚生労働省が策定した指針です。
このビジョンの目的は、医薬分業の原点に立ち返り、現状の調剤薬局を患者さん本位のかかりつけ薬局へと再編することにあります。
具体的には、かかりつけ薬剤師・調剤薬局の今後あるべき姿を明確にし、中長期的な視野に立って再編の道筋を示しています。
このビジョンの目標は、2025年までにすべての調剤薬局を「かかりつけ薬局」へと転換することです。
しかし、発表から約10年が経過した現在でも、このビジョンは十分に実現されているとはいえません。
業界全体で、さらなる努力と改革が必要とされているのが現状です。
このビジョンの実現は、患者さんにとってより良い医療サービスを提供するために不可欠です。
薬剤師一人ひとりが、このビジョンを理解し、実践へ向けて努力していくことが求められています。
「患者のための薬局ビジョン」を実現させる3つの考え方
「患者のための薬局ビジョン」を実現するためには、調剤薬局の在り方や薬剤師の業務に関する基本的な考え方の変革が必要です。
ここでは、ビジョン実現のために重要な3つの考え方について詳しく解説していきます。
これらの考え方を理解し、実践することで、より患者さん本位の調剤薬局サービスを提供することが可能となるでしょう。
立地から機能へ
従来、多くの患者さんは利便性を重視して、医療機関のすぐ近くにある「門前薬局」で薬を受け取る傾向にありました。
しかし、この方法では患者さんの薬の情報が分散してしまう可能性があります。
1冊のお薬手帳ですべての薬の情報を管理できれば問題ありません。
しかし、実際にはお薬手帳を活用していなかったり、複数のお薬手帳を持ったりする患者さんもいます。
そこで重要となるのが、調剤薬局の「立地」ではなく「機能」を重視する考え方です。
地域の薬剤師が協力して、患者さんの薬の情報を一元化する取り組みを進めることが大切とされます。
このような機能重視のアプローチは、患者さんの安全を守り、より適切な薬物療法を提供するために不可欠です。
対物業務から対人業務へ
従来の調剤薬局業務は、薬を正確に調剤し、患者さんに渡す「対物業務」が中心でした。
しかし、かかりつけ薬剤師としての役割を果たすためには、「対人業務」へと軸足を移す必要があります。
調剤薬局の対人業務とは、患者さん一人ひとりに寄り添い、その方の健康状態や生活習慣を考慮しながら、最適な薬物療法を提案することです。
このような業務を効果的に行うためには、薬剤師の専門性向上はもちろん、コミュニケーション能力の強化も求められます。
薬剤師は、単なる「薬の専門家」から「患者さんの健康を支える専門家」へと進化する必要があるのです。
この進化は、患者さんにとってより価値のある調剤薬局サービスの提供につながるでしょう。
バラバラから一つへ
現在の医薬分業制度では、門前薬局を中心とした運営形態が主流です。
しかし、この状況では患者さんが医薬分業のメリットを実感しにくいという声があります。
医療機関の近くにある門前薬局で薬を受け取るだけでは、人の流れも情報もバラバラになってしまい、医薬分業本来の目的である「薬の一元管理」や「重複投薬の防止」が果たせません。
そこでめざすべきなのが、一つの調剤薬局でさまざまな医療機関からの処方箋を受け付ける「面分業」です。
面分業を実現することで、患者さんの薬の情報が一つにまとまります。
このことで、より安全で効果的な薬物療法が提供でき、医薬分業の良さが十分に発揮されます。
ビジョン実現のために調剤薬局が持つべき機能
「患者のための薬局ビジョン」を実現するためには、調剤薬局が新たな機能を持つことが必要です。
ここでは、これからの調剤薬局に必要とされる3つの重要な機能について詳しく解説していきます。
これらの機能を備えることで、調剤薬局はより患者さん中心のサービスを提供できるようになります。
かかりつけ薬局・薬剤師機能
かかりつけ薬局・薬剤師機能は、患者さんの健康を総合的にサポートするうえで極めて重要です。
この機能には、主に以下の3つの要素が含まれます。
- 服薬情報の一元的・継続的把握
患者さんが使用しているすべての薬の情報を、一つの調剤薬局で管理することで、重複投薬や相互作用のリスクを減らすことができます。 - 24時間対応・在宅対応
患者さんの急な相談や緊急時の対応、さらには自宅での服薬指導など、より柔軟で包括的なサービスを提供します。 - 医療機関等との連携
患者さんの状態や服薬情報を医療機関と共有することで、より適切な治療方針の決定に貢献します。
これらの機能を充実させることで、調剤薬局は患者さんにとってより頼りがいのある存在となるでしょう。
健康サポート機能
健康サポート機能は、調剤薬局を単なる薬の受け取り場所から、地域の健康拠点へと進化させる重要な要素です。
この機能を備えた調剤薬局では、薬の受け取りが目的でなくても、誰もがいつでも気軽に健康相談ができる環境を整えています。
そのためには、医療機関とあらかじめ連携を取り、適切な人材を配置することが必要です。
例えば、栄養士や看護師など、多職種の専門家と協力して、総合的な健康サポートを提供することも考えられます。
また、要指導医薬品などを適切に選択できるよう、十分な品揃えと専門的なアドバイス体制を整えることも重要です。
これにより、患者さんの軽度な症状に対して、適切なセルフメディケーションを支援することが可能となります。
健康サポート機能を持つことで、調剤薬局は地域住民の健康維持・増進に大きく貢献できるのです。
高度薬学管理機能
高度薬学管理機能は、特に専門的な知識や技術を要する患者さんのケアに対応するための機能です。
具体的には、がんやHIV、難病などの複雑な疾患を持つ患者さんに対して、薬剤師の視点から適切な助言や管理を行います。
このような高度な機能を担える薬剤師としては、学会や薬剤師会が認定する専門薬剤師が挙げられます。
専門薬剤師とは、高度な知識・技術と豊富な臨床経験を持ち、複雑な症例にも対応できる能力を有した薬剤師です。
さらに、専門医療機関との間で、継続的な勉強会や研修会を共同開催することも重要です。
これにより、薬剤師の知識やスキルを常に最新のものに更新し、より質の高いケアを提供できます。
高度薬学管理機能を備えることで、調剤薬局は地域医療の質の向上に大きく貢献し、患者さんにより安心で効果的な薬物療法を提供できるのです。
ビジョンを実現する薬剤師になるには
「患者のための薬局ビジョン」を実現するためには、個々の薬剤師が自己研鑽に励み、「かかりつけ薬剤師」としての役割を果たすことが不可欠です。
かかりつけ薬剤師になるためには、一定の要件を満たす必要があります。
具体的な要件は以下のとおりです。
1.以下の経験等を全て満たしていること。
Kakari ・施設基準の届出時点において、保険薬剤師として3年以上の薬局勤務経験があること。
・当該保険薬局に週32時間以上(32時間以上勤務する他の保険薬剤師を届け出た保険薬局において、育児・介護休業法の規定により労働時間が短縮された場合にあっては、週 24時間以上かつ週4日以上である場合を含む。)勤務していること。
・ 施設基準の届出時点において、当該保険薬局に1年以上在籍していること。
2.薬剤師認定制度認証機構が認証している研修認定制度等の研修認定を取得していること。
3.医療に係る地域活動の取組に参画していること。
4.患者との会話のやり取りが他の患者に聞こえないようパーティション等で区切られた独立したカウンターを有するなど、患者のプライバシーに配慮していること。
出典:調剤について(その2)
これらの要件を満たしていない場合は、計画的に研鑽を積んでいくことが必要です。
例えば、継続的な学習や地域活動への参加、専門的な研修の受講などが挙げられます。
また、要件を満たしたあとも、常に最新の医療情報を学び、コミュニケーション能力を磨くなど、継続的な自己啓発が求められます。
このような努力を重ねることで、患者さんにとってより信頼できる存在となり、ビジョンの実現に貢献できるのです。
かかりつけ薬剤師になって「患者のための薬局ビジョン」を実現させよう
「患者のための薬局ビジョン」は、調剤薬局と薬剤師の未来像を示す重要な指針です。
このビジョンを実現するためには、個々の薬剤師が「かかりつけ薬剤師」としての役割を果たすことが欠かせません。
かかりつけ薬剤師は、患者さんの健康を総合的にサポートし、地域医療の質の向上に貢献します。
そのためには、専門知識の向上はもちろん、コミュニケーション能力の強化や地域活動への参加など、多面的な努力が必要です。
薬剤師一人ひとりが、このビジョンの重要性を理解し、実現に向けて積極的に行動することで、より患者さん本位の医療サービスを提供できます。
薬剤師として、常に患者さんの健康と幸せを第一に考え、日々の業務に取り組んでいきましょう。