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薬剤師の疑義照会は必要?役割や苦手意識克服のポイントを解説

この記事の監修者
桜会ふみ子
【資格】
薬剤師

【プロフィール】
薬局を営む家庭に育ち1990年薬剤師資格取得。以降、医薬品メーカーで市販薬の製造・品質管理にたずさわる。2020年から薬剤師ライターに転身。福山大学出身。

薬剤師の重要な業務の一つに「疑義照会」があります。
これは薬剤師が処方箋に疑問点がある場合に、医師に内容確認を行う行為です。
疑義照会は、患者さんの安全を守り、適切な薬物療法を提供するために欠かせません。
しかし、実際に現場で対応する薬剤師にとっては、さまざまな理由で難しいと感じることもある業務です。

本記事では、薬剤師が行う疑義照会の意義や種類、実施頻度とともに、なぜ難しいと感じるのかやその克服法について詳しく解説します。

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薬剤師が行う疑義照会とは?

薬剤師が行う疑義照会とは?

疑義照会は、薬剤師法第24条に基づく重要な業務です。
この法律では、薬剤師は処方箋に疑わしい点がある場合、処方した医師などに確認してから調剤を行うことが義務付けられています。

疑義照会の目的は、患者さんに安全で適切な薬物治療を提供することです。
薬剤師の専門知識を活かして処方箋の不備や潜在的な問題を発見し、医師と連携して解決することで、医療の質の向上に貢献します。

疑義照会は、その内容によって以下の2種類に分けられます。

  • 形式的疑義照会
  • 薬学的疑義照会

それぞれの特徴と役割について詳しく見ていきましょう。

形式的疑義照会

形式的疑義照会は、処方箋に記載された基本情報に関する疑義の確認です。
具体的には、患者さんの氏名、年齢、性別、処方日、薬の用法用量などの情報が不明確であったり記載が漏れている場合に実施されます。

例えば、処方箋に生年月日が記載されていない、薬の名称がが違うといった場合です。
この種の照会は、処方箋の正確性を確保し、調剤ミスを防ぐために重要な役割を果たします。

形式的疑義照会は、比較的単純な確認作業ですが、患者さんの安全を守るためには欠かせません。

薬学的疑義照会

薬学的疑義照会は、処方内容に対する薬学的な懸念に基づいて行われます。
これは薬剤師の専門知識を最大限に活用する必要があります。

例えば、薬の相互作用や患者さんの病歴に基づいて処方の妥当性に疑問がある場合に実施されます。併用禁忌の薬が処方されている、アレルギー歴のある患者さんに薬が指示されている、などの状況が考えられるでしょう。

薬学的疑義照会は、患者さんの安全を守るだけでなく、より効果的な薬物療法の実現にも貢献します。薬剤師の専門性が最も発揮される場面です。

薬剤師が疑義照会を行う頻度と経緯は?

疑義照会は、薬剤師の日常業務のなかでどのように行われているのでしょうか。
その頻度や傾向を知ることで、疑義照会の重要性や課題がより明確になるでしょう。

実際のデータをもとに、疑義照会の現場での実施状況を詳しく見ていきます。

疑義照会はどれくらい実施されている?

疑義照会の実施頻度について、令和5年の調査結果と、比較のために平成27年の調査結果も併せてまとめました。

疑義照会 疑義照会のうち、薬学的疑義照会 薬学的疑義照会後の処方箋変更有
平成27年 2.6% 83.5% 74.9%
令和5年 2.1% 95.0% 83.8%

まず、令和5年度は平成27に比べて、全体の疑義照会率は若干減少していますが薬学的疑義照会の割合が増加しています。
これは、薬剤師の専門性がより発揮されるようになったことを示唆しているといえるでしょう。

また、処方変更率も上昇しています。
薬剤師の判断が医師に受け入れられ、患者さんの治療に直接反映されているといえるでしょう。

疑義照会をする経緯は処方箋の記載事項から?

疑義照会のきっかけは多岐にわたります。
約半数は処方箋の受付時に生じますが、それ以外のタイミングで生じるケースも少なくありません。

例えば、薬歴やおくすり手帳の確認、服薬指導の際の対話なども、疑義照会のきっかけとなることがあります。
これらを情報源として、処方箋だけでは把握できない患者さんの状況や薬歴を知ることができます。

最近では、オンライン資格確認システムの導入により、患者さんの薬歴を確認できるようになりました。
これによって、重複投薬や相互作用のリスクをより正確に把握しやすくなり、処方内容の変更につながるケースも増えています。

このように、疑義照会は単に処方箋を確認するだけでなく、さまざまな情報を総合的に判断して行われる重要な業務です。

薬剤師による医師への疑義照会の果たす役割は?

疑義照会は、患者さんの健康と安全を守り、医療の質を向上させる重要な役割を担っています。

その効果を、主要な2つの側面から詳しく見ていきましょう。

患者さんを健康被害から守る

疑義照会の最も重要な役割は、患者さんを健康被害から守ることです。
薬剤師の専門知識により、多くの潜在的なリスクが回避できます。

例えば、重複投与や併用禁忌などの問題を事前に発見すれば、深刻な副作用を防ぐことが可能です。また、薬剤の取り違えや、数量間違い、規格や剤型、用法用量の間違いなども、疑義照会によって防ぐことができます。
実際に、平成27年の調査では疑義照会によって327件の重篤な副作用が回避できた事例が報告されています。

医療費を削減する

疑義照会は、患者さんの安全を守るだけでなく、医療費の削減にも貢献しています。

例えば、残薬の管理を通じて無駄な投薬を減らしたり、同じ薬効で適切な代替薬を提案したりすれば、薬剤費が削減できます。
また、重篤な副作用の回避は、医療費の削減にもなるでしょう。

平成28年の調査では、薬剤師の疑義照会により年間103億円の薬剤費削減になり、さらに医療費全体で133億円の削減効果が報告されています。
これは個々の患者さんの負担軽減だけでなく、医療保険制度の持続可能性にも寄与する重要な成果といえるでしょう。

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薬剤師が疑義照会を難しいと感じるのはなぜ?

疑義照会の重要性は明らかですが、現場では多くの薬剤師が難しさを感じているようです。

平成26年1月から平成29年6月にかけて報告された医療事故のうち、57件が原因に疑義照会が関連していました。

特に注目すべきは、そのうち疑義照会をすべきだったのにしなかった事例が50件と多数を占めていることです。
これは、多くの薬剤師が疑義照会に対して苦手意識や難しさを感じていることを示唆しています。

では、なぜ疑義照会を難しいと感じているのでしょうか。考えられる理由を2つ紹介します。

知識と能力が求められる

疑義照会を適切に行うには、高度な専門知識と判断力が必要です。
しかし、医薬品の世界は日々進化しており、薬剤師がそれに追いつくことは容易ではありません。

例えば、後発医薬品の普及により、同じ成分でも名称の異なる薬が増加しています。
さらに、毎年100以上の新しい医薬品が承認されており、そのすべてについて理解を深めなければなりません。

また、副作用情報も常に更新されており、毎年50,000件以上の報告が寄せられています。
これらの情報を適切に把握し、疑義照会に活かすには、継続的な学習と情報収集が欠かせません。

このように、疑義照会を行うためには、常に能力を磨き、最新の知識を吸収し続ける必要があり、多くの薬剤師が難しさを感じています。

問い合わせても疑義照会が困難な状況がある

疑義照会の難しさは知識面だけでなく、実施する環境による場合もあります。

例えば、医師に連絡が取れないケースです。
特に夜間や休日、また医師が手術中であるなどの理由で、すぐには対応できない場合があります。
また、一部の医師は疑義照会を面倒がったり、イヤな顔をしたりすることもおきています
このようなことを経験すると、次回から疑義照会をためらう気持ちになるのも無理はありません。

さらに、患者さんを待たせているのに時間のかかる疑義照会をするのにはプレッシャーを感じることもあります。
これらの状況が、薬剤師に疑義照会を難しいと感じる原因になり、時に必要な照会が行われないなど医療事故の一因になっているのです。

薬剤師が医師に疑義照会を行う際のポイント

薬剤師が医師に疑義照会を行う際のポイント

医師に対して疑義照会をスムーズに効果的に実施するためには、いくつかのポイントがあります。

医師とのコミュニケーションがスムーズになれば、疑義照会がしやすくなりますし、患者さんの安全も確保できます。
以下、重要なポイントを4つ挙げて詳しく解説します。

要点をまとめて簡潔に伝える

疑義照会の第一歩は、明確で簡潔なコミュニケーションです。
医師は多忙なため、長々とした説明は避ける必要があります。

医師との会話は、結論から話しましょう。
何が問題で、どのような確認や変更が必要なのかを最初に伝えます。

次に、要点をまとめて伝えます。
問題の背景や理由を簡潔に説明し、医師が状況を素早く理解できるようにします。

また、事実と意見を分けて伝えることも大切です。
客観的な情報と薬剤師としての専門的見解を明確に区別すれば、医師が判断しやすくなります。

このように、簡潔かつ的確な情報伝達を心がければ、疑義照会の効率と効果を高めることができます。

代替案や必要な情報を用意する

疑義照会を行う際は、単に問題点を指摘するだけでなく、解決策や根拠も提示しましょう。
医師が確認する負担を軽くしますし、スムーズに疑義照会をすすめることができます。

まず、なぜ疑義が生じたのかを客観的に説明できるようにしてください。
薬学的な根拠や患者さんの状態など、具体的な情報を整理しておくことで、医師の理解を得やすくなるでしょう。医師が納得できる数値や文献などの情報を用意したり最新のガイドラインや研究結果など、信頼性の高い情報源を提示できるようにして、医師の判断をあおぎましょう。

また、薬の相互作用が懸念され処方変更が必要と考えられる場合、代替となる薬剤や投与方法を提案できるよう準備しておきましょう。医師の判断をサポートし、迅速な対応が可能になります。

このように、単なる疑問にとどまらず、根拠と解決策を併せて提示すれば、より建設的な疑義照会が可能になります。

医師との信頼関係を築いておく

信頼関係があれば、疑義照会もスムーズに進みやすくなります。日頃の医師と良好な関係性を構築しておくことが重要です。

まず、普段から積極的にコミュニケーションを取り、お互いの人となりを知っておきましょう。
例えば、処方内容について質問がある場合だけでなく、日常的に会話の機会をつくります。

次に、医師の間違いを一方的に指摘するのではなく、相手の立場を思いやる姿勢を持ちましょう。
医師の間違いを責めるのではなく「患者さんのために一緒に最善の方法を考えたい」という態度が協力的な関係を築きます。

また、情報収集で得た知識を提供するなど、医師にとっても有益な情報の提供を心がけ医師とお互いに利益のある関係を築き支え合う関係を意識します。

もし自分にミスがあった場合は、素直に認める勇気も必要です。
誠実な態度は、信頼関係の構築に欠かせません。

患者さんから同意を得る

疑義照会を円滑に進めるためには、患者さんの理解と協力も不可欠です。
しかし、なかには疑義照会を嫌がる患者さんもいます。
その主な理由として「待てないから」と「先生に失礼だから」という2つがあります。。

このような状況に対処するため、まず患者さんに疑義照会の必要性と意義を説明し、。
安全性の確保や適切な治療のために必要な手続きであることを、丁寧に伝えましょう。

次に、疑義照会に時間がかかる可能性があることを事前に知らせます。
「お待たせして申し訳ありませんが、安全のために確認が必要です」といった説明を行い、理解を求めましょう。

また、疑義照会をしたことで医師が心証を悪くしないと説明することも必要です。
「最適な治療を提供するための確認です」といった表現で、医師と薬剤師が連携して薬物療法を実施していることを伝えます。

患者さんの同意を得ていれば、疑義照会をより円滑に進められますし、結果として安全で効果的な薬物療法の実現につながります。

疑義照会の書き方

疑義照会を適切に記録しておけば、医療の安全と今後の継続的な患者ケアに役立ちます。
他の医療従事者との情報共有や、将来の治療方針の決定にも役立つ資料になりますので、正確でわかりやすく記入しておきましょう。

ここでは、処方箋と薬歴それぞれへの記録方法について説明します。

処方箋への記録

処方箋への疑義照会の記録は、調剤の過程を明確に示す記録となります。
以下の項目は必ず記載しましょう。

  • 照会内容:どのような疑問点があったのか、その理由とともに具体的に記載します。
  • 医師からの回答内容:医師の指示や説明を記録します。
  • 照会日および時間:疑義照会を行った日時を明記します。
  • 担当者の名前:疑義照会を行った薬剤師の名前を記入します。

これらの情報を明確に記載していれば、あとで確認が必要になった場合にも迅速に対応できます。
また、今後複数の薬剤師が関わる場合にも、情報の共有がスムーズです。

処方箋への記録は簡潔かつ正確であることが求められます。
必要な情報を漏れなく、しかも読みやすく記載しましょう。

薬歴への記録

薬歴への記録は、患者さんの長期的な薬物療法において重要な役割を果たします。
処方箋への記録よりも詳細な情報を含めましょう。

薬歴の記載内容は、以下の情報が必要です。

  • 疑義照会の内容と結果:照会内容と医師からの回答を記録
  • 患者さんへの説明内容:疑義照会の必要性や結果について、どのように説明したか
  • 患者さんから得た同意の記録:疑義照会に対する患者さんの理解と同意を得たことを明記
  • 処方変更の有無とその内容:変更があった場合は、具体的にどのように変更されたかの内容
  • 疑義照会の背景となった患者情報:アレルギー歴や併用薬など、照会の根拠となった情報
  • 今後の対応や注意点:疑義照会の結果を踏まえ、次回以降の調剤や服薬指導で注意すべき点。

これらの情報を適切に記録しておけば、患者さんの薬物療法の経過を詳細に把握しやすくなります。

薬剤師の疑義照会は専門性が必要な重要な業務

薬剤師にとって疑義照会は、医療安全と適切な薬物療法を実現するための重要な業務です。
患者さんの健康を守り、医療費の削減にも貢献する、専門性の高い役割を果たす必要があります。

しかし、知識や経験の不足、医師とのコミュニケーションの難しさなど、現実にはさまざまな課題も存在します。

効果的な疑義照会を行うためには、簡潔で的確なコミュニケーション、代替案の提示、医師との信頼関係の構築、患者さんからの同意を得ることなどが必要です。。常に最新の知識を吸収し、薬物療法のプロとして疑義照会に取り組み、より適切な医療を実現しましょう。
これらを意識して実践疑義照会が可能になるでしょう。

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執筆者について

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