
看護師は、患者さんの命と向き合う重要な職業です。
しかし、診療科によって業務内容や忙しさは大きく異なります。
新人看護師や転職を考えている方にとって、各診療科の特徴を知ることは重要です。
本記事では、一般的に忙しいといわれる診療科と、その要因について詳しく解説します。
また、忙しさを感じる要因としては、診療科だけでなく、施設の種類や規模、人員の充実度などさまざまな要素が関係していることもわかります。
目次
一般的に忙しいといわれる診療科・部署はどこ?
看護師の仕事は常に忙しいものですが、特に忙しいといわれる診療科・部署があります。
ここでは、ICU(集中治療室)、救急外来、手術室、精神科の4つの診療科・部署に焦点を当てて、それぞれの特徴や忙しさの要因、そして忙しいなかでも工夫されている点について詳しく見ていきましょう。
これらの職場は、患者さんの状態が急変しやすかったり、高度な専門知識が必要だったりと、独自の課題を抱えています。
各職場の特徴を理解することで、自分に合った職場環境を選ぶ際の参考になるでしょう。
ICU
ICU(集中治療室)は、最も重症度の高い患者さんを受け入れる特殊な病棟です。
ここには、集中的・継続的な管理と、高度な治療が必要な患者さんが入院しています。
具体的には、病棟で急変し集中管理が必要な患者さんや、救急搬送後継続的な治療が必要な患者さん、心臓血管外科や脳外科の術後で高度な管理を必要とする患者さんなどです。
ICUの業務の特徴は、常時モニター管理を行いながら、患者さんの異常の早期発見や状態管理を行うことにあります。
看護師には高度なアセスメント能力が求められ、的確に医師へ報告するスキルが必要不可欠です。
また、ICUでは人工呼吸器やAラインなど多くの医療機器が存在し、さまざまな種類の薬剤を扱うため、看護師に求められる知識量も大きくなります。
ICUが忙しいといわれる理由の一つに、意識障害のある患者さんや自力で動けない全介助の患者さんへの対応があります。
体位変換や保清などのケアに多くの力と時間を要するため、日々の業務をこなしながらこれらの介助を行うことが、忙しさを感じる大きな要因となっているのです。
しかし、ICUでは看護師の忙しさを軽減する工夫もされています。
2:1看護体制を取っているため、一人の看護師が一日に担当する患者数は少ない傾向です。
また、リハビリなども基本的にICU内で行われるため、一般病棟と比較すると出棟の機会が少ないのも特徴です。
急性期の看護を実際に経験しながら網羅的に学習できる環境であることも、ICUの魅力の一つといえるでしょう。
救急外来
救急外来は、文字どおり救急搬送された患者さんの初期対応を行う部門です。
ここでは、チームで協力して適切なコミュニケーションを取りながら、初療にあたることが求められます。
救急外来の業務の特徴は、主に初期対応の診療補助を行うことですが、患者さんの状態が刻一刻と変化していくこともあるため、医師の指示を待つだけでなく、自分で考えて先回りして行動する能力が求められます。
また、特定の分野に限らず、幅広い知識を必要とされるのも特徴的です。
救急外来が忙しいといわれる理由には、緊急時にとっさに動ける体力が必要なこともあります。
救急搬送されてくる患者さんの背景はさまざまで、薬物中毒や全身熱傷、交通外傷で損傷の激しい人など、想定外の事態に遭遇することも多いため、精神的にも大きな負担がかかるでしょう。
手術室
手術室は、医師を中心とした手術で疾患を治療しつつ、患者さんの安全管理を行う部門です。
手術室看護師の業務は、手術当日だけでなく、術前から術後まで幅広くおよびます。
手術室の業務の特徴として、術前に患者さんの元を訪問し、全身状態や思いなどの情報を集め、手術の看護計画を立てることが挙げられます。
また、術後も手術による合併症はないか確認しに行くなど、患者さんの安全を担保する継続的な見守りが必要です。
手術室が忙しいといわれる理由の一つに、必要とされる知識量の多さがあります。
看護師は、疾患や術式、使用する器械、麻酔に関する知識、生理学・解剖学など、さまざまなことを勉強したうえで臨まなければなりません。
さらに、麻酔時間が短いほど術後合併症のリスクも減るため、素早くかつ安全に手術を進行できるよう1秒も無駄にせずに業務を進めていくことも必要です。
手術室の忙しさ軽減に寄与する可能性のある要素としては、多職種との協力体制があります。
診療科医師と麻酔科医、メディカルエンジニア(ME)らの多職種と協力しながら行うため、手術が無事に終わると一体感が生まれ、そこに楽しみややりがいを見いだすことも可能です。
ただし、日勤帯ですべての手術が終わらない場合は居残り当番がいるため、居残り翌日の日勤では体力的にきつく感じることもあるでしょう。
精神科
精神科は、精神疾患をもつ患者さんの治療と支援を行う診療科です。
閉鎖病棟での管理や、自己や他者に危害を加えるリスクがある患者さんに対する隔離や身体拘束など、特殊な環境での看護が求められます。
精神科の業務の特徴として、精神症状が落ち着いている患者さんに対しては、多職種と連携して社会復帰に向けての支援を行うことが挙げられます。
また、基本的な看護知識の他に、精神保健福祉法についても深い理解が必要です。
精神科が忙しいといわれる理由は、これまで紹介してきた診療科とは少し異なります。
体力的な忙しさよりも、精神的な余裕を持ちにくいという点で「忙しい」と表現されるケースが多いのです。
患者さんとの関わり方に正解がなく、自分の良いと思った関わり方が裏目に出ることもあり、精神的に疲弊してしまうことがあります。
精神科の忙しさを軽減する工夫としては、患者さんと一定の精神的距離を保ちながら関わることが大切です。
身体所見や検査結果などの数値をみながら看護を提供するわけではないため、ケアの介入が難しいという他の診療科とは違う苦労がありますが、それゆえに患者さんとの関係性構築に重点を置いた看護を実践できるのも精神科の特徴といえるでしょう。
看護師が忙しくなる要因
看護師の忙しさは、単に診療科によるものだけでなく、さまざまな要因が絡み合って生じています。
ここでは、忙しさに影響を与える主な要因について詳しく見ていきましょう。
施設の種類や規模、救急患者の受け入れ態勢、業務の内容や学習量、そして人員の充実度など、多角的な視点から看護師の忙しさを理解することが大切です。
これらの要因を知ることで、自分に合った職場環境を選ぶ際の参考になるだけでなく、現在の職場環境を改善するヒントにもなるかもしれません。
施設の種類・規模
看護師の忙しさは、勤務する施設の種類や規模によっても大きく変わります。
一般的に、病床数が多ければ多いほど忙しくなる傾向にあります。
大規模病院では入退院の数も増えるため、看護業務に加えて事務作業や多職種との連携も増加するのです。
一方、病棟を持たないクリニックなどでは外来診療が中心となるため、入退院による極端な忙しさは感じられないことが多いでしょう。
しかし、外来特有の忙しさもあるため、一概に楽だとはいいきれません。
救急患者の受け入れ態勢
救急患者を受け入れている施設の場合、時間外の勤務や急患の対応に追われることもあるでしょう。
特に救急医療指定病院の場合は、急患を受け入れなくてはならないため、常に緊急事態に備える必要があります。
救急搬送を受け入れる施設の場合、救急外来はもちろん、入院が必要となった場合は病棟での緊急対応も求められ、部門を問わず予定外の業務が増えることになります。
このような不確実性が、看護師の忙しさを増幅させる一因となっているのです。
業務の内容や学習量
看護師の忙しさは、担当する業務の内容や必要な学習量にも大きく影響されます。
ICUや救急科、手術室のように一つの診療科だけでなく幅広く扱う部門では、多くの知識が求められるため、日々時間外の自己学習を継続していく必要があります。
また、自分の診療科のみの勉強をしていても、患者さんの既往に他の診療科の疾患があれば理解しなくてはならず、常に幅広い知識が必要です。
さらに、異動を命じられた場合は、また新たにその診療科の疾患やケアの方法などについて学習していかなければなりません。
介助を要する場面が頻発する診療科の病棟や、検査や手術のための搬送が多い部門では、ピーク時に慌ただしくなることもあります。
このような部門ごとの業務の特性も、看護師の忙しさに大きく影響を与えています。
人員の充実度
看護師の忙しさを左右する重要な要因の一つが、人員の充実度です。
人員が不足していると、一人あたりの業務量の負担が大きくなり、常に時間に追われながら限られた人数で仕事をすることになります。
新型コロナウイルスの影響もあり、近年は人員不足が加速している傾向にあります。
人員不足は単に忙しさを増すだけでなく、確認漏れ、焦りによるインシデント発生のリスクを高める原因にもなりかねません。
基本的に7対1看護が推奨されていますが、リハビリテーション病院などの急変リスクの低い病院では15対1看護や10対1看護も見受けられます。
このような人員配置の違いも、看護師の忙しさに大きな影響を与えています。
看護師の忙しさは診療科による違い以外の要因もある
看護師の忙しさは、一般的に忙しいといわれるICU、救急外来、手術室、精神科などの診療科・部署だけでなく、さまざまな要因が複雑に絡み合って生じています。
施設の種類や規模、救急患者の受け入れ態勢、業務内容や必要な学習量、そして人員の充実度など、多角的な視点から考えなければなりません。
新しい医療技術の導入や、社会のニーズの変化にともない、各診療科の忙しさの様相も変わっていく可能性があります。
看護師としてのキャリアを考える際には、単に忙しさだけでなく、自分の適性や興味、将来のビジョンなども含めて総合的に判断することをおすすめします。