歯科医師には、クリニックや病院で診療する他に、公務員歯科医師として働く選択肢もあります。
しかし、公務員歯科医師とはどのような仕事なのかを知らない方もいるのではないでしょうか。
今回の記事では、公務員歯科医師のなり方や職場・仕事内容を解説しています。
公務員歯科医師をめざしている方は、参考にしてみてください。
目次
公務員の歯科医師になるには医系技官専用の採用試験合格が必要

公務員の歯科医師(医系技官)になるには、厚生労働省による医系技官専用の採用試験に合格しなければなりません。
まずは医系技官の採用試験について、以下の3点を紹介します。
- 医系技官採用試験の内容
- 医系技官採用試験のスケジュール
- 医系技官採用試験の倍率
※ここで紹介するのは厚生労働省が採用する国家公務員としての医系技官です
歯科医師の医系技官専用の採用試験の内容
歯科医師の医系技官専用の採用試験では、以下の3つにより選考されます。
- 書類審査
- 一次試験:グループディスカッション・性格検査・面接
- 二次試験:幹部面接など
応募に必要な書類は、以下の通りです。
- 履歴書
- 推薦状2通(自己推薦不可)
- エピソードシート
- 歯科医師免許証の写し
- 小論文
5種類の書類を書留郵便にて、厚生労働省の医系技官採用担当へ応募期限までに送付します。
歯科医師の医系技官専用の採用試験のスケジュール
歯科医師の医系技官専用の採用試験は、6月の前期試験と11月の後期試験の年2回実施されています。
通常、歯科医師の選考は後期のみです。
ただし、後期試験は行われない年もあり、実施有無は秋ごろに発表されます。
前期試験に向けた準備の一例は、以下のとおりです。
| スケジュール | 準備すること | |
|---|---|---|
| 3月 | 厚生労働省個別相談(随時) | |
| 4月 | 小論文課題発表 | 履歴書・小論文・エピソードシート作成、推薦状依頼 |
| 5月 | 前期試験応募締め切り | 応募書類送付 |
| 6月 | 一次試験・二次試験 |
歯科医師の医系技官専用の採用試験の倍率
歯科医師の医系技官専用採用試験の倍率は、2〜3倍といわれています。
応募資格である歯科医師免許を取得するのに必要な、歯科医師国家試験の合格率は、以下の表のとおりです。
| 受験者数(人) | 合格率(%) | |
|---|---|---|
| 第112回(2019年) | 3,232 | 63.7 |
| 第113回(2020年) | 3,211 | 65.6 |
| 第114回(2021年) | 3,284 | 64.6 |
| 第115回(2022年) | 3,198 | 61.6 |
| 第116回(2023年) | 3,157 | 63.5 |
公務員歯科医師の勤務先は行政機関・公立病院
公務員歯科医師の主な勤務先は、行政機関と公立病院です。
それぞれの職場での仕事を紹介します。
行政機関の公務員歯科医師の仕事
行政機関で働く公務員歯科医師は、医系技官と呼ばれます。
医系技官の仕事は、歯科医師としての専門知識をもとに、保険医療に関わる政策を立案し実行することです。
具体的には、以下の流れで行います。
- 現場を視察する
- 審議会で、現場の視点を踏まえて専門的な議論を行う
- 政策案や法案、予算案を立案する
- 予算や法案の政策を決定する
- 政策を実施する
公立病院勤務の公務員歯科医師の仕事
歯科医師の多くは歯科クリニックに勤務しますが、公務員歯科医師の勤務先は、主に公立病院です。
公立病院とは、国立高度専門医療研究センター病院や県立病院、市立病院などで、歯科や口腔外科に所属して働いています。
公立病院で働く公務員歯科医師の仕事は、一般的な歯科治療や歯科クリニックでは治療困難な患者さんの治療、口腔外科疾患の診断と治療などになります。
時には、医科を含む他の診療科と連携する必要のある患者さんへの対応も必要です。
人数はかなり少なく募集も稀ですが、各都道府県の保健所や県庁等の公衆衛生分野で勤務する公衆衛生歯科医師という募集もあります。
その名のとおり、歯科口腔保健業務や公衆衛生業務等に従事する歯科医師としての募集です。
基本的に診療を行うことはなく、公衆衛生に関わることでの施策立案や病院への立ち入り検査などを行います。
公務員歯科医師の求人の探し方
公務員歯科医師の求人の探し方は、就職先施設によって異なります。
官公庁や都道府県職員、公立病院の求人情報の掲載場所は、以下のとおりです。
| 就職先 | 求人情報の掲載場所 |
|---|---|
| 官公庁(医系技官) | 厚生労働省 医系技官採用情報 |
| 都道府県職員(医系技官) | 各都道府県のホームページ |
| 公立病院 | 各公立病院のホームページ |
公務員歯科医師のメリット
公務員歯科医師のメリットは、以下のとおりです。
- 福利厚生・法律を遵守した休みがある
- 収入が安定する
- 順調なキャリアを築ける
福利厚生・法律を遵守した休みがある
公務員歯科医師のメリットの一つは、福利厚生が充実していることです。
福利厚生にも自治体や共済組合、互助会などさまざまありますが、代表的なものを紹介します。
| 自治体による福利厚生 | ||
|---|---|---|
| 手当 | ● 通勤手当 ● 住宅手当 ● 地域手当 ● 扶養手当 など |
|
| 休暇 | ● 年次有給休暇 ● 病気休暇 ● 夏季特別休暇 ● 年末年始休暇 など |
|
| 共済組合の福利厚生 |
|---|
| ● 共済保険 ● 短期給付金(怪我・病気・出産) ● 長期給付金(老齢・障害・遺族) ● 貸付制度 ● 財形貯蓄 など |
| 互助会の福利厚生 |
|---|
| ● 給付金(結婚・入学) ● 人間ドック・脳ドック ● スポーツ教室 など |
収入が安定する
公務員歯科医師は、収入が安定していることもメリットです。
民間病院や個人のクリニックでは、患者さんの減少などで経営が傾くと、減給や給与カットの可能性があります。
一方で公務員歯科医師の給与は、人事院や地方自治体が定めている俸給表によって決まっているため、経営状況による給与変動の可能性は低いです。
つまり、安定した収入を得られることが、公務員歯科医師のメリットになります。

順調なキャリアを築ける
公務員歯科医師は、順調なキャリアを築ける可能性があります。
医系技官であれば、歯科医師と行政官の専門性を磨き、「主査」「補佐・専門官」「室長・企画官」「課長級」「参事官級」「局長・部長級」「医務技監」とキャリアアップが可能です。
また、公立病院では歯科医師の専門性を高め「医員」「副医長」「医長」「副部長」「部長」とキャリアアップが見込めます。
公務員歯科医師のデメリット
公務員歯科医師のデメリットは、以下のとおりです。
- 基本的に年功序列である
- 副業ができない
基本的に年功序列である
公務員歯科医師の評価は、基本的に年功序列となります。
前述のとおりキャリアアップは見込めるものの、年齢や勤続年数で評価されるのが通例です。
一方で、より専門性の高い能力や技術、知識を有していても、特別な評価を受けたり、昇格したりすることは難しい傾向にあります。
つまり、若い歯科医師にとっては、キャリアアップがモチベーションにつながらない可能性があり、年功序列であることはデメリットになるでしょう。
副業ができない
公務員歯科医師は、基本的には副業ができません。
国家公務員法第103条において、「営利企業の役員兼業」「自営兼業」の2つを禁じています。
また国家公務員法第104条では、「営利企業の役員兼業」「自営兼業」以外の報酬を得る兼業を対象としており、該当する場合には内閣総理大臣およびその職員の所轄庁の長の許可が必要です。
しかし、単発的な講演や雑誌などへの執筆で報酬を得ることは認められています。
公務員歯科医師は公務員ならではの恩恵を享受できる
歯科医師は、民間の病院やクリニックで診療する他に、公務員歯科医師として働く選択肢があります。
公務員歯科医師は、医系技官や公立病院での勤務が一般的です。
医系技官となるには、厚生労働省の医系技官専用の採用試験に通過しなければなりませんが、公立病院で働くための試験はありません。
公務員歯科医師として働く場合は、公務員ならではの福利厚生や収入の安定などの恩恵を享受できるため、選択肢の一つに加えてみてください。
