
看護師は、患者さんの命や健康に関わるため、やり甲斐がある反面、少しのミスが重大な医療事故につながるおそれがあります。
もちろん無事故であるに越したことはありませんが、人間である以上、事故が起こる確率をゼロにすることはできません。
そして患者さんによっては、医療事故が起きた際、看護師個人に対して責任を問い、損害賠償の請求に発展するケースもあります。
そんな万が一の備えとして、加入しておきたいのが看護師の損害賠償保険です。
今回の記事では、看護師の損害賠償保険の補償内容や保険を選ぶポイント、おすすめの保険について特徴とともに紹介していきます。
目次
看護師は保険に入るべき?
公益財団・日本医療評価機構によると、2021年に発生した医療事故は、「治療・処置」の際に発生したものが最も多く、次いで「療養上の世話」、「薬剤」、「ドレーン・チューブ」となっており、いずれも看護師が日常的にかかわる業務です。
このことから、看護師は常に医療事故と隣り合わせの状況であることがわかるでしょう。
同年の医療事故報告件数は、5,243件であり、そのうちの約半数である2,742件は看護師・准看護師が関係していました。
※グラフの数字は、医療機関が医療事故に関係したと判断した職種であり、複数回答が可能。
また、2020年の医療事故に対する損害賠償として地方裁判所での訴訟件数は、816件となっており、起きてしまった医療事故で責任を問われる事例も起きています。
万が一の際に自分の身を守るために、損害賠償保険に加入しておくと良いでしょう。
看護師の損害賠償保険とは?
看護師の損害賠償保険とは、医療事故を起こしてしまい、看護師個人に損害賠償を請求された際に、損害賠償費用の一部を負担してくれる保険です。
補償内容には次のものがあります。
- 対人賠償
- 対物賠償
- 初期対応賠償
- 人格権障害
- 法律相談費用
それぞれ見ていきましょう。
対人賠償
対人賠償とは、業務中に患者さんに対して危害を加えてしまったことに対する補償です。
看護師向けの保険であれば、ほとんどの場合、対人賠償が含まれています。
看護師の過失によって発生した患者さんの治療費や入院費、休業補償の費用も補償の対象です。
対物賠償
対物賠償とは、業務上の過失により、患者さんの私物や病院の機材を、破損、あるいは紛失した場合に支払う、弁償費や賠償金などの補償です。
具体的には、以下のようなものがあります。
- 患者さんの眼鏡を誤って机の上から落として割ってしまった
- 患者さんの義歯を誤って捨ててしまった
- 患者さんから預かっていた鍵がなくなってしまった
- 病院のパソコンを壊してしまった
初期対応費用
初期対応費用とは、医療事故が発生した際、責任の有無などが未定の初期の段階であっても、社会通念上必要と思われる費用の補償のことです。
一例として以下のようなものがあります。
- 身体障害をともなった事故発生時の見舞金
- 患者さんに渡す見舞品購入費用
- 事故原因・状況の調査費用
人格権障害
人格権侵害とは、患者さんの名誉毀損や人格否定、情報漏洩によって責任を問われた際の補償のことです。
具体的には、以下の例が当てはまります。
- 看護師が患者さんに何気なく話した言葉が、患者さんにとって人格を否定されたと感じた
- 認知症の患者さんの身体拘束が不当であると訴えられた
- 患者さんの同意なしに患者さんの情報を開示してしまった
法律相談費用
医療事故によって損害賠償を請求された際には、着手金や報奨金、日当、手数料、法律相談料など多くの弁護士費用が発生します。
法律相談費用とは、医療事故をはじめとする業務中のトラブルについて、弁護士に法律相談をする際の費用を補償してくれるものです。
保険によっては、弁護士への無料相談ができるものもあります。
看護師が保険に加入するメリット
看護師が保険に加入するメリットは、主に以下の点が挙げられます。
- 賠償金支払い時に負担が軽減される
- 医療事故発生時に相談できる
- 安心して仕事ができる
一つずつ見ていきましょう。
賠償金支払い時に負担が軽減される
保険に加入することで、何らかの医療事故により賠償金を支払わなければならなくなった場合でも、補償内容により負担金が軽減されます。
医療事故を起こさないよう、日々の業務の注意を怠らないことはもちろん重要です。
とはいえ、看護師の業務における医療事故のリスクをゼロにすることはできません。
また、2015年に施行された特定行為に係る看護師の研修制度により、看護師ができる医療行為の範囲が増え、そのぶん医療事故のリスクも大きくなりました。
万が一、医療事故を起こしてしまい、損害賠償などを請求された場合も、保険に加入しておけば支払いの負担を軽くすることができます。
医療事故発生時に相談できる
医療事故を起こしてしまったときは、どのように対処すれば良いのかわからなかったり、不安な気持ちになってしまう場合が多いでしょう。
保険に加入することで、医療事故発生時に保険会社が相談窓口になってくれます。
また、加入する保険によっては、事故発生時に保険会社の事故審査委員会による審査を受けられるため、不当な訴訟や過剰な慰謝料の請求から身を守ることもできます。
安心して仕事ができる
看護師の業務には、常に医療事故のリスクが存在しています。
保険に加入していないと、医療事故に対する不安から必要以上に神経を使ってしまい、患者さんへの対応に注力できなかったり、精神的な負担が重くなってしまったりしてしまう方もいるでしょう。
保険に加入することで、万が一何か起こってしまったときも頼れる場所があるという安心感を得ることができます。
看護師としての本来の業務に集中するためにも、保険への加入は重要です。
看護師の保険を選ぶポイント
看護師の損害賠償保険の内容や金額は、加入している保険会社によって異なります。
ここでは、看護師の保険を選ぶ際のポイントを紹介していきます。
補償額や年会費を比較する
補償内容に対する補償限度額や年会費は、加入する保険会社によって異なります。
医療事故に対する補償額を確認して、自分の業務内容に合った補償額を受け取ることができる保険会社を選びましょう。
また、年会費は毎年支払い続けるため、負担に感じない金額のものを選ぶことが大切です。
サポート体制や補償内容を比較する
対人・対物補償は、ほとんどの保険の補償内容に含まれていますが、感染見舞金や鍵交換費用、預かり物の紛失・盗取・詐取に対する費用など、細かな補償に関しては保険会社によって異なります。
自分が目的としている補償内容やサポート体制があるか、加入前にきちんと確認しておきましょう。
看護師におすすめの保険
看護師におすすめの保険としては、以下の3つの保険があります。
- 日本看護協会
- Willnext
- 株式会社メディカル保険サービス
ここからは、これらの3つの保険について特徴を紹介していきます。
日本看護協会
日本看護協会の保険の掛金は1年間あたり、2,650円となっており、中途介入も可能ですが、その場合は初年度の年会費が変わっていきます。
日本看護協会の保険は、「看護職賠償責任補償制度」サービス推進室を構えており、万が一事故が発生してしまった場合に備えて、事故発生時の対応から解決するまでの一貫したサポートを受けることができたり、医療安全に対する情報を得ることができるという特徴があります。
しかし、日本看護協会の保険の加入は、日本看護協会の会員である必要があるため、加入を検討している方は、まず日本看護協会の会員になりましょう。
日本看護協会に新規入会する場合は、日本看護協会の年会費5,000円に加えて、都道府県の看護協会の年会費・入会金が必要になりますので、ある程度まとまった金額が必要になるかもしれません。
補償内容、補償限度額は以下のようになっています。
補償内容 | 補償限度額 |
対人賠償 | 1事故 5,000万円 |
対物賠償 | 1事故 50万円 |
初期対応費用 | 1事故 250万円 |
人格権侵害 | 1事故 50万円 |
日本看護協会以外で人気の保険
日本看護協会の保険は、日本看護協会の会員になっている方にとっては、2,760円という負担にならない金額で入会することができますが、
日本看護協会の会員ではない方にとっては、少し高額な出費になってしまうでしょう。
日本看護協会の会員になる意思のない方や最初の出費額を抑えたい方にとっては、こちらの保険もおすすめです。
【プランを選択できる】Willnext
Willnextの看護職向け賠償責任保険は、AプランとBプランがあり、補償内容は同じですが、補償限度額が異なるため、自身の必要性に合わせてプランを選ぶことができます。
年会掛金は、Aプラン2,990円、Bプラン3,440円となっています。
また、Willnextには、新型コロナウイルス、インフルエンザをはじめとした100種類を超える幅広い感染症に罹患してしまった際の感染見舞金制度や鍵交換費用補償、預かり物の紛失に関する補償や仕事以外の時間の賠償事故を補償する個人賠償責任補償や医療補償、がん補償などさまざまな保険サービスを展開しており、看護師としてだけでなく、日常生活の補償も選べることが特徴です。
補償内容、補償限度額は以下のようになっています。
補償内容 | 補償限度額 | |
Aプラン | Bプラン | |
対人賠償 | 1事故 5,000万円 | 1事故 1億円 |
対物賠償 | 1事故 50万円 | 1事故 100万円 |
初期対応費用 | 1事故 250万円 | |
人格権侵害 | 1事故 5,000万円 | 1事故 1億円 |
【補償内容が充実】株式会社メディカル保険サービス
株式会社メディカル保険サービスは、基本契約に加えて自分に必要な保険サービスを選択して付け加えることができる点が大きな特徴になっています。
オプションとして付け加えることができる補償内容には、人格権侵害や訴訟対応費用、初期対応費用などがあります。
オプションとしてすべて付け加えてしまうと、保険料が少し高くなってしまいますが、補償限度額が他の保険サービスよりも高額であり、加入すれば安心だと感じることができるでしょう。
補償内容、補償限度額は以下のようになっています。
補償内容 | 補償限度額 |
基本契約 | 1事故 1億円 |
人格権侵害担保特約条項 | 基本契約と同額(共有) |
財物損壊担保特約条項 | 1億円 |
訴訟対応費用担保特約条項 | 1千万円 |
初期対応費用担保特約条項 | 500万円 |
看護師は保険に加入して万が一に備えると安心
看護師は、患者さんの命や健康を扱う仕事である以上、どれだけ注意を払っても医療事故のリスクをゼロにすることはできません。
看護師賠償保険は、万が一のときに看護師個人を守ってくれる存在です
看護師の業務に集中して臨むためにも、保険への加入を検討してみてはいかがでしょうか。