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看護師のキャリアを考えたときに、訪問看護師をめざす人もいるのではないでしょうか?
日本では、高齢化にともない在宅療養のニーズが増加しています。
訪問看護師は、患者さんの在宅療養を支える重要な役割を担っており、今後も需要が見込まれる職業です。
今回の記事では、訪問看護師の概要から実際の仕事内容、働き方などの勤務形態、必要なスキルまで幅広く紹介します。
訪問看護師への転職を検討している場合は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
訪問看護師とは?
訪問看護師とは、在宅療養している患者さんを対象に、看護の提供によりその人らしい生活を医療的な観点からサポートする看護師のことです。
まずは、訪問看護の概要と訪問看護師になる方法を見ていきましょう。
訪問看護の概要
訪問看護とは、看護師が患者さんの自宅を訪問し、清潔ケアや体調管理などの状態に合わせたケアを行うことです。
患者さんのなかには、「自宅で最期の時間を過ごしたい」「病気を抱えていても自宅で療養したい」などの思いにより、在宅療養を選択する人もいます。
自宅でも安心して療養を継続するためのサービスの一環として、訪問看護があります。
訪問看護師になる方法
訪問看護師になるために、特別な資格は必要ありません。
正看護師または准看護師の資格を持っており、訪問看護を提供している事業所に就職すれば訪問看護師として活躍できます。
事業所によっては、入職時に一定の看護師経験を求めている場合もあります。
また、都市部以外の地域では、訪問看護師は車を運転して患者さんの自宅に訪問することから、運転免許を必須としている事業所もあるでしょう。
訪問看護師の特徴
訪問看護師として働くことを検討している場合は、まず訪問看護師の特徴を知っておきましょう。
訪問看護師の役割
訪問看護師は、在宅療養している患者さんやご家族に対して、主治医の指示による医療処置や日常生活支援、療養環境相談などを実施することで、安心して自宅で過ごせるように支援します。
在宅療養の患者さんには、看護師だけではなく、ケアマネジャーや介護士、医師、薬剤師など多くの職種が関わります。
より良い看護や医療が提供できるように、これらの他職種との連携も訪問看護師の役割です。
訪問看護のケア対象
訪問看護師のケア対象は、在宅療養をしているすべての患者さんであり、さまざまな疾患やADL(日常生活動作)の患者さんがいます。
厚生労働省の調査によると、訪問看護サービスを利用している患者さんの要介護度割合は以下のとおりです。
一番利用割合の多い要介護度は、日常生活の動作のなかで部分的なサポートが必要となる要介護2ですが、寝たきりなどすべての日常生活動作に介助が必要である要介護5も13.8%いることがわかります。
また、患者さんの疾患については、訪問看護で利用している保険によって傾向が異なります。
介護保険の場合は、循環器系の疾患や関節症・リウマチなどの「筋骨格系および結合組織の疾患」が多くなっており、医療保険の場合は、脳血管障害や認知症などの「神経系の疾患」、「精神および行動の障害」が多い傾向です。
訪問看護師の勤務先
訪問看護師として働くためには、訪問看護事業を展開している勤務先に転職しなくてはいけません。
訪問看護事業を実施している職場として、訪問看護ステーションや指定訪問看護事業所である病院や診療所があります。
実際に、全体の約5%の看護師が訪問看護師ステーションで働いています。
訪問看護ステーションは、全国に約1万4千(令和4年4月時点)もの事業者が存在しており、年々増加傾向です。
訪問看護師の業務内容
訪問看護師の業務は、医師が発行する「訪問看護指示書」の記載内容をもとに決められます。
1週間の訪問回数は基本的に週3回までであり、30分〜90分の決められた時間内に看護を提供します。
それでは、具体的な業務内容を見ていきましょう。
健康状態の観察
訪問看護師は、患者さんの体温や血圧、脈拍などのバイタルサイン測定を行い、健康状態を観察します。
また、患者さんやご家族と積極的にコミュニケーションをとり、食事摂取量や疾患による症状の程度、服薬状況など、自宅での生活の様子を把握することも重要です。
把握した情報をもとにアセスメントを行い、必要であれば他職種と情報共有してより良いサポートを提案します。
医療処置
「訪問看護指示書」に記載されている医療処置の内容は、患者さんの病状によってさまざまです。
注射や点滴、経管栄養、気管内吸引の実施や、緊急時の対応などがあります。
要介護度の高い患者さんであるほど、体位変換や皮膚状況の観察などの褥瘡予防、浣腸・摘便の処置を実施する割合が高くなる傾向があります。
■訪問看護師による医療処置内容
出典:訪問看護
日常生活支援
要介護度が高くなるほど、日常生活支援を必要とする患者さんの割合が増していきます。
訪問看護師が行う日常生活支援の一例は、以下のとおりです。
- 食事ケア:
患者さんの嚥下機能や食事形態、食事環境を観察し、アセスメントします。
誤嚥性肺炎などのリスク低減のために、必要に応じて言語聴覚士に相談したり、ご家族に適切な食事方法を指導します。 - 清潔ケア:
入浴や洗髪、清拭などを実施します。
高齢の患者さんほど皮膚のバリア機能が低下していることから、皮膚状態を観察し、状態に応じたスキンケアも重要です。 - 体位変換・移乗:
寝たきりの患者さんであれば、褥瘡予防のために定期的な体位変換が必要です。
ご家族の介護負担を軽くするために、訪問時に体位変換を実施したり、ベッドから車椅子への移乗を手伝うこともあります。
ご家族への精神的ケア・指導
訪問看護や介護サービスなどの福祉サービスを利用している時間以外は、患者さんの介護は通常ご家族が担っています。
患者さんの介護に対して、精神的な負担を感じてしまうご家族もいるでしょう。
訪問看護師は、患者さんだけでなく、ご家族に対しても目を向けて、介護疲れや悩みの有無を確認し、精神的なサポートも行います。
また、在宅療養を継続するにあたって、医療的なケアをご家族が実施している場合もあるでしょう。
医療ケアが安全に行えているか確認し、必要に応じて指導を行います。
訪問看護記録の作成
患者さんの自宅訪問が終了したら、その日に実施した内容や情報を「訪問看護記録」に記載します。
訪問看護記録は、他看護師と情報を共有して継続的なケアを提供したり、患者さんの経過を正確に把握するために重要な書類です。
「訪問看護記録」には以下の2種類があります。
- 訪問看護記録Ⅰ:
初回訪問時に作成する記録。
患者さんの年齢や住所、現病歴など基本情報を記載。 - 訪問看護記録Ⅱ:
毎回の訪問時に作成する記録。
実施したケア内容や収集した情報を記載。
訪問看護師の働き方
訪問看護師になる前に、訪問看護師の働き方を知っておきましょう。
働き方のイメージをつかむことで、入職後のギャップを少なくすることができます。
勤務形態
訪問看護ステーションは、土日休みとしているところがほとんどです。
シフト制を採用している病棟看護師とは異なり、基本的には土日休みの勤務形態となります。
訪問時間も決まっているため、病棟看護師のように急遽追加の業務が発生する可能性も低く、多くの残業が発生しないのも特徴です。
また、訪問は基本的に日中に実施されるため、夜勤はありません。
一方で、夜間の緊急時に対応するオンコール体制をとっている訪問看護ステーションでは、定期的にオンコール当番が回ってきます。
1日のスケジュール
訪問看護師の1日のスケジュール例を紹介します。
時間 | 実施事項 |
9:00 | 出勤: 朝のミーティング、電話やメールの確認を行います。 前日担当の看護師から申し送りを受け、訪問予定の患者さんの情報収集・訪問の準備を実施します。 |
10:00~12:00 | 患者さんの自宅へ訪問: 1〜2件ほど患者さんの自宅を訪問します。 訪問看護は実施時間が決められているため、時間内にケアを実施します。 |
12:00~13:00 | お昼休憩 |
13:00~16:00 | 患者さんの自宅へ訪問: 2〜3件ほど患者さんの自宅を訪問します。 隙間時間があれば、記録の作成も実施します。 |
16:00~17:00 | 記録・申し送り: 訪問看護ステーションに戻り、記録の作成や申し送りを行います。 |
訪問看護師のメリット・デメリット
訪問看護師は、病棟看護師とは異なる特徴があります。
訪問看護師のメリット・デメリットを見ていきましょう。
メリット
訪問看護師のメリットは以下の2つです。
- 一人の患者さんに向き合い看護を実践できる
- ワークライフバランスを保ちやすい
一人の患者さんに向き合い看護を実施できる
訪問看護師の現場では、患者さんのご自宅に訪問するため、一人の患者さんによりしっかりと向き合いながら看護を実施できます。
病棟看護師は、複数の患者さんを同時に受け持つため、一人の患者さんに対して十分な時間を割くことができない状況もあるでしょう。
一方で、訪問看護師は、訪問時間中に対応している患者さんは一人だけであるため、その患者さんのことだけを考えてじっくりと必要なケアを提供できます。
「患者さんにしっかりと時間を確保して向き合いたい」「細やかな看護を提供したい」と思っている方は、訪問看護師が向いているでしょう。
ワークライフバランスを保ちやすい
勤務形態の項で先述したように、訪問看護師は、基本的に夜勤がなく、残業も少ない傾向です。
そのため、ワークライフバランスを保ちやすく、子育てや家事と両立しながらでも働きやすく感じるでしょう。
非常勤であれば、午前のみ出勤・1週間に3日のみの出勤など、柔軟な働き方を選べます。
また、訪問看護ステーションに寄らずに患者さんの自宅に直行直帰が可能な勤務先もあり、ライフスタイルに合わせやすいといえるでしょう。
デメリット
訪問看護師のデメリットは以下の2つです。
- すべての対応を一人でしなければいけない
- 十分な教育が受けられないことがある
すべての対応を一人でしなければいけない
訪問看護師は、患者さんに対するすべての対応を一人で実施しなくてはいけません。
病棟であれば、対応方法がわからないときに他の看護師にすぐに聞くことができますが、訪問看護は近くに頼れる看護師がいないため、自分自身で判断して看護を実践する必要があります。
緊急時の対応も含めて、業務に慣れるまではプレッシャーや不安を感じる場合もあるでしょう。
しかし、緊急の対応でなければ、訪問看護ステーションに戻ってから他看護師に対応方法を相談できます。
対応時に不安や悩み事がある場合は、一人で抱え込まずに相談しましょう。
十分な教育が受けられないことがある
個人経営などの小規模な訪問看護ステーションなどでは、教育プログラムや研修体制が十分に整っていないところもあります。
そのような勤務先では、入職後すぐに訪問看護師としての即戦力が求められるでしょう。
訪問看護師は、さまざまな疾患を抱えている患者さんの対応をしなければならず、対応方法も患者さんによって異なります。
看護師としての経験値が浅いと、適切な対応方法がわからずに困ってしまうこともあるでしょう。
ご自身の看護師経験を考慮し、転職時に研修や教育体制について事前に確認しておくと安心かもしれません。
訪問看護師に必要なスキル
訪問看護師に必要なスキルとして、コミュニケーション能力やアセスメント能力・緊急対応力があります。
どのスキルも、看護師経験を積み重ねて身につけておくと、訪問看護師になった際にも生かせるでしょう。
また、看護師のスキルアップ方法として専門看護師や認定看護師もあります。
コミュニケーション能力
訪問看護師は、患者さんやご家族との信頼関係を築くためのコミュニケーション能力が求められます。
まずは、患者さんやご家族の話を傾聴し、きちんと受け止めることが重要です。
訪問看護の時間だけでは患者さんの様子をすべて知ることは難しいため、コミュニケーションを通して積極的に情報収集しましょう。
患者さんの状態を的確に知ることにつながり、必要なケアを提供できるようになるでしょう。
また、訪問看護師はケアマネジャーや理学療法士、医師などの他職種ともコミュニケーションを取る機会があります。
職種に合わせて、適切に情報共有できるコミュニケーション能力が必要です。
アセスメント能力・緊急対応力
訪問看護師は、看護師としての基本的なアセスメント能力が求められます。
目の前の患者さんの状態を自分自身でアセスメントして、最適な看護を提供しなければいけません。
また、オンコール対応では、緊急対応力も求められます。
緊急対応力はすぐに身につくものではないため、病棟での急変対応に積極的に関わり、少しずつ習得しておくと良いでしょう。
経験を生かして訪問看護師をめざそう
訪問看護師は一人の患者さんに向き合い看護を実践できることから、目の前にいる患者さんの反応や状態を見てやりがいを感じられることもあるでしょう。
今までの看護師経験を生かせる訪問看護師を、キャリアの選択肢として検討してみてはいかがでしょうか?