
創傷とは、身体の表面にできた傷や損傷のことです。
創傷治癒過程にはいくつかの段階があり、看護師は各段階の特徴や創傷の状態に合わせた処置を行う必要があります。
本記事では、創傷治癒過程の各段階の特徴と看護師に求められる対応、創傷治癒過程の注意点などについて解説します。
目次
看護における創傷治癒過程とは
創傷(そうしょう)とは、身体の表面にできた傷や損傷のことです。
擦過傷(擦り傷)や切創(切り傷)、裂傷などに分類され、さまざまな要因で引き起こされます。
厳密には「創」とは開放性損傷を意味し、「傷」とは非開放性損傷を意味します。
しかし、広義にはすべての損傷を意味することが多いです。
それぞれの傷の状態に合わせて処置が異なるため、看護師には幅広い創傷治癒過程を覚え、それに応じた適切な処置をすることが求められます。
看護師が理解すべき創傷治癒過程
創傷治癒過程は、大きく以下の4つの段階に分けられます。
- 血液凝固期
- 炎症期
- 増殖
- 成熟期
また、以上の4つを急性期と慢性期に大別することもあります。
それでは、各段階の特徴を詳しく見ていきましょう。
①血液凝固期
血液凝固期は創傷後数時間程度の間で起こる変化の期間のことです。
この時期は、出血が起こり凝固因子と血小板が傷口を防ごうと集まります。
徐々にかさぶた(凝血痕)ができあがり、傷口が塞がれていきます。
②炎症期
血液凝固期から炎症期へは早期に移行します。
炎症期は、免疫反応として白血球や好中球が集合し、壊死組織を貧食(死んでしまった組織を体内へ取り込む)作業を行う時期です。
創傷を清浄化しようと動く白血球や好中球の働きにより、徐々に上皮が形成されはじめます。
③増殖期
受傷から3日後~2週間ほどを増殖期といい、炎症期とやや被りながら始まるとされています。
増殖期は新たな血管が生まれはじめ、線維芽細胞が増殖することで創部が閉じはじめる時期です。
炎症が長引くとうまく線維芽細胞が増えることができず、慢性創傷となり治癒に時間がかかる場合があります。
④成熟期
受傷から数週間が経つと成熟期に移行します。
成熟期は線維芽細胞が徐々に減少し、繊維細胞へ変わって創部が閉じる時期です。
新しい血管による血管網の作成や、コラーゲンの成熟により、内部強化を図る時期でもあります。
急性期・慢性期
創傷治癒過程は、上記の4段階ではなく、急性期と慢性期の2つに分類することもできます。
以下では、急性期と慢性期の特徴を詳しく見ていきましょう。
急性期
急性期は受傷後1~3週間程度の時期を指します。
この時期はさまざまな変化が刻々と起きやすく、紫斑や水泡、びらん形成などを呈しやすいです。
出血や皮膚の剥離が生じやすく、炎症反応による痛みがともなうことが多いです。
慢性期
慢性期は医師の診察のもと、治癒しない原因を検討し、適切な処置を行う時期です。
この慢性期における創傷の状態を慢性創傷と言います。
慢性創傷の代表は、褥瘡や下腿潰瘍などで、血流が減少し創傷治癒が遅れやすいために慢性創傷につながることがあります。
慢性創傷は、1~3週間の急性期を過ぎているもので、基本的に局所の病態変化が少なくなった状態です。
慢性期は急性期と比べて、痛みや出血が生じにくく、安定した時期といえますが、創部の感染や離開などに注意しなくてはいけません。
創傷治癒過程に合った看護師の役割
創傷治癒過程の各段階では、看護師に求められる役割が異なります。
前述の創傷治癒過程の説明を踏まえて、各段階の看護師の役割を詳しく見ていきましょう。
血液凝固期
血液凝固期は受傷した場所が重要であり、清潔ではない場所で受傷した場合、感染を防ぐために洗浄などをしなくてはいけません。
看護師は問診を確実に行い、感染経路になる場所での受傷の有無をしっかりと医師へ伝えることが重要な役割です。
術後であれば創部が離開していないか、ドレーンから出血量が増えていないか、鮮血の排液に性状が変わっていないかを確認します。
異常時は早期にリーダーへ相談し、医師へ指示を仰ぐことが重要です。
炎症期
術後は免疫反応にともない発熱するため、患者さんの苦痛が強いときにはクーリングをしても良いでしょう。
ただし、炎症期のクーリングでは、正常な反応として熱を上昇させていることを考慮したうえで、必要以上に解熱しないよう注意が必要です。
また、細胞内や血管外に水分が移行している時期でもあるため、循環血液量低下にともなう頻脈や尿量の減少も起こります。
創部の感染兆候観察のほか、水分出納を含めた全身状態の管理も看護師にとって重要な仕事です。
増殖期
増殖期では、術後や受傷後に貼っていたドレッシング材(創部の状態に合わせ湿潤環境を保つための被膜材、浸出液を吸収し保護するものなど)などを、患者さんが自己判断ではがしてしまわないように細心の注意を払いましょう。
これは、ドレッシング材に血餅が引っ張られてしまい治癒を遅らせてしまう危険性があるためです。
また、この時期は感染をきたしやすく、ドレーン挿入部や創部、発熱の有無などが重要になります。
看護師は観察を十分に行い、異常がないかを逐一確認しましょう。
成熟期
成熟期に入ると徐々に傷が閉鎖されるため、ガーゼ保護やドレッシング材の使用が不要になってきます。
そのため、成熟期に入った際、看護師は不衛生なガーゼ保護などがされていないか適切に判断することが重要です。
創部が完全に治癒するまで、特に栄養状態の悪い方や糖尿病がある方などは傷が治りにくいため離開しないよう観察を怠ってはいけません。
急性期・慢性期
創傷治癒過程を急性期と慢性期で分類する場合も、それぞれ看護師に求められる役割が異なります。以下では、具体的な内容を見ていきましょう。
急性期
急性期は、感染症防止の洗浄と並行して、新生組織の発達を邪魔しないように、適切なアセスメントや処置を行いましょう。
例えば、感染兆候がないか、栄養状態は悪化していないかの確認や、ドレッシング材を使用した創部の保護などを行います。
また、低酸素部位に血管新生が起こることを強みにとり、VAC療法などで創部を局所的に低酸素状態にして血管新生を促す場合もあります。
その際、傷口が見えづらいため、注意して観察することが大切です。
慢性期
慢性期では医師の処置が入ることがあるため、事前に必要物品・手順を確認し、処置が滞りなく進むよう介助することも必要です。
また、治らない傷に患者さんが悩む場合もあるため、不安を最小限にできるような関わり方が求められます。
必要時医師や栄養士、薬剤師以外にも、皮膚排泄ケアに特化したWOCに相談することも一つの手です。
患者さんの心理状態にも配慮しながら、創傷治癒を促進するためのケアを行うことも、看護師の役割です。
創傷治癒過程で注意すべきポイント
創傷治癒過程で、看護師が注意すべきポイントは以下のとおりです。
- 必要な情報の収集・共有
- 感染兆候を見逃さない
- 確実な疼痛コントロール
- 状態に合わせた保護剤の選択
- 適切な全身状態のアセスメント
それでは、各ポイントについて詳しく見ていきましょう。
必要な情報の収集・共有
看護師は、創傷治癒過程の妨げになる危険因子がないかの情報収集と、他スタッフへの共有が重要です。
患者さんが糖尿病を患っていないか、栄養状態が不良ではないかなど、事前確認と定期的な観察・問診を怠ってはいけません。
情報を集めたら、それらを同じチームのスタッフや他職種とも共有しておきましょう。
チーム内で必要な情報を共有しておくことで、創傷治癒過程が滞ったとき、原因検索をしやすくなります。
感染兆候を見逃さない
創傷治癒過程のどの時期においても、創部やドレーンの色調変化、発熱など感染兆候を見逃してはいけません。
看護師は目で見える観察点以外にも、採血データやレントゲン、話している内容など多角的な視点を持つ必要があります。
感染兆候を早期に発見し、適切な処置を行うことが、創傷治癒でリスクを最小限に抑えるために重要です。
確実な疼痛コントロール
受傷すると痛みをともなうため、確実な疼痛(とうつう)コントロールが必要です。
不適切な疼痛コントロールは、以下のような問題につながる可能性があります。
- せん妄の発症
- リハビリの難化
- 慢性創傷
- PICS(集中治療後症候群)など
看護師には、患者さんの痛みを適切にアセスメントし、正確な疼痛コントロールを行うことが求められます。
状態に合わせた保護剤の選択
看護師は創傷の状態に合わせて適切な保護剤を選択し、使用することが重要です。
創部を外部から守るためなのか、治癒を促進するためなのかなど、創傷治癒過程の各段階と目的に応じたドレッシング材を選択しましょう。
保護材の選択に悩んだ際には、WOCナースに相談する方針を取っている病院もあります。
適切な全身状態のアセスメント
創傷を治すためには、全身状態のアセスメントも重要です。
早期離床ができず食欲もなくなる場合や、傷を治す力が低下して創部が良くならない場合など、全身のコンディションと創傷治癒は切っても切り離せない関係にあります。
看護師は必要に応じて、リーダーやチームスタッフと相談しながら、適切な全身状態のアセスメントを行いましょう。
創傷治癒過程に合わせた適切な看護をしよう
創傷治癒過程は血液凝固期、炎症期、増殖期、成熟期の4つの段階に分けられ、各段階で創傷の状態や症状も異なります。
また、急性期と慢性期に大別することもでき、時期に合わせて適切な看護を行うことが重要です。
看護師は創傷治癒過程の各段階の特徴を理解し、必要な情報の収集と共有、感染兆候の観察、確実な疼痛コントロールなどを行う必要があります。
創傷治癒では、医師だけでなく看護師の確実な対応が欠かせません。
看護師は、創傷治癒過程の理解を深め、他の医療スタッフと連携しつつ、患者さんに寄り添った創傷治療を提供しましょう。