作業療法士は国家資格で、リハビリテーション職の一つです。
対象とするのは主にさまざまな障害により生活に困難を抱えた人であり、その在宅復帰、社会復帰のために「作業」を通してサポートします。
作業療法士が必要とされる場所は病院だけではなく、福祉施設や発達障害児施設、または行政機関などさまざまです。
この記事では、作業療法士の役割が、対象者の疾患または勤務場所によってどのように異なるのかを解説していきます。
目次
作業療法士の役割とは
作業療法士の基本的な役割は、リハビリテーションを通して対象者が「その人らしく」日常生活を送れるようにサポートすることです。
具体的には、食事や着替え、入浴、家事などの日常生活での基本的作業や、うつ病、統合失調症などの精神疾患を抱える対象者の社会復帰をサポートする役割があります。
しかし、同じ作業療法士でも対象者の障害によって担う役割は異なってきます。
ここでは、代表的な4つの障害に分けて紹介していきましょう。
身体障害系
身体障害系の作業療法は、骨折などの外傷や、脳卒中による片麻痺、高次脳機能障害などの脳障害を合併した患者さん、呼吸器疾患や神経疾患を抱える患者さんなどを対象としています。
一般的に、身体障害系の作業療法は「急性期」「回復期」「生活期」の3つの時期に分けて展開されます。
例えば、補助具を使用した食事動作訓練や、呼吸苦が出現しないような入浴方法の指導、または自宅に手すりを設置するなどの環境調整が主な仕事です。
最終的に、対象者が自宅での生活に戻る、あるいは職場に復帰する際に、何らかの代替手段を用いても障害を受ける前と同じような生活を送れるようにすることが目標です。
精神障害系
精神障害系の作業療法は、うつ病や統合失調症などの精神疾患を来した対象者に、レクリエーションや個別の創作活動などを行います。
これらの活動を通して、対象者の社会復帰や、生きがいを見つけることをサポートするのが役割です。
精神障害系の作業療法では、まずは対象者との信頼関係を築くことがとても大切です。
対象者が退院する際には、退院後の生活課題を確認し、支援サービスの検討や職場環境の整備にも取り組みます。
最後に、対象者が安心して社会復帰できることがリハビリのゴールとなります。
発達障害系
発達障害系の作業療法の対象は、脳性麻痺や自閉症、ADHD、学習障害などを併せ持つ子どもたちです。
遊びを中心とした「作業」を通し、各々の発達課題に合わせて身の回りの動作訓練や、社会性・コミュニケーション能力を高めるためのリハビリテーションを提供します。
障害を抱えたままでも、学校などの集団活動や、成人後の社会生活を自立して営んでいけるように、長きに渡ってリハビリテーションを展開していきます。
老年期障害系
老年期障害系の作業療法の対象は、脳卒中による脳障害や認知症、または老化にともなう筋力低下など、あらゆる合併症を来している方々です。
認知症で徘徊してしまう方には馴染みのある作業を通して不安の軽減に努める、高齢者うつ病を抱える方にはグループ活動を通して社会とのつながりを実感してもらう、といった取り組みを行います。
心身の健康維持を目標に、対象者のこれまでの生活や経験を生かした作業活動を提案し、対象者が生き生きとした日常生活を送れるようにサポートします。
働く場所によって異なる作業療法士の役割
同じ作業療法士でも働く場所によって、他職種との連携、対象者やご家族とのコミュニケーション、他病院との付き合いなど、求められる役割は異なってきます。
ここでは、職場ごとに作業療法士の役割を紹介します。
医療機関
病院は作業療法士にとって一般的な職場ですが、病院の機能に応じて作業療法士が担う役割は異なるものです。
例えば、急性期の病院ならベッドサイドからリハビリ介入をし、対象者の早期自宅退院や身体の機能回復をめざす、回復期の病院ならより生活に即した機能回復訓練を実施する、などです。
また、医師や看護師、他のリハビリテーション職などと連携して、チーム医療で対象者に関わることも、医療機関で働く作業療法士には求められます。
担当する対象者の疾患は多岐にわたるため、日々勉強をし、さまざまな知識を身につけていく必要があります。
高齢者福祉施設
高齢者福祉施設とは、介護老人保健施設や特別養護老人ホーム、介護付き有料老人ホームなどのことです。
そのなかには、リハビリによって在宅復帰をめざす対象者もいれば、施設での生活の質向上をめざす対象者もいます。
作業療法士は、対象者の日常生活により近い場面を想定し、今後の生活で必要な「作業」を繰り返し練習していきます。
さらに在宅復帰に向けて、自宅環境を整える、必要な福祉用具を選定することも重要な役割です。
児童福祉施設・障害者支援施設
児童福祉施設とは、乳児院や児童厚生施設といった児童福祉に関わる事業を行う施設です。
児童福祉施設のなかには、知的障害児施設や知的障害児通園施設といった、障がいを持つ子どもが自立した生活を送るための訓練をする場所があります。
障害者支援施設は、身体障害や知的障害などハンディキャップを抱える対象者が訓練を受けて、日常生活、社会生活、就労が行えるようにするところです。
作業療法士としては、対象が子どもであれば遊びのなかで楽しみながら身体や精神機能の向上を図ります。
その後、就労に向けて必要な技能を習得できるように関わっていきます。
また、障がい者のなかには、うつ病や不安障害を合併している方もいるので、身体的なアプローチだけではなく、精神的な面にも寄り添って作業療法を展開していくことも大切な役割です。
福祉行政機関
福祉行政機関とは、一般に行政が設置している保健所や保健センターのことです。
行政機関として病気の予防や体操教室の開催など健康の保持・増進を地域に発信していく場所でもあります。
福祉行政機関で作業療法士が担う役割も、主に地域の公衆衛生や福祉関連の内容になります。
具体的には、社会サービスを利用している対象者の身体や心の相談、障害福祉サービスの手続き、リハビリ教室の企画、開催など多種多様です。
作業療法士養成学校
作業療法士として、臨床現場で経験を積んだあとに、養成学校に就職することも一つの道です。
養成学校の教員になるには、5年以上の臨床経験が必須条件であり、さらに大学教員をめざすのであれば学位が必要です。
近年の作業療法士養成学校数は、4年制大学が増加傾向にあり、今後は学位が必要な大学教員の需要が高まっていく可能性があります。
出典:医療従事者の需給に関する検討会 (第3回 理学療法士・作業療法士需給分科会)
教員として、臨床現場で培ってきた知識、経験を学生に伝えることで、次世代の人材を育てていくことが何よりの役割といえます。
その他
他にも障がい者に対して専門的な職業リハビリテーションを提供する、職業センターといわれる場所でも作業療法士の活躍が見られます。
対象者の心身機能や環境因子を評価し、対象者と仕事内容をマッチングさせることや、職場での作業能力を向上させることが主な役割です。
また、作業療法士の資格を生かして、福祉用具のメーカーや医療ベンチャー企業で活躍する人もいます。
作業療法士としては、リハビリの知識や利用者の声を反映させるような新たな福祉用具、またはリハビリテーションロボットなどの開発に携わることもできます。
作業療法士の役割を理解してリハビリテーション資格をとろう
作業療法士は国家資格であり、安定して働ける職業です。
そして、作業療法士はリハビリテーション職のなかでも、身体と精神の両面から対象者にアプローチのできる仕事です。
対象者の疾患や働く場所によって、仕事内容も、求められる役割も大きく異なってくるため、自分にはどのような職場が向いているのかを見定める必要があります。
しかし、どの職場を選んでも作業療法士として対象者の生活を良くし、以前と同じような生活を取り戻すサポートができることが一番のやりがいであるといえます。