
医療の現場で重要な役割を担う薬剤師。
なかでも、特定の専門分野で高度な知識と技術を持ち、質の高い業務を実践する専門薬剤師は、医療の質向上に大きく貢献しています。
この記事では、専門薬剤師の役割や仕事内容などについて詳しく解説します。
※本記事は日本病院薬剤師会の情報に基づいて作成しています。
目次
専門薬剤師とは?
専門薬剤師とは、専門薬剤師認定審査に合格し、特定の専門分野における薬物療法などに関する十分な知識を用いて、各医療機関で質の高い業務を実践する薬剤師のことです。
専門薬剤師は、さまざまな医療チームのなかで、医師や看護師などの多職種と連携し、薬物療法のスペシャリストとしての知識や技能を生かして患者さんの治療をサポートします。
患者さんに安全で適切な治療を提供するだけでなく、チームメンバーの負担を軽減するといった面でも重要視されています。
専門薬剤師と認定薬剤師の違い
専門薬剤師は、認定薬剤師の上位資格に位置付けられています。
専門薬剤師になるためには、まずは認定薬剤師の認定を受けなければなりません。
専門薬剤師と認定薬剤師は、どちらも高度な知識と経験を有した薬剤師ですが、以下のような違いがあります。
違い | 内容 |
---|---|
研究 | 専門薬剤師は、専門領域の最先端の研究を実施し、研究結果を学会で発表し、学術誌に論文の投稿を行います。一つひとつの研究や成果が、医療技術の発展に寄与しています。 |
教育・指導 | 専門薬剤師は、後進に対して教育や指導を行います。また、病院内の医療従事者を対象とした、勉強会や研修会での講師を任せられることもあります。 |
更新 | 専門薬剤師は、5年ごとに資格の更新が必要です。 |
専門薬剤師の仕事内容
専門薬剤師は、後述する4領域の各専門分野の薬物療法を熟知しています。
患者さんにとって、最適な薬物療法になるよう最新の論文を調べたり、医師と協議をしたりして、一人ひとりに合わせた治療を提案することが大切です。
使われた薬の副作用が出ないか、出たとしてもその副作用を軽減する最善策を調べ、医師と決めていきます。
使用するものが、ハイリスク医薬品(使用するのに特別な配慮が必要な薬)であれば、血中濃度測定などのモニタリングなどを実施し、投与量などをきめ細やかに調整する必要があります。
また、薬物治療以外においても、患者さんにとって不利益になりそうなことを可能な限り排除するために、チーム医療の一員として提言していくのも重要な役割です。
専門薬剤師の種類
専門薬剤師には、先述したとおりさまざまな専門分野があります。
日本病院薬剤師会が認定している、4領域の専門薬剤師を紹介します。
HIV感染症領域
HIV感染症専門薬剤師は、海外の最新情報を収集・確認しながら、薬物動態や副作用、相互作用に注意して、薬を安全に使用できるように、チームの一員として患者さんを支える必要があります。
主な役割 | 概要 |
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薬物療法を有効かつ安全に行う | 海外の最新情報を収集する。HIV治療薬は多剤併用療法が一般的であり、感染症治療薬や既存疾患の治療薬との薬物相互作用の確認を行う。 |
アドヒアランスを高める服薬援助 | 患者さんとのコミュニケーションをとおして、処方決定前・服薬開始前・服薬開始後・服薬継続期にアドヒアランスを高める介入を行う。 |
社会的問題、医療制度や予防啓発にも精通 | 薬害エイズや人権問題など社会的問題も関わることもあり、背景を理解したうえで患者さんの服薬援助を行う。 |
精神科領域
精神科専門薬剤師は、うつ病や神経症などの精神疾患に対して、薬物治療を安全かつ適切に行えるように、患者さんの入院中の治療から退院後の社会復帰まで支援します。主な役割は以下のとおりです。
主な役割 | 概要 |
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薬物治療の最適化を推進 | 患者さんの症状や状況に合わせた薬物治療を提案する。 |
副作用の予防と早期発見 | 錐体外路症状や血糖値の上昇、体重増加などの副作用を発見し、投与量の調節を行う。 |
薬物治療のアドバイザー | アドヒアランスを高めるために患者さんやご家族とコミュニケーションをとる。 |
社会復帰の支援 | 患者さん一人ひとりのライフスタイルに合わせた社会復帰を支援する。 |
妊婦・授乳婦領域
妊婦・授乳婦専門薬剤師は、国内外の医薬情報を調査・評価し、産婦人科医や助産師などと連携して、最善の薬物療法を提案する役割を担います。主な役割は、以下のとおりです。
主な役割 | 概要 |
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情報調査と薬学的評価に基づく医師との協働 | 不足している胎児・乳児に対する安全性データを収集し、適切な薬剤選択を行うための根拠を医師や患者さんに提案する。 |
妊婦服薬カウンセリング | 妊婦と母児の健康のために、妊娠・出産と服用薬のリスク・ベネフィットの情報を集め、患者さんの意思決定を支援する。 |
授乳婦服薬カウンセリング | 母乳中への薬物や代謝物の移行と母乳をとおした新生児への影響を判断し、患者さんの意思決定を支援する。 |
胎児薬物曝露例の疫学研究 母乳移行薬物の解析研究 |
出産結果を集めて疫学調査を実施したり、母乳サンプルを回収して評価を行ったりする。 |
感染制御領域
感染制御専門薬剤師は、科学的根拠に基づいた感染制御に関する高度な知識や技術をいかし、適切な抗菌薬の使い方や感染管理などの実施に貢献します。主な役割は、以下のとおりです。
主な役割 | 概要 |
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感染対策チームで病院内 巡視、病院内状況の把握と対策を協議 | 病院内を巡回し、感染症の発症状況の把握と評価、分析を行う。消毒薬や抗菌薬の使用などを確認し、問題点を抽出する。 |
消毒薬および抗菌薬の適正使用の推進 | 複数ある消毒薬や抗菌薬を科学的根拠に基づいた適正使用を徹底する。 |
ガイドラインやマニュアルの作成 | 院内の抗菌薬の使用状況や原因菌の検出、耐性菌の検出状況を分析し、抗菌薬の適正使用ガイドラインを作成する。 |
情報収集と評価や 指導・教育、啓発 | 抗菌薬を適正使用するために、最新情報を収集する。必要に応じて、院内スタッフに、消毒薬や抗菌薬の適正使用に関する研修を行う。 |
専門薬剤師になるには?
専門薬剤師になるには、各専門領域において薬物治療の実際的な能力を身につけ、領域別の認定薬剤師の認定を受けなければなりません。
各専門領域での実務経験や実績が必要であるため、研修施設で一定期間業務を行い、実技研修や講習を履修します。
専門薬剤師になるには、薬剤師免許を有し、薬剤師として優れた人格と見識を備え、薬剤師としての実務経験が5年以上あることなどの条件を満たす必要があります。
自分の得意領域の専門薬剤師をめざそう
専門薬剤師は、専門薬剤師認定審査に合格し、特定の専門分野で高度な知識と技術を持ち、医療機関で質の高い業務を実践する薬剤師です。
認定薬剤師の上位資格であり、医師や看護師などと連携しながら、薬物療法の点から患者さんのサポートを行います。
HIV感染症や精神科、妊婦・授乳婦、感染制御など、専門分野は多岐にわたります。
専門薬剤師になるには、各専門領域で一定の実務経験と実績が必要であり、認定薬剤師の資格取得が必須です。
医療の高度化・専門化が進むなか、専門薬剤師の果たす役割はますます重要になっています。