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調剤過誤とは?ほかの調剤ミスとの違いや薬剤師の責任・対策を紹介

この記事の監修者
牧野泰尚
牧野泰尚
【資格】 
薬剤師 

【プロフィール】 
製薬企業で約20年勤務。営業・本社勤務・支援スタッフの経験あり。
2024年4月からフリーライターとして医療系記事を執筆。

薬剤師として働くなかで、患者さんの健康を守るためにも調剤ミスは避けるべき事態です。
しかし、薬が正しく処方されなかった、期限が切れていたなどの調剤過誤の報告は、例年あとを絶ちません。
調剤過誤は、薬剤師の過失により患者さんへの健康被害が生じるとともに、薬剤師自身も責任を問われる重大な問題です。

本記事では、調剤過誤の定義やその他調剤ミスとの違い、調剤過誤が起きてしまった際の薬剤師の責任について解説します。
調剤過誤を防ぐための具体的な対策にも触れているため、薬剤師として医療業界に従事している方は参考にしてみてください。

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調剤過誤とは?

調剤過誤とは?

調剤過誤とは、薬剤師による調剤時の処方箋・薬剤ラベルの読み間違い、処方し忘れ、期限切れの薬の処方といった過失によって、患者さんに健康被害が発生する事態を指します。
調剤過誤の読み方は「ちょうざいかご」です。

調剤のミスだけでなく、薬剤師の説明不足などによって患者さんが服薬方法を誤り、健康被害が発生してしまったケースでも調剤過誤と判断されます。
つまり薬剤師が直接調剤を間違えた場合でなくとも、患者さんに健康被害があり、その過失が薬剤師にあると見なされたときには、調剤過誤となります。

調剤過誤とほかの調剤ミスとの違い

調剤過誤は、調剤薬局で発生する調剤ミスのなかでも、薬剤師の過失により起こるものです。
調剤過誤と似ている言葉に「調剤事故」と「ヒヤリ・ハット事例」がありますが、これらは薬剤師の過失や患者さんの健康被害の有無という点で違いがあります。

ここでは、調剤過誤と調剤事故、ヒヤリ・ハット事例の違いを確認してみましょう。

調剤事故との違い

調剤事故は、調剤に関するあらゆる事故が引き金となって患者さんに健康被害が発生する事態を指し、薬剤師の過失の有無は問いません。
医療事故のなかでも調剤薬局で発生したものをいい、例えば患者さんに健康被害が生じているものの、薬剤師には過失がないケースも調剤事故に入ります。

一方の調剤過誤は、調剤事故のなかでも薬剤師の過失により起こったものを指すため、薬剤師の責任が問われることになります。

ヒヤリ・ハット事例との違い

ヒヤリ・ハット事例とは、患者さんに健康被害が発生していないものの、「ヒヤリ」「ハッ」とするような危うい事態を指します。
患者さんが薬を受け取る前後か、服用の前後かは問いません。

調剤過誤は患者さんに健康被害が生じているのに対し、ヒヤリ・ハット事例では健康被害が出ていない点が異なります。

調剤過誤が起きた際の薬剤師の責任

調剤過誤が起きてしまった際、薬剤師は以下3つの責任に問われる可能性があります。

  • 刑事責任
  • 行政責任
  • 民事責任

それぞれの責任の違いや、受ける可能性のある処分を把握しておきましょう。

刑事責任

刑事責任とは、罪を犯した人に対する法律上の処分のことで、国による制裁です。
薬剤師が調剤事故を起こした場合、執行猶予のついた禁固刑や罰金などの罰則を受けることになるでしょう。
患者さんへの健康被害が重大であれば、業務上過失致死傷罪として5年以下の懲役、もしくは50万円以下の罰金が科されます。

行政責任

薬剤の過剰投与などによって患者さんに大きな健康被害が出た場合、厚生労働大臣によって薬剤師免許が取り消されるか、業務停止命令を受ける可能性があります。
これを行政責任といい、厚生労働省などの行政が薬剤師法5条や8条に基づいて与える処分です。
一般的には、罰金刑などの罰則が決定したあとで、薬剤師免許の取り消し・業務停止などの処分を下されることになるでしょう。

また、薬剤師が勤めていた調剤薬局に対しても、業務停止命令を言い渡す場合があります。

民事責任

民事責任とは、被害者となった患者さんや病院、調剤薬局などに対して薬剤師が負う損害賠償責任のことです。
健康被害の当事者に対して、損害の填補のために金銭を支払わなければならないなど、損害賠償責任を問われる可能性があります。

なお、民事責任が問われるのは、患者さんの健康被害と薬剤師の過失に関連性がある場合です。
患者さんが薬を飲む前に薬剤師のミスに気付いたケースなどでは、民事責任に該当しないこともあるでしょう。

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調剤過誤が起きた際の対応

調剤過誤が起きてしまった場合、薬剤師は「初期対応」「患者さんやご家族への対応」「事後対応」と3つの場面で適切な対応が求められます。
万が一のとき、どのような行動を取れば良いのか詳しく見てみましょう。

初期の対応

調剤過誤が発覚したら、まずは患者さんの氏名と生年月日、連絡先を聞くとともに、ご家族からの問い合わせであれば患者さん本人との続柄も確認しておきます。
そして、いつ・どこで処方された薬なのか、服用回数、服用からの経過時間、患者さんがどのような状態であるかなどの情報を集めましょう。

情報を聞き出し、内容を整理して影響レベルと呼ばれる患者さんの被害の重症度を把握します。
状況に応じて、医師の判断を仰いでください。

患者さんやご家族への対応

実際に調剤過誤があったとわかったら、被害が拡大するのを防ぐために、患者さんやご家族に対して速やかに適切な指示を行う必要があります。
健康被害のレベルが大きければ命に関わるかもしれません。
緊急性があるようなら、救急車の要請や受診をすすめましょう。

もし、服用前に患者さんが異変に気付き、実際には健康被害が出ていなかったとしても、調剤ミスが起きたことは事実です。
誠意を持って話し合いをするようにしてください。

事後の対応

患者さんの容態や経過、話し合いの内容をふまえた再発防止策を考え、所属する薬剤師会に報告します。
調剤ミスが発覚した時点で健康被害が出ていない患者さんでも、時間が経ってから重篤な副作用が現れる可能性も否定できません。

ときには長期的な対応が必要になるため、状況に合わせて自治体の役場や保健所など、報告が必要な場所へ連絡を取りましょう。

薬剤師が調剤過誤を起こさないための対策

調剤過誤を防ぐためには、日頃からの対策が重要です。
チェックの徹底や整理整頓、声に出しての確認、ヒヤリ・ハット事例の共有など、できることから始めていきましょう。

チェックを徹底する

チェックの徹底によって、ヒューマンエラーを防ぎやすくなります。
疑義照会が必要な場面であるにも関わらず、確認を怠って調剤を行うようなことは避けましょう。
調剤ができたら、処方箋のとおりに正しく用意されているか、薬剤師同士でダブルチェックを行います。

調剤薬局では、薬袋・薬剤情報提供用紙の誤記入が起きる可能性もあるため、あわせて確認するようにしてください。
さらに、薬を渡す際にあらためて患者さんと一緒に内容をチェックするのがおすすめです。

整理整頓する

調剤室のどこに何があるかわからない状態では、業務中に慌てる場面や混乱する場面が発生しやすく、調剤過誤の原因となりかねません。
間違えやすい薬剤や健康被害の報告が多い薬剤の棚には、警告としてラベルを貼っておく、薬剤を出しっぱなしにしないなど、調剤室の整理整頓を心がけましょう。

シートの色味が類似した薬剤は逆側の棚に収納したり、抗癌剤や免疫抑制薬などのより注意が必要な薬剤は専用スペースを確保したりするのも効果的です。
2~3錠ずつ服用する薬剤には、棚に「2錠ずつ」「3錠ずつ」といった付箋を貼るという方法もあります。

新薬が入ってきたタイミングなどに棚を整理する際は、一緒に働く薬剤師全員が薬剤の保管場所を理解できるよう、情報を共有しておくことが大切です。

声に出して確認する

薬剤を集めるときや調剤したものを確認するときに、処方箋や薬の名称を声に出して読み上げると、調剤過誤の防止に役立ちます。
「〇〇錠〇mg、1日1回、30日分30錠」など、ピッキングする薬剤を指さしながら読み上げるようにしましょう。
薬は類似した名称のものも多いため、目視でのダブルチェックに加えて、声に出すことでミスに気付きやすくなります。

ヒヤリ・ハットを都度報告する

業務のなかで「ヒヤリ」「ハッ」とした場面を、調剤薬局内の薬剤師などに都度報告することで、問題意識を共有できます。
報告が遅くなってしまうと、ヒヤリ・ハットの原因を究明しにくくなり、同じミスを繰り返してしまうことで調剤過誤につながるかもしれません。
ミスの共有が早ければ早いほど、調剤過誤を阻止するための対策を講じやすくなるため、小さな懸念事項も詳細に共有することが大切です。

インシデントレポート(ヒヤリ・ハット事例集)を作成し、つねにデータを集めて、どのようなミスが起きやすいのか予測できるようにしましょう。

調剤過誤を起こさないための対策を知って防ごう

調剤過誤とは、薬剤師の過失によって患者さんに健康被害を及ぼしてしまうことを指します。
調剤の間違いだけでなく、薬に関する説明が足りなかったせいで患者さんに健康被害が生じた場合にも、薬剤師は刑事責任や行政責任、民事責任などに問われるため注意しましょう。

調剤過誤を起こさないためには、ダブルチェックの徹底や調剤室の整理整頓、声出し確認など、日頃の対策が肝心です。
調剤過誤には至らなくとも、業務中にヒヤリ・ハット事例が発生したときには、ほかの薬剤師への報告を徹底するようにしてみてください。

新人・ベテランに関係なく、薬剤師一人ひとりが注意を払い調剤過誤を防ぐことで、患者さんの健康を支えるという重要な責務を果たせるでしょう。

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