
多様な活躍の場を持つ保健師ですが、そのなかでも行政機関で働いている保健師のことを行政保健師といいます。
行政で働く保健師とは、具体的にどのような役割を担っているのでしょうか。
近年、高齢化が進み健康意識が高まったことや、地域包括ケアシステムの構築が推進されていることから行政保健師に注目が集まっています。
ここでは、行政保健師とはどのような職業なのか、具体的な仕事内容、役割について紹介していきます。
目次
行政保健師とは?
行政保健師とは、行政機関で公務員として働いている保健師のことです。
都道府県や市区町村に設置されている保健所や地域の保健センターなどで活躍しています。
保健師にも多くの種類がありますが、保健師資格を持っている人の半数以上は行政保健師として働いているのです。
行政保健師は、世代を問わず地域のあらゆる健康問題に対応しています。
保健師は、種類によって勤務先や仕事内容が大きく異なります。
行政保健師の概要について詳しく見ていきましょう。
行政保健師の主な勤務先
行政保健師は、行政が管轄する機関で公務員として働きます。
具体的には、都道府県や市区町村に所属する保健所や、保健センターなどです。
少数ですが、国の管轄機関で働いている行政保健師もいます。
各都道府県や市区町村ごとに抱える健康問題はさまざまなので、勤め先の地域のニーズに適合した対応をしなければなりません。
行政保健師の活躍の場は年々広がっており、市区町村が運営する地域包括支援センター(直営型)に配属されることもあります。同時に、介護施設、児童相談所などの関係機関と連携しながら市民に寄り添った活動をしています。
行政保健師の人数
行政保健師の人数は年々増加傾向にあります。
こちらの表をご覧ください。
2022年 | 2023年 | 増減 | |
都道府県 | 5,675人 | 5,795人 | +120人 |
市区町村 | 32,328人 | 32,733人 | +405人 |
合計 | 38,003人 | 38,528人 | +525人 |
厚生労働省の調査によると、全国の行政保健師数は、2023年では38,528人で、2022年よりも525人増加しています。
そのうち、都道府県に勤める行政保健師は2023年で5,795人となっており、2022年よりも120人増加しています。
また、市区町村に勤める行政保健師は2023年に32,733人で、2022年よりも405人の増加が見られました。
増加の背景として、高齢化にともない地域全体で医療・介護の支援体制を構築する地域包括ケアシステムが導入されたことが挙げられます。
今後も行政保健師の需要は高まっていくため、行政保健師の人数は増加していくでしょう。
行政保健師の役割
行政保健師の主な役割は、地域住民に対し、医療や健康、保健福祉に関する活動を行うことです。
乳幼児から高齢者まで、あらゆる世代がケアの対象になります。
健康に問題がある本人のみを支援するのではなく、ご家族や地域全体の健康課題に対して包括的にサポートを行います。
例えば、要介護者本人だけでなく、介護する側の心理的負担のケアも行政保健師の仕事です。
介護相談先やサービスの紹介などを行い、ご家族全員が安心して暮らせる生活を実現します。
このように行政保健師は、そのご家族や地域全体の健康度を見極めて、必要としているサービスや医療機関につなぐ重要な役割を担っています。
行政保健師の仕事内容
前述したとおり、行政保健師は地域住民全体の健康に貢献する役割を果たしていますが、具体的にどのような仕事を行っているのでしょうか。
行政保健師の主な仕事内容は、地域住民の健康管理、相談対応を行うことです。
しかし、勤め先によって、求められる業務に違いがあります。
ここでは、主な勤務先である保健所と保健センターでの仕事内容を紹介していきます。
保健所
保健所とは、都道府県・政令指定都市・中核市により設置される公的機関です。
保健所での仕事内容は以下です。
- 地域のケアシステムの構築
- 自治体の健康問題に関する施策の運営と管理
- 保健福祉 (医療監視や医療に関する相談)
- 健康危機管理 (感染症対策や感染症の調査・分析)
- 精神保健福祉や難病対策・支援
具体的には、地域のケアシステム構築のため、医療・介護サービスの情報を共有したり、地域住民の健康課題を調査したりしています。
また、全国的な病気や感染症の対策・予防も保健所特有の業務です。
保健所には各専門家が集まっていることから、行政保健師も保健知識を生かした施策づくりなど専門性が必要な役割が求められるでしょう。
保健センター
保健センターとは、市区町村に設置される公的機関です。
地域住民に対し健康相談や保健指導などを行っており、保健所よりもより住民に近い立場で切れ目のないサービスを提供しています。
保健センターで行政保健師が行っている仕事内容は、以下のとおりです。
- 母子保健 離乳食教室、乳幼児相談、乳幼児健診、
新生児(こんにちは赤ちゃん)訪問、パパママ教室、母子健康手帳交付 - 予防接種 定期予防接種の相談窓口、手続き
- 介護予防 介護予防教室の開催
- 成人保健 定期検診、健康教室の開催、生活習慣病予防
- 歯科、栄養保健 子どもを対象とした歯科検診、歯や栄養に関する健康相談
(歯科衛生士や管理栄養士がいる場合はそのフォロー)
保健センターは、あらゆる世代に向けた保健サービスの提供や、相談対応を行っています。
医療機関や児童相談所、子育て支援センターなどの他機関や、民生委員や自治会など地域コミュニティとの連携も欠かせません。
保健所よりも地域住民の利用頻度が高く、近い距離から地域住民の健康に貢献できることが特徴です。
行政保健師の一日の流れ
ここからは行政保健師の一日の流れについて紹介していきます。
実際に、行政保健師の一般的なスケジュールを用意しました。
表を見ると、訪問や相談対応を多く行っており、さまざまな世代の地域住民とコミュニケーションを取る機会があることがわかります。
地域住民の健康課題を発見しサポートする必要がある行政保健師には欠かせない業務です。
ほかにも、検診の手伝いや、訪問に必要な資料の作成なども行っています。
行政保健師は公務員であるため、基本的に土日祝が休みであることや、夜勤がなく有休や産育休などの福利厚生が整っているといった特徴があります。
また、一人仕事というよりは、さまざまな活動や課題に対して周囲と協力して仕事を進めています。そのため、結婚や子育てなどライフステージの変化に応じて両立しやすい環境といえるでしょう。
時刻 | 仕事内容 | 仕事詳細 |
8:00 | 出勤 | ・出勤 ・メールチェックなど、当日の業務の確認や準備 ・朝礼に参加 ・仕事の進捗状況の確認と共有 ・当日の予定の確認と共有 |
9:00 | 準備 | ・訪問の準備 ・当日の仕事に必要な資料の準備 ・関係機関へ連絡 |
10:00 | 訪問 | ・新生児訪問で赤ちゃんの発育・発達、産後の母親の健康確認 ・子育ての相談にのる |
12:30 | 昼食 | ・昼食をすませる |
13:30 | 相談対応 | ・電話や窓口にて健康相談や育児相談にのる ・健康診断で継続的なフォローが必要な住民に連絡し、健康状態の確認や助言を行う |
15:30 | 訪問 | ・自宅介護している家庭に訪問して被介護者の健康調査 ・介護しているご家族の相談にのる |
16:00 | 検診 | ・検診の手伝いを行う |
17:00 | 書類作成 | ・当日、行った業務の書類を作成する |
17:45 | 退勤 | ・翌日の準備を行って帰宅する |
行政保健師になるには
行政保健師になるためには、保健師・看護師の資格を取得したうえで、行政機関が実施している職員採用試験に合格する必要があります。
職員採用試験とは、公務員試験のことです。
行政保健師は公務員として働くことになるため、職員採用試験にも必ず合格しなければいけません。
以下、職員採用試験の試験内容の一例です。
試験内容 | |
一次試験 | 教養問題、専門試験 |
二次試験 | 個人面接、集団討論、小論文 |
一次試験の教養試験とは一般的な知識が出題される試験であり、専門試験は保健師の専門的な知識が問われる試験です。
二次試験の小論文では、保健師が関わる可能性の高い食育や虐待などの時事問題をテーマに出題される傾向が見られます。
日頃からニュースを見ておくことがとても重要です。
試験内容は、各行政機関によって違う場合もあるため、勤めたい地域の受験概要や難易度をチェックしましょう。
行政保健師の役割や仕事内容を知って参考にしよう
行政保健師とは、行政機関で公務員として働いている保健師のことです。
都道府県や市区町村などの保健所や地域の保健センターなど、幅広い場所で活躍しています。
行政保健師の役割は、地域に在住するあらゆる世代の人々を対象に、医療や健康、保健福祉に関する活動を行うことです。
具体的な仕事内容として、保健所では地域のケアシステムの構築などの広域的な保健活動を行い、保健センターでは事業や介護予防、生活習慣病予防などの活動を通して住民の健康を支援しています。
行政保健師になるためには、保健師・看護師の資格のほか、公務員試験に合格する必要があります。受験する自治体の募集要項や試験内容をよく確認しておきましょう。
今回の記事をご覧になり興味を持った方は、ぜひ挑戦してみてはいかかでしょうか。