
看護師として働いていると、学生のときにはわからなかった救急看護やクリティカルケアの魅力に気付くことがあるでしょう。
昨今のテレビなどでも、クリティカルケアを中心としたドラマや密着取材のドキュメンタリーなどもあり、目にする機会が増えています。
では、実際にクリティカルケアとはどのような意味なのか、看護ケアや特徴についても、本記事で詳しく解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
クリティカルケアとは
クリティカルケアとは、救急看護の一つであり、重症患者への看護ケアのことです。
近年、急性・重症患者看護師などの出現にともない、クリティカルケアの専門性は高くなっています。
クリティカルケアは救急看護ケアの一つである
クリティカルケアとは、急性・重症の疾患や交通事故などの外傷によって、危機的状況に陥っている患者さんへの看護ケアのことを示します。
特に24時間体制で救急車を受け入れている救急外来や、ICU(集中治療室)やHCU(高度治療室)などの一般病棟では管理が難しいような状態の患者さんに対し、行うケアが多いでしょう。
患者さんの身体面の管理はもちろん、患者さん本人とそのご家族も含めた精神的・社会的な面からもクリティカルケアを用いてアプローチ・支援する必要があります。
クリティカルケアは専門性が高くなってきている
クリティカルケアは1990年代に救急看護や重症集中ケア認定看護師が誕生したことにより、近年目まぐるしく成長しています。
定期的に行われている救急医学会などに参加すると、新しい研究結果や最先端の医療技術の導入などが全国で行われていることがわかります。
特に大学病院などの大きな病院では、最新の医療を提供していることが多く、日々勉強をしないとついていけないこともあるでしょう。
医学が進むにつれ、患者さんやそのご家族が必要とする看護の質の高さも比例して高くなり、そこに診療報酬の改定なども加わって、専門性が高くなっている現実があります。
クリティカルケアにおける看護師の役割
クリティカルケア分野におけるナースの役割は、患者さんの全身状態の管理から、患者さんとそのご家族を含めた方々へのケアの提供や代弁者になるなど、幅広く行う必要があります。
以下でそれぞれの役割について、詳しくみていきましょう。
患者さんの異常の早期発見
クリティカルケアを必要とする患者さんは、状態が不安定であることが多く、容易に状態変化が起きやすいのが特徴です。
そのため、クリティカルケアを行う看護師には、患者さんの異常に対し早期に発見したうえで、対処できるよう努める役割があります。
「少し活気がないかな」や「呼吸が少し早い」など、小さなことでも早期に気付く力が必要です。
一般病棟は受け持つ人数が多いですが、ICUやHCU、救急病棟などは受け持つ人数が少ない分、一人ひとりの患者さんの重症度が上がるため、異常の早期発見ができるよう努めましょう。
重症患者の生命管理
重症な患者さんは、カテコラミンを使用していたり、少しの体位変換でも血圧変動が起こるなど、予断を許さない状態であることが多いですが、そのような患者さんを管理し生命維持を図る役割があります。
医師の指示のもと、適切に薬剤を増量・減量したり、清拭やリハビリを行って良いタイミングであるかなど、患者さんの全身状態を評価したうえで、適切なクリティカルケアを提供します。
ただ命をつなぎ留めれば良いわけではなく、機能回復のために取り組むことも、クリティカルケアを提供する看護師には必要な役割です。
それに関しては、下記の社会復帰へのケアで具体的に解説します。
苦痛軽快の管理
ICUやHCUなど全身状態の管理が必要な患者さんは、人工呼吸器を使用していたり、術後の痛みを抱えていたりするなど、さまざまな痛みのケア、コントロールが必要です。
例えば、術後の患者さんが創部が痛いことによりリハビリが進まなかったり、その結果、寝ている時間が長くなってしまい、筋力の低下をきたしてしまうなど、苦痛が管理できていないことで起こりうる問題は多々あります。
そうならないためにも、どのような痛みがあるのか、どの薬剤を用いて苦痛を緩和することが適切なのかなどを同じチームメンバーとともに考え、医師と協働で検討する役割があります。
社会復帰・ご家族へのケア
クリティカルケアを必要とする患者さんは、現時点から回復する目的以外にも、将来的に社会復帰が可能なように鎮静下でもリハビリを行うなどのケアが必要です。
鎮静している状態で自分でリハビリを行うことは難しいため、クリティカルケアを提供する看護師が他動運動(他者が手を貸し、上下肢の屈曲や伸展動作などを行う運動)を行うことで、筋力低下を最小限にできるよう努めます。
必要時は理学療法士や言語聴覚士、作業療法士といったリハビリスタッフとともにリハビリ内容を計画し実施します。
また、ご家族と分離され全身管理を行うため、本人はもちろんご家族の心のケアや社会的支援などへの介入が必要です。
そのため、社会福祉士との連携に注力する場合もあります。
患者さんやご家族の擁護者
患者さんは予定されている手術などを除き、日々の生活をしているときに、突然全身管理を必要とする状態になることが多いでしょう。
患者さんやご家族はそのような状態変化に対し、突然医師の病状説明を聞いても、医師がなにを言っているのかうまく理解できなかったり、どのように気持ちや思いを伝えて良いのか悩んでしまいやすい事実があります。
そのようなとき、クリティカルケアに携わる看護師が、患者さんの擁護者(アドボケーター)になるという場面は多く存在します。
「先生の説明はわかりましたか」などと声をかけることで、患者さんやご家族は相談しやすくなるでしょう。
スタッフの育成・知識の周知
クリティカルケアに携わる看護師は、状態が不安定になりやすい患者さんに対して看護を行うため、スタッフの育成や最新知識の周知なども役割の一つにあります。
新人の頃から、重症な患者さんの全身状態管理を行える看護師はいません。
それぞれの看護師が勉強をし、日々患者さんを看護するなかで経験を培い、先輩看護師や医師に指導してもらうことで、成長して全身管理を行っています。
クリティカルケアの病棟に限ったことではないですが、病棟内で勉強会をしたり、新しい文献などを見せあったりなども、スタッフの育成や知識の周知につながります。
クリティカルケア看護の魅力
不安定な状態の患者さんの全身管理や看護ケアの提供は、一部分だけ見ると「目の前で急変したら怖い」や「自分のしたことで患者さんの状態が悪くなったら不安だ」など、マイナスな部分を感じ取りやすいでしょう。
しかし、クリティカルケアを提供する看護には、全身管理の結果、患者さんの状態が良くなっていく姿を見られたり、悩んで話し合ったケアの結果、話せなかった患者さんが話せるようになったりと、たくさんのやりがいがあります。
管理できるかの不安や命を背負う責任はもちろん避けて通ることはできませんが、そのためにスタッフ間での話し合いを密に行ったり、状態が変化したときにスタッフ皆で助けあったりする場面も多くあります。
また、クリティカルケアにはスキルアップできる専門資格があるため、専門性を高めることが可能です。
クリティカルケア看護師の種類
クリティカルケアに携わる看護師には、専門性を高める資格が数種類あります。
以下でそれぞれについて具体的に解説していきますので、ぜひ興味のある資格を見つけてください。
急性・重症患者看護師
急性・重症患者看護師は、厚生労働省が定める専門看護師の資格の一つです。
緊急度・重症度が高い患者さんに、適切かつ迅速な看護を提供するほか、患者さんとその家族への支援や多職種との調整・連携の架け橋になる役割を担っています。
急性・重症患者看護になるためには、実務経験(実際に臨床の場で働いた経験)が5年以上あり、かつ、そのうち3年以上は専門分野での実務経験である必要があります。
それに加えて、大学院修士課程を卒業する必要があるなど、取得するための壁は高いですが、取得後の展望は広いのがポイントです。
また、急性・重症患者看護、ほかの看護職者や医療従事者に対して知識を周知したり、育成する役割にもなるため、関われる仕事は多く存在します。
集中ケア認定看護師
集中ケア認定看護師は、看護協会が定める認定看護師の一つです。
認定看護師は緩和ケアや心不全看護など、特定の分野に特化した看護技術と知識を有していると認められた看護師のことをいいます。
集中ケア認定看護師になるには、実務経験が通算5年以上あること(うち3年以上は認定看護分野の実務経験)が必要です。
そのうえで認定看護師教育機関(希望する分野によって学校が変わる)に入学し、修了することで資格を取得できます。
認定看護師教育機関での研修期間のうち、A課程は615時間(6ヵ月以上1年以内)、B課程は800時間程度に加え特定行為研修の実習時間(1年以内)の教育課程を必要とするため、専門看護師に比べて取得しやすいでしょう。
資格取得後は専門看護師よりも臨床の場に携わり、危機的状況にある患者さんに対し必要な看護を提供していく役割があります。
救急看護認定看護師
クリティカルケア看護のなかでも、救急看護が好きな方や興味のある方には、救急看護認定看護師がおすすめです。
救急看護認定看護師は、救急医療における患者さんの管理とそのご家族のQOL向上を目的として、熟練した看護技術やアセスメント力を用いて水準の高い看護実践ができる能力を持っている看護師のことをいいます。
救急看護は、患者さんの状態が特に悪いときや超急性期の段階で適切な観察をし、医師の指示のもと必要な薬剤の投与や管理を行う必要があります。
取得するためには集中ケア認定看護師のように実務経験の決まりや、研修などを受ける必要があるため、看護協会のホームページを活用し事前に確認しておきましょう。
クリティカルケアを理解して適切な看護を実践しよう
クリティカルケアに携わる看護師は、全身状態が不安定な患者さんに提供する医療や管理において、とても重要な役割を複数担っています。
「私には責任が重すぎる」ととらえられやすいですが、不安定な状態の患者さんが回復することに携わったり、なにかあったときにさっと動ける看護師になれる可能性があると思うと、格好良いと感じないでしょうか。
少しでもクリティカルケアに興味が出て、専門看護師や認定看護師の資格をめざしたいと思ってもらえたら幸いです。