
学校保健師は、教育現場で働く保健師です。
生徒と教職員の健康を守る重要な役割を担っています。
その仕事内容は健康管理や健康指導、メンタルケア、けがの応急処置までさまざまです。
学校保健師の仕事内容や必要なスキルなどについて解説します。
目次
学校保健師とは
学校保健師とは、小学校や中学校などで働く保健師のことで、生徒と教職員の健康管理や健康維持に取り組んでいます。
以下では、学校保健師の役割と特徴についてご紹介します。
生徒と教員の健康管理とこころのケアを行う役割
学校保健師は、学校(教育施設)に常駐する保健師のことを指します。
学校保健師には、生徒だけではなく、学校に勤める教職員のこころのケアを行う役割があります。
学校保健師の主な仕事は、以下のとおりです。
- 生徒と教員の健康管理や保健指導
- ケガをしたときの応急処置
- 生徒・教職員の相談対応やメンタルサポート
学校保健師は身体的な健康だけでなく、心の健康にも気を配り、学校全体の健康増進に貢献します。
学校保健師は法律で規定されていない職種
学校保健師は養護教諭とは異なり、学校保健安全法などで各学校への配置義務が法的に定められていません。
しかし学校保健師は看護師免許も取得しているため、医療従事者の立場から生徒や教職員に治療・アドバイスをできるといった利点があります。
専門的な知識やスキルを持っている保健師は、教育現場では心強い存在なのです。
学校保健師の仕事内容
学校保健師の仕事は、生徒と教職員の心身の健康を管理・指導し、健康的な学校生活を送れるようにすることです。
具体的には、以下のとおりです。
- 生徒の健康管理
- 教員の健康管理
- 生徒・教員のメンタルケアサポート
- 体調不良やケガの応急処置
- 健康増進サポート
- 学校保健や健康に関する啓蒙・指導
ここからは、学校保健師の主な仕事内容について詳しく見ていきましょう。
学校保健師をめざしている方は、ぜひ参考にしてください。
生徒の健康管理
学校保健師の主要な業務の一つが、生徒の健康管理です。
具体的には以下のとおりです。
- 健康診断の結果をもとに生徒の健康管理・健康指導をする
- 持病がある生徒の学校生活のサポート
- 感染症予防のための取り組み
教育現場には、さまざまな体質や病気を持った生徒がいます。
一人ひとりが安全に、快適に学校生活を送れるようにするのが学校保健師の仕事です。
教員の健康管理
学校保健師は、生徒だけでなく教員の健康管理も担っています。
教職員への健康管理や指導は、欠勤などによる授業への影響を減らし、安定した教育環境の維持に役立ちます。
具体的な業務内容は以下のとおりです。
- 教職員の定期健康診断後の事後処置
- 教職員の健康管理、健康指導をする
- 感染症対策の周知
学校保健師は、教員にも生徒と同じように健康サポートを行うことを求められています。
生徒・教員のメンタルケアサポート
学校保健師は、生徒や教員の身体的な健康だけでなく、精神的な健康のサポートも行います。
生徒の学校生活における人間関係の悩み、いじめ問題や環境の変化によるストレスなど、さまざまな相談に対応します。
また、教職員のメンタルサポートでは上記の内容に加え、ハラスメントや過重労働に対する面談なども学校保健師の役割です。
必要に応じて、専門のカウンセラーとも連携しながら対処していきます。
体調不良やケガの応急処置
学校内で発生する体調不良やケガへの対応も、学校保健師の役割の一つです。
学校保健師の主な対応は以下のとおりです。
- 軽度のケガや体調不良への応急処置
- 医療従事者としての立場から、重症度の判断をする
- アレルギー反応を起こした生徒などへの緊急対応
学校保健師は保健師免許だけでなく、看護師免許も持っているため、生徒や教員のさまざまな体調不良・けがに対して医療従事者の立場から対応ができます。
健康増進サポート
学校保健師は、生徒や教職員の健康増進にも積極的に取り組みます。
具体的には以下のとおりです。
- 健康診断の実施
- 健康診断結果の分析とその結果に基づいた指導
- 健康増進のための企画・指導
これらの取り組みにより、学校全体の健康レベルを向上させ、より良い教育環境の実現をめざします。
学校保健や健康に関する啓蒙・指導
学校保健師は、生徒や教職員に対し、学校保健や健康に関する啓蒙や指導を行う役割も担っています。
その内容は、日常的な健康管理から特定のテーマに関する知識の普及まで、さまざまです。
具体的な業務内容は以下の4つです。
- 感染症対策(うがい、手洗いなど)の指導
- 保健だよりの作成と配布
- 全校集会での健康に関する講習会の開催
- 教員と連携して性教育など、特定テーマの授業支援
これらの保健活動を通じて正しい知識を提供することで、生徒や教員自身の健康を主体的に管理できるよう促します。
学校保健師と養護教諭の違い
学校保健師と養護教諭は、どちらも生徒や教員の健康管理を担っていますが、所有している資格や専門性、就職先などに違いがあります。
ここでは、両者の主な違いについて詳しく見ていきましょう。
持っている資格
学校保健師と養護教諭は、必要とされる資格も異なります。
必須資格は以下のとおりです。
学校保健師 | 養護教諭 |
・看護師免許 ・保健師免許 |
・養護教諭免許状(一種または二種) (看護師免許は必須ではない) |
この資格の違いから、業務内容にも差が生じます。
例えば予防接種では、学校保健師は看護師免許を持っているため実施可能ですが、看護師免許がない養護教諭の場合は実施できません。
学校保健師は看護師の資格も持っているため、さまざまなケガや病気に対応ができるのです。
メインとなる専門分野
学校保健師と養護教諭は、専門性でも異なる特徴を持っています。
専門分野の違いは以下のとおりです。
学校保健師 | 養護教諭 | |
専門分野 | 予防 | 教育 |
指導観点 | 医療観点 | 教育的観点 |
学校保健師の専門分野は予防ですが、養護教諭は教育です。
学校保健師は、学校での感染症の蔓延やメンタルヘルスの不調を未然に予防することを専門とします。
その一方で、養護教諭は感染症やメンタルヘルスについての教育をすることが専門なのです。
また、指導観点にも違いがあります。
学校保健師が生徒・教員を指導する際は、医療的観点から指導を行いますが、養護教諭は教育的観点から指導します。
一見似た役割を持つ学校保健師と養護教諭ですが、以上のような明確な違いがあるのです。
就職先
学校保健師と養護教諭では、就職できる学校の種類にも違いがあります。
就職先は以下のとおりです。
学校保健師 | 養護教諭 | |
就職先 | ・私立の小中学校・高校 ・大学・専門学校 ・一部幼稚園・保育園 |
・小中学校・高校 (公立・私立を問わない) |
公立学校では養護教諭の配置が義務付けられていますが、学校保健師の配置義務はありません。
そのため、公立学校では学校保健師の採用は一般的ではなく、養護教諭の配置義務のない私立学校で採用されるケースが多く見られます。
また、大学や専門学校、幼稚園や保育園では学校保健師が採用され、サークル活動や遊びなどでのケガや、学生と教授間でのハラスメントなどに対応します。
学校保健師になるために必要な資格
学校保健師として働くためには、2つの資格取得が必須です。
これらの資格は、学校保健師として生徒や教員の健康管理や指導を適切に行うために不可欠です。
ここでは、資格取得方法や持っておくと良い資格もご紹介します。
看護師免許
まず1つ目は、看護師免許です。
この資格は、保健師免許を取得するための前提条件です。
学校保健師として働くためには、まず看護師として基礎的な医療知識とスキルを身につける必要があります。
看護師免許があることで、医学的な観点から健康状態をチェックしたり健康指導を行ったりすることが可能です。
取得方法には、主に以下の2つのルートがあります。
ルート①
- 高校卒業
- 看護専門学校、看護短大、看護大学のいずれかに3~4年通う
- 看護師国家試験合格後、看護師免許取得
ルート②
- 高校(5年一貫看護師養成学校養成科)
- 看護師国家試験合格後、看護師免許取得
これらのどちらかのルートを選択して看護師免許を取得し、保健師国家試験合格をめざしてください。
保健師免許
2つ目は、保健師免許です。
この資格があることで、予防医学的な視点から学校の健康管理を行うことができます。
保健師免許の取得には、以下の方法があります。
ルート①
- 高校卒業
- 看護系大学・短大・専門学校に3~4年通う
- 看護師国家試験合格
- 看護系大学院(2年)または、看護大学専攻科・別科、看護短期大学専攻科、保健師養成所(1年)に通う
- 保健師国家試験合格後、保健師免許取得
ルート②
- 高校卒業
- 看護系大学に4年間通う(保健師選択課程)
- 看護師国家試験合格
- 保健師国家試験合格後、保健師免許取得
このとおり、保健師免許を取得するためには看護師免許の取得が必要です。
また、保健師の資格取得方法について詳しく知りたい場合は、以下のリンクをご覧ください。
養護教諭
養護教諭の資格は、学校保健師として働くうえで必須ではありませんが、持っていると有利に働く場合があります。
この免許を取得することで、保健の授業を受け持つことができるようになり、生徒の教育に関わることができるのです。
また、学校保健師のみの資格では公立学校での勤務は難しいですが、養護教諭の資格があることで公立・私立問わず勤務が可能になります。
勤務先の選択肢が増えることと、生徒の教育に関われることが魅力といえるでしょう。
養護教諭は第一種と第二種、専修の区分があります。
それぞれの違いは以下のとおりです。
養護教諭第一種免許状 | 養護教諭養成課程がある大学を卒業 |
養護教諭第二種免許状 | 養護教諭養成課程のある短大を卒業 |
専修免許状 | 大学で第一種免許状を取得後、大学院または大学の専攻科で1年以上在籍 |
ご自身の活躍の幅を広げたい方は、ぜひこの資格の取得もめざしてみてください。
学校保健師に必要なスキル
学校保健師には、医療的な知識やスキルだけでなく、さまざまな能力が求められます。
これらのスキルを磨くことで、より質の高い健康支援ができるでしょう。
コミュニケーション能力
学校保健師には、コミュニケーション能力も必要です。
成人だけでなく子どもたちの精神的ケアも業務に含まれるため、年齢や立場に応じた適切なコミュニケーションが求められます。
具体的には、以下のようなスキルが必要となるでしょう。
- 相手の話に耳を傾け、受け入れる
- 相手に寄り添った言葉で説明する
- 親や友達、先生とは違う立場・視点からアドバイスする
学校保健師は、生徒や教員など対象者に合わせた対応ができる能力を身につけましょう。
他者に寄り添える力
学校保健師には、一人ひとりの感じ方や受け止め方の違いを理解し、適切に対応する能力が求められます。
適切に対応する能力とは、「こういうことをされて辛かった」や「このようなときに涙が出る」など、個人の体験や感情を尊重し、寄り添うことのできる姿勢のことです。
対象者の年齢や、その年齢ならではの考えかたなどに配慮し、相手の立場になって考えることが重要です。
相手に寄り添う力を高めるには、以下のポイントがあります。
- 相手の話を遮らず注意深く聞く
- あいづちをしたりうなずいたりして、話を聞いていることを示す
- 相手の行動や考えを批判したり評価したりしない
このスキルは生徒や教員と信頼関係を築くうえで欠かせないスキルです。
以上のポイントに加え、相手に合わせた励ましの言葉などをかけることも、他者に寄り添ううえで必要です。
成人のほか小児に対する健康知識
また、学校保健師は子供特有の健康問題に対応できるスキルや知識も求められます。
子供の健康問題には、生活習慣の乱れやアレルギー疾患、メンタルヘルスの不調など、さまざまなものがあります。
特に以下のようなことに対応が必要です。
- 子供がよくかかる病気・感染症の予防・対応
- 食物アレルギーへの対応やアナフィラキシーショックの予防・対処
- 思春期特有のメンタルヘルスの不調のサポート・ケア
保健師だからこそ持っている知識やスキルを活かし、的確に対応できるようにしましょう。そのために、常に最新の情報を集め、学び続けることが必要です。
多重課題をこなす能力
また、複数の業務を同時に効率良く進める能力も求められます。
学校保健師は直接的なケアや処置、健康増進のための講習会、感染症対策など多様な仕事があります。
多重課題には優先順位をつけ、時間管理をしながらこなす必要があります。
生徒や教員の健康維持のためにスキルを磨き、断続的な健康支援を心がけましょう。
学校保健師の年収
学校保健師の平均年収は、正職員(常勤職員)としてフルタイムで勤務する場合、350~500万円程度です。
ただし、勤務先の規模や地域、勤務年数、保有資格によっても年収は変動します。
また、前述したように公立学校では養護教諭の配置が義務付けられています。
そのため、養護教諭の資格も取得することで生徒の教育にも関わることができ、年収アップも期待できるでしょう。
さらに、私立学校と公立学校でも待遇が異なる場合があるため、ご自身の条件に合う勤務先を選ぶことが重要です。
学校における縁の下の力持ち!学校保健師になろう
学校保健師は、生徒や教員の病気やメンタルヘルスの不調を予防することを目的とし、医療的観点から指導する役割を担っています。
法律で配置義務が規定されていないものの、学校保健師の存在は、生徒や教員の心身の健康を支える縁の下の力持ちとして活躍しています。
就職できる職場は限られているものの、資格を取得することで活躍の場を広げることが可能です。
生徒たちの健やかな成長を支える仕事に興味がある方は、ぜひ検討してみてください。