産業保健師は、労働者の健康管理に関する業務を行っています。
具体的な業務は、健康診断の実施やメンタルヘルスケア、職場環境の改善などです。
本記事では、産業保健師の仕事内容や、この職業ならではのメリットなどを詳しく解説します。
産業保健師に興味がある方や、どのような仕事をしているのかを知りたい方は、ぜひご覧ください。
目次
産業保健師とは

産業保健師は、企業で働く従業員の健康管理をし、メンタルヘルスケアをサポートします。
従業員の健康を守り、生産性の向上や働きやすい環境づくりに貢献する重要な役割を担っているのです。
ここでは、産業保健師と産業医との違いや、就職先についてご紹介します。
以下を読めば、産業保健師に関して詳しく知ることができるでしょう。
産業保健師の役割
産業保健師の役割は、従業員の健康を守り、職場全体の健康増進を図ることです。
日本では、昭和初期にあたる1930年前後から企業に看護師が配属されるようになり、1947年に制定された労働基準法では医師の選定義務が初めて規定されました。さらに1972年の労働安全衛生法制定により産業保健師の活動が明確化され、予防医療や保健指導など、これまで産業医が担ってきた業務の一部を、医療専門職である産業保健師がサポートすることで、より円滑な保健業務が可能になりました。
具体的な役割としては、以下のようなものがあります。
- 従業員の健康管理サポート・保健指導
 - 従業員のメンタルヘルスサポート
 - 長時間労働者との面談
 - 職場巡回
 - 安全衛生委員会への出席
 - 休職者の相談対応
 
このように、産業保健師の役割はとても多様です。
それぞれの詳しい仕事内容は後述します。
産業保健師と産業医の違い
産業保健師は、保健師の立場から、従業員が健康で安全に働けるように健康相談に乗ったり、必要に応じて面談を行ったりしています。
一方で産業医は、医師の立場から従業員に健康指導・助言などを行います。
労働衛生について、より熟知しているのが産業医です。
このように産業保健師と産業医は、どちらも従業員の健康を守る重要な役割を担っていますが、以下のような違いがあります。
| 産業保健師 | 産業医 | |
| 配置義務 | 法的義務なし | 50人以上の従業員がいる企業は、1人以上配置する | 
| 就業先 | ・企業 ・健康保険組合  | 
・病院 ・企業  | 
| 必要な資格 | ・看護師免許 ・保健師免許  | 
・医師免許 ・厚生労働省で定める要件を満たす者  | 
産業保健師の主な勤務先
産業保健師の主な勤務先は、企業内の保健室や医務室です。
産業保健師として企業に配置されているのには、以下の理由があります。
- 産業医や人事担当の負担を減らすため
 - 従業員の健康管理をし、けがや病気を未然に防ぐため
 
企業以外にも、健康保険組合に就職することも可能です。
健康保険組合では、加入者の健康相談や保健指導、重症化予防などを行います。
産業保健師の仕事内容
産業保健師は、従業員の健康管理から職場環境の改善まで、幅広い業務を担当します。
ここでは、産業保健師の以下の仕事内容について詳しくご紹介します。
- 健康診断に関する業務
 - 健康相談やメンタルヘルス対策
 - ストレスチェック
 - ケガや病気の応急処置
 - 社員への保健指導
 - 長時間労働者との面談
 - 職場視察
 - 安全衛生委員会への出席
 
それぞれの業務内容について参考にしてください。
健康診断に関する業務
事業者は、労働安全衛生法第66条に基づき、医師による健康診断を実施する義務があります。
それにともない、従業員も事業者が行う健康診断を受けなければなりません。
そのサポートをするのが、産業保健師の仕事の一つです。
健康診断に関する業務フローは以下のとおりです。
- 健康診断の対象者をピックアップ
 - 健康診断実施日の調整、周知
 - 健康診断の結果から面談対象者を抜粋
 - 対象者と面談実施・健康指導
 
健康診断は従業員の健康状態を把握するだけでなく、脳・心臓疾患や生活習慣病などの発症を防止する目的で行われています。
従業員の健康を守るためにも重要な役割です。
健康相談やメンタルヘルス対策
従業員の心身の健康をサポートするため、健康相談やメンタルヘルス対策も産業保健師の仕事です。
近年では、生涯でこころの病気にかかる人は5人に1人といわれています。
従業員の身体の健康はもちろん、こころも健康で働くことができるように支援する役割を担っているのです。
健康相談やメンタルヘルスに関する主な業務内容は、以下のとおりです。
- 従業員の健康相談に対応
 - 休職者へのアプローチ・面談を実施
 - ハラスメントや過重労働などの職場環境についての相談に対応
 
このように産業保健師は、従業員のメンタルヘルス維持にも貢献できます。
また、労働安全衛生法の改正にともない、2015年より従業員が50人以上いる職場は、ストレスチェックの実施が義務化されています。
産業保健師はこのストレスチェックの実施から結果分析、面接指導のフォローを担当します。
ストレスチェックに関する主な業務は以下のとおりです。
- ストレスチェックを実施する
 - 結果を従業員に通知、セルフケアに関する指導や助言
 - 高ストレス者を選定し、面接指導の申し出の意思を確認
 - 対象者と面接指導の調整
 - 面接終了後、産業医から意見を聞き必要な措置や配慮(作業や部署の変更、労働時間短縮など)を行う
 - 対象者の継続的なフォロー、状況確認
 
ストレスチェックは従業員のストレス状況を早期に把握し、労働環境の改善に生かすことで、従業員のメンタルヘルスの不調を予防する役割があります。
ケガや病気の応急処置
産業保健師は、職場での怪我や病気にも対応します。
治療を行うのは医師ですが、産業保健師は看護師免許も持っているため、応急処置の知識と技術を活かすことができるのです。
手当をして様子を見るのか、救急車を呼ぶのか、病院に行ったほうが良いのかという判断を任されることもあるでしょう。
迅速な処置と判断が求められるときには、看護の知識はとても重宝されます。
社員への保健指導
従業員への保健指導も産業保健師の仕事です。
保健指導には、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチの2種類があります。
- ポピュレーションアプローチ:従業員全体に対して保健指導をすること
 - ハイリスクアプローチ:健康診断の結果やストレスチェックの結果サポートが必要な人に保健指導をすること
 
ポピュレーションアプローチでは、心身の健康に関する講習会やセミナーの企画・開催を会社全体に向けて行います。
これらの活動を通じて従業員の健康意識を高め、自発的な健康管理を促進します。
産業保健師の保健指導は、個々の従業員の健康改善だけでなく、企業全体の健康意識を高める役割があるのです。
長時間労働者との面談
長時間労働者への対応も、産業保健師の重要な業務の一つです。
長時間労働は、従業員の心身の健康に大きな影響を与えます。
厚生労働省が定める労働時間を上回った場合、産業医による面接指導が義務付けられています。
面接基準時間は以下のとおりです。
| 義務 | 努力義務 | |
| 時間外・休日労働時間を算出(月1回以上・一定の期日を決めて行う) | ||
| 時間外・休日労働時間 1ヵ月:100時間越え  | 
時間外・休日労働時間 1ヵ月:80時間越え  | 
企業で定めた基準に該当する労働時間 | 
面接指導は基本的には、労働者側からの申し出があったときのみ行いますが、時間外労働が100時間を超えた場合は、労働者側からの申し出と面接指導のどちらも義務となります。
産業保健師は、産業医による面接基準に達しない場合や本人からの申し出がない場合、面接指導の前後で保健指導という形で初期評価やフォローアップのための面談や相談対応を担います。
従業員の労働環境を把握し、産業医と連携しながら健康管理や労働環境の改善に向けて計測的に支援を行っているのです。
職場視察
産業保健師は、定期的に職場の作業環境の視察を行います。
義務ではありませんが、作業環境を視察し、働きやすい環境をめざすことで従業員の心身の健康維持にもつながります。
また、健康診断の結果や従業員の相談内容などを職場視察で得た情報と組み合わせることで、従業員にとってより快適な職場環境づくりを実現できるでしょう。
産業保健師にとって、従業員が働きやすい環境を作ることも、心身ともに健康で働けるようにするための大事な仕事の一つです。
安全衛生委員会への出席
50人以上の従業員を雇用する企業は、安全委員会や衛生委員会を設置する義務があります。
その内両方の委員会を設置しなくてはならない企業は、2つの委員会に置き換えて安全衛生委員会の設置が可能です。
安全衛生委員会では、以下について調査審議を行います。
- 従業員の健康に関する課題やその対策
 - 労働上の危険の防止
 - 労働災害の原因究明・再発防止
 
産業保健師は保健師としての立場で参加し、労働者の健康課題または労働環境の改善について意見を求められることもあるでしょう。
産業医などとは違う目線で出席することで、会社全体のさらなる安全衛生意識向上につながるのです。
産業保健師として働くメリット

産業保健師として働くことには、主に3つのメリットがあります。
ここでは、産業保健師ならではの魅力や働きやすさについて説明します。
産業保健師になることを視野に入れている方は、ぜひ参考にしてください。
プライベートとの両立がしやすい
産業保健師は企業の社員として勤めているため、就業先の営業日に合わせた働き方をします。
そのため土日休みだけでなく、ゴールデンウイークやお盆休み、年末年始などの長期連休を取得できることもあります。
仕事と私生活のバランスを取りやすく、自分の時間を確保しやすい環境を整えられるでしょう。
体力的・精神的負担が少ない
産業保健師の仕事はデスクワークが中心のため、看護師などの医療現場と比べて、体力的・精神的な負担が比較的少ないのが特徴です。
健康診断シーズンなどの繁忙期はありますが、それ以外の時期は残業が少なく比較的落ち着いて業務に取り組めます。
体力にあまり自信がない方も、安心して働くことができるでしょう。
待遇面が手厚い傾向も
産業保健師は待遇の良さも魅力の一つです。
産業保健師は、企業の規模に関わらず配置義務が定められていませんが、産業医の負担軽減のために、大企業からのニーズが高い傾向にあります。
大企業ならではの各種手当や賞与・充実した福利厚生が魅力の一つです。
大企業からニーズがある理由として、従業員数が多いぶん健康管理業務を行う人材を増やし質を高めたい、ということがあげられます。
また、近年はメンタルヘルス対策をはじめとする幅広い健康課題が表面化し、流動的な現場でより業務を効率化する必要があるからです。
そのため、産業保健師が産業医のサポートとして採用されることがあります。
このことから大企業で働く一般社員と、同等の待遇を受けられることが期待できます。
産業保健師は従業員や産業医との橋渡しになる資格
産業保健師は、従業員の健康管理やメンタルヘルスのサポート、労働環境の改善などの役割を担っています。
企業における従業員の健康増進や労働条件の改善がますます求められるなかで、産業保健師の需要はさらに高まるでしょう。
また産業保健師として働くうえで、プライベートとの両立がしやすい、待遇が良いなどのメリットもあります。
産業保健師として就職を考える際は、この記事の仕事内容やメリットを参考にして検討してみてください。
								