
近年、経営難に苦しむ歯科医院が多く存在することをご存じでしょうか。
東京歯科保険医協会の調査によると、2019年と2021年を比較して「患者数が減った」「保険診療収入が減った」と回答した歯科医院は6割以上にのぼることがわかりました。
歯科医院の経営を安定させるには、医師として高品質な医療サービスを提供するだけでなく、経営者目線でのマーケティングも欠かせません。
本記事では、歯科医院経営の現状と収益の仕組みをふまえたうえで、経営の基本となるポイントを解説します。
歯科医院経営の情報収集やシミュレーションにお役立てください。
目次
歯科経営の現状
歯科経営の現状を知るうえで、以下3つの情報を頭に入れておく必要があります。
- 休廃業や解散する歯科医院の数
- 歯科のニーズの変化
- 歯科経営者の世代交代の実態
昨今、個人経営の歯科医院は厳しい状況に立たされており、生き残るためには今後どのようなニーズに応えていくべきかを的確に理解しておく必要があります。
休廃業や解散する歯科医院の数
帝国データバンク「特別企画:医療機関の休廃業・解散動向調査(2021年)」によると、2021年に休廃業・解散した歯科医院の数は84件となっています。
2021年は、新型コロナウイルスの流行が歯科医院の経営や労働環境に影響を与えました。
一方で、歯科医院は全国に6万8,024件(2021年時点)も存在しており、同年12月のコンビニ店舗数5万5,950件よりも多い状況です。
もともと競争が激しい業界であることも、歯科医院の経営を難しくしている理由といえます。
歯科のニーズの変化
日本における歯科ニーズは大きく変化しています。
日本歯科医師会によると、12歳児の永久歯の平均虫歯数は1993年で4.09本なのに対し、2019年では0.7本と減少しました。
学校歯科健診制度や歯科医師による成果ともいえるでしょう。
学校歯科健診以外にも、80歳以上で20本以上の歯を保てるようにと1989年には「8020運動」が実施されました。
80歳で20本以上自分の歯を持つ人の割合は、1993年で10.9%なのに対し2022年には51.6%と大幅に向上しています。
虫歯治療といった従来のニーズだけでなく、おいしく食べたり自分の歯に自信を持てたりなど、日常生活を楽しむために歯科医院が求められるようになったといえるでしょう。
歯科経営者の世代交代の実態
歯科経営者の年齢は60代以上が全体の58.6%を占めており、世代交代が進んでいない実態があります。
個人の歯科医院は病院のように大きな組織ではないため、後継者がいなければ自身の代で廃業するという経営者も少なくありません。
そこで、歯科医院を経営したい第三者が事業を継承する形も一般的となっています。
歯科医院をゼロから設立するとなると設備や家賃などの費用がかさみますが、事業継承であればすでに土台があるため、少ない費用でスタートできるでしょう。
歯科医院経営のお金の仕組み
経営が立ち行かない事態を避けるためには、当然ながら歯科医院として収益を得る必要があります。
以下3つの視点から、歯科医院のお金の仕組みを知りましょう。
- 歯科の売り上げと利益率
- 歯科医院経営にかかる経費
- 利益の計算方法
医師としてだけでなく、経営者の視点でシミュレーションしてみてください。
歯科の売り上げと利益率
中央社会保険医療協議会によると、歯科の売り上げは開業医(個人)の場合で保険診療が82.9%、その他の診療(自由診療など)が16.9%となっています。
保険診療は、治療を目的とした健康保険制度の範囲内での医療です。
対する自由診療は、歯列矯正・ホワイトニングなど見た目の良さや機能面を重要視した治療であり、患者さんの希望を聞きながら最適な治療を行う必要があります。
保険診療中心で経営している歯科医院の利益率はおよそ25%ですが、自由診療も提供している歯科医院の利益率は45%程度と、高い水準にあります。
自由診療では高度な医療が必要となる分、材料費もかかるため保険診療より価格設定が上がり、売り上げも高くなりやすいでしょう。
歯科医院経営にかかる経費
個人経営の歯科医院に発生する経費は、次のような内訳となります。
- 人件費:29.2%
- 医薬品:1.0%
- 歯科材料費:7.8%
- 委託費:7.9%
- 減価償却費:6.0%
- その他の医業費用:18.9%
その他の医業費用には、医療機器のリース代や家賃、光熱費などが含まれます。
経費内訳の割合は平均数値のため、ご自身の医院と比較してコストの見直しに役立てましょう。
例えば人件費が30.2%を超えている場合には、残業時間の削減や在庫管理・発注にシステムを活用するなどの対応で、人件費のカットが可能です。
利益の計算方法
利益の計算方法は、「売り上げ-経費=利益」です。
歯科医院の利益は、患者さんから受け取ったお金のすべてではありません。
なお、利益率は「利益÷売上高×100=利益率(%)」で求められます。
上述したとおり、保険診療中心の個人歯科医院の利益率は25%程度となっているため、目安として同等の利益を得られるように取り組むと良いでしょう。
売り上げが良くても経費がかさむと利益として残らないため、無駄な経費の削減をめざしてみてください。
歯科医院の経営に必要な基本ポイント
歯科医院の経営は、患者さんに医療を提供することだけがすべてではありません。
歯科医院経営の基本的な土台となるのは、以下の5つのポイントです。
- 経営ノウハウと診察は別物と認識する
- 医院のマーケティングに力を入れ新患数を増やす
- 経費を把握して削減する
- 働きやすい環境で人材を確保する
- 数字を追ってPDCAサイクルを回す
それぞれ詳しく見てみましょう。
経営ノウハウと診察は別物と認識する
歯科医院の経営には、診察だけではなくマーケティングやマネジメントなどの経営ノウハウも必要です。
歯科医師の医療技術が優れていても、来院者が少なければ経営は成立しません。
患者さんと向き合う診察時間とは別に、経営戦略を立てる時間もきちんと設ける必要があります。
新規の患者さんは、歯科医院の口コミやホームページも参考に、来院するかを決定するでしょう。
既存の患者さんに満足してもらえる医療を提供し、リピート率アップを図るほか、ホームページを作り込むなどの工夫で、来院につながるきっかけを増やしてみてください。
医院のマーケティングに力を入れ新患数を増やす
上述したとおり、高品質な医療技術を提供するのはもちろんのこと、新規の来院者を増やしリピーターにつなげるマーケティングも大切です。
マーケティングにはさまざまな手法がありますが、例えば信頼関係が築けた患者さんに口コミを依頼することで、MEO対策(マップ検索エンジン最適化)ができるでしょう。
他にも広告費をかけて宣伝する方法や、ホームページやSNSで潜在顧客と信頼関係を築いて来院につなげる方法もあります。
経費を把握して削減する
歯科医院経営者は、自院の経営状況を把握したうえで経費の削減を検討し、利益率を上げる必要があります。
歯科医院では、人件費や治療材料費のほか、家賃、光熱費、医療機器リース代、必要に応じて人材募集費と広告費なども支払う必要があるでしょう。
歯科医院でかかる経費を細かく把握し分析すると、削減できる経費が判明します。
人件費を削らないといけない場合は、スタッフに事情を説明してあらかじめ理解を得るようにしましょう。
働きやすい環境で人材を確保する
歯科医院経営には、各部門のスタッフの確保が欠かせません。
院内スタッフのモチベーションは患者さんへの対応に影響し、患者数の増減にもつながります。
自院の従業員が働きやすいよう、シフト調整を柔軟にしたり、評価制度や研修会を取り入れたりすると良いでしょう。
人材確保のためには経費がかかるため、長く勤めてもらえる職場作りが大切になります。
数字を追ってPDCAサイクルを回す
歯科経営では、利益率を上げて経営を安定させるために、数字を追ってPDCAサイクルを回すよう意識しましょう。
PDCAサイクルは、計画・実行・評価・改善のプロセスで、常に目標に向かってサイクルを回す仕事への取り組み方です。
まずは自分が考える理想の歯科医院について、経営計画書や事業計画書を作成し、それに基づいた経営を進める必要があります。
計画を立てて、そのままなんとなく経営するのでは意味がありません。
日々数字を意識しながら、目標に向けた行動を取れるようにスタッフを含めマネジメントしていきましょう。

歯科経営で利益を上げる経営のコツ
歯科医院経営で利益を上げていくには、次のコツをおさえておきましょう。
- 1年目はより多くの来院数を目標に立てる
- 自費診療を獲得して単価を上げる
なぜこれらのコツが経営において重要になるのか、詳しく解説します。
1年目はより多くの来院数を目標に立てる
開院1年目は患者さんとの信頼関係を築くため、より多くの来院数を目標に立てて、たくさんの患者さんと接点を持ちましょう。
利益が低い相談にも対応すると、リピート率アップや口コミの拡散につながるため、結果的に経営安定へ貢献します。
来院数の目標は具体的であればあるほど達成しやすくなるため、年間・月間・日間の売り上げ目標を立てるのがおすすめです。
また、再来院数と新患数に関しても目標を立て、結果を記録しておくと分析時に役立ちます。
自費診療を獲得して単価を上げる
来院数や地域からの信頼を獲得できたら、自費診療で患者さんの悩みを解決し、一人あたりの単価を上げていきましょう。
保険診療ですべてのチェアを埋めるよりも、自費診療でチェアを埋めたほうが利益につながりやすくなります。
チェア1台あたりの売り上げを、「診療人数×診療単価」で考えてみてください。
また、患者さんに自費診療を受けてもらうためには、写真や図などを用いて効果的に説明し、治療内容と金額に納得してもらう必要があります。
高いお金を支払ってもメリットがあることをアピールし、患者さんから自費診療を望んでもらえるような工夫をしていきましょう。
歯科経営と診察を両立しよう
歯科経営は、患者さんが満足できる医療を提供すると同時に、経営者としてのマーケティングを両立する必要があります。
高い技術を提供できても、患者さんが少なければ経営は成り立ちません。
来院につながらない理由を分析したり、経費を抑えたりして、歯科医院の経営を成り立たせることが経営者の仕事です。
ただし、資金確保のために自費診療を無理に勧める、スタッフの理解を得ないまま人件費を大幅に削るなどの対応では、結果として経営にマイナスを生む恐れがあります。
本記事で解説した取り組みを参考にして、患者さんにもスタッフにも選ばれる歯科医院をめざしてください。