
病院経営は、少子高齢化や新型コロナウイルスによる影響などを受け、難しい状況におかれています。
病院運営では患者さんを診療するだけではなく、病院を支えて発展させる経営力が必要です。
本記事では、病院の経営状況や黒字化への対策、経営に必要なポイントなどを解説します。
現状を知り、今後の発展のために活用してみてください。
目次
病院経営の現状
参照:医療機関経営状況調査|一般社団法人日本病院会、公益社団法人全日本病院協会、一般社団法人日本 医療法人協会
直近の病院経営状況は、赤字の病院が過半数となっています。
「医療機関経営状況調査」によると、医業利益では2021年度は73.5%、2022年度は77.0%と大半の病院が赤字です。
2021年度や2022年度は新型コロナウイルスの流行で、医療機関がひっ迫した年でした。
新型コロナウイルスに関する補助金や、物価高騰関連補助金を含む経常利益で見ても、2021年度は43.3%が赤字、2022年度は51.6%の病院が赤字となっています。
病院経営の基本的な収益の仕組み
病院経営の主な収益には、保険収入と保険外収入があります。
保険収入は、必要な処置を積み上げた分、点数が加算される仕組みです。
保険外収入には、入院時の差額ベッド代や診断書の作成代、健康診断などが含まれます。
患者さんから得たお金のすべてが利益ではありません。
純利益を求めるには、次のように計算しましょう。
- 医業収益ー医業費用=医業利益
- 医業利益+医業外収益ー医業外費用=経常利益
- 経常利益+特別利益ー特別損失=税引前当期純利益
- 税引前当期純利益ー法人税・住民税など=当期純利益
本業の利益を医業利益、医業利益と本業以外の活動での収益を経常利益、税金を引く前の利益を税引前当期純利益、最終的な利益を当期純利益といいます。
病院として、当期純利益を上げていく必要があるでしょう。
参考:厚生労働省「第4章 医療法人の財務に関するチェックポイント」
病院経営で赤字になる要因
病院経営では大半が赤字になると前述しましたが、病院経営がどう傾くかは、次の3つの要因が関係しています。
- 人件費の増加
- 病床稼働率の低下
- コロナ禍での医療体制の変化
新型コロナウイルスの流行のようにイレギュラーな対応も求められる可能性があるため、今後の教訓としてこの3つの要因を見直してみましょう。
人件費の増加
医療現場はチーム体制で運営しているため、人件費が増加してしまい、赤字経営に陥るリスクが高まることもあるでしょう。
一般病院(医療法人)の人件費比率は、厚生労働省の調査によると、平成28年度の54%から令和2年度の58.8%まで上昇しています。
職員一人あたりの人件費は、平成28年度の6,479円から、令和2年度の6,703円まで若干高くなっているのです。
人件費率の高騰は、一人あたりの給料がアップしただけではなく、新たな人員の確保も影響したと考えられるでしょう。
人件費が高くなるほど利益が出にくく、赤字に陥りやすくなります。
※出典:厚生労働省「令和3年度 医療施設経営安定化推進事業 病院経営管理指標及び医療施設における未収金の実態に関する調査研究 」
病床稼働率の低下
病床稼働率は、黒字病院ほど100%に近い特徴があり、80%の稼働率を下回ると赤字に傾くでしょう。
厚生労働省によると、全病床の病床稼働率は平成30年度で80.5%、令和4年度で75.3%と、減少しています。
実際の収益と病床数の関係として、病床が20〜49床の病院で入院診療は全体収益の49.7%を占め、500床以上の病院では67.4%を占めています。
収益の内訳は病床数によって異なりますが、病床数が多いほど収益に大きく関わっており、病床稼働率の低下は赤字転落へとつながるでしょう。
※参考:中央社会保険医療協議会「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」
※参考:厚生労働省「平成30(2018)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」
※参考:厚生労働省「令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」
コロナ禍での医療体制の変化
新型コロナウイルスの流行は、これまでの医療体制では対応しきれないほど、病院に大きな影響を与えました。
新型コロナウイルス感染患者の受け入れで人件費が増加したり、病院内での流行が見られて一時診療を停止したりと、経営を圧迫しています。
また、パーテーションやマスク、消毒液、ワクチンの保管庫など、院内の設備にもコストがかかりました。
新型コロナウイルスによって、経営難に陥った病院も存在するのです。
病院経営で黒字化するために大切なこと
病院経営を黒字化するために、次の5つの観点に取り組んでみましょう。
- 赤字の要因を把握する
- コストを削減する
- 適切な人員配置と人件費削減
- 業務効率化でコスト削減
- 患者から信頼を得て集客(集患)をする
自身の病院ではどうか、確認してみてください。
赤字の要因を把握する
まずは、赤字に陥った要因を正確に把握していく必要があります。
要因をつきとめないと、改善策を挙げても空回りする可能性があるでしょう。
例えば、次のような赤字の要因が考えられます。
- コストが増加している
- 人件費率が高い
- 病床稼働率が減少している
- 患者数が減少している
客観的に課題を洗い出し、赤字の要因により効果的な改善策を考えていくと良いでしょう。
コストを削減する
赤字の要因として挙げられた課題を改善しつつ、コストの削減に取り組むと良いでしょう。
コスト削減とはいっても、すぐに人件費を削っては従業員のモチベーションが下がってしまいます。
まずは下記のような固定費から見直していくと、毎月の節約につながるでしょう。
項目 | 内訳 |
経費 | リース料、通信費、広告宣伝費、福利厚生費、旅費交通費 |
材料費 | 診療材料費、医薬品、給食材料費 |
委託費 | 給食委託費、検査委託費、清掃委託費、警備委託費 |
減価償却費 | パソコン機器、医療機器 |
抑えられる経費を削減したり、医薬品の使用期限や個数を管理したりして、無駄がないようにしましょう。
適切な人員配置と人件費削減
人材は病院経営に欠かせませんが、人件費率が高い病院は赤字になりやすいでしょう。
「病院経営管理指標及び中小病院の経営の方向性に関する調査」の報告書によると、黒字病院の人件費率は55.4%に対して、赤字病院は62.7%と高い比率にあります。
一人あたりの人件費を見直すために、年齢だけではなく、スキルや経験を踏まえたポジションの配置が必要です。
ポジションを見直すことで、一人ひとりの評価に合わせて給料を適正化できます。
また、残業時間が多い部門は、人手不足の可能性があります。
ポジションの配置や人員確保などの対応で従業員の負担を軽減し、効率化することが残業代の削減につながるでしょう。
人件費の見直しを経営者の独断で進めると、離職率が高まったりパフォーマンスが下がったりして、病院にとっても不利益となり得ます。
該当者には事情を率直に伝え、理解してもらえるように努めましょう。
※参考:厚生労働省「資本費比率が高い黒字病院の人件費」
業務効率化でコスト削減
病院のコストを見直すためにも、業務効率化を図るのがおすすめです。
例えば、紙カルテをデジタル化することで検索時間を削減すると、他の業務に手をまわせて業務効率がアップします。
各従業員の1時間あたりの業務効率を高めると、人件費も無駄がありません。
病院での業務効率化として、次の取り組みがあります。
- 書類をすべてデジタル化する
- 予約管理をシステム化する
- マニュアルを作成する
従業員が電話で予約を受けていたり、膨大な紙カルテを扱う必要があったり、業務の質に人によってばらつきがあるといった状態では、コスト的にも時間的にも無駄が生じます。
院内のDX化やマニュアル化は、業務効率の向上や従業員の負担軽減にもつながるため、一度見直してみると良いでしょう。
患者から信頼を得て集客(集患)をする
病院の収益は診療が主であるため、患者さんから信頼を得て集客する必要があります。
そのためには、誠実な姿勢と適切な診療が不可欠ですが、それだけでは十分とはいえません。
例えば、慣れない土地で風邪をひいたとしましょう。
多くの場合、インターネットでの情報や口コミを参考にして病院を選びます。
ホームページで診療時間を調べると同時に、病院のイメージをつかむという患者さんもいるでしょう。
悪い口コミが書かれていたり、口コミ数が少なかったりすると、他の病院を選ぶ可能性があります。
ホームページも作りこんでいないと、不安な気持ちにさせるでしょう。
集患のためには、患者さんから信頼を得られるように努めるだけでは足りません。
MEO(マップエンジン最適化)やホームページのSEO(検索エンジン最適化)などの対策も同時に行いましょう。
そもそも病院経営で必要なこと
これまで病院が赤字になった場合の取り組みを解説しましたが、病院経営の前提として必要なポイントが4つあります。
- 地域のニーズを把握して医療を提供する
- 病院の経営状況を把握する
- 経営戦略に基づいた組織マネジメント
- 働きやすい環境をつくる
赤字黒字を問わず、4つのポイントを見直してみましょう。
地域のニーズを把握して医療を提供する
病院経営では、地域のニーズに寄り添った医療を提供する必要があります。
例えば、高齢化が進む地域では寝たきりの患者さんも増えており、病院を構えて診察室で待っているだけでは必要な医療を提供できません。
高齢者が多いなら訪問医療を増やす、子育て世帯が多いなら親子で来院しやすい病院をつくるなど、地域に寄り添った医療提供の仕方を考えると良いでしょう。
患者さんの悩みに寄り添うことで信頼を得られ、地域から親しまれる病院になります。
病院の経営状況を把握する
病院経営は院長が行うことが一般的ですが、医療だけではなく経営状況も把握して力を入れる必要があります。
単に患者さんを診るだけではなく、経営者として経営状況を把握しましょう。
病院の経営状況は、貸借対照表やキャッシュフロー計算書で把握できます。
資金が足りているか、余計な出費がないかなどを把握し、利益を貯蓄や新しい設備に投資するなどお金のめぐりを計算すると良いでしょう。
経営戦略に基づいた組織マネジメント
経営状況を把握できたら、続いて経営戦略を明確にして一体感をもった組織マネジメントを行う必要があります。
明確な経営戦略やビジョンなどを伝え、全従業員が共通認識をもって病院を運営すると良いでしょう。
そもそも経営戦略は、財務状況、従業員や病院としての成長、患者さんを満足させる医療の提供など複数の視点から考えます。
ビジョンや経営戦略への理解を得ると、一人ひとりが自発的に行動でき、問題も解決へと導くことができるでしょう。

働きやすい環境をつくる
病院内での離職率が高まると仕事が回らなくなり、利益も生みにくくなるため、働きやすい環境をつくりましょう。
離職率が上がると、新規雇用も難しくなります。
一人ひとりのスタッフに長く勤めてもらえると、育成時期の人件費削減や、採用コストを削減できます。
家庭と両立しやすい勤務スケジュール、キャリアアップできる評価制度、研修制度など、従業員にとって働き甲斐のある職場をつくっていきましょう。
病院経営は現状と今後を見据えることが重要
病院経営は、現状と今後を見据えた経営戦略で、医療現場と向き合う姿勢が重要です。
新型コロナウイルスのように、未知の感染症が発生するタイミングは予測できません。
感染症がまん延し、さらに経営難になる可能性もあるため、常にアップデートして今後の病院経営に活かす必要があります。
少子高齢化が進む日本での医療的なアプローチ方法も見直し、今後を見据えることで、地域や従業員に愛される病院経営となるでしょう。