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介護福祉士ができる医療的ケアとは?実施するための要件・資格についても解説

この記事の監修者
さとひろ
資格
社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員・介護福祉士・第二種衛生管理者など

【プロフィール】
特別養護老人ホームの生活相談員。介護職員やケアマネジャーも含めて約20年の経験あり。施設に勤めながら、ライターとして介護・福祉系の記事を執筆。

介護福祉士は、一定の要件を満たせば医療的ケアを実施できます。
医療的ケアと医療行為は異なる概念であり、介護福祉士が行えるのはあくまで医療的ケアの範囲内です。
また、医療的ケアの実施にあたっては、いくつかの要件・資格を満たしていなければなりません。

本記事では、介護福祉士ができる医療的ケアの内容や、実施するための要件・資格について解説します。
介護福祉士として今後医療的ケアに携わる可能性のある方は、参考にしてみてください。

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介護福祉士は医療的ケアができる?

介護福祉士は医療的ケアができる?

介護福祉士は、一定の要件を満たせば医療的ケアを実施できます。
医療的ケアと医療行為は、似ているようで別物です。
介護福祉士が行えるのは医療的ケアの範囲内の行為であって、医療行為には携われません。

医療行為と医療的ケアの違い

医師や看護師が実施できる医療行為に対し、医療的ケアは要件を満たすことで介護福祉士も実施が可能です。
まずは医療行為と医療的ケアの違いを整理してみましょう。

医療行為とは?

医療行為(または医行為)とは、医師法第17条に基づいて、医師や看護師などが行う診断・治療などを指します。
厚生労働省による医行為の定義は、以下のとおりです。

第17条  医師でなければ、医業をなしてはならない。

出典:「医行為」について│厚生労働省

【解釈】

医師法第17条に規定する「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(「医行為」)を、反復継続する意思をもって行うことであると解している。

出典:「医行為」について│厚生労働省

医療行為は、正しく行わなければ患者さんに危害を与える可能性があり、携われるのは医師や看護師といった医療資格者のみに限られています。
介護福祉士がしてはいけない医療行為には、以下のようなものがあります。

  • インスリン注射
  • 摘便
  • 褥瘡の処置
  • 血糖値測定
  • 点滴の管理

介護福祉士の資格を持っていても、これらの医療行為を行うことはできないため、必要な場合は医師や看護師に対応してもらいましょう。

医療的ケアとは?

医療的ケアは、医療行為にはあたらないものの、日常生活を送るうえで必要な医療に関連するケアを指します。
例えば、喀痰吸引や経管栄養などが医療的ケアにあたる行為です。

施設での介護や在宅介護に従事する職員は、医療行為をしてはいけません。
しかし、医療的ケアに関しては特定の要件を満たしている場合に限り、介護職でも実施できます。

医療行為が「治療」であるのに対し、介護福祉士が携われる医療的ケアは「生活援助行為」にあたるという点がポイントです。
医療的ケアは、医療職が常にいる環境に限らず、住宅などでも必要とされます。

介護福祉士の医療的ケアに関する法改正

介護職の医療的ケアが初めて国に認められたのは、2003年のことです。
それまで喀痰吸引や経管栄養は、医療職またはご家族が日常的に実施していました。

2003年時点では「当面のやむを得ない措置」として、介護職も医療的ケアに携われています。
しかし、法的にはまだ介護職の医療的ケアが認められていない状態でした。

そして2012年に、社会福祉士及び介護福祉士法が一部改正されました。
これにより、介護福祉士を含む介護職も一定の要件のもとで、喀痰吸引と経管栄養を業務として実施できるようになったのです。

さらに介護保険法が一部改正され、2015年度以降は介護福祉士の養成課程において、医療的ケアに関する教育を50時間以上設けることになりました。

介護福祉士ができる医療的ケアの内容

介護福祉士ができる医療的ケアは、喀痰吸引と経管栄養の大きく2種類です。
喀痰吸引では、何らかの原因で局所に溜まった唾液や鼻汁(鼻水)、痰を吸引し、排出を手助けします。
一方の経管栄養は、口から食事を摂ったり、飲み込めなかったりする方に対し、胃や腸にチューブを挿して栄養剤を直接注入するケアです。

喀痰吸引

介護福祉士は、口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部に対して喀痰吸引を行えます。
それぞれの実施方法や注意点を見てみましょう。

口腔内の喀痰吸引

口腔内の喀痰吸引は、口の中に溜まった唾液や口内に残った食べ物・水分を吸引装置または吸引カテーテルを使用して取り除くケアです。
唾液は舌の上下面や頬の粘膜との間に溜まりやすいため、十分に吸引する必要があります。

介護福祉士が口腔内を吸引する場合、咽頭(いんとう)より手前までが限度です。
咽頭とは空気と食べ物の通り道で、鼻の奥と口蓋垂(こうとうがい)の奥から、喉頭や食道まで続く器官を指します。

口腔内の喀痰吸引

出典:文部科学省「学校における教職員によるたんの吸引等第2章」p207

口腔内吸引のコツは、奥歯と頬の間や舌の周囲、前歯と唇の間などをくまなく吸引することです。
開口が難しい利用者さんの場合は、片手を使って唇を開けたり、バイトブロックを咬んでもらったりすると良いでしょう。

また、口腔内吸引を行う際には、口蓋垂や咽頭を刺激しないよう注意が必要です。
嘔吐反射が誘発され、嘔吐につながる可能性があります。

鼻腔内の喀痰吸引

鼻腔吸引では、鼻腔に溜まった鼻汁を取り除きます。
鼻汁は鼻腔の奥に溜まりやすく、吸引装置・吸引カテーテルを使用した吸引が有効です。

鼻腔内の喀痰吸引

出典:文部科学省「学校における教職員によるたんの吸引等第2章」p206

吸引カテーテルは、以下の手順で操作します。

【吸引カテーテルの操作方法】
1. 吸引カテーテルの根元を指で折り、喀痰を吸えない状態にする
2. 吸引カテーテルを抑えている手とは反対の手でペンを持つようにして、先端を鼻孔からやや上向きに数センチメートルほど入れる
3. カテーテルを下向きに変え、鼻腔の底に這うように奥まで挿入する
4. カテーテルを折り曲げていた手を離して、陰圧をかけながら吸引する

鼻の粘膜はデリケートで出血しやすいため、鼻腔内吸引を行う際は、十分に注意しながら吸引カテーテルを操作するようにしましょう。

気管カニューレ内部の喀痰吸引

気管カニューレとは、気管切開した方の気管孔が閉じるのを防ぐ装置のことです。
声帯の下に位置する気管に手術で穴を開け、気管カニューレを装着します。

気管カニューレを挿入している方は、勢いのある呼気や咳ができず、痰が気管カニューレまたは気管支、肺内に溜まってしまうことも珍しくありません。
この場合、気管カニューレ内部に吸引チューブを入れ、気管カニューレ内吸引を行う必要があります。

気管カニューレ内部の喀痰吸引

出典:文部科学省「学校における教職員によるたんの吸引等第2章」p225

介護福祉士が喀痰吸引できるのは、気管カニューレの内部のみです。
医師の指示書に気管カニューレの長さが記入されているため、吸引前に確認しましょう。

サイドチューブがある場合、サイドチューブからの吸引も行います。
サイドチューブから吸引する際は、カテーテルを使わず吸引装置に直接つないで吸引してください。

経管栄養

経管栄養には、胃ろう・腸ろうから行う方法と、鼻から行う方法(経鼻経管栄養)があります。
どちらも体内にチューブを挿入し、体内に直接栄養剤を入れるケアです。

胃ろうまたは腸ろうによる経管栄養

胃ろうや腸ろうによる経管栄養では、手術で胃・腸に穴を開けて「ろう孔」を作り、そこからカテーテルを通して直接胃や腸に栄養剤を注入します。
胃ろうまたは腸ろうカテーテルは、胃内のストッパーがバルーン型かバンパー型か、体外のカテーテルがチューブ型かボタン型か、それぞれの組み合わせで、4種類に分類されます。

胃ろうまたは腸ろうによる経管栄養

出典:文部科学省「学校における教職員によるたんの吸引等第2章」p331

胃ろうや腸ろうによる経管栄養は、注入する栄養剤によって注入方法が異なります。
液体栄養剤は、経管栄養セットと呼ばれる点滴のボトルのようなものを使用し、約2時間かけて注入を行うのが特徴です。
また、食後30分は胃からの栄養剤の逆流を防止するため、座位を保たなければなりません。

胃ろうのみに注入できる半固形栄養剤の場合、以下3パターンの注入方法があります。

  • パックのまま手でしぼりながらの注入
  • パックをボールなどの皿に開け、カテーテルチップ型シリンジで注入
  • 加圧バッグを使用しての注入

注入時間は5~15分で、食後の座位保持をする必要も基本的にはありません。

ただし、胃ろう・腸ろうによる経管栄養では、ろう孔周囲の皮膚トラブルに注意が必要です。
胃液や栄養剤が肌に付着し、炎症などを起こしていないか毎食後チェックしましょう。
異常があれば、速やかに医療職に連絡することが大切です。

経鼻経管栄養

経鼻経管栄養は、鼻からチューブを通して胃に直接栄養剤を注入する方法です。
胃をすでに切除した人や重度心身障がい児(者)の場合、胃ろうを造るのが困難なため、経鼻胃管を多く使用しています。

経鼻経管栄養を行う際、チューブの先端が胃の中にある状態でなければいけません。
先端が胃の中にないにも関わらず注入を開始した場合、誤嚥などの重大な事故につながる恐れがあります。

対策として、鼻孔にテープで固定したチューブの根元に印を付けて、注入前にその印が鼻孔より外側にズレて挿入長が変わってしまっていないかを確認しましょう。
意思を伝えられる利用者さんであれば、チューブが抜けかかっている感じがないか聞くようにしてみてください。
口を開ける方の場合、のどにチューブがまっすぐ通っており、らせん状にとぐろを巻いていないかどうかを目視でチェックします。

もし抜けかかっていた場合、介護福祉士は注入をせず、医療職に連絡しましょう。

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介護福祉士が医療的ケアをする要件・資格

介護福祉士が医療的ケアを行うには、以下4つの要件を満たす必要があります。

  • 勤務先が登録事業者であること
  • 喀痰吸引等研修を受講していること
  • 研修修了後に認定登録を行っていること
  • 医師の指示書のもとで医療的ケアを行うこと

順に詳しく解説します。

勤務先が登録事業者であること

介護福祉士が医療的ケアを行うには、勤務先が登録事業者である必要があります。
登録事業者とは、医療的ケアを提供するうえで、医療機関との連携や安全確保などの要件を満たした事業者のことです。
勤務先が登録事業者であるかどうか不明な場合、管理者などに確認しましょう。

登録事業者には、以下の2種類があります。

  • 登録喀痰吸引等事業者
  • 登録特定行為事業者

登録喀痰吸引等事業者とは、喀痰吸引などの業務を行える事業者として、都道府県に登録された介護福祉士のことです。
一方の登録特定行為事業者は、都道府県から登録を受け、介護福祉士などに喀痰吸引などの医療的ケアを行わせる事業者を指します。

喀痰吸引等研修を受講していること

介護福祉士が医療的ケアを行いたい場合、喀痰吸引等研修を受講していることが条件です。
喀痰吸引等研修は、講義と演習から成る基本研修と実地研修で構成されており、保持している資格によって受講範囲が異なります。

喀痰吸引等研修は、以下の全3種類です。

   対象者 実施できる医療的ケア
第1号研修 医療的ケアを必要とする方すべて すべての喀痰吸引・経管栄養
第2号研修 ● 口腔内吸引
● 鼻腔内吸引
● 胃ろうおよび腸ろうによる経管栄養
第3号研修 特定の病気・障がいのある方
例)やALS(筋萎縮性側素硬化症)、筋ジストロフィー、重度心身障がい児(者)など
すべての喀痰吸引・経管栄養
(現場での指導が必須)

それぞれ対象者や実施できる医療的ケアの範囲に違いがあるため、自分にはどの研修が必要なのか事前に確認しておきましょう。
また、介護福祉士の資格の取得年度によって、必要となる研修の範囲も違ってきます。

2015年度以降に介護福祉士を取得した方の場合

2015年度以降に介護福祉士を取得した方は、基本研修が免除となり、実地研修のみを受講する形となります。
2015年度より、介護福祉士の養成課程に医療的ケアが追加されたためです。
介護福祉士実務者研修の内容にも、医療的ケアの講義と演習が含まれており、重複して受講する必要はありません。

実地研修は、施設・事業所の利用者さんに対して、実際に医療的ケアを実施する内容です。
第1号・2号研修において、口腔内喀痰吸引は10回以上、鼻腔内・気管カニューレ内部・胃ろうまたは腸ろうの経管栄養、経鼻経管栄養は20回以上行います。
第3号研修では、実際の現場で看護師の指導のもと技能を学ぶのが基本です。

2014年度以前に介護福祉士を取得した方の場合

2015年度以前に介護福祉士の資格を取得した方は、基本研修と実地研修のいずれの受講も必要となります。
2014年以前の介護福祉士の養成課程には、医療的ケアが含まれていなかったためです。

第1号・2号の基礎研修は、計50時間以上の講義と演習で構成されています。
講義内容は、保健医療に関する基礎知識と、高齢者や障がい児(者)の医療的ケアに関することです。
演習では、すべての喀痰吸引・経管栄養を各5回以上、救急蘇生法を1回以上行います。

第3号の基礎研修では、計9時間の講義と演習を受講する必要があり、講義内容は重度心身障がい児(者)に関するものが中心です。
演習時間は1時間となっています。

研修修了後に認定登録を行っていること

喀痰吸引研修を修了すると修了証明書が発行されますが、この時点で介護福祉士が医療的ケアを実施できるわけではありません。
勤務先の事業者登録だけでなく、修了者自身の認定登録も要件になるためです。

修了証明書が届いたらお住まいの都道府県庁に提出し、認定特定行為業務従事者認定証の発行申請を済ませましょう。
認定証には、喀痰吸引をはじめとした医療的ケアの処置を実施できる範囲が記載されています。

介護福祉士の場合は、介護福祉士登録証に喀痰吸引などの実施可否に関する項目があるため、研修終了後に更新が必要です。
社会福祉振興・試験センターにて、登録内容の変更手続きを行ってください。

医師の指示書のもとで医療的ケアを行うこと

介護福祉士が医療的ケアを行う際は、安全性の確保のため、医師の指示書に基づいて実施するよう徹底します。
勤務先の施設・事業所が登録事業者として申請する際、医療職との連携確保を条件としているためです。

医師や看護師と十分な連携をとったうえで介護福祉士は処置を進め、事後には報告書を作成して、医師へ提出する必要があります。
また、介護事業者は医師の指示書に基づいて処置内容をまとめた計画書を作成し、利用者さんとご家族から同意を得なければなりません。

介護福祉士ができる医療的ケアを把握しておこう

介護福祉士は、一定の要件を満たすことで医療的ケアを実施できます。
医療的ケアには喀痰吸引や経管栄養があり、それぞれ口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部の喀痰吸引、胃ろう・腸ろう・経鼻経管栄養などの方法に分類が可能です。

これらの医療的ケアを実施するには、勤務先が登録事業者であると同時に、自分自身も喀痰吸引等研修を受講し、修了後に認定登録を行っていなければなりません。
介護福祉士の資格取得年度によって、受講が必要となる研修の範囲は異なるため、事前の確認をおすすめします。

なお、認定登録後であっても、医療的ケアは医師の指示書に従って行うことが重要です。
医療職との連携を密にし、常に利用者さんの安全を最優先に考えながら医療的ケアにあたるようにしましょう。

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