
病院で働く介護士は、患者さんの療養生活をサポートするため幅広い業務に携わります。
介護士の主な就職先には介護施設も挙げられますが、病院勤務の介護士と施設勤務の介護士では働き方に違いがあり、自分に合った職場選びが大切です。
医療・介護のニーズが高まるなか、チーム医療の一員として介護士に求められる役割を理解しておきましょう。
本記事では、病院に勤務する介護士の仕事内容とメリット・デメリット、介護施設に勤務する介護士との違いを解説します。
病院への就職・転職を検討している介護士の方や、医療分野での介護士の働き方に興味がある方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
病院で働く介護士の仕事内容
病院で働く介護士の仕事は多岐にわたり、患者さんの日常生活のサポートから医療スタッフのアシストまで、現場に欠かせないさまざまな役割を担っています。
ここでは、病院勤務の介護士が担当する主な仕事を4つ見てみましょう。
入院患者さんの介助
病院で働く介護士の仕事内容は、入院患者さんの日常生活のサポートがメインです。
配属される病棟によって、介助を要する患者さんの割合には違いがありますが、いずれの場所でも、介護士は主に入浴・排泄・更衣・食事などの介助業務に従事します。
これらの業務は、介護施設で働く介護士の仕事内容と基本的に同じです。
病院勤務の介護士には、患者さんの状態や症状に応じて適切な介助を行うスキルが求められます。
例えば、手術後の患者さんは動作の制限がある場合も多く、配慮しながら介助方法を選択しなければなりません。
また、介助を要する患者さんは不安やもどかしさを感じている場合もあるため、その気持ちに寄り添いながら、優しく丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。
看護師のサポート
病院で勤務する介護士は、看護師のサポート業務も担当します。
「看護助手」などの肩書きで病院に雇用される場合、看護師などの指示に従ってサポート業務を行うのが一般的です。
具体的には、カルテの整理や医療器具の準備、患者さんの移動の付き添いなど、診療に付随する業務が看護助手の仕事に含まれます。
病院勤務の介護士は、医療チームの一員となって看護師などと密に連携を取りながら、より質の高い医療・介護サービスの提供に貢献できる存在です。
患者さんの環境整備
患者さんの療養環境を整えることも、病院で働く介護士の重要な仕事です。
リネン交換やベッドメイキング、病室の清掃、洗濯などの業務を担当し、患者さんが快適に過ごせる清潔な環境を維持します。
また、介護士は直接的な医療行為には携われないものの、患者さんとの会話を通して、療養に専念するための周辺環境にアプローチできるのが特徴です。
環境整備の際に患者さんと交流するなかで、心のケアにもつなげられるでしょう。
患者さんの不安や要望に応じた環境整備を促進するとともに、必要に応じて看護師などに情報を共有し、安全なケアを提供できるよう連携します。
医療機器の洗浄や消毒
病院で働く介護士ならではの仕事内容に、治療に使用した医療機器の洗浄・消毒があります。
感染症の予防や医療の安全性を確保するうえで、適切な衛生管理は欠かせません。
使用済みの医療器具は、所定の手順で洗浄し、高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)などを用いて消毒します。
また、使い捨ての医療器具についても、不正処理にならないよう適切な分別方法に基づいた廃棄が必要です。
病院勤務と施設勤務の介護士の違い
介護士が活躍できる場は多く、病院をはじめとした医療機関はもちろん、介護施設も勤務先の選択肢となります。
同じ介護士でも、勤務先によって働き方は異なり、自分自身の関心やキャリアプランに合わせた職場選びが大切です。
介護士が働く病院と施設の違いを、「介護士に求められる役割」「患者さんの利用目的」「仕事内容」の3つの観点から見ていきましょう。
役割の違い
病院勤務の介護士と施設勤務の介護士では、現場で求められる役割が異なります。
病院勤務の介護士は、入院患者さんの介助のほか、医療チームの一員となり看護師の補助も担うのに対し、介護施設で働く介護士の主な役割は利用者さんの生活支援です。
病院勤務の場合、医師や看護師が常駐しており、その指示下で医療処置に関する補助も担ういう点で、介護施設とは異なります。
患者さんの体位変換・移乗の際には、点滴や医療機器に注意を払わなければなりません。
介護施設に勤務する場合、医師や看護師が必ずしも常駐しているわけではないため、より自立的な判断が求められる場面もあるでしょう。
患者さんの利用目的の違い
病院と介護施設では、利用者さんの目的にも違いがあります。
病院を利用するのは、主に怪我や病気を抱えた患者さんであり、治療・回復に向けた医療サービスの提供を目的とした場所です。
一方の介護施設では、介護を必要とする利用者さんや入所者さんに対して、身体介助、生活支援、レクリエーションなどを通して、日常生活を補助します。
こうした利用目的の違いは、設備面からも読み取れるでしょう。
病院には、診察室や処置室、手術室など、患者さんのさまざまな症状に対応するための設備が整っています。
対する介護施設は、食堂やリビング、浴室、機能訓練室など、利用者さんの日常生活を支援するための共用スペース・設備が充実しているのが特徴です。
仕事の違い
病院で働く介護士の仕事には、食事・入浴・排泄の介助など、介護施設での業務と共通するものも少なくありません。
一方で、医療機器の片づけやカルテの整理など、病院勤務の介護士には特有の業務も存在します。
また、療養型の病棟などではレクリエーション活動を行うこともありますが、病院に勤務する介護士だと、患者さんの療養生活を楽しくするためのイベントやレクリエーションに関わる機会は少ないでしょう。
介護施設で働く場合、介護士は日常的にレクリエーションを実施します。
病院勤務の介護士の年収
厚生労働省が公表した「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」によると、医療・介護サービスを提供する施設で働く介護士の平均給与は次のようになっています。
介護職員の勤務先 | 平均月給(2022年9月) | 前年の平均月給(2021年12月) |
介護療養型医療施設 | 27万6,400円 | 26万6,040円 |
介護医療院 | 32万700円 | 30万3,580円 |
介護療養型医療施設は2024年3月に廃止され、その機能は介護医療院や病院へと移行しています。
介護医療院で働く介護士の平均月給をもとに計算すると、年収は364万~385万円程度と考えられるでしょう。
上記はあくまでも平均値であり、実際の手取り額とは異なるほか、保有資格や役職の有無、勤務年数などによっても介護士の収入は変動します。
また、前年データと比較すると介護士の収入は上昇傾向にあり、政府や自治体の取り組みによって今後も待遇改善は進んでいく見込みです。
介護士が病院で働くために資格は必要?
病院勤務の介護士となるために、必ずしも資格や実務経験が求められるわけではありません。
介護に関する資格は複数ありますが、無資格かつ未経験の方でも、病院勤務の介護士をめざすことは可能です。
ただし、病院によっては、患者さんに触れる身体介助を提供するために、介護職員初任者研修より上位の資格を求められる場合があります。
働きながら専門性を磨き、介護福祉士の国家資格取得をめざすのも一つの選択肢です。
介護士が病院で働くメリット
介護士が病院で働くことには、大きく以下5つのメリットがあります。
- 福利厚生が充実している
- 医療の知識が身につく
- 幅広い年齢層の患者さんに関わることができる
- 介護施設と比べると身体的な負担が少ない
- 患者さんをお見送りできる
順に詳しく見てみましょう。
福利厚生が充実している
介護士が病院で働く場合、充実した福利厚生を期待できるのがメリットです。
病院によっては、介護士を含む従業員にとって働きやすい環境を提供するため、さまざまな福利厚生制度を導入しています。
例えば、院内託児所などの保育サービスを整備する病院は増加傾向にあり、出産・子育てのライフイベントを経ても長く活躍がめざせるでしょう。
その他、資格取得支援制度や人間ドックの受診補助、病気休暇・休職制度など、病院によって福利厚生の内容はさまざまです。
病院への就職・転職を考えている介護士の方は、こうした制度の充実度にも注目してみてください。
医療の知識が身につく
病院で働く介護士は、看護師などと連携する場面も多く、その仕事を間近で見ながら医療の知識を身につけられます。
介護士が医療行為に直接携わることは原則ありませんが、医療の現場で専門的な知識や最新の技術に自然と触れられるのは、病院勤務ならではの魅力です。
患者さんの症状、使用している薬、医療機器について理解が深まれば、より適切な介護を提供するうえでも役立つでしょう。
将来的に看護師などの医療職へのキャリアチェンジを考えている方にとっても、学べることの多い環境といえます。
幅広い年齢層の患者さんに関わることができる
病院で働く介護士は、幅広い年齢層の患者さんと関われるのもメリットです。
介護施設を利用するのは主に高齢者の方ですが、病院の場合は診療科によって、子どもから高齢者まで幅広い年代の患者さんと接する機会があります。
小児病棟であれば子どもたちの成長に寄り添い、一般病棟では働き盛りの方々の回復をサポートするなど、患者さんのニーズに合わせたケアを学べるでしょう。
幅広い年代の人と関わりながら仕事をしたい介護士にとって、身体介助以外のケア・サポートも必要とされる病院への勤務は魅力的な選択肢です。
介護施設より身体的な負担が少ない
病院で働く介護士は、介護施設で働く場合と比較すると、身体的な負担を抑えやすくなる可能性があります。
病院勤務の介護士も介護施設に勤務する場合と同様、食事・排泄などの介助業務を行いますが、勤務先や配属部署によって要介護度が高い患者さんの対応はほとんどないところもあるためです。
また、看護師の補助をはじめ、病院では力仕事以外の業務も多く任されます。
カルテ整理などのデスクワークや医療機器の準備、環境整備も、介護士の仕事のうちです。
さらに病院によっては、患者さんの移動を補助する設備も整っています。
電動ベッドや移乗用リフトなどの機器が充実した病院であれば、介護士の身体的な負担を軽減できるとともに、怪我の発生も防ぎやすくなるでしょう。
なお、身体的な負担の大小に関わらず、いずれも医療の現場を支える重要な仕事であり、責任を持って取り組むことが大切です。
患者さんをお見送りできる
病院勤務の介護士には、患者さんの回復を見届け、元気になって退院していく姿をお見送りできる機会があります。
チーム医療の一員となり、退院支援に深く携われることは、介護施設での介助・介護とは違った喜びをもたらし、仕事のやりがいや達成感に直結するでしょう。
介護士は、環境整備を行うなかで患者さんとコミュニケーションを重ね、信頼関係の構築もめざせる存在です。
信頼を築いた患者さんやそのご家族から感謝の言葉をかけてもらえる場面は、介護士の自信につながります。
介護士が病院で働くデメリット
医療に関わりたい介護士にとって、病院での勤務には多くのメリットがありますが、一方で次のようなデメリットも存在します。
- 感染症のリスクがある
- 医師や看護師との関係性にストレスを感じることもある
- 理想の介護ができない可能性がある
- 介護士としてのスキルアップが難しい
メリットとデメリットの両面を理解したうえで、自分に最適な働き方を見極めましょう。
感染症のリスクがある
病院で働く介護士にとって、感染症のリスクは無視できない問題です。
病院は、怪我や疾患だけではなく、風邪などにかかった患者さんも日常的に訪れる場所であり、感染症のリスクとつねに隣り合わせています。
例年インフルエンザが流行する12~4月頃のほか、新型ウイルスの流行時などは特に、介護施設と比べると自分自身の感染リスクも高まりやすいでしょう。
感染症の危険性とつねに隣り合わせていることを心に留め、環境整備を含めた衛生管理を徹底する必要があります。
医師や看護師との関係性にストレスを感じることもある
病院勤務の介護士は、医療スタッフと連携を図りながら業務を進めますが、ときにその関係性がストレスの要因となる場合もあります。
医師や看護師と介護士のどちらが優位という上下差はありませんが、チーム医療のなかで果たす役割の違いから、目に見えない格差を感じる方もいるでしょう。
医師や看護師などからの指示が高圧的に感じられたり、自分の意見や提案が通りにくかったりする場面もあるかもしれません。
緊急時や慌ただしい状況下では、コミュニケーション不足によって、すれ違いも起きやすくなります。
このような環境下では、チーム医療の一員でありながら、自身の専門性を十分に発揮できていないと感じる可能性があるでしょう。
理想の介護ができない可能性がある
病院で働く介護士のなかには、理想とする介護を実践できないもどかしさに悩む方も少なからずいます。
病院勤務の介護士が独断で対応できる状況は少なく、基本的には医師や看護師などの指示を仰がなければいけません。
患者さんの状態に合わせてケアの方法を変更したいと思っても、判断を待つ必要があります。
また、時間的制約や業務効率が重視された結果、個々の患者さんに合わせた柔軟な対応が難しくなることも考えられるでしょう。
以前の職場で介護業務を主体的に行っていた方や、介護に対して自分の理想がある方は、こうした病院特有の働き方にギャップを感じる可能性があります。
介護士としてのスキルアップが難しい
病院で働く介護士にとって、スキルアップの難しさも課題に挙げられます。
勤務先によっては、看護補助の役割が大きく入院患者さんの身体介助に直接関わる仕事が少なくなりやすいためです。
例えば、外来診療のサポートが主となる部署では、介護技術を実践できる機会が限られます。
また、介護施設などで経験を積んだ介護士であっても、病院に転職する場合、主体的に業務を進めることは難しくなるでしょう。
病院における介護士は、チーム医療の一員となり、看護師などの指示に従って業務を遂行するのが基本です。
このため、柔軟な判断力や問題解決能力を養う機会が減ってしまう可能性があります。
介護士の専門性の向上やキャリアアップを考えるうえでは、資格取得をめざしたり、院外の研修に参加したりなど、積極的な自己研鑽は欠かせません。
病院で働く介護士の仕事内容やメリット・デメリットを知って参考にしよう
病院で働く介護士の仕事内容は、入院患者さんの支援や環境整備、看護師のサポート、医療機器の洗浄・消毒など多岐にわたります。
介護施設における介護士は、主に高齢者や要介護者の生活介助を担うのに対し、病院では勤務先や配属部署にもよりますが幅広い年代の患者さんのケアに携われるのが特徴です。
勤務先の病院によっては福利厚生が充実しており、キャリアプランの実現に向けて働きながら医療の知識を身につけられます。
一方で、体調に不安がある方の出入りが多いぶん、感染症のリスクには注意が必要です。
また、医師・看護師などとの関係性にストレスを感じたり、理想の介護を実践しにくかったりと、病院勤務ならではの難しさを感じる部分もあります。
病院で働く介護士には、魅力的な側面と同時に懸念材料があることも理解したうえで、自分に合った働き方を検討してみてください。