医療事務における保険証確認は、患者さんの医療費負担や医療機関の収入に直結する重要な業務です。
それゆえに、保険証確認でミスを発生させてしまうと、患者さんと医療機関の双方に不利益が生じる恐れもあります。
医療事務の業務をより正確かつ効率的に進められるよう、日頃からミスを防ぐための対策を講じることが大切です。
本記事では、医療事務の保険証確認ミスによって引き起こされる問題と、ミスの発生を防ぐための対策方法を解説します。
医療事務の業務品質を向上・安定させたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
医療事務が保険証確認ミスをするとどうなる?
医療事務による保険証確認は、患者さんの情報を正しく把握するための重要な業務です。
患者さんの自己負担額や医療機関の診療報酬請求に直接関わっており、初診・再診どちらの場合でも保険証を提示してもらわなければなりません。
医療事務は、預かった保険証から氏名・保険者番号・記号番号・有効期限などを確認し、レセプトコンピュータ(レセコン)に入力します。
この確認作業でミスが発生すると、次のような問題を引き起こす可能性があるでしょう。
- レセプトが返戻される
- 誤った会計案内につながる
- 誤った処方箋を患者さんに渡してしまう
順に詳しく解説します。
レセプトが返戻される
保険証確認ミスが発覚した場合、レセプトが返戻されます。
レセプトの返戻は、診療報酬の支払いの遅延や追加作業を招き、ひいては医療機関の経営にも影響を及ぼしかねません。
返戻までの流れ
医療機関で作成されたレセプトは、審査支払機関で確認が行われます。
レセプトの請求内容が診療報酬の規定に則っているかを細かくチェックし、問題がなければ医療機関に医療費が支払われるという流れです。
一方で、レセプトに誤りが見つかった場合、審査支払機関から医療機関に差し戻されます。
この差し戻しを「返戻」と呼び、返戻されたレセプトを再請求するには、追加手続きが必要です。
結果として、診療報酬の支払いの遅れにつながります。
返戻時の送付書類
返戻時には、医療機関にいくつかの書類が送られてきます。
「増減点連絡書(社会保険)」や「返戻内訳書(社会保険)」、「増減点返戻通知書(国民健康保険)」などが一部の例です。
これらの書類には、返戻の理由や修正すべき点が記載されています。
医療機関は、これらの書類を確認し、必要な修正を行ったうえで、期限内に再請求の手続きを済ませなければなりません。
追加作業には時間と労力がかかるため、レセプト返戻は極力発生させないのが望ましいといえます。
誤った会計案内につながる
保険証確認にミスがあると、患者さんに誤った会計を案内してしまう可能性があります。
医療費の自己負担割合は、6~69歳の方だと原則3割負担、70~74歳の方は2割、75歳以上の方は1割など、年齢や所得によって異なるものです。70歳以上の方も現役並みの所得がある場合は3割負担となります。
もし保険証確認にミスがあり、誤った個人情報で登録していた場合、本来の自己負担割合とは異なる割合で会計を請求してしまいます。
これにより、患者さんに必要以上の負担をかけるほか、逆に医療機関の収入を減少させる恐れもあるでしょう。
後日の修正作業や返金・追加会計の対応が必要となり、業務効率の低下を招くこともデメリットです。
誤った処方箋を患者さんへ渡してしまう
医療事務の保険証確認にミスがあると、患者さんの情報が一致しない処方箋を渡してしまうリスクがあります。
処方箋の誤りが発覚した場合、医療機関だけでなく調剤薬局でもレセプトの修正、患者さんへの返金・追加会計などが必要です。
現場の負担が増加するとともに、医療機関や調剤薬局の信頼性にも関わってくるでしょう。
医療事務の保険証確認ミスを防ぐ方法
医療事務の保険証確認ミスは、患者さんと医療機関の双方に影響を及ぼし、場合によっては大きなトラブルにつながる可能性もあります。
業務の正確性を保つには、以下のようなミスを未然に防ぐための取り組みが効果的です。
- 医療事務の知識・スキルを向上させる
- 電子カルテの操作・レセコンの入力方法をマスターする
- マニュアルを作成する・手順を遵守する
- ダブルチェックを徹底する
- 優先順位を考え落ち着いて対応する
対策内容を詳しく見てみましょう。
医療事務の知識・スキルを向上させる
医療事務の知識・スキルを向上させることで、日々の業務に対する理解を深められ、ミスの回避につながります。
「診療報酬請求事務能力認定試験」などの資格取得をめざすのも一つの選択肢です。
診療報酬請求事務能力認定試験は、医療事務の実務能力を客観的に評価するもので、合格すれば高い専門性を証明できます。
また、各種講習会への参加や自己学習も、スキルの向上に役立つでしょう。
医療保険制度は頻繁に改定されるため、つねに最新の知識を学び続けなければなりません。
オンライン講座の受講、専門書の活用など、自分に合った学習方法を見つけてみてください。
電子カルテの操作・レセコンの入力方法をマスターする
日常的に使用する電子カルテやレセコンの操作方法をマスターすることも、医療事務のミス低減に直結します。
ツールの使い方に迷いがあると、操作ばかりに意識が集中して内容の確認はおろそかになり、ミスの発生につながりやすくなるためです。
電子カルテをスムーズに操作できるようになるには、画面の見方や操作の流れなどの基礎知識を身につけたうえで、継続的にトレーニングを行う必要があります。
ショートカット機能やテンプレートの使い方も学んでおくと、業務効率を向上させるのに役立つでしょう。
レセコンも同様に、入力項目や注意すべきチェック項目を把握し、日々の業務を通じてスキルアップを図ることが重要です。
マニュアルを作成する・手順を遵守する
勤務している医療機関に業務のマニュアルがない場合、保険証の確認手順や入力手順をまとめたマニュアル・チェックリストを自主的に作成しましょう。
業務の進め方を明確にすることで、ミスの発生を防ぎやすくなります。
また、マニュアルの作成は、自分自身だけでなく部署全体の業務品質向上にもつながるのがメリットです。
業務が均一化されるため、新人スタッフも迷う場面が少なくなり、個人の力量や経験の差を縮められます。
作成したマニュアルは定期的に見直し、最適な業務手順をつねに維持しましょう。
ダブルチェックを徹底する
医療事務の業務品質を安定させるには、徹底したダブルチェックが有効です。
作業者本人が見過ごしてしまったミスも、第三者の目を通すことで発見しやすくなります。
保険証の情報を入力したあと、第三者へチェックを依頼する前に、まずは自分自身で内容を見直しましょう。
「どうせダブルチェックをするから大丈夫」と形式的に目を通すのではなく、細部まで注意深く確認するのがポイントです。
保険証確認の重要性を認識したうえで、入力側・チェック側ともに責任感を持ち、作業の精度を高く保つ必要があります。
優先順位を考え落ち着いて対応する
業務が立て込んでいて忙しい状況でも、焦ってミスを犯さないよう、優先順位を考えて冷静な対応を心がけます。
目の前のタスクを洗い出し、優先順位をつけてから、落ち着いて業務スケジュールを立て直しましょう。
抱えている業務の量が多く、一人では対応できそうにない場合、同僚や上司に協力を求めることも大切です。
チームワークを活かして、目の前の業務に集中できる環境を整えられれば、ミスも防ぎやすくなります。
また、こまめに業務の棚卸しを行い、効率化できる部分がないか検討してみてください。
保険証確認ミスのない医療事務をめざそう
医療事務による保険証確認ミスは、会計や処方箋の誤りを招くことで患者さんに悪影響を及ぼすだけでなく、医療機関の信頼にも関わってきます。
ミスを防止するには、保険証確認の重要性を認識するとともに、スキルアップを図ったり、マニュアルで作業手順を明確にしたりといった工夫が必要です。
慎重に業務を進めたつもりでも、自分一人ではミスを見落としてしまう可能性があるため、ダブルチェックも取り入れて精度を高めましょう。
正確な保険証確認は、患者さんの安心と医療機関の円滑な運営につながります。
医療事務に役立つ知識・技術を身につけながら、責任感を持って業務に取り組んでみてください。