
ハイケアユニット(HCU)は、重症度リスクが高い患者さんに対し、手厚い治療とケアを提供する病床です。
ICUほどの集中治療は必要としませんが、一般病棟よりも手厚い医療が求められるため、専門的な知識やスキルが重要です。
本記事では、HCUとICUの違いや、HCUで働く看護師の役割について解説します。
また、HCU看護師になるために必要な資格や、専門性を高めるためのおすすめの資格も紹介していきますので、重症患者さんのサポートに関心のある看護師の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
ハイケアユニット(HCU)とは
ハイケアユニット(High Care Unit. 以下HCU)は、一般病棟とICUの中間に位置する病床です。
発症や受傷、手術直後の超急性期を脱したものの一般病棟での治療が難しいと判断した場合にHCUに入ります。
一般病棟よりも急変リスクが高い患者さんが入院する病床となっており、より手厚い治療やケアを必要とする患者さんが対象です。
HCUは、日本語で「高度治療室」「準集中治療管理室」とも呼ばれています。
役割
HCUの役割は、一般病床よりも手厚い治療を行いながら、患者さんの状態を安定化させることです。
急変リスクの高い患者さんが一般病棟に転棟できるように、術後のケアや人工呼吸の管理、リハビリなど患者さんに合わせて治療やケアを提供します。
重症度は高いものの、ICUほどの集中治療は必要としない患者さんに対して、適切な治療とケアを提供することが求められます。
施設基準
HCUの施設基準は、以下のとおりです。
■施設基準(ハイケアユニット入院管理料1の場合)
医師 | ・医療機関内に専任の常勤医師が1名以上いること |
看護師 | ・ 集中治療を必要とする患者さんの看護に従事した経験を5年以上有し、集中治療を必要とする患者さんの看護に係る適切な研修を修了した専任の常勤看護師 |
設備 | ・HCU入院医療管理を行うにふさわしい専用の治療室を有していること ・集中治療に必要な救急蘇生装置、除細動器、心電計、呼吸循環監視装置や、設備を備えていること(ただしHCUが特定集中治療室と隣接しており、共有しても緊急の事態に十分対応できる場合は、この限りではない) |
その他 | ・「HCU用の重症度、医療・看護必要度に係る評価票」の基準を満たす患者さんが8割以上いること ・「HCU用の重症度、医療・看護必要度に係る評価票」の記入は、院内研修を受けたものが行うこと |
これらの基準を満たすことで、手厚い治療とケアを提供できる環境が整えられています。
また、急変時にも速やかに対応できるよう、必要な人員配置と設備が確保されている点も重要です。
対象疾患例
HCUの対象疾患は決められているわけではなく、患者さんの状態によって医師が判断します。
対象疾患例としては、以下のような疾患があります。
- 術後(臓器移植、食道がん、心臓血管外科など)
- 脳卒中回復期
- 慢性呼吸不全
- 消化管出血急性期
- 長期人工呼吸
- 敗血症
これらの疾患を抱える患者さんは、症状が安定するまでは十分な管理体制が必要です。
そのため、より手厚い治療とケアを受けられるHCUでの入院が適しています。
ハイケアユニット(HCU)と集中治療室(ICU)の違い
ハイケアユニット(HCU)と集中治療室(ICU)は、どちらも重症患者さんを対象とした病床ですが、いくつかの違いがあります。
医療従事者の配置や患者さんの重症度など、それぞれの特徴を理解しておきましょう。
HCU | ICU | |
医師 | 専任の常勤医師が1人以上 | 専任の常勤医師が1〜2人以上 |
看護師 | 患者さん4〜5人に対し看護師1人 | 患者さん2人に対し看護師1人 |
患者さんの重症度 | 重症度リスクが高い患者さんが対象 | 生命の危機にある、緊急度が高く全身管理が必要な患者さんが対象 |
病床数(2022年12月時点) | 7,990病床 | 7,221床 |
<参考>
一般社団法人日本集中治療医学会(各都道府県別 ICUおよびICUに準ずる治療室のベッド数)」
医師や看護師の配置
HCUに比べてICUのほうが、医療従事者の配置数が多いのが特徴です。
専任の常勤医師の配属数は、HCUの場合は1人以上であるのに対し、ICUは1〜2人以上必要とされています。
また、管理料の種類によっては、医師の経験年数も5年以上必要とされる場合があります。
看護師の配置数は、HCUは患者さん4人または5人に対し看護師1人必要です。
それに対し、ICUは患者さん2人に対し看護師1人の配置が求められます。
このように、より重症度の高い患者さんを対象としているICUのほうが、手厚い人員配置となっています。
患者さんの重症度
HCUは重症度リスクが高い患者さんが対象となるのに対し、ICUは生命の危機にあるなど緊急度が高く全身管理が必要な患者さんが対象となります。
ICUに入室する対象疾患としては、以下のような例があります。
- 大手術後
- 心肺蘇生後
- 呼吸不全(急性呼吸不全、慢性呼吸不全の急性増悪など)
- 急性心不全、心筋梗塞など
- ショックや重症の循環不全
- 中毒(薬物、ガスなど)
- 代謝障害(肝不全、腎不全、重症糖尿病など)
- 重篤外傷や熱傷
- その他種々の臓器障害のため、人工臓器によるサポートが必要なもの
これらの疾患を抱える患者さんは、集中的な治療とケアが必要不可欠です。
そのため、ICUでは人工呼吸器管理や血液浄化療法、循環管理など、高度な医療が行われています。
診療報酬の加算日数
HCUとICUでは、診療報酬のなかで加算される日数が異なります。
HCUの場合は加算日数が21日であるのに対し、ICUは14日とHCUよりも日数が短いです。
重症度の高い患者さんを対象としているICUのほうが、入室期間が短いことがわかります。
ハイケアユニット(HCU)の看護師の役割
HCUで働く看護師には、重症患者さんの治療とケアにおいて重要な役割があります。
人工呼吸器などの医療機器の管理から、患者さんの全身状態の把握、日常生活のサポートまで、多岐にわたる業務を担っています。
ここでは、HCUに所属する看護師の主な役割について確認しておきましょう。
医療機器の管理
HCUで働く看護師の役割として、医療機器の管理があります。
HCUには人工呼吸器をはじめ、心電図モニターや輸液ポンプなど多くの医療機器をつけている患者さんがいます。
そのため、医療機器が正常に機能しているかを定期的に確認し、管理しておくことが重要です。
例えば、人工呼吸器をつけている患者さんの場合、人工呼吸器の設定やアラームの対処、患者さんの呼吸状態などに異常がないか確認しなくてはいけません。
また、心電図モニターや輸液ポンプなども、正しく作動しているか、設定に間違いがないかなどを確認する必要があります。
全身状態の管理
HCUの看護師は患者さんの全身状態も確認し、異常の早期発見に努めなければいけません。
全身状態は、以下のような項目を観察することで把握します。
- バイタルサイン(脈拍、呼吸、血圧、体温の指標)
- 血液検査データ
- 患者さんからの訴えや病状
例えば、術後の患者さんであれば、術後合併症の予防や早期発見が大切です。
発熱や創部の状態、採血データを確認し感染症の有無を確認したり、ドレーンからの出血量、尿量なども定期的に確認する必要があります。
また、上記の項目以外にも、患者さんの症状に異変を感じた際は、速やかに医師へ相談しましょう。
日常生活ケア
患者さんの日常生活ケアなど、療養上の世話も看護師の役割です。
HCUの患者さんは、身の回りのセルフケアができない状態の場合も多いため、患者さんのADLに合わせて必要なケアを実施していきます。
日常生活ケアは、主に以下の項目があげられます。
- 食事介助
- 口腔ケア
- 清拭
- 排泄ケア
- 移動
患者さんのストレス緩和や治療効果を十分なものにつなげるためにも、患者さんの状態に合わせたケアを提供しましょう。
一般病棟への転棟支援
HCUの看護師は、患者さんの全身状態が安定し、HCUから一般病棟に移動できるようサポートします。
具体的には、患者さんの身体機能維持や回復を目的としたリハビリを行うという役割です。
患者さんが、できるだけ早く入院前の状態に戻れるように、リハビリのスケジュールや方法などを相談しながら行います。
また、一般病棟の看護師に対し、患者さんの状態や注意点などを申し送り、スムーズに移動できるよう調整することも大切です。
ハイケアユニットの看護師になるには
HCUの看護師になるために、看護師資格以外で必要な資格はありません。
転職や部署移動だけでなく、新卒の場合でも、HCUに配属されれば、誰でもHCUの看護師として活躍できます。
ただし、HCUで専門性を持って活躍するためにおすすめの資格として、「クリティカルケア認定看護師」「急性・重症患者看護専門看護師」があります。
それぞれの資格について、以下で確認しておきましょう。
クリティカルケア認定看護師
クリティカルケア認定看護師とは、危機的状態にある患者さんの重症度や緊急度を適切にアセスメントし、質の高い看護を提供できる看護師のことです。
アセスメントとは、看護における情報を収集し、分析することを指します。
認定看護師になるために必要な教育課程では、以下のような項目を主に学びます。
- 重症患者さんの全身管理
- 早期回復に向けた看護ケア
- 人工呼吸器の管理
- 特定薬剤の点滴管理
急性・重症患者看護専門看護師
急性・重症患者看護専門看護師とは、緊急度・重症度の高い患者さんを対象に、最善の医療を提供することを目的として、患者さんやそのご家族への支援を専門的な知識やスキルを活用しながら実施する看護師です。
具体的には、以下のような活動を行います。
- 患者さんやそのご家族に対する看護実践
- チーム医療の促進
- 他職種との連携
- 研修会の実施などの教育活動
- 看護研究
急性・重症患者看護専門看護師の資格を取得することで、重症患者さんに対する看護ケアの知識・スキルの向上に加え、専門看護師として看護全体の質の向上に貢献できるでしょう。
ハイケアユニットの看護師は急変リスクの高い患者さんをサポートできる
ハイケアユニット(HCU)の看護師は、手術後や重症度リスクが高い患者さんに対し、手厚い治療とケアを提供します。
人工呼吸器などの医療機器の管理はもちろん、患者さんの全身状態の変化を見逃さず、異常の早期発見に努めることが重要です。
また、日常生活ケアなどを通して、患者さんのストレス緩和や治療効果の向上にも貢献します。
HCUの看護師は、専門的な知識とスキルがあるため、急変リスクの高い患者さんをしっかりとサポートできる存在といえるでしょう。
クリティカルケア認定看護師や急性・重症患者看護専門看護師の資格取得をめざすために、研修やセミナーへ参加すると良いでしょう。