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看護職の倫理綱領とは?分析に使えるツールも合わせてわかりやすく解説

看護職の倫理綱領とは、医療の現場で働くうえで基盤となる考え方を示したものです。
看護学校で学ぶ際はもちろん、就職後もつねに心に留めておくべき要素ですが、なかには難しい内容もあり、とっつきにくいイメージを抱いている方も多いかもしれません。

本記事では、日本看護協会が作成した看護職の倫理綱領をわかりやすく解説します。
臨床現場で使用する看護倫理にも触れているため、医療従事者として問題に直面したときの指針として理解を深めておきましょう。

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目次

看護職の倫理綱領とは?

看護職の倫理綱領とは?

看護職の倫理綱領」とは、日本看護協会が作成した看護職を対象とする行動指針です。
1988年に日本で初めて「看護師の倫理規定」が作成され、2003年、2021年の2度の改訂を経て現在の名称・内容となりました。

前文と本文によって構成されており、本文では現在16の項目について記載があります。
倫理綱領の対象は、あらゆる現場で活躍する看護師です。
どのような場所で働いていても、看護師は患者さんやそのご家族の尊厳と権利を尊重するように強調されています。

最新の看護職の倫理綱領16項目をわかりやすく解説

看護職の倫理綱領の本文は、16項目で構成されています。
16項目それぞれの簡単な要約と具体的な事例を併せて見てみましょう。

1.看護職は、人間の生命、人間としての尊厳及び権利を尊重する。

看護職の倫理綱領ではまず、命と人権を尊重することについて書かれています。
看護職は、人々の健康と生活を支援する立場です。
国籍や性別などのあらゆる側面に左右されることなく、患者さんの生命と尊厳、権利を尊重し、配慮をしていくことが求められます。

具体的な事例としては、意識障害のある患者さんの全身清拭を行うときに、効率を重視して着ているものをすべて脱がせるのではなく、尊厳の尊重や保温のためにバスタオルなどで体を覆いながら寝衣交換をすることなどが挙げられるでしょう。

2.看護職は、対象となる人々に平等に看護を提供する。

看護における平等とは、ただ全員に等しく接するという意味ではなく、患者さん一人ひとりに合わせた個別性のある看護を提供するということです。

心不全の患者さんのうち、一人は初めて診断を受けた方で、もう一人は急性増悪を繰り返している方だとしましょう。
このとき、二人に心不全のパンフレットを用いて同じように指導をするのではなく、前者は退院後の日常生活で気を付けることを説明します。
後者には、何が原因で急性増悪を繰り返しているのか、一緒に日常生活を見直しながら改善を考えていくという看護が必要です。

3.看護職は、対象となる人々との間に信頼関係を築き、その信頼関係に基づいて看護を提供する。

効率的・効果的な看護ケアを提供するためには、必要な説明を行ったうえで理解・同意を得るといったプロセスを経て、信頼関係を構築していくことが大切です。
また、近年は患者さんやご家族と看護師の関わり方に変化があることを踏まえ、個人的な関係には発展させないことなども明記されています。

具体的な事例としては、バイタルサインを測るときに今から何を行うか患者さんへ説明を行い、確認と同意を得たうえで計測することなどが考えられるでしょう。

4.看護職は、人々の権利を尊重し、人々が自らの意向や価値観にそった選択ができるよう支援する。

患者さんには知る権利と自己決定権があり、看護師はそれを尊重して意思決定支援を行う必要があります。
患者さんは治療方針などについて十分説明を受けたうえで、選択・決定が可能です。
また、知る権利を尊重するために、電子カルテなどの情報を開示請求された場合は応じなければなりません。

例えば、ご家族からの依頼で病気の告知を本人にしないことを要求されたとしても、患者さん本人が病気について知りたいと希望している場合は告知を行う必要があります。

5.看護職は、対象となる人々の秘密を保持し、取得した個人情報は適正に取り扱う

看護師は業務上、要配慮個人情報に触れる機会が多くありますが、治療に必要な範囲を超えた情報の漏洩・流出がないよう、細心の注意を払いましょう。

事例として、外線で患者さんが入院しているかの確認の電話が病棟へ直接あったとしても、決して答えてはいけません。
これは看護師として勤務中はもちろん、プライベートな時間であっても同様です。

6.看護職は、対象となる人々に不利益や危害が生じているときは、人々を保護し安全を確保する。

患者さんに不利益がある、もしくは危害が加えられていると判断したときには、安全のため保護をすることも看護師の役割です。

具体的な例として、遊んでいて転倒し腕を骨折した小学生の患者さんが受診した際、体の痣ややけどのような跡に気付いた場合は、身体的虐待を疑い社会福祉士などを交えた話し合いの場を設けます。

7.看護職は、自己の責任と能力を的確に把握し、実施した看護について個人としての責任をもつ。

看護師は自身の能力を的確に把握して、その範囲内で看護業務にあたり、患者さんに対して行ったことには責任を持たなければなりません。

ある患者さんの治療に際して、初めて使用する機器や薬剤を扱うことになったとしましょう。
このような場面では、使用法や注意点をよく理解したうえで処置を行います。

8.看護職は、常に、個人の責任として継続学習による能力の開発・維持・向上に努める。

看護師は、質の高い看護を提供するために専門職として日々学習を行い、能力を磨く必要があります。

具体的な例としては、看護協会の開催する勉強会に参加することや、病棟でチームを組み勉強会を開催することなどが挙げられるでしょう。
また開催されるものに参加するだけでなく、帰宅後に自分で資料を見直す・まとめなおすなどの自己学習も推奨されます。

9.看護職は、多職種で協働し、よりよい保健・医療・福祉を実現する。

看護師は、医師のみならず薬剤師や理学療法士などのリハビリスタッフ、介護支援専門員(ケアマネジャー)など多くの専門職と連携し、患者さんを多方からサポートする役割を持ちます。

入院中ADLの低下が著しく、退院後は介護サービスが必要となった患者さんがいた場合、病院内だけでなく介護支援専門員などとも情報を共有することが望ましいです。
必要に応じて在宅看護師やケースワーカーとも連携し、在宅でも安心して暮らせるように支援をしていきます。

10.看護職は、より質の高い看護を行うために、自らの職務に関する行動基準を設定し、それに基づき行動する。

看護師の業務に対しては、行動基準を設定し、それを遵守することが求められます。
質が高く、かつ安定した看護を提供することが目的です。

症例ごとのジレンマによって治療方針がなかなか決まらないと、適切な看護を提供できない可能性も考えられるでしょう。
これを防ぐため、組織単位で基準を設定して全員がそれに則り行動をします。

11.看護職は、研究や実践を通して、専門的知識・技術の創造と開発に努め、看護学の発展に寄与する。

率先して看護研究や看護実践を行い、看護学という学問そのものの発展に貢献することも看護師の務めです。
医療は日々進歩していくため、最新の研究データなどを収集したうえで、現場での実践が求められます。
看護研究にも積極的に参加しましょう。

例えば、ある体位のときにのみ特定の部位に発赤が出現することに気付いたとします。
除圧の方法を複数試して、その後の発赤や褥瘡リスクの変化を研究として行った結果、今後の業務に役立つ発見が得られるかもしれません。

12.看護職は、より質の高い看護を行うため、看護職自身のウェルビーイングの向上に努める。

質の高い看護を提供するためには、看護師自身の身体面・精神面の調子を整えることが大切になります。
ワーク・ライフ・バランスや自分に合ったストレスマネジメントを模索しましょう。

具体的な例として、微熱程度の症状だったとしても感染リスクや医療ミスが懸念されるため、自宅できちんと療養することなどが挙げられます。

13.看護職は、常に品位を保持し、看護職に対する社会の人々の信頼を高めるよう努める。

患者さんからの信頼を得るには、礼節や品性、社会人としての常識も重要な要素です。
看護師は患者さん・ご家族にとって頼れる存在となるよう、立場をわきまえた振る舞いが求められます。

具体例として、患者さんのご家族が面会に来た際には温かい対応を心がけること、地域ボランティアへ積極的に参加することなどが挙げられるでしょう。

14.看護職は、人々の生命と健康をまもるため、さまざまな問題について、社会正義の考え方をもって社会と責任を共有する。

看護師として人々の生命や健康、権利に関する社会問題にも関心を向けましょう。
自らも参加できることがあれば、行動に起こしていく必要があります。

病院内の環境整備に気を配り、病院外では植林など環境保全のボランティアに参加するのも一案です。

15.看護職は、専門職組織に所属し、看護の質を高めるための活動に参画し、よりよい社会づくりに貢献する。

看護師は、専門職組織に所属して看護の質を高めるとともに、福祉や看護の制度をより良いものに改善していくことが求められます。
医療に関する制度の改善は、より良い社会づくりにつながるでしょう。

具体的な事例として、看護協会に所属して看護協会の総会に参加することなどが考えられます。

16.看護職は、様々な災害支援の担い手と協働し、災害によって影響を受けたすべての人々の生命、健康、生活をまもることに最善を尽くす。

災害発生時には、専門的な知識と技術を用いて保険・医療・福祉を提供することも看護師の役目の一つです。
日々災害リスクの低減を試み、災害発生時には適切な支援を行うことが求められます。

具体例として、地震が発生し協力要請があった場合、現地へ赴き必要なケアを施す必要があるでしょう。

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看護者の倫理綱領の変更点

看護職の倫理綱領は、2021年の改訂で以下3点について変更されています。

  • 前文、条文、解説の3つで構成されていたものを、前文、本文の2つの構成に
  • 概念が抽象的、もしくは浸透していない用語に対して注釈を追加
  • 以前は15項目のものを、自然災害に関する内容を含む16項目へ

臨床で使う看護倫理3つ

臨床で使用する看護倫理は、次のとおりです。

  • 生命倫理の四原則
  • 臨床倫理の4分割法
  • 看護の倫理原則6つ

詳しく解説していきます。

生命倫理の四原則

生命倫理の四原則とは、医療に携わる者が倫理的問題に直面したとき、どのように解決していくかを考えるときに使うツールです。
分析は「自律性の尊重」「善行」「無危害」「正義」の4つの側面から行われます。

自律性の尊重とは、患者さんの意思で決めたものごとを尊重することです。
次いで善行とは、病院の利益ではなく患者さんの善のために行動することを指します。

無危害とは患者さんに危害を及ぼさないこと、そして危険から守ることです。
そして患者さんに公平・平等に応対することを正義としています。

臨床倫理の4分割法

臨床倫理の4分割法は、主に治療に関わる医療者と患者さん、ご家族の意見が合わず、治療方針の決定が滞ってしまった際に活用される考え方です。
このとき、医学的適応・患者さんの意向・QOL・周囲の状況の4項目を鑑みます。

  • 医学的適応
    患者さんの状況、治療の目的、治療が成功する可能性など
  • 患者さんの意向
    患者さんの意思決定能力、事前の意思、意思の代理決定者など
  • QOL
    患者さんの復帰後の生活に対して治療が与える影響、QOLを改善するうえでの課題など
  • 周囲の状況
    経済的問題、医療者側の利益相反、医療資源の配分など

項目ごとに情報を整理して、どういった選択が望ましいかを考えなければなりません。

看護の倫理原則6つ

上記で触れた生命倫理の四原則に、誠実・忠誠の2項目を加えたものが看護の倫理原則です。
臨床現場で治療の方針を決定するにあたり、ジレンマが生じたときの指針となります。

原則を構成するのは、医療理論学に基づいた自律性の尊重原則・善行原則・無危害原則・正義原則の4つと、医療専門職に課された義務や規則の基礎となる誠実の原則・忠誠の原則の2つを合わせた6つです。
誠実と忠誠をまとめて5項目と定義する場合もあります。

看護に関するその他の倫理綱領

上記で挙げた以外にも、看護に関する倫理綱領は2つあります。
一つはアメリカ看護協会(ANA)による看護師の倫理規範、もう一つは国際看護師協会(ICN)が採択した看護師の倫理綱領です。
ICNによる看護師の倫理綱領は2021年に改訂され、前文には看護における以下4つの基本的な責任について明記されました。

  • 健康の増進
  • 疾病の予防
  • 健康の回復
  • 苦痛の緩和と尊厳ある死の推奨

日本とアメリカの倫理綱領を比較すると、アメリカの倫理綱領は内容が具体的かつ幅広いのに対し、日本の倫理綱領は抽象的という特徴があります。

看護師が倫理的問題に直面しやすい場面

看護師が倫理的問題に直面しやすい場面として、次のようなものが想定できます。

  • 個人情報の扱い
  • 終末期医療のあり方
  • 多職種連携によって直面する価値観の違い
  • 患者さんやご家族との信頼関係
  • 意思表示ができない患者さんの延命措置
  • 高齢者や子どもの意思決定
  • インフォームドコンセントへの配慮
  • 妊娠・出産をめぐる母親の意思と胎児の尊厳
  • 臓器移植医療

これらはあくまで一例であり、上記以外の場面でも必要時には事例検討を行わなければなりません。

看護職の倫理綱領を根底に、患者さんと最善の選択を

医療技術の進歩によって治療の選択肢が増えたこともあり、医療の現場では倫理的問題に直面する場面が多くあります。
治療に関する大きな選択だけでなく、16項目の解説で具体例を示したような病院内の日常のなかにも倫理的な配慮が必要な場面はあるものです。

患者さんに不利益や危険が降りかからないようサポートをすることも、看護師の大切な責務といえます。
もしジレンマに遭遇したときには看護倫理に基づいて分析を行い、患者さんとそのご家族にとって最善の選択ができるようにしましょう。

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