
さまざまな医療現場で問題となっている看護師不足は、現在だけではなく今後も深刻化していくことが予想されています。
では、看護師不足の現状はどのようになっており、その問題にどのような対策が立てられているのでしょうか?
今回の記事では、看護師不足の現状やその対策を紹介していきます。
目次
看護師不足の問題点|2025年には最大27万人が不足
厚生労働省の発表では、2025年までに必要な看護師数は188〜202万人(看護師のワークライフバランスを保った形で、複数のシナリオで計算)と想定されています。
一方で、2025年の看護師数は175〜182万人と想定されており、最大で27万人もの看護師が不足する見込みです。
では、この背景にある人口動態の変化と看護師数を見てみましょう。
団塊の世代が後期高齢者に突入
看護師の不足が予想されている主な要因として、日本の高齢者数の増加があります。
以下のグラフから、日本の人口は徐々に減少傾向であるとともに、高齢化率は上昇していることがわかるでしょう。
2019年度の高齢者数は3,589万人ですが、団塊の世代が後期高齢者に突入する2025年には3,677万人に達し、超高齢社会に突入すると予想されています。
そのため、慢性疾患を有するなど日常的に医療や看護を必要とする方の人数が増加し、現在よりもさらに看護師の需要が高まっていくと考えられています。
看護師数は10年間で約24万人増加
一方で、看護師の人数はどのように推移しているのでしょうか?
近年、看護師養成学校の定員者数や入学者数、看護系大学数が増加しており、看護師をめざす方が増えています。
その結果、2010年時点の看護師数は約132万人だったのに対し、2020年には約157万人と10年間で約24万人も増加しました。
以下のグラフは、看護師と准看護師の人数の推移を示しています。
看護師数は増加傾向にある一方で、日本の100病床数あたりの看護師数は諸外国の平均の4分の1程度となっており、まだまだ日本の看護師は、諸外国と比較して少ない人数で仕事を行っている現状があります。
【有効求人倍率は2.47】看護師の人手不足
2023年1月時点の看護師の有効求人倍率は、2.47倍です。
日本の平均有効求人倍率が1.29倍であることを踏まえると、他職種と比較して看護師の人手不足が深刻であることがわかるでしょう。
そして、看護師の有効求人倍率は常に高い傾向が続いています。
参考:一般職業紹介状況(職業安定業務統計) 一般職業紹介状況 ~令和5年1月
つまり、看護師の人数は増加傾向にあるものの、増加する需要に追いついておらず、慢性的に看護師不足の状態が続いているのです。
看護師の問題点「人手不足」の原因は?
看護師不足の原因の一つとして、さまざまな事情で離職した看護師が、そのあと看護師として復職しないケースが多いことが挙げられます。
看護師の離職率は10.6%
まずは、看護師の離職率から見てみましょう。
日本看護協会が行った調査によると、2020年度の看護師の離職率は10.6%(新卒採用者:8.2%、既卒採用者14.9%)でした。
2020年度の平均的な離職率は14.2%であり、看護師の離職率は平均よりも低い傾向となっています。
退職したあと復職しない潜在看護師の存在
女性の場合は出産や子育てなどのライフイベントでいったん仕事を退職し、子育てなどが落ち着いたタイミングで復職する方が一定数いるため、一般女性の就業率は以下のようにM字曲線になっています。
出典:コメディカル不足に関して ~看護師の人数と教育~ 看護師の離職と教育
しかし看護師の場合は、退職後に看護師として復職しない方の割合が多いことから、以下のグラフのように、就業者数は年齢が上がるほど減っていきます。
出典:コメディカル不足に関して ~看護師の人数と教育~看護師の離職と教育
看護師の資格は持っているけれども看護師として働いていない「潜在看護師」は、約79万人いるといわれています。
看護師の有資格者数は増加していても、何らかの理由で看護師として復職しない・できない看護師がいることも、看護師の需要を満たせていない要因の一つとなっているでしょう。
復職しない・できない理由として、次項で解説する看護師の退職要因が関係していると考えられます。
看護師の退職要因
看護師の退職要因として、出産・育児・結婚などのライフスタイルによる変化、超過勤務や不規則な勤務形態などの身体的負担、また近年流行している新型コロナウイルス感染症による業務負担などが挙げられます。
それぞれ具体的に見ていきましょう。
ライフスタイルによる変化
看護師が退職する理由として最も多いのが、出産や育児、結婚などのライフスタイルによる変化です。
このような理由で退職した看護師のなかには、復職を希望される方もいるでしょう。
しかし、子育てや家事と両立できるような形で働きたいと考えている方のなかには、「夜勤をすることができない」「短時間勤務で働きたいが、希望の職場がない」「看護師としてのブランクが長く、仕事についていけるか不安」などの理由で、復職が難しいと感じている人も多くいます。
責任の重さと業務過多
看護師の仕事はやりがいを感じることがある反面、常に命と隣り合わせであり、一つの間違いが重大な医療事故を引き起こしかねないことから、大きな責任を感じる仕事です。
また、看護師不足という現状もあり、場合によっては少ない人数で業務を回さないといけないときもあるでしょう。
そうなると、一人の看護師の受け持ち患者さんの人数が多くなったり、業務が煩雑になったりして、残業が増えてしまいます。
このような状況が続き、仕事に対する負担が大きいことも、退職の要因となっています。
不規則な勤務形態
看護師は仕事の特性上、不規則な勤務形態になってしまうことが多い職業です。
勤務先や所属部署によっても勤務形態は異なりますが、病院など24時間体制での医療の提供が必要な医療機関で働いている看護師の場合、夜勤や休日出勤はもちろんのこと、場合によっては早番や遅番、2交代制の長日勤など、さまざまな勤務形態があります。
そのため、生活リズムが不規則になりがちであり、「夜に寝れない」「疲れが取れない」など、身体的な負担を感じることもあるでしょう。
以上のような看護師特有の勤務形態が体に合わず、退職する人もいます。
コロナによる身体的・精神的負担
2020年から流行した新型コロナウイルスによって、看護師は通常の業務に加えて特別な対応をしなければいけなくなりました。
発熱や呼吸器症状がある患者さんや新型コロナウイルスに罹患した患者さんに対応する際は、防護服、フェイスシールド、N95マスクを着用するなどの特別な感染防止対応が必要です。
このような感染対応は、短い時間でも身体的に負担がかかります。
さらに、コロナ対応が求められる看護師がいることにより、他看護師の業務負担が増加してしまう原因にもなっているのです。
また、業務時間外でも感染対策を続けなければいけないことから、プライベートな時間においても外食など制限しなければいけないことや、自分自身が罹患していないかという不安など、精神的な負担を感じている看護師もいるでしょう。
新型コロナウイルスによる身体的・精神的負担は、一部の看護師が退職を考える要因となっています。
看護師以外の医療従事者不足の現状は?
看護師以外の医療従事者不足の現状は、どうなっているのでしょうか?
ここでは、医師と薬剤師の現状を紹介します。
- 医師
日本の医師数は約34万人、日本の人口1,000人あたりの医師数は2.4人となっており、諸外国(OECD)と比較すると少ない傾向です。
厚生労働省は、医師不足の地域があることを課題としており、必要な医師数を確保するため、大学の地域枠の設定やキャリア形成プログラムの策定、医師の派遣調整などの施策を行い、医師不足の解消をめざしています。 - 薬剤師
日本の薬剤師数は約32万人、人口1,000人あたりの薬剤師数は1.8人であり、諸外国(OECD)と比較して圧倒的に多いです。
看護師不足の問題点に対する政府の対策
深刻な看護師不足の現状に対して、政府は以下のような取り組みを行なっています。
- 看護師養成促進
- 潜在看護師に対する復職支援
- 職場の定着率上昇に対する支援
それぞれ見ていきましょう。
看護師養成促進
看護師数を増やすため、以下の2つの取り組みを行い、看護師の養成を促進しています。
- 大卒社会人経験者の養成
看護学以外を学んだ大卒・短大卒の社会人が、次のキャリアとして看護師をめざすことを支援する取り組みです。
具体的には、社会人経験者が看護師養成学校に入学し、安心して看護師をめざすことができるように「看護師養成所における社会人経験者の受け入れ準備・支援のための指針」を作成し、実践を促しています。 - 教育訓練給付金の拡充
看護師として働くことを目的とした養成学校の費用について、教育訓練の修了を条件として一部を負担する給付金が支給されます。
潜在看護師に対する復職支援
潜在看護師が再度看護師として働くことを考えた際に、スムーズな復職支援を行う制度です。
退職した看護師が自身の連絡先などの情報を「都道府県ナースセンター」に届けることで、復職希望時に求人情報の提供や復職するための研修、復職体験談のメールマガジンの配信などを受けることができるような体制を整えています。
さまざまなサポートを受けることで、安心して復職に向かうことができるでしょう。
職場の定着率上昇に対する支援
医療従事者全般の勤務環境を改善し、看護師の職場への定着率を改善する支援です。
医療機関が医療従事者の勤務環境を改善するために、PDCAサイクルを回して、労働環境の改善ができるようなシステムを作成しました。
また、都道府県医療勤務環境改善支援センターを通じて、医療労務管理アドバイザーや医療経営アドバイザーなど、勤務環境を改善するための情報提供ができる人の協力が得られるような体制を構築しています。
看護師の人手不足は深刻な社会問題になりつつある
看護師の人手不足は、現在だけでなく今後も続いていく社会問題となっています。
看護師がどのような環境であれば働き続けることができるのか、現場の意見を踏まえてより多くの看護師が安心して働き続けることができる環境や体制を作っていくことが必要です。
今回の政府の対策が、看護師不足の問題を解決してくれることを祈っています。