
看護師が特定の専門分野のスペシャリストとしてキャリアアップを考えたとき、認定看護師の資格を取得するという選択肢があります。
日本看護協会が認定を行う資格のなかでも、ウォックナースは「皮膚・排泄ケア」に関する専門知識と技術を持った認定看護師です。
高齢化社会の日本において、医療福祉の需要は高まっており、ウォックナースの活躍の場も広がっていくでしょう。
本記事では、ウォックナースの役割や資格取得方法、就業先の例、資格取得のメリットなどを解説します。
目次
ウォックナースとは
ウォックナースは、患者さんが抱えている皮膚の損傷や排泄の問題に対して、専門的なケアを提供する認定看護師です。
医療福祉の現場におけるウォックナースの役割や、対応できる診療補助行為を見てみましょう。
皮膚・排泄ケア認定看護師のこと
ウォックナースとは、創傷(Wound)、オストミー(Ostomy)、失禁(Continence)の分野で、高い看護を実践できる技術や知識を持っている認定看護師のことです。
これらの頭文字をとりWOC認定看護師と呼ばれていましたが、一般の方々にもわかりやすいよう、2007年7月に「皮膚・排泄ケア認定看護師」へと名称変更されました。
WOCナースの需要は高い
日本は現在、高齢化社会を迎えており、医療福祉分野での人材確保が喫緊の課題とされています。
厚生労働省のデータによれば、2019年の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳であったのに対し、健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳でした。
このように平均寿命と健康寿命には差があり、年齢を重ねるなかで健康上の問題が発生し、それまでどおりの日常生活を送ることが困難になってしまう方も少なくありません。
場合によっては、寝たきりの状態が長く続いたり、自分一人では動けなくなったりする方もいるでしょう。
ウォックナースは、褥瘡(床ずれ)の予防・改善や失禁ケアを専門とする存在であり、病院や施設のほか訪問看護ステーションなど、さまざまな場所で需要があるといえます。
ウォックナースの役割
ウォックナースは、創傷(Wound)、オストミー(Ostomy)、失禁(Continence)の頭文字をとったWOCの分野において、それぞれ重要な役割を担っています。
各分野でのウォックナースの役割を詳しく見てみましょう。
Wound(創傷)
ウォックナースは、皮膚の創傷やトラブルに対する処置方法、環境の整え方について実施と指導を行います。
傷ができやすい皮膚や乾燥している皮膚などに対し、どのようなケアを行うことで創傷予防につながるのかを検討・提案・選択することも役割の一つです。
さらに、適切な薬剤を選択する際に医師・薬剤師・病棟スタッフへ相談・提案することも、ウォックナースの仕事となります。
Ostomy(オストミー)
オストミーとは、ストーマを造設する手術を意味しますが、転じて造設されたストーマ(人工肛門や人工膀胱)を指すこともあります。
ウォックナースは、ストーマの管理方法を患者さん・看護師・介護者に伝えるほか、ストーマ周囲のただれや皮膚の状態のケアを担う存在です。
これからオストミーを造設する患者さんの相談に乗り、日常生活でのアドバイスをする場面もあります。
Continence(失禁)
尿・便失禁による皮膚のただれを防ぐため、適切なおむつの当て方や保湿剤を選択するとともに、悪化させず改善に向かうよう関わることも、ウォックナースの仕事です。
加齢や疾患によって排泄を抑制する機能が低下してしまっている方には、失禁が原因となる皮膚トラブルを予防するためのアドバイスをする場面もあるでしょう。
また、失禁を改善するための骨盤底運動や、肥満・便秘に対する日常生活上の注意点を伝えることも、ウォックナースの役割に含まれます。
デブリードマンや陰圧閉鎖療法が可能
ウォックナースが特定行為を履修し取得すれば、デブリードマンや陰圧閉鎖療法が可能になります。
特定行為とは、特定行為研修の修了により医師からの事前指示書(手順書)のもと実施できる、特定の診療の補助行為です。
現時点では38の行為が特定行為に該当しています。
事前指示書がある場合、医師の指示を待つことなく、皮膚・排泄ケアに長けているウォックナースの判断で、必要な処置を必要な患者さんに迅速に届けることが可能です。
これにより、患者さんのQOL向上や治癒促進につながることが期待できます。
ウォックナースになるためには資格が必要
ウォックナースになりたい場合、以下の流れで資格を取得する必要があります。
- 教育機関入学のための要件を満たす
- 認定看護師教育機関へ入学する
- 教育課程を修了し認定看護師認定審査に合格する
- 皮膚・排泄ケア認定看護師として登録する
満たすべき基準やポイントを、ステップごとに解説します。
教育機関入学のための要件を満たす
ウォックナースの教育機関に入学するには、原則として正看護師の資格を取得したうえで、通算5年以上の実務経験を積んでいなければなりません。
そのうち3年以上は、認定看護分野での実務研修であることが条件です。
特定行為研修が組み込まれていないA課程(2026年度で終了)と特定行為研修を組み込んだB課程では、求められる実務研修内容の基準が異なります。
A課程とB課程それぞれで望まれる実務研修内容の基準は、下表のとおりです。
課程 | 実務研修内容の基準 |
A課程 | ● 外科系領域もしくはスマートケアを実施する施設で通算3年以上の看護実績を積んでいる ● 特定看護分野の実績を持っている(ストーマ造設患者の看護を1例以上と、創傷もしくは失禁ケア分野の看護を4例以上) ● ストーマ、創傷、失禁ケアを行う施設が現在の勤務先である(※推奨) |
B課程 | ● 皮膚・排泄ケア領域で通算3年以上の看護実績を積んでいる ● 特定認定看護分野の実績がある(皮膚・排泄ケア領域の看護5例以上、うち創傷・ストーマ排泄管理の実績を各1例以上含む) ● 皮膚・排泄ケアを行う施設で現在勤務している(※推奨) |
認定看護師教育機関へ入学する
ウォックナースになるには、認定看護師教育機関へ入学し、必要な教育課程を修了することが必要です。
A課程とB課程では、受講時間や主な教育機関、開講期間が異なります。
2024年時点での受講時間、教育機関、開講期間は以下のとおりです。
A課程 | B課程 | |
受講時間 | 645時間(+290時間) | 808時間 |
教育機関 | ● 福岡県看護協会 | ● 日本看護協会看護研修学校 ● 石川県立看護大学附属看護キャリア支援センター ● 静岡県立静岡がんセンター認定看護師教育課程 ● 京都橘大学看護教育研修センター |
開講期間 | 7ヵ月以内 | 12ヵ月以内 |
すべての都道府県にウォックナースの教育機関があるわけではありません。
各教育機関で定員数も定められており、年度によっては早めに受付が終了してしまう場合もあるため、事前に確認しましょう。
教育課程を修了し認定看護師認定審査に合格する
教育課程を修了後、認定看護師になるためには、年に一度行われている認定審査に合格しなくてはなりません。
認定審査を受けるには、受験資格のすべてを満たす必要があります。
受験資格は以下のとおりです。
- 日本国の看護師免許を有する方
- 看護師免許の取得後、実務研修を通算5年以上受け、うち通算3年以上は特定の認定看護分野での実務研修であること
- A課程認定看護師教育機関もしくはB課程認定看護師教育機関、または外国でこれらと同等と認められる教育の修了者であること
認定審査の申し込みは、「資格認定制度 審査・申請システム」からWeb申請ができます。
個人情報の登録後に必要書類を提出し、審査料として51,700円を振り込めば受験が可能です。
認定看護師認定審査は、100分間の筆記試験で、四肢択一のマークシート方式が採用されています。
試験当日に向けて実績を積むとともに、計画的に勉強を進めましょう。
皮膚・排泄ケア認定看護師として登録する
認定審査に合格したら、51,700円の認定料を振り込み、「資格認定制度 審査・申請システム」から公開情報の登録手続きを行います。
なお、皮膚・排泄ケア認定看護師の資格は、知識と技術を維持するため5年ごとに更新しなければなりません。
更新が必要な年にはハガキが届くため、忘れずに審査を受けましょう。
ただし、更新審査にあたっては、次の要件を満たしている必要があります。
- 申請時点で認定看護師であること
- 申請時点で過去5年のうちに次の実績があること
○ 看護実践時間が2,000時間以上
○ 自己研鑽実績が50点以上
認定看護師の更新審査料は、30,800円です。
申請手続きと同様に、更新手続きの際も上記システムから申請を行います。
更新手続きを忘れた場合、認定看護師の資格を失効してしまうため注意が必要です。
ウォックナースの活躍の場
ウォックナースは、病院をはじめとして訪問看護ステーション、介護保健施設など、さまざまな場所で活躍しています。
下表は、認定看護師の就業先とそこで働くウォックナースの人数をまとめたものです。
皮膚・排泄ケア (A課程) |
皮膚・排泄ケア (B課程) |
|
病院 | 1,672 | 709 |
訪問看護ステーション | 82 | 20 |
クリニック・診療所 | 29 | 10 |
介護保険施設など | 16 | 2 |
学校・大学 | 39 | 4 |
認定看護師教育機関 | 1 | 4 |
会社 | 19 | 4 |
看護協会 | 4 | 0 |
その他 | 13 | 0 |
離職中 | 91 | 8 |
合計 | 1,966 | 761 |
参照元:分野別所属先種別登録者数一覧(2023年12月末現在)│公益財団法人日本看護師境界
ここからは、病院・訪問看護ステーション・介護保険施設を例に挙げ、各就業先でのウォックナースの働き方を解説します。
病院
病院では、鎮静がかかっている患者さんや動くことのできない患者さんに対し、褥瘡の予防のための方法、褥瘡形成後の処置方法などを伝達・提案します。
ストーマ造設後の患者さんに対しては、オストミー管理の方法を伝えるほか、ストーマ外来を通して、退院後も問題なくオストミーを管理できているかを確認することが仕事です。
創傷ケアのため、ときには医師や看護師だけでなく、薬剤師、管理栄養士などの協力を仰ぐ場面もあるでしょう。
ウォックナースは、多くの職種と協力しながら、患者さんの皮膚・排泄ケアの質向上に努める必要があります。
訪問看護ステーション
自宅で介護するなかで深い褥瘡ができてしまったり、人工肛門や人工膀胱の管理がうまくいかなかったりする場合でも、外来に通うことが難しい利用者さんは少なくありません。
そこで、訪問看護ステーションに在籍するウォックナースは、利用者さんの自宅まで伺って必要なケアを提案し、適切な処置方法をご家族や本人に伝えます。
利用者さんやご家族の不安を払拭し、在宅での療養生活を支えることが、ウォックナースの重要な仕事の一つです。
介護保険施設
介護保健施設で働くウォックナースの仕事は、寝たきりの利用者さんや、皮膚が脆くすぐに損傷を起こしてしまう方などに対する処置とケアの提案です。
病院に比べると看護師の人数が少ないため、介護保険施設ではウォックナースとしての仕事以外に、介護業務などにも携わる必要があるでしょう。
多職種と協働しながら、利用者さんの皮膚・排泄トラブルの予防と改善に取り組むことになります。
ウォックナースを取得するメリット
ウォックナース資格の取得には、次のようなメリットがあります。
- 専門性を磨くことができる
- やりがいが向上する
- 転職時に有利
認定看護師となるには教育課程の修了や一定の実務経験、試験への合格など、乗り越えるべきハードルがいくつもありますが、特定分野のスペシャリストとして働くことが可能です。
このため、やりがいが向上するだけでなく、転職にも有利になるでしょう。
専門性を磨くことができる
ウォックナースになると、皮膚・排泄ケアに特化した認定看護師として、専門分野における知識と技術を高められます。
皮膚・排泄ケアは、病院をはじめとして介護保険施設、大学病院など、さまざまな場所で必要かつ重要性が高く、日々の業務のなかでも専門性を磨き続けられるでしょう。
ウォックナースの資格取得後も、5年ごとに更新が必要となることから、継続的にスキルアップしていかなければなりません。
経験を積むなかでスキルの水準が高まれば、患者さんやご家族にもより質の高いケアを提供できます。
就業先によっては、資格手当などによる給与アップも期待できるでしょう。
やりがいが向上する
ウォックナースは、患者さんだけでなく、そのご家族や周りの医療従事者たちから感謝をされる機会もある仕事です。
患部の状態が改善したり痛みがとれたり、皮膚損傷がきれいになったりと、ウォックナースによるケアは目に見える結果につながりやすいといえます。
患者さんをはじめ、さまざまな方から頼られ直接感謝されることから、日々の業務にやりがいを感じられるでしょう。
転職時に有利
看護師が転職する際、資格を持っていることで有利になる可能性があります。
なかでもウォックナースは、高齢化が進むなか医療福祉の現場でのニーズも高まっており、就職先の選択肢も幅広いのが特徴です。
病院への転職はもちろんのこと、訪問介護や介護保険施設など、さまざまな場所で活躍できるでしょう。
キャリアアップをめざす看護師にとって、ウォックナースの資格は大きな武器となります。
皮膚・排泄ケアのスペシャリストであるウォックナースをめざそう
ウォックナースは、日本看護師協会によって皮膚・排泄ケアの知識と技術を認められた認定看護師です。
患者さんのQOL向上に貢献するため、病院をはじめ訪問看護ステーションや介護保険施設など、さまざまな場所で活躍しています。
ウォックナースになるためには、教育課程の修了や認定審査の合格など、いくつかの条件をクリアしなければならず、一定の実務経験も必要です。
しかし、資格を取得した暁には、皮膚・排泄ケアに関する専門性を磨きながら働くことができ、転職時にも有利になるでしょう。
認定看護師としてキャリアアップしたい方は、ウォックナースを選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。