
ハイリスク薬とは、投与量や服用期間などの使用方法に注意が必要な薬のことです。
適切な服薬管理を行わないと重大な副作用が起こる可能性があるため、薬剤師による薬学的管理が不可欠となります。
本記事では、ハイリスク薬の定義や服薬指導のポイント、算定できる加算について解説します。
目次
ハイリスク薬とは
ハイリスク薬とは、使用方法によっては重大な副作用が起こる可能性がある薬のことです。
適切な管理が必要不可欠であり、薬剤師による丁寧な服薬指導が求められます。
ここからは、厚生労働省と薬剤業務委員会によるハイリスク薬の定義や、安全管理が必要なハイリスク薬の種類について解説します。
厚生労働省の定義
平成19年3月の厚生労働化学研究「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアルでは、以下のような薬がハイリスク薬とされています。なお、医療提供施設によってハイリスク薬の定義が異なるため、ここでは一つの例としてご覧ください。
- 投与量等に注意が必要な医薬品
- 休薬期間の設けられている医薬品や服用期間の管理が必要な医薬品
- 併用禁忌や多くの薬剤との相互作用に注意を要する医薬品
- 特定の疾病や妊婦等に禁忌である医薬品
- 重篤な副作用回避のために、定期的な検査が必要な医薬品
- 心停止等に注意が必要な医薬品
- 呼吸抑制に注意が必要な注射剤
- 投与量が単位(Unit)で設定されている注射剤
- 漏出により皮膚障害を起こす注射剤
薬剤業務委員会での定義
薬剤業務委員会では、以下の薬をハイリスク薬としています。
- 治療有効域の狭い医薬品
- 中毒域と有効域が接近し、投与方法・投与量の管理が難しい医薬品
- 体内動態に個人差が大きい医薬品
- 生理的要因(肝障害、腎障害、高齢者、小児等)で個人差が大きい医薬品
- 不適切な使用によって患者さんに重大な害をもたらす可能性がある医薬品
- 医療事故やインシデントが多数報告されている医薬品
- その他、適正使用が強く求められる医薬品
厚生労働省と薬剤業務委員会の定義には共通点が多く見られます。
ハイリスク薬では、適切な投与量の管理や、併用禁忌の確認、副作用のモニタリングなど、慎重な対応を行うことが重要です。
特に安全管理が必要なハイリスク薬の種類
ハイリスク薬の適応疾患は悪性腫瘍やてんかん、不整脈などがあります。
平成28年度に行われた診療報酬改定において、薬剤管理指導料1のハイリスク薬と分類されました。
特に安全管理が必要だとされている薬は以下のとおりです。
- 抗悪性腫瘍剤(抗がん剤)
- 免疫抑制剤
- 不整脈用剤
- 抗てんかん剤
- 血液凝固阻止剤
- ジギタリス製剤
- テオフィリン製剤
- カリウム製剤(注射薬に限る)
- 精神神経用剤
- 糖尿病用剤
- 膵臓ホルモン剤
- 抗HIV薬
これらの薬剤は、重大な副作用を引き起こす可能性があるため、リスク管理が必要不可欠です。
薬剤師は患者さんの状態を把握し、適切な服薬指導を行うことが求められます。
ハイリスク薬の薬学的管理指導で行うべき指導内容
ハイリスク薬を投与する際は、薬剤師による薬学的管理が必要不可欠です。
患者さんが医師から受けた説明内容を確認し、さらに薬剤師の視点から普段の生活環境などをヒアリングして、得られた情報に即した適切な服薬指導を行う必要があります。
特に、ハイリスク薬の薬学的管理指導を行う際には、以下の5項目は必ず確認しなければなりません。
- 患者さんに対する処方内容(薬剤名、用法・用量等)の確認
- 服用患者さんのアドヒアランスの確認(飲み忘れ時の対応を含む)
- 副作用モニタリングおよび重篤な副作用発生時の対処方法の教育
- 効果の確認(適正な用量、可能な場合の検査値のモニター)
- 一般用医薬品やサプリメント等を含め、併用薬および食事との相互作用の確認
必要な情報を収集し、患者さんの状態を把握することで、適切な服薬指導を行えるようになるでしょう。
薬剤師は、患者さんの安全を最優先に考え、丁寧な対応を心がける必要があります。
保険薬局や病院で算定できるハイリスク薬の加算
ハイリスク薬の投与には、薬剤師による丁寧な服薬指導が欠かせません。
算定要件を満たしてハイリスク薬を投与した場合、特定の薬剤管理指導料を算定できます。
病院だけでなく保険薬局で調剤した場合も算定可能です。
ここからは、特定薬剤管理指導加算の算定要件について解説します。
特定薬剤管理指導加算1の算定要件
特定薬剤管理指導加算1は、患者さんまたはそのご家族に対して、処方された薬が安全管理が必要であることを伝え、適切な指導を行った場合に算定できる加算です。
処方箋1回の受付につき1回限り算定でき、算定した場合は薬剤服用歴の記録に患者さんやご家族に行った指導の内容を記載する必要があります。
対象としては、抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤、不整脈用剤、抗てんかん剤など12種類の医薬品が指定されています。
また、従来と同一の処方内容に対しても、特に必要とされる内容について重点的に指導を行い、その内容を薬剤服用歴の記録に記載することで、継続して加算を算定することが可能です。
薬剤師は、ハイリスク薬の特性を理解し、患者さんにわかりやすく説明することが求められます。
患者さんの理解度を確認しながら、丁寧な服薬指導を行うことが大切です。
特定薬剤管理指導加算2の算定要件
特定薬剤管理指導加算2は、2020年の調剤報酬改定により新設された加算です。
副作用のモニタリングや服薬状況の確認など、きめ細やかな対応が求められるがん治療中の患者さんに対して、適切な薬剤管理指導を行った際に算定できます。
特定薬剤管理指導加算2は、算定要件として施設基準が定められていることに注意しましょう。5年以上の勤務経験がある薬剤師が勤務していることや、患者さんのプライバシーに配慮した設備があることなどの条件を満たしたうえで、あらかじめ届け出ておく必要があります。
また、診療報酬の連携充実加算を届け出ている医療機関で、抗悪性腫瘍剤を注射されたがん治療中の患者さんに対し、抗悪性腫瘍剤等を調剤する保険薬局の保険薬剤師が以下の3点をすべて実施したときに限って月に1回のみ算定できます。
- 患者さんの治療計画書などを確認し、必要な薬学的管理および指導を行うこと
- 患者さんの服用状況や副作用の有無などを、電話などで患者さんやそのご家族等に確認すること
- 2.の確認結果を、当該保険医療機関に文書で提供すること
令和6年度診療報酬改定で特定薬剤管理指導加算3が追加される見込み
令和6年度診療報酬改定で、特定薬剤管理指導加算3が追加される見込みです。
特定薬剤管理指導加算3は、処方された薬剤に対して重点的な服薬指導が必要だと薬剤師が判断した場合に算定が認められるもので、患者さん一人につき、初回の処方1回に限って5点を算定できます。
対象薬剤は、以下の4つです。
- 選定療養の対象となる長期収載品
- 医薬品の供給不足により、前回調剤された銘柄から別の銘柄に変更された医薬品
- ブルーレターやイエローレターが発出された医薬品
- 初めて処方され、リスク管理計画が策定されている医薬品
薬剤師は、患者さんの状態を適切に評価し、必要な服薬指導を行うことが求められるでしょう。
丁寧な対応を心がけ、患者さんの安全を最優先に考えることが大切です。
ハイリスク薬の薬学的管理指導での注意点
ハイリスク薬の薬学的管理指導を行う際は、以下の点に注意する必要があります。
- 薬剤名、用法用量、投与期間、休薬期間などの確認をする
- 薬剤に対する不安への対応、感染症予防のための説明などを徹底し、患者さんのアドヒアランスを高めて適正な服薬を促す
- 副作用の可能性や重篤な副作用が発生した際の対処法をしっかり指導しておく
- 可能であれば検査値をモニターして、適正な用量や効果を確認する
患者さんの状態を適切に把握し、必要な情報を収集することが大切です。
副作用のモニタリングや服薬状況の確認など、きめ細やかな対応を心がけましょう。
ハイリスク薬加算を算定するための薬歴の書き方
ハイリスク薬を投薬したときも、通常の薬を投薬したときと薬歴の書き方は基本的に同じです。
しかし、服薬状況や副作用の発現、バイタルサインなどの細かい情報も記載するのが望ましいとされています。
ここからは、ハイリスク薬加算を算定する際の薬歴の記載事項について解説します。
検査値やバイタルサインを記載する
検査値やバイタルサインがわかる場合は、記載することが大切です。
あわせて、服薬状況や副作用、併用薬の有無などもわかる範囲で記載しましょう。
薬歴には、患者さんの状態を適切に評価するために必要な情報を記載することが求められています。
詳細な情報を記載することで、より患者さんの状況に即した服薬指導を行うことができるでしょう。
プロブレム以外は箇条書きする
SOAP形式で記入している場合、プロブレム以外は箇条書きで書くのが一般的です。
自分以外の薬剤師が見ても薬歴から状況がわかるように、必要な内容を簡潔にわかりやすく記載しましょう。
薬歴は、患者さんの状態を適切に評価し、必要な情報を収集するために重要な役割を果たします。
患者さんの安全を最優先に考え、適切な内容を簡潔に記載することが大切です。
ハイリスク薬に関するQ&A
ハイリスク薬の対応にあまり慣れていない薬剤師もいるでしょう。
そのような方のために、ここではハイリスク薬の服薬指導に関するポイントや注意点を解説します。
疑問や不安な点があれば、参考にしてみてください。
服薬指導で「毎回同じことを聞かれる」と言われたらどうしたら良いですか?
「ハイリスク薬の薬学的管理指導での注意点」で説明したように、必要な内容は必ず確認する必要があるので、「毎回同じことを聞かれる」と思われるケースもよくあります。
「毎度繰り返しとなりますが、大切な内容なのでいくつか確認させてください」と断りを入れてから服薬指導を行うのが良いでしょう。
患者さんの理解を得ながら、丁寧な服薬指導を行うことが大切です。
患者さんの気持ちにも寄り添いながら、必要な情報をスムーズに漏れなく確認することが求められます。
ハイリスク薬でも加算を算定できない例はありますか?
ハイリスク薬に該当するものでも、適応外の処方は加算の対象とならないことがあります。
例えば、複数の適応がある薬剤が、特定薬剤管理指導加算の対象範囲とされている適応以外の目的で処方されている場合などです。
特定薬剤管理指導加算は、あくまで対象範囲内での処方に限り加算されます。
薬剤師は、処方内容を適切に評価し、必要な服薬指導を行うことが求められます。
ハイリスク薬の投与はより一層の注意が必要
ハイリスク薬とは、投与量や服用期間など使用方法に注意が必要な薬のことを指します。
重大な副作用を引き起こす可能性があるため、薬剤師による適切な服薬指導が不可欠です。
本記事では、ハイリスク薬の定義や服薬指導のポイント、算定できる加算について解説しました。
薬剤師は、患者さんの状態を適切に把握し、必要な情報を収集することが大切です。
副作用のモニタリングや服薬状況の確認など、きめ細やかな対応を心がけましょう。