
ケアマネジャーのアセスメント業務は、利用者さんやご家族を支える重要な仕事です。
単にアセスメントシートに沿って話を聞き、ケアプランを作成するといった単純作業ではありません。
本記事では、ケアマネジャーとして介護を支えるアセスメントの概要や、流れ、アセスメント時に気をつけるポイントなどを解説します。
利用者さんやご家族をイメージしながら、アセスメント業務のコツをつかんでいきましょう。
目次
ケアマネジャーによるアセスメントの概要
ケアマネジャーの仕事に、アセスメントがあります。
アセスメントは次の3つの視点から概要をとらえると良いでしょう。
- アセスメントの役割
- アセスメントの重要性
- アセスメントとモニタリングの違い・位置づけ
それぞれわかりやすく説明します。
アセスメントの役割
一般的な「アセスメント(assessment)」は、客観的な調査や評価を意味する語です。
介護においては、利用者さんの身体の状態やご家族の思いなどを情報収集し、最適な支援を考えていくことを指します。
最適な支援を実施するために、医療関係者からも利用者さんの情報を得て、分析するプロセスが大切です。
ケアマネジャーの視点だけではなく、多角的な視点から利用者さんの情報を得ると、利用者さんの全体像をつかみやすく、よりニーズにあった支援ができるでしょう。
アセスメントの重要性
利用者さんの希望に寄り添い、安心してもらうためにもアセスメントは重要です。
アセスメントは、利用者さんの健康状態や生活環境、ご家族との関わりなどの全体像を把握して、適切な支援を提供するために行います。
例えば、介護度が同じ利用者さんがいても、支援内容が同じだとは限りません。
また、アセスメントで作成したケアプランは、他の介護職員とも共有します。
介護職員のさじ加減で支援するのではなく、ケアプランに準じて行うと、一貫した支援ができて効果が高まるでしょう。
アセスメントとモニタリングの違い・位置づけ
よく、アセスメントとモニタリングを混同してしまいますが、それぞれに違う目的があります。
アセスメントは、利用者さんに寄り添ったケアプランを作成するために行う面談です。
必要な支援を組み立てて介護サービスを実行していきます。
モニタリングは、ケアプランに基づいた介護サービスが提供されているか確認把握し、要望や感想などを得るための面談です。
アセスメントによる予測を、モニタリングで確認する流れで、月に1回程度行います。
ケアマネジャーのアセスメントの流れ
ケアマネジャーによるアセスメントでは、単に利用者さんやご家族に状況を聞けば良いわけではありません。
次の6つの流れに沿って進めていくと良いでしょう。
- アセスメントシートを利用して情報収集をする
- スクリーニングで項目をピックアップする
- スクリーニングした項目から問題を掘り下げる
- 生活への支障・原因を把握する
- ご本人やご家族の意向を確認する
- ケアプランを考える
それぞれ詳しく解説します。
アセスメントシートを利用して情報収集をする
まずは、アセスメントシートを活用して、利用者さんの情報収集を行います。
面談する前に、利用者さんと関係のある次のような専門職から話を聞いておきましょう。
- かかりつけ医
- 看護師
- 医療ソーシャルワーカー
- 介護相談員
事前情報を得ておくと、利用者さんやご家族との面談でより情報を把握しやすく、理解が深まります。
利用者さんとご家族との面談当日は、直接話を聞ける重要な機会です。
丁寧な対話で信頼関係を築きながら、アセスメントシートの項目に沿ってヒアリングしていきましょう。
スクリーニングで項目をピックアップする
スクリーニング(screening)とは、ふるい分けるという意味で使われる言葉です。
専門職や利用者さん、ご家族などの各方面から聞いた話をもとに、生活に支障があるかどうかで項目を分類していきます。
利用者さんの状況は支援の条件にも関わってくるため、生活にどの程度支障があるのか、スクリーニングでの見極めは大切です。
スクリーニングで項目をピックアップすると、支援すべき重要度がわかりやすくなり、利用者さんのニーズに合った支援サービスを提供できるでしょう。
スクリーニングした項目から問題を掘り下げる
スクリーニングして見つかった、生活に支障が生じる項目をさらに掘り下げ、問題を明確にしていきます。
なかでも問題点を明らかにするのが難しいのは、過去に介護を受けていないケースです。生活上困難に直面した場面を細かく聴き取り、適切な介護サービスを選択する必要があります。
例えば、一人でトイレに行く際に転んでしまう、といった生活への支障を把握したら、「なぜ転ぶのか」を掘り下げていくと良いでしょう。
生活への支障・原因を把握する
スクリーニングした項目を掘り下げたら、次に生活に支障をおよぼす原因を把握していく必要があります。
例えば、一人でトイレに行く際に転んでしまうという支障において、身体の痛みや病気が原因である可能性もあるでしょう。
生活に支障をきたす原因は、病気や認知症、精神疾患などさまざまです。
原因を特定すると、マッチ度が高い介護サービスを提供でき、利用者さんの満足度も高められます。
問題を深掘りして、適切に原因を把握しましょう。
ご本人やご家族の意向を確認する
生活におよぼす支障や問題点を明確にしたら、すぐに介護サービスの提供を開始するというわけではありません。
利用者さんやご家族が、問題解決に向けて、どのような方法を望むのかを確認する必要があります。
例えば、生活に特定の支障が生じている場合、どのような状態になりたいかを聞き取ります。
利用者さんやご家族が答えやすくなるよう、あらかじめ質問事項を伝えたり、「答えられる範囲で大丈夫です」と配慮の言葉を添えると良いでしょう。
ご本人やご家族の意向に沿ってプランを考えていきます。
ケアプランを考える
これまで得た情報、利用者さんやご家族の思いをもとに、ケアプランを考えます。
ケアプランは、対応すべき介護と医療対応を明確にして、利用者さんの望みを達成できるような内容にしましょう。
また、介護サービスを受けてみての感想やニーズの変化などに合わせて、ケアプランを再作成するケースもあります。
目標を達成するために、利用者さんの状況を把握して適切なケアプランを作成しましょう。
ケアマネジャーが書くべきアセスメントの内容
ケアマネジャーはアセスメントで次の内容を記入していきます。
- 基本情報に関する項目
- 課題分析(アセスメント)に関する項目
それぞれの項目を合わせると23項目あります。
以下で紹介するので、実際のアセスメントをイメージしてみてください。
基本情報に関する項目
基本情報に関する項目は9項目あります。
項目名 | 項目の内容例 |
---|---|
基本情報(受付、利用者等基本情報) | 氏名、性別、生年月日、ご家族などの情報など |
生活状況 | 現在の生活状況や生活歴など |
利用者の被保険者情報 | 介護保険、医療保険、身体障害者手帳の有無、生活保護など |
現在利用しているサービスの状況 | 現在受けているサービス状況 |
障害老人の日常生活自立度 | 障害老人の日常生活自立度 |
認知症である老人の日常生活自立度 | 認知症の老人である日常生活自立度 |
主訴 | 利用者さん、ご家族の主訴、要望など |
認定情報 | 要介護状態区分、支給限度額などの認定結果 |
課題分析(アセスメント)理由 | 課題分析の理由 |
出典:「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」の一部改正等について
以上の基本情報は、次のアセスメント項目よりも確認しやすいですが、丁寧なコミュニケーションを重ねて信頼関係を築きながらヒアリングしていきましょう。
課題分析(アセスメント)に関する項目
課題分析(アセスメント)に関する項目は14項目あります。
項目名 | 項目の内容例 |
---|---|
健康状態 | 既往歴、主な傷病、症状、痛みなど |
ADL | 寝返り、起きあがり、歩行、着衣、入浴、排泄など |
IADL | 調理、掃除、買物、金銭管理、服薬など |
認知 | 意思決定を行うための認知能力 |
コミュニケーション能力 | 意思伝達、聴力、視力など |
社会との関わり | 社会的活動への参加意欲や、喪失感、孤独感など |
排尿・排便 | 失禁、排尿排泄の頻度、コントロールなど |
じょく瘡・皮膚の問題 | じょく瘡、皮膚の清潔状況など |
口腔衛生 | 歯、口腔内の状態など |
食事摂取 | 食事回数、栄養、水分量など |
問題行動 | 暴言暴行、徘徊、収集癖、火の不始末、介護の抵抗など |
介護力 | 介護者の有無、介護者の介護意思、負担など |
居住環境 | 住宅改修の必要性、危険個所など |
特別な状況 | 虐待、ターミナルケアなど |
出典:「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」の一部改正等について
アセスメント項目は14もあり、一度に質問すると拒否感や不信感を抱かれる場合もあります。
信頼関係を築きながら、時間をかけて丁寧に聴くのも大切です。
数回に分けてアセスメントしても漏れがないように、アセスメントシートを活用しましょう。
ケアマネジャーとしてアセスメント時に気をつけること
ケアマネジャーは、アセスメント時に次の4つに気をつけましょう。
- いきなり多くを質問せず困りごとを引き出す
- 相手を理解するために情報収集をする
- 表面上の情報だけではなく想像力を働かせる
- 相手のニーズを把握する
確認事項だけを聞いてケアプランを作成するのでは、利用者さんに寄り添った介護サービスの提供は難しくなります。
アセスメント時に気をつけるポイントを解説するので、具体的にイメージしてみてください。
いきなり多くを質問せず困りごとを引き出す
限られた時間内に多くを質問して仕事を進めたいところですが、利用者さんやご家族はいきなり見ず知らずのケアマネジャーから質問を多くされると、警戒してしまいます。
答えにくい質問が続くと、本音で話せない人もいるでしょう。
まずは、相手のペースに合わせて進行し、信頼関係を築く必要があります。
また、一方的な質問ではなく、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンを使い分けて、困り感を引き出していきましょう。
相手を理解するために情報収集をする
利用者さんやご家族の、気持ちやニーズに寄り添ったアセスメントを行うには、さまざまな角度から情報収集して、理解を深める必要があります。
利用者さんのなかには戦争や災害などを経験している方もいて、個性や生き方に影響を与えている可能性もあるでしょう。
特別な事情についても関係機関から情報を得ておくと、理解を深められます。
また、他のケアマネジャーのアセスメント事例も知っておくと、実際のアセスメントでも活用できるでしょう。
表面上の情報だけではなく想像力を働かせる
関係機関による利用者さんの情報や、ご本人やご家族から聞き出した情報だけでは、表面的な理解だけで本質的な原因をとらえにくくなります。
言いづらくて、伝えられない情報もあるかもしれません。
ちらりと見せるご家族の目配せも、何かのサインである可能性があります。
本質をとらえるためにも、表面上の情報にとらわれず、想像力を働かせましょう。
相手のニーズを把握する
行動の背景や生活の支障など、具体的に状況を把握し、起こりうる問題を洗い出しておくと、潜在的なニーズにアプローチできるでしょう。
例えば、転んで怪我をした経験がある利用者さんが、自力でトイレに行きたい場合、起こりうる危険には何があるかを洗い出します。
ご本人が気付いていない潜在的なニーズを把握すると、問題解決の糸口にもなるでしょう。
介護度が同じでもニーズや支援内容は異なります。
他の利用者さんと同じだと決めつけないようにしましょう。
初心者ケアマネジャーのアセスメント時によくある質問
ケアマネジャーとして活躍したい初心者さんからの、アセスメント時によくある質問を紹介します。
アセスメントの書き方にポイントはありますか
アセスメントシートは、誰が見てもわかるように書きましょう。
書くときは次のポイントを取り入れるのがおすすめです。
- いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように(5W1H)を書く
- 一人でできる範囲とできない範囲を書き分ける
- やりたがらないことを明確にする
- 「娘」ではなく「長女」のように、主語を明確にする
- 正式名称で書く
- 客観的事実を書く
適切な訪問時間はありますか
訪問時間は常識の範囲内で設定する必要があります。
1回あたりの面談は1時間程度が無難です。
訪問先に1時間程度確保できる候補日を聞いて、日時を調整しましょう。
必要な時間を伝えなかったり、1時間以上かかったりすると、互いにスケジュールを立てにくく、負担に感じてしまいます。
面談が負担になると信頼関係も築きにくくなるため、相手に配慮した訪問時間を設定しましょう。
訪問時のマナーはありますか
訪問時のマナーを守ると、相手からも信頼を得られて気持ちの良い面談となります。
例えば、次のようなマナーは守るようにしましょう。
- 身だしなみを整える
- 名刺を準備しておき、両手で丁寧に渡す
- 自分の名前だけではなく、役割をわかりやすく説明する
- お菓子やお茶は丁寧に断る
- 訪問日時は相手に負担がないように調整する
社会人としての最低限のマナーも守るようにしましょう。
ケアマネジャーとしてアセスメントで利用者に寄り添おう
ケアマネジャーとしての重要な仕事である、アセスメント。
アセスメントを通して利用者さんやご家族に寄り添って信頼関係を築いていくと、相手も相談しやすく、潜在的なニーズを把握しやすくなります。
一方的に質問をするような情報収集や、表面的な情報の分析では、利用者さんのニーズとは異なる支援を行ってしまうリスクを高めます。
利用者さんの生活背景や、生きてきた時代背景まで把握すると効果的です。
適切な目標を設定し、達成できるよう、利用者さんに寄り添えるケアマネジャーをめざしましょう。