臨床心理士の仕事に興味はあるものの、具体的な仕事内容があまりわからない方もいるかもしれません。
臨床心理士として活躍できる場所は医療現場だけではなく、企業や司法、教育現場など多様化しており、求められる知識や役割なども異なります。
各職場でどのような仕事があるかを知っていれば、自分の適正に合った職場選びができるでしょう。
本記事では、臨床心理士の働く場所や仕事内容を具体的に紹介します。
ミスマッチを防ぎ、専門職として社会貢献できるよう、臨床心理士を将来視野に入れている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
臨床心理士とはどのような仕事?具体的な業務内容
臨床心理士の仕事を簡単に説明すると、心の問題を抱えている人に対し、臨床心理学に基づいた知識と技術で援助・介入をする仕事です。
臨床心理士に求められる専門的な業務は以下になりま す。
臨床心理査定
臨床心理査定とは、心理アセスメントとも呼ばれ、さまざまな手法を用いてクライエント(相談者)への理解を深め、問題の背景を明らかにする業務のことです。
査定は、以下のような方法を用います。
- 面接
- 行動観察
- 心理テスト
特に心理テストは、法律上で発達及び知能検査、人格検査、認知機能検査、その他の検査に分類され、その種類は100を超えます。
5分程度で実施できるものから、60分以上を要するものまであり、クライエントの現状把握に適切なテストを選び、複数を組み合わせて評価をします。
心理アセスメントの目的は、クライエントの現状把握です。
クライエントを理解するためには、さまざまな角度から情報を引き出さなくてはなりません。
必要な情報を引き出し、クライエントの考え方や行動特性、社会状況などを把握したうえで、適切な支援や介入の方針を判断します。
臨床心理面接
臨床心理面接は、さまざまな臨床心理学的技法を用いてクライエントの心をサポートする、臨床心理士の中核的な業務です。
心理カウンセリングや心理療法(セラピー)とも呼ばれます。
臨床心理学的技法には、以下のような種類があります。
- 精神分析
- 遊戯療法
- クライエント中心療法
- 集団療法
- 行動療法
- 箱庭療法
- 臨床動作法
- 交流分析
- 家族療法
- 芸術療法
- 認知行動療法など
実施するのは1つとは限りません。
臨床心理査定で得られたクライエントの特徴や状況に応じて、適切なアプローチを組み合わせながら進めていきます。
臨床心理面接では、クライエントが苦しみながら自身の問題に向き合います。
臨床心理士は、その苦しい作業の伴走者のような存在です。
クライエント自身が問題改善に向けて進んでいけるよう、対話を中心に支援していきます。
臨床心理的地域援助
臨床心理的地域援助は、大きく分けて2つの活動が含まれます。
1つは、クライエント個人の問題を改善するために、クライエントを取り巻くコミュニティに働きかける活動です。
例えば、クライエントの勤務先や学校との情報共有・連携などがこれにあたります。
もう1つは、特定のクライエントではなく、地域の住民や学校、企業などに所属する人々が対象になります。
広く講演や啓発活動を行い、地域住民に対して公衆衛生的な心理学の知識を広める活動を行います。これにより、地域住民全体の生活の質が向上したり、心の問題に対する理解が促進され環境調整がしやすくなったりといった効果が期待できます。
例えば、不登校や引きこもりの子どものためのフリースペース設置を受け入れてもらえるなどがこれにあたります。
また、災害後の被災地支援なども地域援助に含まれます。
手法としては、トラウマケアや危機介入、心のケアに関する現場でのネットワーク作り、コンサルテーションなどがあります。
調査と研究活動
臨床心理士としての知識や技術を高め、臨床心理学的援助をより確実なものにするため、基礎となる臨床心理的調査や研究活動を継続的に行います。
臨床心理士は、5年ごとに資格の再認定を受けなければなりません。
その点からもわかるように、常に自身の資質を見直し学び続ける姿勢が求められているのです。
調査や研究では、多くの専門家が互いに知見を検討しあうことで、実践活動の有用性を客観的に評価することができます。
過去の事例を学ぶことで技能を高め、個人の問題解決のみならず、類似したケースでの対応や多職種との連携にも実用性を示すことができ、心理職としての専門性を向上させることにつながるでしょう。
臨床心理士が活躍できる働き場所・各職場の仕事内容
臨床心理士が活動する場所は、医療や教育、産業、司法と幅広くあります。
対象となるクライエントを取り巻く環境も異なれば、支援やアプローチもそれぞれです。
ここでは、臨床心理士が活躍できる場所や仕事内容について解説します。
医療・保健
医療・保健分野での主な勤務先は、病院やクリニック、保健所や保健センター、老人保健施設などです。
医療現場における臨床心理士の役割は、心理検査、カウンセリング、チーム医療としてのコンサルテーション等だけではありません。
患者さんやそのご家族への心理的支援を始め、以下のような役割もあります。
- 患者さんの治療意欲や満足度の向上
- 発達の問題、障害を持つ患者さんへの支援
- 生活習慣病や先天性疾患の患者さんのご家族への健康教育
- 緩和ケアを含むガン患者さんやご家族への精神的ケア
特に精神科や小児科、神経内科への配置が多く、神経難病患者の心理的支援や小児科・NICUでの母親の支援が期待されています。
専門性の高い診療科目ほど、支援する課題の内容も多様化します。
医師や看護師、ソーシャルワーカーなどの他職種と連携しながらチームで支援していかなければなりません。
保健所や保健センターでは、地域住民の健康管理や乳幼児の健康診断などにも関わります。
教育
教育の分野での活動の場は、幼稚園や小学校、中学校、高等学校など各種教育機関に加え、教育委員会の教育相談などです。
なかでもスクールカウンセラーは文部科学省が推進しており、多くの小学校、中学校、高等学校などに配置されています。
いじめや不登校、学業、進路などについて悩む児童生徒に対して、保護者や教職員と連携しながら心の支援を行います。
そのなかには、自傷行為を行ったり自殺を考えたりする生徒の支援も含まれます。
生徒の年齢が上がるほど問題も複雑化し、学校だけでなく家庭などの生徒を取り巻く環境にも目を向ける必要があるでしょう。
ご家族や教職員と情報を共有し、必要なときは専門的機関と連携を図ります。
福祉
福祉の分野での活動の場は、児童相談所や子ども家庭支援センター、療育施設、発達障害支援施設、養護老人ホーム、女性相談センターなどです。
児童相談所や女性相談センターでは、児童虐待やDVなどで心の傷を負った人への支援が必要になります。
話し手が安心して表現できるよう、受容的態度で信頼関係を築かなければなりません。
非言語コミュニケーション(身振り手振り、声のトーンなど)に配慮したり、閉じられた質問・開かれた質問を意図的に使い分けたりなど、 専門的な関係構築のスキルが必要です。
高齢者施設では、主に認知症やBPSD(精神症状や行動障害)、気分障害、不安障害などの疾患を抱えている高齢者に対して、心理検査や心理支援、他職種へのコンサルテーションを行っていきます。
そのため、高齢者やそのご家族に対する臨床心理査定の技術や介護保険を含む福祉制度の知識なども日々更新していかなければなりません。
産業・労働
産業・労働の分野での活動の場は、企業内の相談室や安全保健センター、公立職業安定所(ハローワーク)、障がい者職業センターなどです。
企業での役割は、従業員のメンタルヘルスのサポートです。
職場の悩みを抱えている従業員に対して専門的査定や面接を行ったり、産業医と連携して人事との連携や環境調整を行ったり、ストレス予防の啓蒙活動に取り組んだりします。
近年ではメンタルヘルス対策を行う中小企業に助成する制度も始まっており、メンタルヘルス対策に力を入れている部門が増えています。
ストレス社会のなか、企業での活躍が期待されているでしょう。
心の問題に向き合う臨床心理士に対して、職場環境の改善に取り組んでいるのが産業カウンセラーです。
産業カウンセラーは社団法人日本産業カウンセラー協会が定めた試験に合格して取得できる資格です。
メンタルヘルス支援の他に、キャリア形成の支援や、職場における人間関係開発・職場環境改善への支援を行います。
臨床心理士と違い、組織の中の課題と向き合うため、心理学の他に人事の知識や会社員としての常識、雇用に関する知識などが必要になります。
大学・研究所
大学や研究所では、大学教員として臨床心理学の研究や臨床心理士の養成を行う他、併設された学生相談室やカウンセリングセンターなどで学生あるいは地域住民の心理相談に応じます。
学生相談では、学生一人ひとりに合った心のサポートを行い、安定した大学生活を送れるように支援するだけでなく、これから社会に出ていく学生の人間形成をサポートします。
学生生活のなかで生じる悩みは、対人関係や学業、健康面、経済面などさまざまです。
どのような進路が良いのかわからないなど、就職活動に関する不安もあります。
その結果、ひきこもり傾向や進路未決定などの課題が生じるケースもあります。
学生の心理的不安を支え、その不安が軽減できるよう、ともに考えたり自己肯定が進んだりするよう働きかけるのが、大学・研究所で働く臨床心理士の主な役割です。
司法・法務・警察
司法分野では、家庭裁判所の他、少年鑑別所や少年院、刑務所などに法務技官として勤務します。
法務技官とは、面接や専門的な検査、調査を行い、非行や犯罪に至った原因を分析し、対象者の更生に向けた指針などを提示する専門職員です。
刑務所など刑事施設では、受刑者の改善指導プログラムやカウンセリングにも携わります。
少年鑑別所では、一般の方からの地域の非行や犯罪防止に関する心理相談にも応じます。
このような業務に関わることから、知識や技術だけでなく人間的な温かい視点も必要です。
なお、法務技官として勤務するためには、法務省専門職員(人間科学)矯正心理専門職区分によって採用される必要があります。
ここまで、働く場所別に仕事内容を説明してきました。
臨床心理士はどんな人が向いているのか、詳しく知りたい方は以下の記事がおすすめです。
職場ごとの仕事内容を理解して進むべき道を決めよう
臨床心理士として活躍できる場所は多岐に渡ります。
それぞれの分野の特徴をふまえた専門的な知識はそれぞれ異なりますが、常にスキルをアップデートする姿勢は欠かせません。
多職種との連携も多く、人柄や高いコミュニケーション能力も求められます。
自身が臨床心理士として、どのように活躍したいのか、どのような倫理観を持って働きたいのかを軸に各分野の仕事内容を理解して、今後の勤務先を考えてみましょう。
臨床心理士の年収について、詳しく知りたい方はこちらの記事を参照ください。
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