
臨床心理士の役割を簡単に表すと、心の専門家として悩みや不安を抱える人にアプローチすることです。
人々の悩みや課題解決をサポートするためには、臨床心理学に基づいた専門性が求められます。
活躍できる職域や分野が幅広いため、職域や勤務先に特化した専門性を高め、役割を果たす必要があるでしょう。
本記事では、臨床心理士の役割概要や、求められる業務と役割の関係、職域・分野ごとの役割を解説します。
臨床心理士として活躍したい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
臨床心理士の役割概要
臨床心理士には、不安や悩みを抱える方と向き合い、臨床心理学の専門家としてアプローチする役割があります。
ここでは、臨床心理士の役割や、国家資格である公認心理師と似ている点などを詳しく解説します。
臨床心理士は心の専門家
臨床心理士は心の専門家として、精神的に不安を抱える相談者さんの課題解決にアプローチする役割があります。
臨床心理士資格は民間資格ですが、医療、保健、教育、福祉、産業、労働、司法など、多岐にわたって活躍でき、心理職の現場で重宝される資格です。
勤務先やアプローチする相手によって担う役割は異なり、心理カウンセラー、産業カウンセラー、スクールカウンセラーなど呼び名も変わる場合があります。
例えば医療機関で勤務する場合は、入院・外来の患者さんをはじめ、医療従事者のメンタルにも働きかけ、心のケアを行うのが臨床心理士の役割です。
臨床心理士の役割は公認心理師と似ている
臨床心理士は公益社団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間資格ですが、公認心理師は公認心理師国家試験に合格することで得られる国家資格です。
公認心理師は公認心理師法に基づいた資格で、2017年に新設されました。
もともと臨床心理士が先に普及していたため、国家資格の新設後も勤務先や仕事内容に明確な違いがないのが実態です。
心の専門家として各機関や企業で活躍できる点は両者とも同じですが、公認心理師資格は心理系の資格で唯一の国家資格として注目を集めています。
臨床心理士に求められる具体的な業務と役割4つ
臨床心理士は、心の専門家としての役割を果たすために、次の4つの業務を実施します。
- 臨床心理査定
- 臨床心理面接
- 臨床心理的地域援助
- 調査・研究活動
4つの業務はどの職域や勤務先でも通ずる業務です。
それぞれ詳しく解説します。
臨床心理査定
臨床心理査定は心理アセスメントともいい、相談者さんの思考や行動の特性、悩みをとらえて、どのような課題を抱えているのかを明らかにします。
臨床心理士として、相談者さんの心の課題を適切に解決へと導くには、表面的ではなく根本的な課題の把握が重要です。
面接や行動観察、心理テストなどを実施して、問題の所在を把握します。
問題が判明したら、必要に応じて関係機関と連携し、どのようなアプローチを行うか検討す
る業務が、臨床心理査定です。
臨床心理面接
臨床心理面接は、相談者さんの課題に合わせて臨床心理学的技法を用いたアプローチを行う仕事です。
臨床心理士としての技量が試される専門行為で、課題解決を促すために次のような技法を実施します。
- クライエント中心療法(来談者中心療法):相談者さんの話に共感し、受容することで、新たな気付きや成長を促す療法
- 芸術療法:絵画や造形活動を通して心の内を表現して、心身のバランスを促す療法
- 認知行動療法:考え方や受け取り方などの認知にアプローチして、ストレスへの対処を促す療法
- 遊戯療法:言語表現が未発達あるいは苦手な子どもに、遊びで心を表現させたり、気持ちを整えたりする療法
いずれの療法でも、自己治癒力の向上を促し、自身での課題解決へ向けてのアプローチを行います。
臨床心理的地域援助
臨床心理的地域援助は、特定の個人ではなく、地域や学校、勤務先の職員などに、幅広く心理的支援をする仕事です。
医療機関や行政、学校、司法機関などと必要に応じて連携をはかり、地域社会の心の健康をサポートします。
心の問題を防ぐ方法についての啓発活動を行い、未然に防ぐのも臨床心理士の役割です。
心の専門家として、ストレス発散方法や心の整理の仕方など、正しい情報を発信し、心の健康を促します。
調査・研究活動
調査・研究活動は、臨床心理士としてより効果的な支援や技術を提供するために、臨床心理学を深める仕事です。
過去の事例を調査したり、援助についての仮説を検証したりすることで、より良い支援の提供へとつなげます。
臨床心理士には、資格を取得したあとも知識や技術を高め、質の良い支援を提供し続けることが求められます。
心の悩みや問題は一人ひとり異なり、なかには難易度の高い問題もあるでしょう。
過去の事例を共有したり学会発表に参加したりして、同僚や研究者から学び、自己研鑽に励むことが、今後の支援に役立ちます。
臨床心理士が職域・分野で求められる役割
臨床心理士はさまざまな職域・分野で活躍しており、それぞれ求められる役割は異なります。
臨床心理査定や臨床心理面接、臨床心理的地域援助、調査・研究活動といった業務を通して、職域・分野ごとに求められる、本質的な役割を果たす必要があるでしょう。
ここでは、職域・分野ごとに求められる臨床心理士の役割を解説します。
教育
教育分野での臨床心理士の役割には、発達障害や不登校、勉強や生活などに課題がある子どもの心理的支援が挙げられます。
子どもの心の健康は、発達特性やいじめなどが関係しているケースがあるため、学校や保護者との連携が必要です。
子どものカウンセリング以外にも、教師への助言や他機関への橋渡しなど、課題解決に適した支援を行います。
自殺や犯罪など、重大な事案となる前に子どもの心にアプローチする、重要な役割です。
医療・保健
医療・保健分野での臨床心理士の役割は、勤務先や配属先によってさらに異なります。
例えば、医療機関の場合は、入院・外来の患者さん、職員の心の健康を支援する役割が求められ、医師や看護師との連携が必要です。
保健所や精神保健福祉センターなどでは、ひきこもりやアルコール依存症などの相談者さんの課題解決に務めるといった役割があります。
地域に密着した仕事であるため、心の専門家として啓発活動を行い、心の病を未然に防ぐ役割も求められるでしょう。
福祉
福祉分野での臨床心理士の役割は、相談者さんの属性でも変わります。
例えば、発達障害のある子どもやDV被害者、高齢者などの心理的援助を通して、心身の不調を整えて、より生きやすくする役割が求められるでしょう。
相談者さんによって、抱える悩みやストレス要因はさまざまです。
児童相談所、女性相談センター、老人福祉施設などの勤務先で、求められる臨床心理士としての役割を発揮します。
労働・産業
労働・産業分野での臨床心理士の役割は、働く人のメンタルヘルスサポート、就業相談、職場復帰支援などです。
企業内で勤務する場合は、専門的な立場から働く人のワークライフバランスや職場でのストレスなどを考慮しつつ、心の健康をサポートすることが必要です。
ハローワークや障害者職業センターなどでは、就業の相談や援助を行います。
相談者さんの特性やバックグラウンドなどに配慮した、専門性が求められるでしょう。
司法・矯正
司法・矯正分野での臨床心理士には、犯罪を犯した人が更生して社会に復帰できるよう、支援を行う役割があります。
刑務所や少年院、児童自立支援施設、保護観察所などで、犯罪を犯した人にカウンセリングなどを提供して矯正をはかっていく、重要な仕事です。
また、犯罪の被害者が日常生活を送れるように、精神的問題にアプローチするのも臨床心理士の役割です。

臨床心理士の役割は職域や分野によってさらに異なる
臨床心理士の役割は、活躍する職域や分野によって異なり、高い専門性が求められます。
相談者さんが抱える悩みや課題はさまざまですが、自分が専門とする職域で臨床心理士としての役割を果たせることは、やりがいにもつながるでしょう。
また、どの職域においても問題を抱えた相談者さんの支援だけでなく、心理的問題を未然に防ぐための啓発活動も求められます。
臨床心理学に基づいた専門性を発揮するためにも自己研鑽に励んで、属する職域で役割を果たし活躍することをめざしましょう。