
看護師の方が時間外労働をした場合、残業代を受け取れます。
1日8時間以上、あるいは週40時間を超えて働いたぶんは残業代が支払われる対象です。
しかし、実際には前残業やサービス残業という形で残業代が支払われない職場も珍しくありません。
残業代を適切に受け取れない状態が続いているようなら、病院への交渉や労働基準監督署への相談も検討しましょう。
本記事では、看護師の残業代の計算方法と、未払いがあった場合の請求手順を解説します。
目次
看護師の一般的な残業代はいくら?
政府の統計によると、看護師に決まって支給される給与は平均351,600円で、そのうち所定内給与は318,000円となっています。
よって、所定外給与である残業代の平均は33,600円です。
看護師の所定外労働時間は平均6時間ですが、これにサービス残業は含まれません。
実際には、さらに長い時間残業しているケースも考えられます。
看護師は終業後の残業だけでなく、前残業と呼ばれる始業前の所定外労働も発生しやすい傾向にあります。
法律上は所定外労働時間が少しでも発生したら残業代を支払わなければなりませんが、看護師ではサービス残業と見なされるケースも少なくないのが実情です。
看護師の残業代の計算方法
看護師の残業代の計算方法は、一般的な労働時間制と変形労働時間制の場合で異なります。
例を挙げながら、それぞれの残業代の求め方を詳しく見ていきましょう。
一般的な労働時間制の場合
一般的な労働時間制の場合、残業代は「時給×残業時間×割増率」で計算できます。
労働時間制とは、1日8時間かつ週40時間の所定労働時間に基づき、終業時間や休日などを設定する働き方です。
所定労働時間を超えて働いたり、深夜(22時から翌5時まで)に働いたりした場合、その時間に対する割増賃金を受け取れます。
なお、割増率は残業した時間帯によって変動することを念頭に置いておきましょう。
時給の計算
時給は「月給÷1ヵ月の平均所定労働時間」で計算が可能です。
例えば、月給が300,000円で1ヵ月の平均所定労働時間が160時間の看護師の場合、次のように計算できます。
このケースでは、看護師の時給は1,875円になります。
残業時間の計算
残業時間は「実際の労働時間-法定労働時間」で求められます。
上記で触れたとおり、法定労働時間は1日8時間かつ週40時間までです。
ある看護師が1日10時間、週5日勤務している場合は次のように計算できます。
1週間の労働時間50時間-法定労働時間40時間=残業時間10時間
この場合、1週間で10時間の残業を行っていることになります。
割増率
残業代は、残業した時間帯によって以下のように割増されていなければなりません。
- 時間外労働:1.25倍
- 深夜労働:1.25倍
- 時間外労働かつ深夜労働:1.5倍
- 休日労働:1.35倍
仮に22時から翌1時まで残業をしたのであれば、この3時間は時間外労働かつ深夜労働と見なされ、1.5倍の割増率で賃金を受け取れます。
残業代の計算例
ここまでの内容をふまえて、具体的な残業代の計算例を見てみましょう。
時給1,875円で残業時間が週10時間の看護師を例に、残業代の求め方を解説します。
時給1,875円×残業10時間×割増率1.25倍=残業代23,438円
■すべての残業が休日労働だった場合
時給1,875円×残業10時間×割増率1.35倍=残業代25,313円
1週間の残業代を比較しても、日中の時間帯なのか深夜帯なのか、また休日労働なのかによって金額が変わってくることを覚えておきましょう。
変形労働時間制の場合
変形労働時間制とは、月単位または年単位で労働時間を調整する働き方のことです。
夜勤や休日出勤が多いシフト制の病院などで主に採用されています。
変形労働時間制の場合、就業規則で定められている労働時間を超えて働いた場合、時間に応じた残業代が支払われなければなりません。
例えば、1ヵ月の所定労働時間が160時間と定められている病院で、ある看護師の1ヵ月の実労働時間が180時間だったとしましょう。
この場合、20時間分の残業代が発生することになります。
残業代の計算方法や割増率は、一般的な労働時間制と同様です。
残業時間と見なされない主なケース
残業時間に該当するのは、病院との労働契約で定められた労働時間外の勤務時間です。
しかし、以下3つのケースは残業と見なされない可能性があります。
- 情報収集のための前残業
- 看護記録の作成
- 緊急対応
医療業界では「緊急時は残業代がなくても対応するのが当たり前」と考えられることもありますが、そうした慣習に関係なく、看護師にも適切に残業代が支払われる必要があります。
情報収集のための前残業
看護師が始業前に行う前残業を、残業対象外と見なす病院もあるでしょう。
前残業の内容としては、着替えや掃除、受け持ち患者さんの情報収集などが該当します。
特に経験の浅い看護師は情報収集に時間がかかるため、始業時間よりも早く病棟について情報収集を行う場合もあるでしょう。
これらの業務を行うために、始業時間より早く職場に到着しなくてはならないとしても、職場によっては残業代が出ません。
しかし、厚生労働省のガイドラインでは、業務に必要な着替えや掃除、情報収集などの学習時間は労働時間に含まれるべきとしています。
たとえ病院側からの指示がなかったとしても、前残業が職場で暗黙の了解となっている場合、残業代の対象となるといえるでしょう。
看護記録の作成
看護記録の作成業務も、残業対象外とされることがあります。
多忙の日は、業務時間中に看護記録を作成する時間が取れず、業務終了後に記録の作成に取りかかる看護師も少なくないでしょう。
職場によっては、カルテの整理や看護記録の作成は看護師として当然の業務であり、自主的な作業ととらえられて残業代が支払われないケースもあるかもしれません。
しかし、これらもれっきとした業務で、所定労働時間を超えた範囲で行わざるを得ない場合には、残業代の対象となるでしょう。
記録作成に時間がかかったのであれば、労働者である看護師には残業代を請求する権利があります。
緊急対応
看護師は、勤務時間外でも患者さんの容体急変などに対応しなければなりません。
救急患者の受け入れやナースコールなどは、人命に関わる緊急性の高い業務であるためです。
こうした緊急対応は就業時間に関わらず発生する可能性がありますが、これを残業対象外と見なす病院も少なからず存在します。
緊急時の対応はもちろんのこと、緊急時に備えて待機などを指示された場合でも、本来なら残業代の支払い対象とされるべきです。
看護師の未払い残業代の請求手順
残業代の未払いがある場合は、適切に請求する必要があります。
場合によっては病院側とトラブルに発展するケースも考えられるため、残業代が支払われていないという証拠を集めることが大切です。
ここからは、看護師の未払い残業代の請求手順を解説します。
1.残業した証拠を集める
まずは、残業代が適切に支払われているかどうかを確認しましょう。
前述した計算方法を用いて、支払われるべき残業代と実際に支払われた残業代を比較します。
もし未払いがあった場合、そのぶんの残業をしたという証拠が必要です。
勤怠で使用しているタイムカードがあれば、証拠として使用しましょう。
タイムカードがない場合は、勤怠や残業時間を記載したメモやカルテ、看護記録などに自動で記載される作成時間なども残業の証拠となります。
同じように残業代の未払いについて困っている同僚がいれば、同僚に証言を求めるのも良いでしょう。
2.病院と交渉する
集めた証拠をもとに、病院に対して未払い分の残業代の支払い交渉を行います。
まずは、所属している病棟の師長と直接話し合いをしてみましょう。
直接の話し合いで解決しない場合は、勤め先の病院名や代表者名、自分の氏名と住所、そして残業代未払いに関する通知事項を記載した内容証明郵便を送るのも一案です。
その際、支払期限や残業代を振り込んでほしい口座も明記するようにします。
勤め先によっては、証拠を突き付けられれば素直に支払いに応じてくれる可能性があるでしょう。
あるいは、自治体や病院の労働組合に相談する方法もあります。
それでも支払いに応じてくれない場合は、労働基準監督署への相談も検討してみてください。
3.労働基準監督署に相談する
労働基準監督署(労基署)は、労働関連の問題に対応してくれる行政機関で、残業代の未払いについても相談できます。
請求内容に正当性があると判断されれば、病院側に未払い分の残業代を支払うよう是正勧告や是正指導を行ってもらうことが可能です。
ただし、あくまで行政指導であって強制力はありません。
指導を受けてもなお病院が支払いに応じないときには、訴訟も視野に入れる必要があるでしょう。
4.弁護士に相談して訴訟を起こす
未払い残業代の請求を巡って、病院側とトラブルに発展するケースも考えられます。
こうした場合、弁護士に相談して訴訟を起こすことも検討しましょう。
労働問題に詳しい弁護士なら、残業代未払いの証拠や就業規則をチェックしたうえで、請求金額の見通しを含めたアドバイスをしてくれます。
ただし、訴訟にはコストと時間がかかるという点に注意が必要です。
未払いの残業代は3年以内に請求しなければ時効となり、消滅します。
当事者同士での話し合いが長引きそうな場合は、早めに労働基準監督署や弁護士へ相談するなど、状況に応じて適切な対応をしましょう。
看護師の残業代で未払い分があれば、適切に請求しよう
看護師が所定外労働時間に働いたときには、労働時間に応じた残業代を受け取れます。
前残業や看護記録の作成、緊急時の対応などは残業と見なされない職場もあるかもしれませんが、場合によっては残業代の請求が可能です。
残業代は「時給×残業時間×割増率」で計算できます。
ご自身の残業時間をメモしておき、実際に支払われた金額と相違がないか確認してみましょう。
未払いの残業代がある場合、病院側との交渉が必要です。
タイムカードやカルテをはじめとした証拠を集めるとともに、必要に応じて労働基準監督署や弁護士への相談も視野に入れてみてください。
