
岸田内閣の政策により、2022年2月から看護師の賃上げが実施されました。
しかし、すべての看護師の給料が上がるわけではなく、賃上げ対象となる病院には基準が定められており、賃上げの程度も決められています。
今回は、看護師の賃上げを狙って策定された看護職員等処遇改善事業の詳細や対象病院をわかりやすく解説します。
自分が今回の賃上げの対象となるのか、給料がどれくらい上がるのか確認してみましょう。
目次
看護師の賃上げの概要
2022年6月7日、岸田内閣は「経済財政運営と改革の基本方針2022」を発表し、その方針の一つとして、企業を成長させ、人へ投資する成長・分配戦略を提言しました。
今回の看護師の賃上げは、この分配戦略の中で、「看護職員等処遇改善事業」として国が率先して看護師の給与の引き上げを掲げたことが経緯となっています。
看護師の他にも、介護、保育、幼稚園教育に関わる職員が、給料引き上げの対象として示されています。
「看護職員等処遇改善事業」による賃上げ対象
「看護職員等処遇改善事業」は、地域でコロナ医療を担う一定の看護職員を対象に、段階的に収入を3%(12,000円)引き上げることを目的とした事業です。
看護職員とは、看護師・保健師・助産師・准看護師のことを指します。
短期的に賃上げを行うのではなく、永続的な賃上げを可能とする仕組みづくりを目標としています。
政府は、看護職員の給料が上がることが仕事に対する原動力となり、さらなる職場の発展につながることを期待しているのです。
地域医療に根ざした病院に勤めている看護師が対象
看護職員等処遇改善事業で賃上げの対象となっているのは、以下の2つのうちいずれかの条件を満たした病院に勤めている看護職員となっています。
1. 救急医療管理加算に係る届出を行っている、救急搬送件数が年間で200件以上の保険医療機関
2. 「救急医療対策事業実施要綱」(昭和52年7月6日 医発第692号)に定める第3「救命救急センター」、第4「高度救命救急センター」又は第5「小児救命救急センター」を設置している保険医療機関
対象となる病院の中での所属部署や診療科、実際にコロナ患者への看護を行ったかどうかは関係なく、上記に当てはまる病院に勤めているすべての看護師が対象です。
また、正職員に限らず、パート・アルバイトなどの非正規の職員も対象になります。
以下で、自身が勤めている病院が条件を満たしているか調べる方法について紹介していきます。
救急医療管理加算を算定し、救急搬送件数が年200件以上の病院
救急医療管理加算とは、施設基準を満たしたうえで、緊急に入院が必要な患者さんに対して、救急医療を行った場合に算定できる加算のことです。
各病院が救急医療管理加算を算定しているかどうかは、各地の厚生局ホームページに都道府県ごとに掲載されている施設基準の届出受理状況によって確認できます。
また、救急搬送件数が200件以上であるかどうかについては、厚生労働省のホームページにある病床機能報告公表データで確認できます。
救急センター
救急センターとは、救急医療対策事業実施要綱に定める救命救急センター、高度救命救急センター、小児救命救急センターを設置している保険医療機関のことです。
平成28年時点で、救急センターは全国に284箇所あり、関東では「独立行政法人 国立病院機構 東京医療センター」や「千葉県救急医療センター」などがあります。
クリニックなどその他の施設や病院の看護師は賃上げの対象外
クリニックやその他施設の看護師は、地域医療に貢献していても今回の看護職員等処遇改善事業の賃上げの対象外となっています。
日本看護協会は、すべての看護師の賃上げを実現できるよう提言を行う方針を明らかにしていますので、今後の動向に期待しましょう。
看護師以外にも一部の医療専門職は賃上げ対象
今回の賃上げの主な対象職種は、看護師・保健師・助産師・准看護師からなる「看護職員」となっていますが、医療機関の判断で、看護職員以外の医療専門職の賃上げに今回の補助金額を充てることも可能です。
看護補助者や作業療法士、理学療法士、社会福祉士、救急救命士なども賃上げの対象となりますが、補助金額のすべてを看護職員以外に充てることはできないことになっています。
他の医療系職種の賃上げが、看護師の賃上げより優先されるような状況にはならない体制となっていることが分かるでしょう。
看護師の賃上げは2段階で実施
看護師の賃上げは、2022年2月から9月の間と2022年10月以降の2段階で実施されます。
1段階目の引き上げは、収入を1%程度引き上げることを目安としており、2段階目の引き上げで、3%程度引き上げることを目標としています。
それぞれの引き上げ金額や賃上げの方法を紹介しましょう。
【2022年2月〜9月】看護師一人当たり平均4,000円の賃上げ
2022年2月から9月に行われた看護師の賃上げは、月額平均の1%にあたる4,000円の賃上げとなります。
では、実際に賃上げが実施されるまでの流れを解説していきます。
看護師賃上げの財源は国の補助金
賃上げの補助金の財源は全額国費で賄われており、約222.2億円でした。
2021年度中に賃上げをすることが条件であり、看護師の賃上げに対する「処遇改善計画書」を、医療機関が賃上げ実施前に都道府県に提出し申請します。
この申請が受理され補助金の交付が決定すると、都道府県から医療機関に補助金が交付される流れとなっています。
賃金改善実施期間が終了したあとも、補助金を受け取った医療機関は「処遇改善実績報告書」を都道府県に提出し、賃上げ実態の報告が必要です。
この際に、補助金交付の要件を満たさないことが発覚した場合には、補助金の一部または全額を返還しなければなりません。
対象医療機関で働くすべての看護師が一律4,000円の賃上げではない
今回の賃上げは、対象機関で働いている看護師が、全員一律で4,000円賃上げされるわけではありません。
医療機関がそれぞれ職位や職務内容によって賃上げの配分を決定でき、4,000円はあくまで賃上げ額の目安とされています。
賃上げの配分に関して不明点がある場合は、それぞれの医療機関に問い合わせてみましょう。
2022年9月までの賃上げ政策の実情
厚生労働省が6月に発表した補助金の申請状況は、対象2,720施設のうち2,411施設が申請しており、申請割合は88.6%となっています。
また、賃上げとなった看護師は61.3万人という結果も報告されました。
この人数をみると、多くの看護師が賃上げしたと感じるかもしれませんが、賃上げした看護師は、実際に就業している看護師全体の3人に一人程度の割合であるのが現状です。
【2022年10月以降】看護師一人あたり平均8,000円の賃上げ
2022年10月以降にも看護師の賃上げ第2段階目が実施されています。
第2段階目の賃上げについて、詳しく説明していきます。
第1段階の賃上げと合計して看護師一人あたり平均12,000円の賃上げ
2022年10月以降の看護師の賃上げは、看護師一人あたり平均8,000円の賃上げとなっています。
対象者は、先述したように救急医療管理加算を算定し、救急搬送件数が年200 件以上の病院
救急センターの看護師となり、第1段階の賃上げのときと同じです。
そのため、2022年9月以前に実施された賃上げと合計すると、一人当たり平均3%(12,000円)の賃上げになります。
看護師賃上げの財源は看護職員処遇改善評価料
1段階目の看護師の賃上げでは、財源が国費だったのに対し、10月からの賃上げの財源は、「看護職員処遇改善評価料」となっています。
「看護職員処遇改善評価料」とは、地域でコロナなどに対応する看護師の処遇改善を行う目的で新設された仕組みのことで、入院料に追加する形で徴収されています。
計算式は以下の通りです。
画像引用元:厚生労働省 個別改定項目について
このように、診療報酬が改定され、新しい加算を取得できるようになったことで、継続的に看護師の賃上げが可能な仕組みが作られたといえるでしょう。
看護師の賃上げについては今後の動向にも注目しよう
看護師の賃上げは、岸田内閣の政策の一環として、2022年2月から実質的に開始されました。
コロナ禍で通常の業務に加え、多くの医療処置や感染対策を求められ疲弊した看護師の貢献が、賃上げという形で評価されたととらえることもできます。
しかし、賃上げされた看護師がいる一方で、対象に含まれない病院やクリニックなどに勤める看護師には、賃上げが行われていないのが現状です。
今後、対象が広がりすべての看護師の賃上げが実施されることを期待しながら、今後の政府の政策に着目していきましょう。