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精神保健福祉士の倫理綱領とは?倫理原則・倫理基準について解説

精神保健福祉士(以下、PSW)の業務は、ただ専門的な知識や技術を駆使すれば良いというものではなく、深い倫理観が求められます。
専門職の信頼性を保ち、適切な判断を下すには、「精神保健福祉士の倫理綱領」の理解が必須です。

この記事では、PSWの倫理綱領の内容をわかりやすく解説し、倫理綱領が制定された背景についても掘り下げていきます。
PSWをめざす方々や、すでに現場で活躍されている方々は、ぜひ参考にしてください。

「精神保健福祉士の倫理綱領」とは?

「精神保健福祉士の倫理綱領」とは?

精神保健福祉士の倫理綱領では、PSWがどのようにクライエント(PSWによる支援が必要とされる方々)の尊厳を守り、関わるべきかを示しています。
倫理綱領を制定している専門職・職能団体は多いですが、「クライエントに対してどのような行動をすべきか」は、各団体によって異なるでしょう。

また、PSWはソーシャルワークの価値・理念に基づいて業務を行うため「ソーシャルワーカーの倫理綱領」もあわせてチェックしてください。

「精神保健福祉士の倫理綱領」が制定された背景

倫理綱領が制定された背景には、1970年代に起きた「Y問題」があります。
Y問題とは、クライエントのご家族から相談を受けたPSWが、クライエントを「統合失調症」と断定し、本人不在かつ医師の診断なしで精神病院に入院させた事件です。

日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会は、Y問題をきっかけに「精神障がい者の人権擁護」と「PSWの専門性と倫理のあり方」を見直しました。
その結果、1988年に精神保健福祉士の倫理綱領が制定されたのです。

同協会は名称変更を3回繰り返し、現在は「公益社団法人 日本精神保健福祉士協会」として活動しています。

「精神保健福祉士の倫理綱領」の内容

「精神保健福祉士の倫理綱領」の内容

PSWは倫理綱領に則って仕事をしなければなりません。
とはいえ、倫理綱領には専門的な言葉が使われている部分もあり、「内容が難しい」と感じる人もいるかもしれません。
ここからは、倫理綱領の内容をわかりやすく解説します。

前文

倫理綱領の前文にはPSWの「責務」が書かれており、要約すると以下の内容になります。

  • PSWは個人の尊厳を守り「人と環境との関係性」に視点を向ける
  • PSWは「共生社会の実現」をめざし、社会福祉学に基づく価値・理論・実践をもって、精神保健福祉の向上に努める
  • PSWは「クライエントの社会的復権・権利擁護」と「福祉に関する専門的・社会的活動」を行う専門職である
  • PSWは資質の向上に努め、倫理綱領に基づいて責務を担う

目的

倫理綱領の目的は、以下の6つを実現することと定められています。

1.精神保健福祉士の専門職としての価値を示す
2.専門職としての価値に基づき実践する
3.クライエントおよび社会から信頼を得る
4.精神保健福祉士としての価値、倫理原則、倫理基準を遵守する
5.他の専門職や全てのソーシャルワーカーと連携する
6.すべての人が個人として尊重され、共に生きる社会の実現をめざす

引用:精神保健福祉士の倫理綱領 目的

倫理綱領には、上述した6つの目標を達成するために必要な「専門家としての自覚と責任」が明記されています。

倫理原則

倫理原則とは、PSWとして業務を行う際に守らなければならないルールで、具体的な内容は以下のとおりです。

  • クライエントに対する責務
  • 専門職としての責務
  • 機関に対する責務
  • 社会に対する責務

項目ごとに、倫理原則の内容を詳しく解説します。

クライエントに対する責務

次の5つは、PSWがクライエントに対して果たすべき責任としてまとめられています。

(1)クライエントへの関わり
 精神保健福祉士は、クライエントの基本的人権を尊重し、個人としての尊厳、法の下の平等、健康で文化的な生活を営む権利を擁護する。
(2)自己決定の尊重
 精神保健福祉士は、クライエントの自己決定を尊重し、その自己実現に向けて援助する。
(3)プライバシーと秘密保持
 精神保健福祉士は、クライエントのプライバシーを尊重し、その秘密を保持する。
(4)クライエントの批判に対する責務
 精神保健福祉士は、クライエントの批判・評価を謙虚に受けとめ、改善する。
(5)一般的責務
 精神保健福祉士は、不当な金品の授受に関与してはならない。また、クライエントの人格を傷つける行為をしてはならない。

引用:精神保健福祉士の倫理綱領 倫理原則

全体として「クライエントの人権を守り、意見を重んじるべき」である点が強調されています。
PSWは個人が持つ価値やプライバシーを尊重し、年齢や社会的地位などから評価してはなりません。

専門職としての責務

「専門職としての責務」は以下の5つです。

(1)専門性の向上
 精神保健福祉士は、専門職としての価値に基づき、理論と実践の向上に努める。
(2)専門職自律の責務
 精神保健福祉士は同僚の業務を尊重するとともに、相互批判を通じて専門職としての自律性を高める。
(3)地位利用の禁止
 精神保健福祉士は、職務の遂行にあたり、クライエントの利益を最優先し、自己の利益のためにその地位を利用してはならない。
(4)批判に関する責務
 精神保健福祉士は、自己の業務に対する批判・評価を謙虚に受けとめ、専門性の向上に努める。
(5)連携の責務
 精神保健福祉士は、他職種・他機関の専門性と価値を尊重し、連携・協働する。

引用:精神保健福祉士の倫理綱領 2.専門職としての責務

専門職としての責務では「PSWの業務にあたる態度」が記されています。
PSWは知識や実践力の向上に努め、継続して専門性を高めましょう。
また、PSWは自身が所属していない機関の意見も尊重し、協働しながらクライエントの利益を第一に優先させなければなりません。

機関に対する責務

「機関に対する責務」に関して、倫理綱領は次のように定めています。

精神保健福祉士は、所属機関がクライエントの社会的復権を目指した理念・目的に添って業務が遂行できるように努める。

引用:精神保健福祉士の倫理綱領 倫理原則 3.機関に対する責務

一般的にPSWは、何らかの機関に所属して業務にあたります。
所属している機関の理念・目的に沿って、相談者の社会的復権をめざしましょう。
また、PSWは所属機関の業務が円滑に進むよう、みずから働きかけなければなりません。

社会に対する責務

「社会に対する責務」に関して、倫理綱領では以下のように定めています。

精神保健福祉士は、人々の多様な価値を尊重し、福祉と平和のために、社会的・政治的・文化的活動を通し社会に貢献する。

引用:精神保健福祉士の倫理綱領 倫理原則 4.社会に対する責務

PSWはさまざまな価値観を尊重し、社会や政治、文化に関わる活動を通して社会に貢献しなければなりません。
PSWが関わる活動には、以下の活動が含まれます。

  • 社会的活動
    • ボランティア・社会奉仕
    • 自治会・町内会での活動
    • 生活支援・子育て支援
  • 政治的活動
    • 政治上の主義や政策に対する支持・反対
    • 政治活動への参加
  • 文化的活動
    • 芸術活動(音楽・演劇・絵画など)
    • スポーツ
    • 行事・イベント(地域の祭り・出店など)
    • 自然・社会探訪(ハイキング・工場見学など)
    • 趣味・娯楽
    • 学習・自治活動

倫理基準

「倫理基準」とは、倫理原則をさらに具体的にしたルールです。
倫理原則を守るためにPSWがすべき行動が、細かく記されています。

倫理基準では「○○の場合は△△する」のように、実際の業務で想定されるケースをもとにPSWの行動指針が記載されています。
詳しい内容は以下をご確認ください。

クライエントに対する責務

PSWは、自分たちの専門的な知識や技術を活かし、地域社会の改善と精神保健福祉の向上に尽力する社会的な役割が求められています。
クライエントの意思決定が困難なときは、その人の利益を一番に考えた選択をしましょう。

また、PSWとしての仕事を離れたあとも、業務中に知った情報を他人に話さないよう気をつけましょう。
さらに「一般的責務」の項目では、ハラスメントや金品の要求・授受(契約や法律で定められたものを除く)が禁止されています。

専門職としての責務

「専門職としての責務」に関する倫理基準には、以下の5つが記されています。

(1)専門性の向上
 精神保健福祉士は、専門職としての価値に基づき、理論と実践の向上に努める。
(2)専門職自律の責務
 精神保健福祉士は同僚の業務を尊重するとともに、相互批判を通じて専門職としての自律性を高める。
(3)地位利用の禁止
 精神保健福祉士は、職務の遂行にあたり、クライエントの利益を最優先し、自己の利益のためにその地位を利用してはならない。
(4)批判に関する責務
 精神保健福祉士は、自己の業務に対する批判・評価を謙虚に受けとめ、専門性の向上に努める。
(5)連携の責務
 精神保健福祉士は、他職種・他機関の専門性と価値を尊重し、連携・協働する。

引用:精神保健福祉士の倫理綱領 2.専門職としての責務

PSWは専門性の向上に努め、他機関と連携しながらクライエントの利益を優先しなければなりません。
さらに、専門性を高めるにはスーパービジョンも重要な役割を果たしています。

スーパービジョンとは「より知識・経験が豊富なPSWから助言・指導を受けること」です。
スーパービジョンを行うPSWは、最新の情報と知識に基づき、スーパーバイジー(新人職員など)に指導を行いましょう。

機関に対する責務

PSWは個人の人権を重んじ、業務の質を向上すべき状況では、組織に適した改善を図る必要があります。
PSWと所属機関が協働し、質の高い支援を提供できるよう努めなければなりません。

また、PSW自身はもちろん、所属機関もクライエントの利益を第一に考えた目標を立てる必要があります。
所属機関の支援方法に改善点がある場合は、積極的に提言しましょう。

社会に対する責務

PSWは、専門的な知識や理論、実際の活動を通じて地域社会をより良く変え、精神保健福祉の向上に貢献する責務があります。
クライエント本人やご家族が快適に暮らせるような環境を整えるため、さまざまな社会活動に積極的に関わらなければなりません。

つまり、PSWは相談者と地域社会をつなぐ、重要な役割を担うのです。

「精神保健福祉士の倫理綱領」に対するジレンマとは?

PSWは倫理綱領に則って業務にあたります。
しかし、相反する2つの倫理があり「両方とも重要」と考えられるときは、どう行動すべきか迷ってしまうでしょう。

この迷いを「倫理的ジレンマ」と呼び、具体的には以下のようなケースが考えられます。

倫理的ジレンマが生じやすいケースの例
福祉施設の利用者さんが「誰にも言わないこと」を条件に、ある職員から虐待を受けていると報告した場合

【想定される倫理的ジレンマ】
相談を受けた内容の秘密は守るべきだが、他のPSWの不適切な行動を止める義務もある

倫理的ジレンマが生じた場合、あらゆる社会資源を活用し、自己判断せずにさまざまな視点から検討しましょう。

精神保健福祉士は倫理綱領に則って仕事をしよう

「精神保健福祉士の倫理綱領」は専門職としての自覚と責任を持ち、クライエントとの関係を適切に築くための重要な指針です。
個人の尊厳を守り、その人らしい生活を支援するためには、倫理綱領に沿った行動が不可欠です。

PSWとして専門性を保ち、クライエントやご家族からの信頼を得るためにも、倫理綱領を深く理解し、日々の業務への反映が求められます。
倫理綱領を心に留め、相手の立場に立った対応を心がけると、より良い支援が実現するでしょう。

執筆者について

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