
看護加算は、加算の条件に当てはまる看護ケアを行った際に、通常の診療報酬にプラスして病院に報酬が支払われる仕組みです。
本制度は、コロナ渦をきっかけに、看護職員の処遇改善を目的として、改正されました。
看護加算には、加算されるための要件が定められています。
この記事では、優先して患者に給付される医療保険に対応した際の看護加算を紹介します。
どのようなケースで、いくら加算されるかなどを具体的にみていきましょう。
目次
看護加算とは
看護加算とは、看護師によって提供される質の高い看護ケアを評価し、診療報酬に上乗せされる仕組みのことです。
加算の目的は、手厚い看護ケアを提供したことへの評価と、より良質な看護サービスの提供をめざす医療機関を増やすためのインセンティブとなっています。
加算の基準には、サービス提供時間帯や投入人数、緊急性の有無など、一定の条件が設けられており、訪問看護における加算制度は厚生労働省が定める基本方針に沿って制定されています。
看護加算の例
看護加算を含めた診療報酬は、医療機関に支払われるため、加算を多く取得することによって、給料にも反映される可能性があります。
訪問看護で給付される保険は「医療保険」と「介護保険」の2種類です。
ここでは、医療保険における看護加算について、以下の7つの具体例を解説します。
- 夜間・早朝訪問看護加算
- 深夜訪問看護加算
- 複数名訪問看護加算
- 長時間訪問看護加算
- 緊急訪問看護加算
- 難病等複数回訪問看護加算
- 乳幼児加算
医療保険における訪問看護の加算は多岐にわたりますが、なかでも基本療養費に対する加算を中心に見ていきます。
参考:訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法(◆平成20年03月05日厚生労働省告示第67号)
夜間・早朝訪問看護加算
「夜間・早朝訪問看護加算」は、夜間(午後6時〜午後10時)や早朝(午前6時〜午前8時)の時間帯に、利用者や家族の希望に応じて訪問看護を実施した場合に算定できる加算です。
ただし、医療機関側の都合で当該時間帯の訪問を行った場合は算定できません。
料金は2,100円(加算点数は210点)で、訪問看護を提供するたびに算定が可能です。
利用者の状況に合わせて、柔軟な時間対応ができるようになっています。
対象時間帯 | ・夜間(午後6時〜午後10時) ・早朝(午前6時〜午前8時) |
対象内容 | 利用者や家族の希望に応じて訪問看護を実施した場合 |
加算料金(点数) | 2,100円(210点) |
深夜訪問看護加算
深夜(午後10時~午前6時)の時間帯において、利用者または家族の希望に基づいて訪問看護を実施すると、深夜訪問看護加算を算定できます。
料金は4,200円(420点)であり、夜間・早朝の加算と同様に提供のたびに算定できる仕組みです。
対象時間帯 | 午後10時~午前6時 |
対象内容 | 利用者や家族の希望に応じて訪問看護を実施した場合 |
加算料金(点数) | 4,200円(420点) |
複数名訪問看護加算
一人での訪問看護が困難な利用者に対し、同時に複数の看護師等が訪問看護を行った際に算定できるのが複数名訪問看護加算です。
対象となる利用者の疾患や基本療養費の種類によって、「複数名訪問看護加算」と「複数名精神科訪問看護加算」の2種類に分かれています。
加算の算定要件として、利用者や家族から複数名での訪問に同意を得ていることが必要です。
また、同行する職種や人数、訪問回数によって加算金額が異なります。
詳細は下記の表をご覧ください。
同行する職種 | 制限 | 加算金額 | |
保健師、助産師、看護師、 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士 |
週1日 | 同一建物内1人または2人 | 4,500円 |
同一建物内3人以上 | 4,000円 | ||
准看護師 | 週1日 | 同一建物内1人または2人 | 3,800円 |
同一建物内3人以上 | 3,400円 | ||
看護補助者 (特別な管理を要さない場合) |
週3日 | 同一建物内1人または2人 | 3,000円 |
同一建物内3人以上 | 2,700円 | ||
看護補助者 (特別な管理を要する場合) |
1日1回 | 同一建物内1人または2人 | 3,000円 |
同一建物内3人以上 | 2,700円 | ||
1日2回 | 同一建物内1人または2人 | 6,000円 | |
同一建物内3人以上 | 5,400円 | ||
1日3回以上 | 同一建物内1人または2人 | 10,000円 | |
同一建物内3人以上 | 9,000円 |
複数名訪問看護加算の対象となる利用者は以下のとおりです。
- 厚生労働大臣が定める疾病等の者
- 特別管理加算の対象者
- 特別訪問看護指示書による訪問看護を受けている者
- 暴力行為、著しい迷惑行為、器物破損行為等が認められる者
- 利用者の身体的理由により1人の看護師等による訪問看護が困難と認められる者(その他職員の場合に限る)
- その他利用者の状況等から判断して(1)~(5)のいずれかに準ずると認められる者(その他職員の場合に限る)
参考:在宅医療(その2)
厚生労働大臣が定める「疾病等の者」とは、以下を指します。
● 末期の悪性腫瘍
● 多発性硬化症
● 重症筋無力症
● スモン
● 筋萎縮性側索硬化症
● 脊髄小脳変性症
● ハンチントン病
● 進行性筋ジストロフィー症
● パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上であって生活機能障害度がⅡ度またはⅢ度のものに限る))
● 多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症及びシャイ・ドレーガー症候群)
● プリオン病
● 亜急性硬化性全脳炎
● ライソゾーム病
● 副腎白質ジストロフィー
● 脊髄性筋萎縮症
● 球脊髄性筋萎縮症
● 慢性炎症性脱髄性多発神経炎
● 後天性免疫不全症候群
● 頸髄損傷
● 人工呼吸器を使用している状態
一方、「特別管理加算の対象者」とは以下のような患者を指します。
- 在宅悪性腫瘍等患者指導管理もしくは在宅気管切開患者指導管理を受けている状態にある者
- 気管カニューレもしくは留置カテーテルを使用している状態にある者
- 在宅自己腹膜灌流指導管理、在宅血液透析指導管理、 在宅酸素療法指導管理、在宅中心静脈栄養法指導管理、在宅成分栄養経管栄養法指導管理、在宅自己導尿指導管理、在宅人工呼吸指導管理、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理、在宅自己疼痛管理指導管理または在宅肺高血圧症患者指導管理を受けている状態にある者
- 人工肛門または人工膀胱を設置している状態にある者
- 真皮を越える褥瘡の状態にある者
- 在宅患者訪問点滴注射管理指導料を算定している者
参考:・特掲診療料の施設基準等(◆平成20年03月05日厚生労働省告示第63号)
難病等複数回訪問看護加算
難病等の利用者に対して、1日に複数回の訪問看護を行う場合の加算が難病等複数回訪問看護加算です。
料金は、訪問回数と同一建物内の利用者数によって異なります。詳細は以下の表の通りです。
回数 | 同一建物の人数 | 加算金額(1日あたり) |
1日2回 | 同一建物内1人または2人 | 4,500円 |
同一建物内3人以上 | 4,000円 | |
1日3回以上 | 同一建物内1人または2人 | 8,000円 |
同一建物内3人以上 | 7,200円 |
参考:・訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法(◆平成20年03月05日厚生労働省告示第67号)
長時間訪問看護加算
1回の訪問看護の提供時間が90分を超えるような、長時間の訪問を必要とする利用者に対する加算が長時間訪問看護加算です。
看護対象者によって加算できる看護回数限度が違うため、以下の表をチェックしてください。
対象時間 | 通算90分以上の訪問時間 | |
対象者と訪問回数限度 | 15歳未満の「超重症児」または「準超重症児」 | 週3回まで |
「特掲診察料の施設基準等別表第八に掲げる者」 | 週1回まで | |
特別訪問看護指示書、または精神科特別訪問看護指示書に係る指定訪問看護を受けている者 | 週1回まで | |
加算料金(点数) | 5,200円(520点) |
「超重症児」と「準超重症児」とは、運動機能が座位までで、呼吸管理、食事機能、胃・ 食道逆流の有無などの条件に充てられたスコアの合計で決められます。
超重症児 | 超重症児判定基準による運動機能が座位まで | 超重症児判定スコア25点以上 |
準超重症児 | 判定基準による運動機能が座位まで | 超重症児判定スコア10点以上25点未満 |
出典:10∼24点を「準超重症児」といいます。(1参照) 昭和42年の児童福祉法一部改正
「特掲診察料の施設基準等別表第八に掲げる者」とは以下の条件に当たる看護対象者です。
- 在宅悪性腫瘍等患者指導管理もしくは在宅気管切開患者指導管理を受けている者、または気管カニューレか留置カテーテルの使用状態にある者
- 以下のいずれかを受けている状態の者
a. 在宅自己腹膜灌流指導管理
b. 在宅血液透析指導管理
c. 在宅酸素療法指導管理
d. 在宅中心静脈栄養法指導管理
e. 在宅成分栄養経管栄養法指導管理
f. 在宅自己導尿指導管理
g. 在宅人工呼吸指導管理
h. 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理
i. 在宅自己疼痛管理指導管理
j. 在宅肺高血圧症患者指導管理 - 人工肛門または人工膀胱を設置している状態の者
- 真皮を超える褥瘡の状態にある者
- 在宅患者訪問点滴注射管理指導料を算定している者
参考:訪問看護 (参考資料)
緊急訪問看護加算
利用者やその家族などからの緊急の求めに応じて、電話等により主治医の指示を受け、計画外の訪問看護を行った場合に算定できるのが緊急訪問看護加算です。
算定の要件として、診療所または在宅療養支援病院が24時間体制で往診および訪問看護の提供体制を整えていることが求められます。
2024年度改定では算定要件と点数の見直しがなされ、月14日までは1回につき2,650円(265点)、月15日目以降は2,000円(200点)となりました。
1日1回を上限に算定可能です。
緊急訪問の際は、日時、内容、対応状況を訪問看護記録書に記録し、訪問看護療養費明細書に加算の算定理由を記載する必要があります。
対象要件 | ・診療所または在宅療養支援病院が24時間体制 ・訪問看護の提供体制の整備有り |
対象内容 | 利用者やその家族などからの緊急の求めに応じて、電話等により主治医の指示を受け、計画外の訪問看護を行った場合 |
加算料金(点数) | ・14日目/月まで2,650円(265点)/1回 ・15日目/月以降は2,000円(200点)/1回 |
乳幼児加算
6歳未満の乳幼児と、2024年改定後に追加された「厚生労働大臣が定める者」に対して、訪問看護を実施した場合に算定できるのが、訪問看護における乳幼児加算です。
1日1回を上限として算定が可能となっています。
6歳未満の乳幼児の場合は1,300円(130点)/日、厚生労働大臣が定める者に該当する場合は1,800円(180点)/日です。
ここでいう厚生労働大臣が定める者とは、以下の看護対象者を指します。
- 超重症児・準超重症児
- 特掲診療料の施設基準等別表第七に該当する疾病等の小児
- 特掲診療料の施設基準等別表第八に掲げる者
対象者 | ・6歳未満の乳幼児 ・「厚生労働大臣が定める者」 |
|
対象上限日数 | 1日1回 | |
加算料金(点数) | 6歳未満の乳幼児 | 1,300円(130点)/日 |
厚生労働大臣が定める者(2024年改定後追加) | 1,800円(180点)/日 |
看護加算の仕組みを知ってより良い看護サービスを提供しよう
本記事では、2024年度改定後の訪問看護における看護加算について、その種類と内容を詳しく解説しました。
看護加算は、質の高い看護ケアを評価し、より良質な看護サービスの提供を促進するための仕組みです。
夜間・早朝、深夜、複数名、長時間、緊急時、難病等への複数回訪問、乳幼児など、利用者の多様なニーズや状況に合わせた加算が設定されています。
訪問看護を提供する際には、利用者の状態をよく把握したうえで、適切な加算の算定を行うことが大切です。
加算の種類や算定要件は改定のたびに変更される可能性があるため、常に最新の情報を確認しましょう。