
高齢化社会が進む日本において、医療ニーズは多様化・複雑化し、医療従事者に求められる役割にも変化が生じています。
薬剤師を取り巻く環境もまた、AIの進化や薬学部の増加、オンライン医療の普及など、さまざまな要因から変化しています。薬剤師をめざす人のなかには、今後のキャリアに不安を感じる方もいるでしょう。
医療の移り変わりとともに、薬剤師の役割は進化しています。
長く活躍できる人材となるには、これからの薬剤師に求められる役割を理解し、スキルアップを図りながら自分の市場価値を高めることが大切です。
本記事では、薬剤師の必要性や今後求められる役割、現場で必要とされる薬剤師になるための方法を解説します。
目次
薬剤師の必要性について
薬剤師は病院・調剤薬局などの医療機関をはじめ、製薬会社、行政機関などさまざまな場所で活躍できる薬学の専門家です。
しかし、薬剤師を取り巻く環境は時代とともに変化しており、将来的にも必要性の高い仕事であり続けるのか、疑問に感じる方もいるでしょう。
ここでは、薬剤師の必要性に影響を与えうる要因と、これからの薬剤師に求められる役割を解説します。
薬剤師の必要性が低いといわれるのはなぜ?
薬剤師の必要性は低いといわれることもありますが、その背景には次のような要因があります。
- AIに代替できる業務が多い
- 薬剤師が供給過剰になる予測がある
- 大手通販会社が薬局業界への参入を開始
それぞれの要因が薬剤師の役割にどのような影響を与えているのか、順に詳しく見てみましょう。
AIに代替できる業務が多い
AI技術の発展により、さまざまな業務の自動化が進むなか、薬剤師の仕事の一部もAIに代替される可能性があります。
AIは決められた作業を正確に実行したり、膨大なデータのなかから間違いを発見したりなどが得意で、業務品質の維持と効率化に大きく寄与する存在です。
また、データ管理業務にも適しており、薬剤師が従来行ってきた膨大な過去のデータを参照して迅速な判断を下す業務もできます。
薬剤師の仕事のうち、調剤業務や調剤の監査、薬歴の管理、調剤事務などは、AIの導入によって代替が進む可能性があるでしょう。
正確性と効率性が求められるこれらの業務は、AIの特性と合致します。
しかし、薬剤師のすべての業務がAIに置き換えられるわけではありません。
服薬指導など、患者さんとの対面コミュニケーションを必要とする場面では、重要な役割を求められます。
患者さんの個々の状況や感情に寄り添い、適切なアドバイスを提供できる柔軟性と共感力は、AIには再現できません。
薬剤師が供給過剰になる予測がある
薬剤師の必要性が低くなるもう一つの要因は、人材の供給過剰です。
薬科大学・薬学部の新設が続くなか、薬剤師の数も年々増加傾向にあり、将来的には供給が需要を上回ると見込まれています。
新設された薬学部から就職市場に参入する薬剤師が増えれば、供給過剰はより顕著になるでしょう。
そのうえ、薬剤師の希望する就業エリアには偏りがあります。地域によっては薬剤師が供給過剰になり、雇用環境や待遇にも影響を与えるかもしれません。
大手通販会社が薬局業界への参入を開始
薬剤師の必要性に疑問を生じさせる要因として、大手通販会社の薬局業界への参入も挙げられます。
それまで、アマゾンがアメリカで展開していたオンライン服薬指導・処方薬配達サービス「Amazonファーマシ-」が、2024年7月に日本にも上陸しました。
このサービスでは、患者さんは医療機関で電子化された処方箋を受け取りオンラインで服薬指導を受ければ、調剤薬局へ足を運ばずに自宅で処方薬を受け取れます。
オンライン薬局が患者さんにとってより身近になると、薬局薬剤師の役割も従来の調剤中心から大きく変化するでしょう。
対面での服薬指導が減少し、薬剤師はニーズに合わせて柔軟に対応しなければなりません。
薬剤師に求められる役割は進化している
薬剤師の必要性が今後ゼロになる可能性はありません。
しかし、医療を取り巻く環境の変遷とともに、薬剤師に求められる役割は進化しつつあります。今後重要性が高まると考えられる役割は以下のようなものです。
- チーム医療の一員としての役割
- 地域包括システムにおける役割
- リフィル処方箋の担い手としての役割
医療の高度化や社会ニーズの変化に適応し、薬剤師はさらに幅広い専門性を身につけ、医療に深く関わっていく必要があります。
チーム医療の一員としての役割
高度化する現代の医療現場では、チーム医療がすすめられています。医師や看護師、理学療法士などの医療従事者が、それぞれの専門性を発揮して効果的な医療を提供するために、薬剤師の存在は欠かせません。
薬剤師は、薬のプロフェッショナルとして医師の処方を支援し、副作用のモニタリングを行います。
また、患者さんへの服薬指導を通じて適切な薬物療法を支援するなど、患者ケアにも携わる立場です。
薬剤師は、医療の質の向上と医師の負担軽減、そして患者さんの安全性確保のために働くことが求められています。
地域包括システムでの役割
高齢化が進む日本では、医療・介護サービスの需要が高まるとともに、患者さんの療養環境も多様化しています。
政府は、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、医療機関の機能分化や在宅医療・介護の推進をはじめ、地域包括ケアシステムの構築をめざしています。
そこで重要な役割を果たすのが、薬の重複や相互作用のリスクを減らし、より安全で効果的な薬物療法の実現をめざす「かかりつけ薬剤師」です。
高齢の患者さんは複数の疾患を抱えているケースも多く、多剤投与の問題も指摘されています。
かかりつけ薬剤師は、患者さんがかかっているすべての医療機関の服薬情報を把握し、一元管理を実施します。
これにより、ことが可能です。
リフィル処方箋の担い手としての役割
2022年4月から、日本でリフィル処方箋制度が導入されました。
リフィル処方箋は、病状が安定している患者さんに、同じ処方箋を3回以内に制限を設けて繰り返し使えるようにする制度です。
この制度の導入にともない、薬剤師には新たに、「医師と連携を図りながら、同一の処方内容で問題がないかどうかを判断し、適切に調剤する」という役割が求められるようになりました。
医師の診察なしで処方箋を利用する患者さんに対して、薬剤師は健康状態を継続的に観察し、状況によっては医師に情報提供します。
これから薬剤師として必要性を高めるには
薬剤師に求められる役割が変化するなか、ただ薬剤師資格を持っているだけでは競争力が不足し、キャリアを広げにくくなる可能性があります。
必要とされる薬剤師になるには、専門性を磨きつつ新たなスキルを身につけ、自分自身の市場価値を高めることが大切です。
選ばれる薬剤師となるための具体的な方策を紹介します。
専門性を磨いて資格を取得する
資格取得は、スキルの高さを客観的に示し、現場に必要とされる薬剤師をめざすうえで有効な取り組みです。
多様化する医療ニーズに対応できる高度な知識やスキルを身につければ、他の薬剤師との差別化を図りやすくなります。
ここでは、薬剤師が専門性を高めるために役立つ主な資格を4つを紹介します。
研修認定薬剤師
研修認定薬剤師は、自己研鑽によって専門性を維持・向上させている薬剤師を認定する制度です。
研修認定薬剤師になるためには、倫理、基礎薬学、医療薬学、衛生薬学、薬事関連法規・制度など幅広い分野の知識を学ばなければなりません。
認定を受けた薬剤師は、継続的に学習し、最新の医療知識を持っている人材であることを証明できます。
積極的な自己学習を通じて、薬剤師に求められる総合的な能力を高めると同時に、患者さんや医療機関からの信頼の獲得にもつながるでしょう。
認定実務実習指導薬剤師
認定実務実習指導薬剤師は、6年制課程で学ぶ薬学生に対して実務実習の指導を行える薬剤師として、人材養成の技能を認められる資格です。
認定実務実習指導薬剤師になるためには、実務経験を含む一定の認定要件を満たしていなければなりません。
取得には申請時に審査料を支払い、資格要件を満たしているかどうかの審査受けます。
資格の有効期間は6年間で、認定期限の3ヵ月前から更新申請が可能です。
次世代の人材育成に携わる指導者であるために、資格取得後も専門性を維持・向上するための定期的な研修参加や自己研鑽が求められます。
専門薬剤師
専門薬剤師は、高度化する医療に対応できるエキスパートであり、特定の専門領域で深い知識と技能を持つ薬剤師が取得できる資格です。
日本医療薬学会や日本病院薬剤師会、日本腎臓病薬物療法学会などの専門機関が、それぞれの分野で専門薬剤師制度を設けています。
専門薬剤師になるためには、医学・薬学の専門知識はもちろん、各専門領域での実践スキルの習得も不可欠です。
特定の疾患や治療法に特化した高度な専門性を身につけ、専門薬剤師の認定を受けることで、患者さんの治療により深く関わりながら、チーム医療への貢献がめざせます。
公認スポーツファーマシスト
公認スポーツファーマシストは、アンチ・ドーピング規則に関する専門知識を持った薬剤師を認定する資格です。
資格を取得することで、スポーツ選手とその関係者に対して、公平で公正なスポーツ参加を保証するための情報提供・指導ができます。
公認スポーツファーマシストになるためには、2種類の講習の受講と、知識到達度テストへの合格が必要です。
認定後は、4年間ごとに資格更新が必要となります。
スポーツ選手のサポートのみならず、教育現場で薬の正しい使用方法を指導したり、運動を楽しむ中高年の方にアドバイスしたりなど、幅広い活動が視野に入るでしょう。
コミュニケーション能力を磨く
現場で必要とされる薬剤師となるには、専門知識だけでなく、コミュニケーション能力を磨くことも非常に重要です。
薬剤師は患者さんや医療スタッフと関わる場面も多く、業務を円滑に進めるうえでも適切なコミュニケーションが欠かせません。
患者さんとの関わりでは、共感力や傾聴力、提案力などが求められます。
患者さんの不安や疑問に寄り添い、必要に応じた情報提供を行うことで、信頼関係を築き、身近で相談しやすい存在になれるでしょう。
また、医師や看護師などの医療スタッフと一緒に働く際にも、薬剤師のコミュニケーション能力が活かされます。
他職種の視点も理解しながら自分の意見を適切に伝えられる薬剤師は、より効果的なチーム医療の提供に貢献でき、必要とされるでしょう。

かかりつけ薬剤師として患者さんを支援する
かかりつけ薬剤師とは、薬物治療や健康、介護に関する幅広い知識を持ち、患者さんの相談内容と生活状況に応じたサポートを提供できる薬剤師のことです。
地域医療においてかかりつけ薬局・薬剤師の重要性は増しており、患者さんの健康を総合的に支える役割として期待されています。
かかりつけ薬剤師となるには、以下すべての要件を満たさなければなりません。
- 薬剤師の実務経験が3年以上ある
- 勤務する調剤薬局での労働時間が週32時間を超えている(育児・介護休業法による時短勤務が適用されている場合、週24時間以上かつ週4日以上勤務)
- 勤務する調剤薬局に1年以上在籍している
- 公益社団法人薬剤師認定制度認証機構(CPC)による認定機関で研修認定薬剤師の資格を取得している
- 医療に関連する地域活動を行っている
かかりつけ薬剤師の認定を受けている場合、患者さんから同意を得たうえで指名を獲得できます。かかりつけ薬剤師は、患者さん一人ひとりに寄り添ったより質の高い服薬管理・指導を継続的に提供できる立場です。
薬剤師は今後一層求められる仕事
薬剤師の必要性が懸念されている背景には、AI技術の発展やオンライン薬局の台頭、薬剤師の増加による将来的な供給過剰などがあるでしょう。しかし、薬剤師の仕事は社会環境や医療ニーズの変化にともなって、進化・拡大しています。その重要性は一層増していくと考えられます。
これからの薬剤師は、チーム医療により深く関わるとともに、地域包括ケアシステムの中核をも担う存在となります。また、2022年からスタートしたリフィル処方箋制度の運用の際にも、薬剤師の専門性が役立ちます。
市場価値の高い薬剤師となるためには、継続的な自己研鑽が欠かせません。資格の取得のほか、かかりつけ薬剤師をめざしたりコミュニケーション能力を向上させるのも一つの選択肢です。
社会ニーズの変化に適応し専門性を高めながら、選ばれる薬剤師をめざしてください。