歯科助手として働いていると、歯科医師や歯科衛生士から、患者さんの口の中にある水分をバキュームで吸引するよう頼まれる場面があるでしょう。
歯科助手は、歯科医師や歯科衛生士よりも、行える業務に制限があります。
そのため、「歯科助手がバキュームを行うのは違法ではないか?」と心配になる方もいるかもしれません。
しかし、歯科助手のバキューム使用は違法ではありません。
この記事では、歯科助手のバキューム使用が違法ではない理由を解説したうえで、歯科助手の業務範囲や、違法行為を任されたときの対処法などについても紹介していきます。
歯科医師として働いている方や、これから歯科助手になることを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
歯科助手のバキューム使用は違法ではない
歯科助手がバキュームを使って患者さんの唾液を吸引する行為は、違法ではありません。
バキュームで患者さんの口腔内の水分や削った粉を吸い取る行為は「アシスタント業務」にあたるためです。
アシスタント業務は医療行為ではないため、歯科助手が行っても問題ありません。
なお、歯科助手は歯科衛生士とは異なり、無資格からでも始められる仕事です。
したがって、バキューム吸引も無資格でできる業務ですが、器具の扱いに不慣れな方は、あらかじめ民間の歯科助手資格を取得しておくと良いでしょう。
歯科助手が行ってはならない業務
歯科助手が行ってはならない業務は「歯科医院で行われる医療行為・歯科保健指導」です。
例えば、歯科助手が患者さんの口の中に触れたり、ブラッシング指導をしたりするのは違法です。
歯科医院には「歯科医師のみ行える業務」と「歯科衛生士の資格が必要な業務」があります。
それぞれ見ていきましょう。
歯科医師のみ行える業務
医療機関において、医師のみが行える業務は「絶対的医行為」と呼ばれています。
歯科医院の場合は「歯科医師のみが実施できる行為」を指し、該当する業務は、以下のとおりです。
- 歯を削る・抜く
- 詰め物・被せものを装着する
- 歯形・嚙み合わせを取る
- レントゲンを撮る
- 麻酔を打つ
上記のうち、特にレントゲン撮影を歯科衛生士や歯科助手にさせると、診療放射線技師法24条の違反行為になります。
第二十四条 医師、歯科医師又は診療放射線技師でなければ、第二条第二項に規定する業をしてはならない。
2 この法律で「診療放射線技師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、医師又は歯科医師の指示の下に、放射線の人体に対する照射(撮影を含み、照射機器を人体内に挿入して行うものを除く。以下同じ。)をすることを業とする者をいう。
レントゲン撮影とは「放射線を人体に向けて照射する行為」であるため、照射ボタンは必ず歯科医師が押さなければなりません。
ただし、診療放射線技師法2条の2項にもあるように、レントゲン装置の準備・装着は医療行為に含まれないため、歯科医師以外の職員でも行うことができます。
歯科衛生士の資格が必要な業務
医療行為のうち「相対的医行為」に該当する業務を行うには、歯科衛生士の資格が必要です。
歯科医院における相対的医行為とは「歯科医師の監視下であれば、歯科衛生士が行っても良いとされる医療行為」を指します。
歯科医院において、相対的医行為にあたる業務は以下のとおりです。
- 薬剤(フッ素など)を塗る
- 歯垢・歯石を除去する
- ホワイトニングをする
上記のうち、薬剤を患者さんの歯に塗る行為と歯垢・歯石を除去する行為は「歯科衛生士の業務」として、歯科衛生士法2条の1項に定められています。
第二条 この法律において「歯科衛生士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、歯科医師(歯科医業をなすことのできる医師を含む。以下同じ。)の指導の下に、歯牙及び口腔の疾患の予防処置として次に掲げる行為を行うことを業とする者をいう。
一 歯牙露出面及び正常な歯茎の遊離縁下の付着物及び沈着物を機械的操作によつて除去すること。
二 歯牙及び口腔に対して薬物を塗布すること。
また、相対的医行為に加えて「歯科保健指導」も歯科衛生士の資格が必須です。
例えば、保育園・幼稚園、小学校、老人ホームなどに出向いてブラッシング指導をしたり、食育支援や摂食・嚥下指導をしたりする場合が、歯科保健指導に該当します。
歯科助手が行っても良い業務とは?
歯科助手が行っても良い業務は「受付・会計業務」と「アシスタント業務」の2つです。
「受付・会計業務」には、診察券・保険証の確認や診察予約・診察スケジュールの管理などが含まれます。
バキューム吸引やライトの向きの調整など、患者さんの口腔内を見やすくするための業務は「アシスタント業務」に該当します。
また、歯科医師以外がレントゲン撮影をしたり、歯型を採ったりすることは禁じられていますが、レントゲンの準備や印象材を練る工程は歯科助手が担当しても問題ありません。
歯科助手が違法行為を任されたらどこに通報する?
もし歯科助手が違法行為を任された場合は、厚生労働省へ「公益通報」をしましょう。
公益通報とは「労働者が勤務先で起きた不正を通報すること」を指します。
公益通報者は「公益通報者保護法」によって守られています。
よって、公益通報したことによって不利益を被る可能性は低いです。
公益通報者保護法3条でも「労働者が公益通報したことを理由に行われた解雇は無効」と定められています。
(解雇の無効)
第三条 労働者である公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に定める事業者(当該労働者を自ら使用するものに限る。第九条において同じ。)が行った解雇は、無効とする。
「通報したことが職場にばれて解雇されてしまう」といった心配はせず、遠慮なく通報してください。
歯科助手が違法行為をした場合の罰則は?
歯科助手が違法行為を行った場合、悪質なケースでは逮捕されることもあります。
ここでの「悪質な場合」とは「違法行為だと知っていて、かつ何年にもわたって繰り返した場合」です。
2022年には、歯科医師免許を持たない歯科助手が、仮歯の装着を行い逮捕されました。
違法行為だと知らなかった場合は、院長や上司が責任をとる場合があります。
2019年には、歯科医師が無資格の歯科助手に患者さんの歯石除去をさせ、逮捕される事件も発生しています。
違法行為に該当するかわからない場合は、弁護士に相談するのも一案です。
一方で、歯科助手としても違法行為に加担しないように知識を身につけましょう。
歯科助手がバキュームを使用しても法律違反にはならない
歯科助手がバキュームを使って、患者さんの口腔内にある水分や粉を吸引するのは違法ではありません。
ただし、歯科助手が患者さんの口腔内に直接触れたり、歯科保健指導をしたりすると違法行為となります。
歯科助手は歯科医師や歯科衛生士のように、業務範囲が法律で定められていません。
そのため、知らず知らずのうちに違法行為に加担してしまう恐れもあります。
違法行為をしないためには、歯科助手が行ってはならない業務を知識として身につけておきましょう。