
歯科衛生士は、歯科医院の受付にはじまり、歯周病の予防処置や診療補助、ホワイトニングまで幅広い業務をこなす口腔衛生の専門家です。
専門性の高い国家資格であることから転職しやすいのが特徴ですが、長年勤めた勤務先を辞める際、退職金をもらえるのかどうかが気になる方は多いでしょう。
歯科衛生士への退職金の支払いを義務づける法律はなく、退職金支給の有無や支給金額は勤務先によって異なります。
今後のキャリアを考えるためにも、あらかじめ退職金に関する正確な情報を集めておくことが大切です。
本記事では、歯科衛生士の退職金の支給状況や勤続年数別の相場を詳しく解説します。
目次
歯科衛生士に退職金を支払う法律上の義務はない
雇用側に、歯科衛生士に対して退職金の支払いを義務づける法律はありません。
つまり退職金制度は雇用側の任意であり、支給の有無や支給額は勤務先によって異なります。
厚生労働省が平成30年に行った調査によると、医療・福祉業界において退職金給付がある施設は87.3%、ない施設は12.7%でした。
このデータから、医療・福祉業界では9割近くの施設で退職金が支給されていることがわかります。
ただし、上記は医療・福祉業界全体のデータであり、小規模の歯科医院や開院して間もない歯科医院の場合は、退職金がもらえない可能性もあるでしょう。
歯科衛生士の退職金は雇用形態や勤務先により異なる
歯科衛生士が退職金をもらえるか否かは、雇用形態や勤務先によって異なります。
参考:歯科衛生士の勤務実態調査報告書(公益社団法人 日本歯科衛生士会)
日本歯科衛生士会の調査によると、退職金が「ある」と答えた歯科衛生士は46.5%だったのに対し、「ない」と回答したのは39.2%、「わからない」が12.8%でした。
「ある」と回答した歯科衛生士のうち、常勤の歯科衛生士が74.7%で非常勤が8.3%という結果です。
このデータから、非常勤の歯科衛生士には退職金が支給されないケースが多いと考えられるでしょう。
さらに勤務先別の退職金支給割合で見ると、歯科衛生士の多くが勤務する診療所において、退職金の支給が「ある」と回答したのは61.8%、「ない」は17.2%でした。
一方、診療所以外の病院や行政機関では、支給割合が約80〜90%となっていることから、診療所での退職金支給割合は比較的低いといえます。
歯科衛生士が退職金をもらえるケース
歯科衛生士に退職金制度があるかどうかは勤務先によって異なりますが、以下のようなケースでは退職金の受給を見込めるでしょう。
- 就業規則や雇用契約書に退職金の支給が定められている
- 過去に退職した従業員に対し、退職金を支給した例がある
退職金の支給に関して雇用側の義務はありませんが、支給制度を設けている場合には、就業規則にその旨が明記されています。
このため、就業規則や雇用契約書に退職金に関する明確な規定があれば、退職金を受け取れると考えて良いでしょう。
ただし、勤務先が経営難の状況にあるなど、退職金の支払いを打ち切る正当な理由がある場合には、退職金の減額や制度廃止となる可能性もあります。
歯医者に勤務する歯科衛生士の退職金|勤続年数別の相場
歯科衛生士に退職金が支給される場合、勤続年数により支給額が異なります。
勤続年数別の退職金の相場は、次のとおりです。
勤続年数 | 退職金の相場 |
5年未満 | 5万~15万円 |
5年~10年 | 10万~80万円 |
10年~15年 | 80万~150万円 |
上記はあくまでも目安であり、実際の支給額は勤務先によって変動するでしょう。
なお、退職金の支給条件も勤務先によってさまざまですが、3年以上の勤続が必要と定めているケースが多い傾向にあります。
歯科衛生士の退職金にかかる税金
退職金には通常、所得税や住民税がかかり、全額を手取りとして受け取れるわけではありません。
ただし、退職金には一定額まで非課税となる退職所得控除が適用されます。
退職所得控除は、退職者の税負担を軽減するための制度です。
これらを踏まえて、以下の退職所得控除額の計算式をもとに、課税対象となる退職金額を算出してみましょう。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数 |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
出典:退職金と税(国税庁)
課税対象となる退職金は、以下の方法で求められます。
【例】勤続年数:10年
退職金:900万円
退職所得控除額:400万円(40万円×10年)
(900万円-400万円)×1/2=250万円
上記の条件の場合、課税退職所得金額は250万円です。
課税退職所得額がわかったら、所得税額を求められます。
令和5年の所得税の税額は、次のとおりです。
A 課税退職所得金額 | B 税率 | C 控除額 |
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
出典:退職金と税(国税庁)
所得税額は、退職所得金額(A)に税率(B)をかけ合わせ、そこから控除額(C)を差し引いて計算します。
【例】課税退職所得金額:250万円
税率:10%
控除額:97,500円
(250万円×10%)-97,500円=152,500円
上記の計算式を用いて、所得税額を152,500円と算出できました。
最後に以下の計算方法で、源泉徴収される所得税および復興特別所得税額を算出します。
【例】所得税額:152,500円
基準所得税額:3,202.5円(152,500円×2.1%)
152,500円+3,202円=155,702円
なお、上記の計算で算出した際の端数は切り捨てるため、源泉徴収額は155,702円となります。
歯科衛生士の退職金有無や金額は就業先により異なる
歯科衛生士に対する退職金の支給は、法的に義務づけられているものではありません。
そのため、勤務先によっては退職金を受け取れないケースもあるでしょう。
ただし、就業規則や雇用契約書に退職金支給の規定がある場合は、雇用側に退職金支払い義務が生じます。
過去の退職者に対して、退職金支給の慣例がある場合も同様です。
退職金の有無は、退職後の生活に影響を及ぼす重要なポイントとなります。
勤務先に就業規則や雇用契約書があれば、退職金に関する規定を確認してみてください。
従業員の人数が少なく就業規則が存在しない場合には、上司やこれまでの退職者に相談してみるのも良いでしょう。