
介護士が受け取れる手当の一つとして、介護職員処遇改善手当があります。
一定の要件を満たす事業所に勤務している場合、雇用形態を問わずすべての介護職員が処遇改善手当の受給対象となります。
しかし、処遇改善手当について詳しく知らず、いつ、いくら受け取れるのかなどの疑問を抱いている方もいるのではないでしょうか。
本記事では、介護士の処遇改善手当の支給方法や金額、対象条件、手当をもらえない場合の対処法などを詳しく解説します。
目次
介護士の処遇改善手当とは何か|創設の背景と仕組み
介護士の処遇改善手当は、高齢化社会において安定的な介護サービスを供給するための介護人材確保をめざす取り組みの一つです。
本章では、処遇改善手当が創設された背景や目的、手当が支払われる仕組みを解説します。
介護職員の処遇改善手当とは?
介護職員の処遇改善手当とは、介護職員の処遇改善のために厚生労働省によって創設された制度です。
規定の要件を満たす介護事業所に勤めている介護士に対して、賃金改善を行うための加算が支給されます。
処遇改善加算の区分は3つに分けられており、サービス区分ごとの加算率や算定要件を加味した金額が支給されます。
処遇改善加算の目的
介護職員処遇改善手当の目的は、介護業界の人材を増やし確保することです。
高齢化社会で介護需要が高まる一方、介護職員の給与水準は低く、介護業界の人手不足が顕著になっています。
厚生労働省は、介護サービス見込み量から2025年度には約243万人、2040年度には約280万人の介護職員を確保する必要があると発表しています。
しかし、2019年度時点の介護職員数は211万人であり、年間約3.3万人〜5.5万人の増員が不可欠です。
この現状を打破すべく、介護業界離れを可能な限り抑えると同時に、新たな人材を呼び込むために、介護職員の待遇の改善に力を入れているのです。
介護士に処遇改善手当が支払われる仕組み
介護職員処遇改善加算は、国や利用者が介護事業所へ支払う介護報酬から拠出されています。
処遇改善加算の要件を満たす事業所は、利用者に対して介護保険サービスの利用料に処遇改善加算を上乗せした金額を請求することが可能です。
これにより事業所へ支払われた加算額は、介護職員へ処遇改善手当として支給されます。
介護士が処遇改善手当を受給するための条件
介護職員処遇改善手当は介護業界の人材定着を目的とし、介護士の賃金向上と待遇改善をめざす制度であることがわかりました。
次に、処遇改善手当を受給するために必要な条件と、受給対象外となる職種やサービスを紹介します。
処遇改善手当の受給対象者
介護職員処遇改善手当は、介護処遇改善加算を取得している職場に勤務する、すべての介護職員が受給対象となります。
雇用形態や資格の有無に関わらず、パート・アルバイトや派遣社員も手当を受け取ることが可能です。
受給対象外となる職種・サービス
介護処遇改善加算を取得する介護事業所で働いていても、介護を直接提供しない職員に関しては、処遇改善手当の受給対象外となるため注意が必要です。
対象外の職種および事業所は以下のとおりです。
<受給対象外の職種>
- 看護師
- ケアマネジャー
- 生活相談員
- サービス管理責任者
- 理学療法士
- 作業療法士
- 事務員
- 栄養士
- 調理師
※ただし、上記の職種であっても、介護業務を兼任している場合は受給可能です。
<受給対象外の事業所>
- 処遇改善を取得していない介護事業所
- 訪問看護ステーション
- 訪問リハビリテーション施設
- 福祉用具貸与施設
- 特定福祉用具販売施設
- 居宅療養管理指導施設
- 居宅介護支援施設
- 介護予防支援施設
介護職員処遇改善加算の算定要件
介護職員処遇改善手当の加算区分は、3つに分けられます。
キャリアパス要件および職場環境等要件を満たす度合いによる、加算区分は以下のとおりです。
キャリアパス要件 | 職場環境等要件 | |
加算(Ⅰ) | ①②③すべてを満たす | 満たす |
加算(Ⅱ) | ①と②を満たす | 満たす |
加算(Ⅲ) | ①または②を満たす | 満たす |
<キャリアパス要件>
①職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること
②資質向上のための計画を策定して研修の実施又は研修の機会を確保すること
③経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること
※就業規則等の明確な書面での整備・全ての福祉・介護職員への周知を含む。<職場環境等要件>
賃金改善を除く、職場環境等の改善
介護職員処遇改善加算の支給方法と金額
介護職員処遇改善加算の受給対象条件や算定要件をふまえ、処遇改善手当はいつ、どのように、いくら支給されるのか気になる方もいるでしょう。
以下で、処遇改善手当の支給方法と金額を具体的に解説します。
支給方法に明確な決まりはない
処遇改善手当の支給方法に明確な定めはなく、事業所ごとに決定します。
2021年度の介護従事者処遇状況等調査の結果によると、定期的な昇給に処遇改善手当を含めている事業所が多いことがわかります。
支給方法 | 回答割合(複数回答あり) |
定期昇給の実施(予定) | 74.5% |
各種手当の引き上げまたは新設(予定) | 21.4% |
賞与などの支給金額の引き上げまたは新設(予定) | 14.2% |
給与表の改定、賃金水準の引き上げ(予定) | 13.8% |
支給金額は区分や事業所によって異なる
処遇改善手当の支給金額も、支給方法同様に一律の定めがなく、加算区分や事業所によって異なります。
加算区分による目安の金額は、以下の表をご参照ください。
区分 | 目安金額 |
処遇改善加算(Ⅰ) | 月額3.7万円相当 |
処遇改善加算(Ⅱ) | 月額2.7万円相当 |
処遇改善加算(Ⅲ) | 月額1.5万円相当 |
また、介護サービスの区分ごとの加算率は以下のとおりです。
サービス区分 | 処遇改善加算(Ⅰ) | 処遇改善加算(Ⅱ) | 処遇改善加算(Ⅲ) |
訪問介護 夜間対応型訪問介護 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 |
13.7% | 10.0% | 5.5% |
(介護予防)訪問入浴介護 | 5.8% | 4.2% | 2.3% |
通所介護 地域密着型通所介護 |
5.9% | 4.3% | 2.3% |
(介護予防)通所リハビリテーション | 4.7% | 3.4% | 1.9% |
(介護予防)特定施設入居者生活介護 地域密着型特定施設入居者生活介護 |
8.2% | 6.0% | 3.3% |
(介護予防)認知症対応型通所介護 | 10.4% | 7.6% | 4.2% |
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 看護小規模多機能型居宅介護 |
10.2% | 7.4% | 4.1% |
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 | 11.1% | 8.1% | 4.5% |
介護福祉施設サービス 地域密着型介護老人福祉施設 (介護予防)短期入所生活介護 |
8.3% | 6.0% | 3.3% |
介護保健施設サービス (介護予防)短期入所療養介護 (老健) |
3.9% | 2.9% | 1.6% |
介護療養施設サービス (介護予防) 短期入所療養介護 (病院等(老健以外)) 介護医療院サービス (介護予防)短期入所療養介護(医療院) |
2.6% | 1.9% | 1.0% |
参考:介護職員処遇改善加算(令和5年3月1日老発0301第2号)

処遇改善手当以外に介護士がもらえる手当
介護職員処遇改善手当の他にも、介護士が受け取れる手当があることをご存知でしょうか。
以下2つの処遇改善制度について、対象者や支給額を紹介します。
- 特定処遇改善加算
- 介護職員等ベースアップ等支援加算
特定処遇改善加算
特定処遇改善加算とは、介護職員処遇改善加算に加えて、高いスキルや経験を所有する介護職員に対して、さらなる処遇改善のために加算を支給する制度です。
従来、介護職員処遇改善加算の受給対象者は、介護に直接携わる介護職員のみでした。
しかし、特定処遇改善加算では、直接介護に関わらないケアマネジャーや生活相談員など、介護士以外の職種も対象となります。
特定処遇改善加算を受けるには、事業所で一人以上のキャリアのある介護職員に対し、賃金を月8万円以上上げるか、年収440万円以上にしなければならないという決まりがあります。
介護職員等ベースアップ等支援加算
介護職員等ベースアップ等支援加算は、2022年10月に行われた介護報酬改定で、介護職員の処遇改善のために新たに創設された制度です。
事業所が加算を受けるためには、介護職員一人あたりの収入を3%程度(月額平均9,000円相当)引き上げる必要があります。
介護職員等ベースアップ等支援加算の受給対象者は、介護職員とその他の職種です。
その他の職種は事業所の判断で決定されます。
介護士が処遇改善手当をもらえない場合の対処法
介護処遇改善手当は、原則として事業所がピンハネできない仕組みとなっています。
処遇改善加算として会社に入ったお金はすべて職員に支給する必要があり、1円でも残すと違反となるためです。
もし、処遇改善手当が支払われていないと違和感を感じた場合は、まず自身が処遇改善手当の受給対象であるか、以下の確認をとりましょう。
- 勤務先が処遇改善加算を取得している
- 自身が処遇改善加算の対象職種である
上記を確認し、受給対象であるにも関わらず手当が未払いである場合は、以下の対応をとると良いでしょう。
- 介護職員処遇改善加算の規則を事業所に確認する
- 管理者や経営者に確認する
- 労働基準監督署や弁護士などの専門家に相談する
- ハローワークへ相談する(ハローワークを通して就職した場合)
介護処遇改善手当の受給条件を正しく理解して働こう
介護職員処遇改善手当は、キャリアパス要件や職場環境等要件を満たした事業所に勤めている介護職員が受給できる手当です。
今働いている、あるいは今後働く勤務先が、処遇改善加算の要件を満たしているかどうかを確認しておきましょう。
また、処遇改善手当の支給方法や金額は事業所ごとに定められているため、これらを把握できていない人は勤務先に問い合わせてください。
自身が処遇改善手当の対象者であるにも関わらず受給できない場合は、速やかに公的機関などへ相談することをおすすめします。