
日本の高齢化にともない、限られた医療機関でニーズに答えるための役割分担が重要になっています。
医療機関の機能分化のため、かかりつけ医からの紹介状で各病院にかかる制度が整えられてきました。
このように患者さんの症状や処置段階によって、適した病院や対応を地域全体で行うのが地域医療連携です。
本記事では、地域医療連携の役割や、具体的な仕組み、メリットなどを解説していきます。
目次
地域医療連携とは
地域医療連携とは、地域のかかりつけ医と総合・専門病院、訪問サービスなどが連携することで、患者さんに合った病態に対し適切な場所で医療を受けられるようにしたシステムです。
少子高齢化社会が進む今、限られた人材や設備などのなかで必要な人に必要な医療を提供するために、地域医療連携が行われる必要があります。
そこで厚生労働省によって、2017年4月2日から地域医療連携推進法人制度が施行されました。
地域医療連携の役割
地域医療連携には、大きく分けて以下2つの役割があります。
- 適切な人材や機器の配置・役割分担
- 途切れない医療の提供
それぞれどのような役割なのか、見ていきましょう。
適切な人材や機器・役割分担
適切な人材や機器・役割の分担には、主に以下のような取り組みが挙げられます。
- 日々の診療をかかりつけ医を含めた近医の開業医に任せる
- より精密な検査を必要とする場合に総合病院など検査器具がある場所にお願いする
このように必要な場所に必要な医師や器具を置くことで、一つの病院への依存を防ぎ、各病院が適切な機能を果たすことができるのです。
途切れない医療の提供
途切れない医療の提供とは、ある程度の治療や手術、入院などのステップが完了したあとも、支援を継続的かつ一体的に行う役割です。
例えば、退院後にリハビリを行うために、リハビリ専門病院や訪問リハビリテーションを紹介します。
地域医療連携によって、術後や退院後でも患者さんの情報を地域で共有でき、訪問サービスやリハビリ施設を紹介することで途切れない治療を提供できます。
地域医療連携の具体的な仕組み
地域医療連携の具体的な仕組みには、主に「紹介予約」と「逆紹介(返送)」があります。
医療連携の軸としてどのような取り組みがされているのか、詳しく見ていきましょう。
紹介予約
かかりつけ医や開業医で診察を受けた患者さんのなかには、より精密な検査が必要になる方もいます。
このようなケースではかかりつけ医が「紹介状」を書き、さらに細かく診療できる総合病院を案内します。
その後総合病院の予約をとり、予約日に紹介状を持参すれば検査・診察を受けられる仕組みです。
このように紹介状を記入し、患者さんをより大きい病院へ案内するシステムのことを「紹介」といいます。
逆紹介(返送)
紹介によって総合病院での入院、または処置後でも、退院や回復の状況によっては投薬の継続や通院が必要な患者さんがいることがあります。
この場合に、総合病院から紹介元のかかりつけ医に対して行われるのが、患者さんの「逆紹介(返送)」です。
元々のかかりつけ医に継続してほしい処置やケア、入院中にたどった経過などを伝え、退院後も状態が悪化しないよう継続した医療を提供します。
一方、救急搬送でかかりつけ医がない場合や、他の医療機関での入院加療が必要なケースもあります。
このような場合に、新たに総合病院の医師が紹介状を書き、情報共有をする仕組みも逆紹介です。
地域医療連携のメリット
地域医療連携には、以下のようなメリットがあります。
- 診療情報の共有で適切な医療を効率良く提供できる
- 医療機関同士のシームレスな患者紹介
- 待ち時間の削減
地域医療連携による効果を理解するために、メリットについて詳しく見ていきましょう。
診療情報の共有で適切な医療を効率良く提供できる
地域医療連携では、各医療機関の間で患者さんの診療情報を共有します。
そのため、検査や処方箋の重複を防ぐことが可能です。
患者さんにとって負担になる処置や検査なども、複数回必要としなくなるのです。
また医療者の業務である転院のための書類作成、検査データのやりとりにかかる時間や手間を省くことができます。
診療情報の共有において、患者さんへの処置だけでなく、医療者の業務も効率化する点が大きなメリットです。
医療機関同士のシームレスな患者紹介
地域医療連携には、「紹介」と「逆紹介」というシステムがあります。
紹介は、かかりつけ医で緊急の処置が必要な患者さんに「紹介状」を用いて総合・専門病院を案内することです。
逆紹介では、処置後や退院後にケアが必要な患者さんにかかりつけ医を紹介します。
医療機関同士が継ぎ目なくシームレスに患者さんを紹介し合えるのは、先に解説した診療情報がしっかりと共有されているからです。
このように、患者さんの容態によって適切な医療機関を提供できていることも、地域医療連携のメリットになっています。
待ち時間の削減
地域医療連携システムを導入している病院では情報共有ができているため、かかりつけ医と総合・専門病院間の連携がスムーズです。
そのため、電子カルテの情報を早期に確認でき、患者さんに本当に必要な検査だけ行うことができるため、無駄な検査の時間を減らすことができます。
診療時間が効率的になることで、患者さんの待ち時間削減につながります。
実際の医療地域連携をしている医療機関
実際に医療連携に力を入れている医療機関を紹介します。
大久保病院
大久保病院は、区西部二次保健医療圏(新宿区、中野区、杉並区)における中核病院です。
近辺の区の医療機関とともに役割分担を行い、地域住民に必要な医療を提供できるように、地域医療連携システムを導入して励行しています。
地域の医師と連携が図れるよう、医療連携講演会を行う研修も積極的に行っている病院です。
淡路医療センター
淡路医療センターでは、あわじネットという情報通信技術によって患者さんの情報共有をしています。
あわじネットでは、加盟している病院間で診療情報の共有できるシステムです。
加盟病院であれば、対象の患者さんがいない院外からでも電子データとしてカルテの一部を参照できます。
正確な情報を遠隔でも確認できることで、診療の効率化を図っている病院です。
八戸市立市民病院
八戸市立市民病院では、医療機器共同利用制度を導入しています。
地域の病院・クリニックの医師が共同で使用できるCT、MRI、RI、骨塩定量の検査機器などを設置する仕組みです。
必要な場所に必要な機器を置くことで設備投資を軽減し、医療費を抑えることができます。
地域医療連携の抱える課題
地域医療連携にはメリットが多くありますが、以下のような課題も存在します。
- 人手不足
- 情報共有システムが整っていない
- 診療科によって人材が偏在している
リスクを把握するために、しっかりとチェックしていきましょう。
人手不足
都市部には多くの医療機関があり、研修医をはじめ専攻医も多くいる傾向があります。
しかし地方では、医師が不足しているのが現状です。
そのため人手不足の地域では、地域医療連携を導入しても、スムーズな医療連携を図ることが難しいという課題があります。
情報共有システムが整っていない
電子カルテが普及してきている昨今ですが、地方のかかりつけ医、規模の小さい医療機関ではいまだ紙カルテを使用しているケースがあります。
地方医療連携システムを導入するための資金不足や、地方スタッフへの説明が行き届いていないことが原因です。
このようなITリテラシーや技術の差によって情報共有システムが整わず、地域医療連携がうまくいかない課題があります。
診療科によって人材が偏在している
医師の人材は地域によってだけでなく、診療科によっても偏りがあります。
例えば、小児科や麻酔科などは医師数の不足感を感じる診療科といわれています。
診療科によって医師数の偏りがあることで地域医療連携がうまく循環せず、医師の少ない診療科への負担が大きくなりがちです。
診療科によって人材が偏在していることで、スムーズな地域医療連携ができないことも課題の一つです。
地域医療連携を学び、適切な医療を提供しよう
地域医療連携は、高齢化が進む日本において重要な役割を果たしています。
適切な人材や機器の配置、役割分担により途切れない医療を提供することで、患者さんにとってのメリットは大きいです。
一方で人手不足や情報共有システムの不整備など、課題も存在します。
地域医療連携について多角度から理解を深めることで、患者さんに適切な医療を提供していきましょう。