
特定行為研修を受けた看護師のことを、特定看護師といいます。
看護師の特定行為には具体的にどういった医療行為があるのか、どのような手順を踏んで特定看護師になるのかを知りたい方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、具体的な看護師の特定行為や研修内容、特定行為研修を受けるメリットを解説しています。
また、専門看護師や認定看護師との違いもお伝えします。
特定看護師になりたい方、めざしている方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
特定行為研修を受けた「特定看護師」とは
本来、看護師が行う業務は「療養上の世話または診療の補助」であることは、保健師助産師看護師法によって定められています。
なかでも「診療の補助」に含まれる医療行為の一つひとつは、それぞれ医師にしかできないものなのか、看護師でも行って良いものなのか、厳密には規定されていませんでした。
そこで、看護師が「診療の補助」として実践できる行為のうち、高度な専門知識や技術をもって行うものが明確に区分され、「特定行為」と位置付けられました。
特定看護師とは、この特定行為を実践するために必要な知識と技術に関する研修を受け、修了認定を受けた看護師をいいます。
厚生労働省の調査によると、令和4年3月の時点で特定看護師の研修修了者は4,832名おり、年々増加傾向にあります。
特定行為研修とは
特定行為研修の概要や費用などは以下のとおりです。
特定行為研修の概要
特定行為研修は、看護師が手順書に従って特定行為を行うために、特に必要とされるスキルを身につけるための研修です。
実践的な理解力・思考力や判断力を養い、高度かつ専門的な知識を学び、技能の向上を図ります。
特定行為研修は、すべての特定行為区分に共通するスキルの向上をめざす共通科目と、特定行為区分ごとに異なるスキルの向上をめざす区分別科目で構成されています。
特定行為研修の費用・申請期限
研修は、ハローワークへ申請すると受講費用の一部が支給されます。
支給金額は、一般教育訓練では受講費用の20%(上限10万円)、特定一般教育訓練では受講費用の40%(上限20万円)です。
申請期限は受講修了日から1ヵ月以内ですが、特定一般教育訓練給付金の申請要件として、あらかじめキャリアコンサルティングを受講し、訓練開始の1ヵ月前までに「教育訓練給付金及び教育訓練給付金受給者確認票」と「ジョブカード」をハローワークに提出しなければなりません。
また、特定行為区分ごと受講するパッケージ研修があったり、一部の科目のみeラーニングでの受講が可能だったりと、働きながらでも研修を受けやすい制度が組み込まれています。
詳細は厚生労働省のホームページをご覧ください。
特定看護師はなぜ必要?
2025年には団塊世代800万人全員が後期高齢者になり、日本は超高齢化社会を迎えるといわれています。
そのため、国は今後の入院医療のあり方の見直しと、さらなる在宅医療の推進をめざしています。
こうした流れのなか、看護師の役割拡大が重要となり、医師が作成した手順書をもとに一定の診療補助を行える特定看護師の需要が高まってきました。
医師の到着を待たず、タイムリーに特定行為を受けられることで、患者さんは症状の回復が早くなり、苦痛の軽減が早期に図れる、といったメリットがあります。
また、特定行為を実践できる看護師が増えれば、医師の業務負担軽減にもつながるでしょう。
特定看護師には、将来的に懸念されている医師不足・看護師不足の問題にも貢献する役割が期待されています。
看護師が特定行為研修を受けるメリット
看護師が特定行為研修を受けるメリットは、看護師としての満足度が高まることです。
患者さんの病状の変化に気付いた看護師は、必要な治療を受けてもらいたいと考え、ただちに医師に報告します。
ところがほかの処置で手が離せない、外来診療中などで、医師からすぐに指示がもらえないケースも少なくありません。
特定看護師であれば、医師の到着を待たず特定行為を行えるため、質の高い看護が提供でき、結果として看護師としてのやりがいを感じられます。
診療看護師・専門看護師・認定看護師との違いは?
特定看護師と、診療看護師・専門看護師・認定看護師との違いをそれぞれ解説します。
まず、特定看護師と診療看護師(Nurse practitioner:NP)の大きな違いとして挙げられるのが、資格の有無です。
特定看護師には認定資格がありませんが、診療看護師は大学院修士課程で医学教育を修了し、NP資格認定試験に合格して資格を取得しています。
さらに、実施できる特定行為の数も、両者の違いです。
特定看護師は21区分38行為の特定行為のうち、自分が修了した研修に該当する限定的な行為を、診療看護師は特定行為のすべて、または大部分を実施できます。
続いて、特定看護師と専門看護師との違いも、資格と認められている行為内容です。
専門看護師は5年以上の実践経験に加えて看護系の大学院で修士課程を修了し、認定審査に合格して資格を取得しています。
専門看護師は「がん看護」など14の専門看護分野における幅広い役割を持っていますが、実施できる特定行為の内容は具体的に定められていません。
さらに、特定看護師と認定看護師との違いも、資格とその役割です。
認定看護師は5年以上の実践経験と600時間以上の認定看護師教育を修め、審査に合格して資格を取得しています。
「救急看護」など21の認定看護分野があり、専門的な治療や看護が必要な患者さん・ご家族に対して専門知識に基づき適切に判断し、看護を行います。
看護師が行える特定行為21区分と手順書
看護師が行える特定行為にはどういったものがあるか、また、手順書とはなにか解説していきます。
看護師が行える特定行為21区分38行為
看護師が行える特定行為21区分38行為を、以下の一覧表にまとめました。
特定行為の詳しい内容を知りたい方は、厚生労働省のホームページを参照してください。
区分 | 特定行為 |
呼吸器(気道確保に係るもの)関連 | 経口用気管チューブまたは経鼻用気管チューブの位置の調整 |
呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 | 侵襲的陽圧換気の設定の変更 |
非侵襲的陽圧換気の設定の変更 | |
人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整 | |
人工呼吸器からの離脱 | |
呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 | 気管カニューレの交換 |
循環器関連 | 一時的ペースメーカーの操作・管理 |
一時的ペースメーカーリードの抜去 | |
経皮的心肺補助装置の操作・管理 | |
大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行うときの補助頻度の調整 | |
心嚢ドレーン管理関連 | 心嚢ドレーンの抜去 |
胸腔ドレーン管理関連 | 低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定・変更 |
胸腔ドレーンの抜去 | |
腹腔ドレーン管理関連 | 腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された穿刺針の抜針を含む) |
ろう孔管理関連 | 胃ろうカテーテル・腸ろうカテーテル・胃ろうボタンの交換 |
膀胱ろうカテーテルの交換 | |
栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連 | 中心静脈カテーテルの抜去 |
栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連 | 末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入 |
創傷管理関連 | 褥瘡または慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去 |
創傷に対する陰圧閉鎖療法 | |
創部ドレーン管理関連 | 創部ドレーンの抜去 |
動脈血液ガス分析関連 | 直接動脈穿刺法による採血 |
橈骨動脈ラインの確保 | |
透析管理関連 | 急性血液浄化療法における血液透析器または血液透析濾過器の操作・管理 |
栄養および水分管理に係る薬剤投与関連 | 持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整 |
脱水症状に対する輸液による補正 | |
感染に係る薬剤投与関連 | 感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与 |
血糖コントロールに係る薬剤投与関連 | インスリンの投与量の調整 |
術後疼痛管理関連 | 硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与および投与量の調整 |
循環動態に係る薬剤投与関連 | 持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整 |
持続点滴中のナトリウム、カリウムまたはクロールの投与量の調整 | |
持続点滴中の降圧剤の投与量の調整 | |
持続点滴中の糖質輸液または電解質輸液の投与量の調整 | |
持続点滴中の利尿剤の投与量の調整 | |
精神および神経症状に係る薬剤投与関連 | 抗けいれん剤の臨時の投与 |
抗精神病薬の臨時の投与 | |
抗不安薬の臨時の投与 | |
皮膚損傷に係る薬剤投与関連 | 抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射および投与量の調整 |
手順書とは
手順書とは、看護師に特定行為を行わせるため、医師または歯科医師が作成する指示書です。
看護師に診療の補助を行わせる患者さんの病状の範囲や、診療の補助の内容などの記載が定められています。
具体的な記載項目は、以下の6項目です。
- 看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲
- 診療の補助の内容
- 当該手順書に係る特定行為の対象となる患者
- 特定行為を行うときに確認すべき事項
- 医療の安全を確保するために医師または歯科医師との連絡が必要となった場合の連絡体制
- 特定行為を行ったあとの医師または歯科医師に対する報告の方法
手順書の具体的な内容は、上記の記載事項に沿って医師または歯科医師があらかじめ作成します。
各医療現場の判断で、記載事項以外の事項や、具体的な内容を追加することもできます。
手順書があれば特定看護師は患者さんの状態に合わせて適切な処置ができ、多忙な医師の業務負担軽減につながるでしょう。
特定行為を実施できる看護師は仕事の幅が広がる
今回は特定行為を行える看護師「特定看護師」について解説してきました。
令和4年度の診療報酬改定では、特定行為研修修了者の実践を評価する項目が新設・改訂されました。
例えば、専門性の高い看護師による同行訪問(褥瘡)に加算がとれるようになったり、在宅医療・訪問看護の手順書にも加算が取れるようになったりと、専門性の高い特定看護師の活躍に期待が高まっています。
特定行為を実施できる看護師は、高度医療を提供する病院だけでなく訪問看護の現場でもニーズが高まることが見込まれます。
特定研修を受けることで、看護師として仕事の幅を広げられるでしょう。