
認定薬剤師や専門薬剤師は、薬剤師のスキルアップ・キャリアアップに役立つ認定資格です。
しかし、「資格取得に挑戦したいけれど、日々の業務が多忙で何から手をつけて良いかわからない」という人も多いのではないでしょうか。
本記事では、認定薬剤師・専門薬剤師の資格にはどのような種類があるのか、それぞれに求められる条件などを紹介していきます。
目次
薬剤師の認定資格・認定薬剤師と専門薬剤師について
薬剤師のキャリアは、国家資格さえ取ってしまえば生涯安定というわけではありません。
日々変化・進化する医療分野で、日頃から自己研鑽を重ね、技術や知識を磨くことが求められています。
認定資格の取得は、薬剤師の自己研鑽に役立ち、キャリアアップにも大いに有効といえます。
認定薬剤師とは、特定分野に対して一定の知識・技術を有していると認められる薬剤師の専門資格です。
倫理や薬学、薬事法規など、薬剤師業務の質の向上に役立つ内容を、一定期間内に所定の単位取得を申請し、認定を受けます。
現在、一般社団法人日本病院薬剤師会や公益財団法人日本薬剤師研修センターなど、複数の団体が資格を認定しており、認定薬剤師の上位資格には専門薬剤師もあります。
ただ、認定薬剤師が最上位資格とされている分野もあり、専門薬剤師のほうが認定薬剤師より優れているとは一概には言い切れません。
認定薬剤師や、専門薬剤師の資格を有していると、スタッフや患者さんからより大きな信頼を得られ、仕事の幅も広がるだけでなく、転職で優遇されたり、収入アップが期待できたりすることもあるでしょう。
認定薬剤師になる条件
まずは、認定薬剤師の資格を得るための条件を確認します。
認定資格の種類によっては、実務経験年数などの条件が提示されている場合もあります。
条件や申請方法は資格によって異なりますが、日本薬剤師研修センターが認定する資格の取得の大まかな流れは以下のとおりです。
- 薬剤師研修・認定電子システム(PECS)に登録
- 指定された研修会を受講し、単位を取得
- 必要な単位数を満たしたら、PECSから申請
研修会を受講するごとに、単位取得を証明する研修受講シールが配布されます。
必要に応じて、シールを研修受講シール整理表や、以前発行されていた薬剤師研修手帳に貼付して必要事項を記入し、申請から1週間以内にセンターに郵送で提出してください。
新規に申請する場合は申請日から遡って4年以内に40単位以上、更新では3年ごとに30単位以上または毎年5単位以上を取得するよう求められています。
1申請につき、11,000円の審査料が必要です。
専門薬剤師になる条件
専門薬剤師になるためには、認定薬剤師の資格を持っていることが条件です。
認定薬剤師の資格に加えて、さらなる知識や技術を身につけ、研究成果を学会で発表するなどして審査に合格すると、ようやく専門薬剤師になれます。
専門薬剤師の認定条件は認定薬剤師よりさらに厳しく、専門施設での研修歴や特定疾患への薬事介入実績を求められる分野もあります。
専門薬剤師の資格を取得するまでには、かなりの時間を要するでしょう。
専門薬剤師になれば、専門分野のスペシャリストとしての権威性もより高まります。
専門的な治療に主体的に関われるようになり、医師や医療従事者からの信頼も高まるでしょう。
また、収入アップや管理職就任などのキャリアアップにもつながります。
認定薬剤師と専門薬剤師の違い
認定薬剤師と専門薬剤師は、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
最も大きなものは、権威性の違いです。
特定分野では認定薬剤師が最上位資格のケースもありますが、専門薬剤師が認定薬剤師の上位資格となっている分野もあります。
なかでも権威性の高い専門資格としては、一般社団法人日本医療薬学会が認定するがん専門薬剤師などが挙げられます。
がん専門薬剤師は、医療者の専門性に関する資格名などの広告を規制する医療法において、薬剤師の専門性資格としては初めて広告での標榜が可能となった資格です。
他分野の専門薬剤師や認定薬剤師の資格では、現在も医療法上広告することが認められていません。
薬剤師が取得できる認定資格一覧
日本医療薬学会による2019年の調査では、国内で認定されている認定薬剤師・専門薬剤師資格は合わせると、48団体、79種類にも及びます。
認定薬剤師・専門薬剤師は20種類以上
認定薬剤師・専門薬剤師の資格をカテゴリごとに紹介します。
認定制度 | 認定団体 | |
悪性腫瘍 | がん薬物療法認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 |
外来がん治療認定薬剤師 | 日本臨床腫瘍薬学会 | |
緩和薬物療法認定薬剤師 | 日本緩和医療薬学会 | |
麻薬教育認定薬剤師 | 日本緩和医療薬学会 | |
感染科疾患 | 感染制御認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 |
HIV感染症薬物療法認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 | |
抗菌化学療法認定薬剤師 | 日本化学療法学会 | |
腎臓科疾患 | 腎臓病薬物療法認定薬剤師 | 日本腎臓病薬物療法学会 |
内分泌・代謝科疾患 | 糖尿病薬物療法認定薬剤師 糖尿病薬物療法准認定薬剤師 |
日本くすりと糖尿病学会 |
皮膚疾患 | 日本褥瘡学会認定師(認定褥瘡薬剤師) | 日本褥瘡学会 |
精神疾患 | 精神科薬物療法認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 |
産科・婦人科疾患 | 妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 |
小児科疾患 | 小児薬物療法認定薬剤師 | 日本薬剤師研修センター 日本小児臨床薬理学会 |
栄養療法 | 栄養サポート(NST)専門療法士 | 日本臨床栄養代謝学会 |
NR・サプリメントアドバイザー | 日本臨床栄養協会 | |
救急 | 救急認定薬剤師 | 日本臨床救急医学会 |
プライマリ・ケア 在宅医療 | プライマリ・ケア認定薬剤師 | 日本プライマリ・ケア連合学会 |
在宅療養支援認定薬剤師 | 日本在宅薬学会 | |
認知症研修認定薬剤師 | 日本薬局学会 | |
実務研修 | 日病薬認定指導薬剤師 | 日本病院薬剤師会 |
手術期 | 周術期管理チーム認定薬剤師 | 日本麻酔科学会 |
災害医療 | 災害医療認定薬剤師 | 日本災害医学会 |
その他 | 公認スポーツファーマシスト | 日本アンチドーピング機構 |
漢方・生薬認定薬剤師 | 日本薬剤師研修センター 日本生薬学会 |
|
研修認定薬剤師 | 日本薬剤師研修センター |
【カテゴリ別】おすすめの認定資格を紹介
興味のある分野の認定薬剤師資格は見つかったでしょうか。
以下では、おすすめの認定資格をいくつか挙げ、概要を紹介します。
【悪性腫瘍】がん薬物療法認定薬剤師
がんの治療では、抗がん剤の選択など薬物療法による治療がとても大切です。
がん薬物療法認定薬剤師は、がん治療に対する薬物選択、薬物動態などの専門的な知識を持つと認められた薬剤師です。
国立がん研究センターの発表しているがん統計によると、がんの罹患数と死亡数は、高齢化に伴い年々増加してきていることがわかります。
がん薬物療法認定薬剤師は、臨床で求められる機会が多くなることが予想されます。
認定を受けるには、がん患者への薬剤管理指導の実績が50症例を超えていることが必要で、より専門的な業務経験や知識が必須です。
主な働き口としてはがん研究センターや、がん治療を専門に扱う病院があります。
また、訪問看護でも役立つ資格の一つでしょう。
【感染症】感染制御認定薬剤師
感染制御認定薬剤師は、感染疾患に罹患した患者さんの治療に加え、病院内での感染発生を防ぐために、院内の感染対策チームとして行動するために必要な知識を有する薬剤師です。
ときには、他の薬剤師や院内スタッフに向けて、感染予防方法の講習なども行います。
さらに、上位資格である感染制御専門薬剤師をめざすこともできます。
感染対策はさまざまな病院で求められる知識であるため、転職の際などには資格が有利に働くことも多いでしょう。
【腎疾患】腎臓病薬物療法認定薬剤師
腎臓病薬物療法認定薬剤師とは、慢性腎臓病(CKD)などの腎臓病患者を対象とした薬物療法において、高い知識・技術を持っていると認められた薬剤師です。
新生児から高齢者までと幅広い年齢の患者さんが対象で、患者さんの腎機能を保つために、日々薬の用法・用量を調整します。
一般病院から透析センターまで、医療現場で活躍できるでしょう。
【精神疾患】精神科薬物療法認定薬剤師
精神科薬物療法認定薬剤師は、うつ病や統合失調症などの精神疾患の薬物療法を、適切に、そして安全に提供できる知識・技術があると認められた薬剤師です。
経済協力開発機構(OECD)におけるメンタルヘルス調査によると、新型コロナウイルスの流行後、うつ病・うつ症状のある患者数はほぼ2倍にまで増加しています。
精神医療分野は年々ニーズも増えてきているため、需要が高まると考えられる資格の一つでしょう。
主な活躍の場には、精神疾患の専門病院や研究センターなどが挙げられます。
【産科・婦人科疾患】妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師
妊婦・授乳婦薬物妊娠・出産・授乳期における妊婦・胎児への薬物療法にて、高い知識・技術を持ち合わせていると認められた薬剤師です。
妊婦中は薬の制限も多くあるため、妊婦と胎児の安全を守りながら薬物療法を提供できるよう支援するのが認定薬剤師の仕事です。
命の誕生に関わりサポートできるため、やりがいも大きいでしょう。
主な働き口には、産婦人科を持つ病院やクリニックや助産院などの施設や、それらに隣接する調剤薬局などが挙げられます。
【その他】漢方・生薬認定薬剤師
漢方・生薬認定薬剤師は、漢方薬や生薬に関する豊富な知識・技術を有していると認められた薬剤師です。
漢方や生薬は、日常での生活でも私たちにも馴染み深いものです。
患者さん一人ひとりの症状に対して、体質に合った薬を調合・提供するため、患者さんに寄り添ったコミュニケーションが求められます。
漢方・生薬認定薬剤師は、ドラッグストアや調剤薬局でも活躍できるでしょう。
薬剤師として何をしたいかを考えて認定資格を選択しキャリアアップをめざそう
認定薬剤師や専門薬剤師の詳細を説明しましたが、めざしたい資格は見つかったでしょうか。
薬剤師といっても、資格により担う仕事や分野が異なります。
患者さんにより近い位置で治療を提供する薬剤師や、研究の推進でさらなる医療貢献に務める薬剤師など、立ち位置ややりがいもさまざまです。
自分自身が薬剤師として何をしたいか、どうなりたいかを具体的にイメージしてから必要な資格を選択し、キャリアアップをめざしましょう。