薬剤師として就職活動・転職活動を行う際に、勤務先候補の一つとして病院を検討する方も少なくないでしょう。
実際に、病院に従事している薬剤師の割合は約17.4%となっており、約6人に一人の薬剤師が病院で働いています。
薬剤師として病院で働くことで、他職種と連携しチーム医療の一員として患者さんを支えられたり、自身の専門性を高めてスキルアップにつなげることが可能です。
今回の記事では、病院で薬剤師として働くことを検討している方に向けて、病院薬剤師の仕事内容や就職を決める前に確認したいこと、病院で働く際の1日のスケジュール例を紹介します。
目次
病院薬剤師の仕事内容
病院薬剤師は、医師が出した処方箋をもとに調剤した薬を患者さんに渡す調剤業務のほか、病棟に入院している患者さんに対して薬の説明や病状の確認を行う病棟薬剤業務、治験業務、救命救急業務、医薬品情報(DI)業務など多くの役割を担っています。
ここでは、病院薬剤師の主な業務内容を見ていきましょう。
調剤・製剤業務
調剤業務とは、医師が出した処方箋の薬を正しく調合する業務のことです。
ただ処方箋どおりに薬を出すだけではなく、調剤は以下のような流れで行われます。
- 調剤前に処方箋の監査を行い、処方内容の不明点の有無や誤りの有無を確認する
- 調剤を開始
- 調剤後、別薬剤師にて調剤薬監査を行い、調剤内容と処方箋の内容が合っているかを確認する
病院薬剤師の特徴として、化学療法に使用する抗がん剤や「無菌製剤」といった市販されていない薬剤をつくる製剤業務など、さまざまな業務を担うことができます。
病棟薬剤業務
病棟薬剤業務は、入院患者さんの薬物療法の有効性や安全性を向上させることが目的です。
実際の業務内容としては、以下のようなものが挙げられます。
- 入院した患者さんの持参薬の確認や現在の内服状況、禁忌薬の有無を確認する
- 入院患者さんの治療効果や副作用の有無を確認し、必要時に医師に処方内容を提案する
- 退院前の患者さんに対して、薬の効果や副作用の説明など内服薬の指導を行う
- チームカンファレンスに参加し、他医療スタッフとの情報共有 を行う
医薬品の管理
病院内で使用する医薬品を適切な方法で管理し、医薬品が不足することがないように発注と在庫管理を行う業務です。
医薬品のなかには遮光や冷暗所での保存を必要としているものなどもあり、医薬品によって保管方法が決められているため、正しい温度管理や湿度管理のもとで管理します。
また、病院では医療用麻薬や金庫薬など取扱いに十分注意しなければいけない薬もあり、これらの薬については使用履歴を残し、紛失をしないよう適切な管理が求められます。
治験業務
治験とは、製薬会社が新薬の開発を目的として、未承認の薬を人に投与し、有効性や安全性、効果などを調べる試験のことです。
GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)に定められた要件を満たす病院でのみ行われるため、病院によっては治験を実施していないところもあります。
薬剤師は、適切な方法で治験薬を保管し、治験が実施される際には「プロトコル(治験を行う際の手順書)」に則って、正しく治験薬が投与されているかを確認 しなければなりません。
救命救急業務
救命救急センターがある病院は、さまざまな容態の患者さんが時間帯問わず救急搬送され、迅速に治療を開始しなければいけないこともあり、薬剤師としてチーム医療への貢献が求められます。
薬剤師の業務としては、以下が挙げられます。
- 搬送された患者さんの処方薬の確認を行い、医師に対して継続処方が必要な薬剤や投与方法の提案を行う
- 緊急の処置に対して使用される薬剤の投与方法や用量を設定し、正しく使用できているか確認する
医薬品情報(Drug Information)業務
医薬品情報業務(以下「DI業務」と記載)は、さまざまな医薬品情報を収集して適切な形で保管し、他の医療従事者や患者さんに正しい医薬品情報を提供する仕事です。
具体的な仕事内容としては、以下のようなものがあります。
- 医薬品の情報収集
院内で使用している薬剤の情報収集はもちろん、未採用の薬剤や新規で採用する薬剤などの情報収集を幅広く行い、適切かどうかを判断する。 - 医薬品情報の保管
収集した医薬品情報を、必要時に適切な形で利用できるよう加工・保管する。 - 医薬品の情報提供
看護師や医師などの医療従事者および患者さんの医薬品に対する問い合わせに対し、情報提供を行う
これらの仕事以外にも、院内で発生した有害事象を厚生労働省に報告することも、DI業務 の一つとなっています。
病院薬剤師になるメリット
病院薬剤師は、医師への薬剤の処方提案や、看護師をはじめとした他職種に対する薬剤の情報共有などを通して、チーム医療の一員として高い専門性を持って治療に関わることで、患者さんの回復に携われるというメリットがあります。
チーム医療の一員として患者さんの回復に携われる
病院で働く薬剤師は、薬剤が投与された患者さんの状態を、採血データなどの検査結果や体調の変化などから直接確認できます。
調剤薬局やドラッグストアなどで働く薬剤師と比較して、患者さんの容態をリアルタイムに把握しやすい特徴があります。
医師と協働して適切な薬物療法が行えるように薬剤の提案をしたり、 看護師に対して患者さんが内服している薬剤の副作用や注意点を伝えることで、チーム医療の一員として円滑な薬物療法の実施に携わることができるのです。
薬剤師として専門性を高められる
がん専門の病院や循環器専門の病院など、勤務する病院によって専門とする分野があったり、総合病院でも特定の診療科を受け持つことで、その診療科の薬剤について詳しくなり、専門性を高めることができます 。
また、がん専門薬剤師など薬剤師のスキルアップとして代表的な認定薬剤師・専門薬剤師資格は、取得する資格の専門領域での実務研修や症例報告などを課している場合もあります。
病院で働くことで、さまざまな症例を経験できるため、薬剤師としてスキルアップできる環境が整っているといえるでしょう。
病院薬剤師になる前に確認するべきこと
先述したとおり、薬剤師としてやりがいを感じながら専門性を高めることができる病院薬剤師ですが、病院で働くことで人によってはデメリットと感じてしまう部分もあります。
実際に働いてから、現実と理想のギャップを感じてしまうことがないよう、以下の点も確認しておきましょう。
夜勤の頻度や体制
病院は24時間365日稼働しているため、ドラッグストアや調剤薬局の薬剤師とは異なり、働く病院によっては薬剤師も夜勤が必要な場合があります。
夜勤は、人によっては体調を崩してしまう原因となったり、日勤よりも少ない人数で業務を行うことが多いため、精神的にも体力的にも負担を感じてしまうこともあるでしょう。
また、救命救急センターのある病院では、夜間帯に急患が運ばれてきて、夜通し急変対応が必要なこともあります。
夜勤の頻度や仮眠時間、勤務時間などの薬剤師の夜間体制を事前に把握しておき、自分にとって働き続けることが可能な環境かどうかを確認しておくと良いでしょう。
給与は調剤薬局などと比較して低くなることが多い
薬剤師の平均年収は、男性が630万円、女性が545万円です。
一方で、病院で働く薬剤師の平均年収は約430万〜450万円程度 と、薬剤師の平均年収と比較して低い傾向になっています。
あくまで平均年収であり、同じ病院薬剤師でも勤務先が国立病院なのか民間の病院なのかによっても給与体系は変わってくるため、自身が就職先として検討している給与を見てから判断する必要があります。
また、病院では基本給以外にも夜勤手当などがつく場合もあるため、手当てがあるかどうかも確認しておくと良いでしょう。
病院薬剤師の1日のスケジュール例
病院で働く薬剤師の1日のスケジュールは、どのようになっているのでしょうか?
スケジュールを知ることによって、実際に働くときのイメージが沸きやすくなります。
今回は、日勤と夜勤の2交代制で勤務する場合の、病院薬剤師のスケジュール例を見てみましょう。
日勤のスケジュール
日勤の薬剤師は出勤後、まずは病棟での申し送りや朝礼で、夜間帯の患者さんの状態や連絡事項の共有、夜間帯に使用した薬の確認を行います。
出勤時間はおおよそ8時半から9時です。
そのあと、病棟で退院患者さんへの内服指導を行ったり、調剤室で入院患者さんの定期処方の調剤などを行います。
午後は、入院患者さんを訪問します。
具体的な業務は、現在の体調や内服状況、アレルギーの有無などの確認と、持参薬の確認、カルテへの入力です。
このとき、院内で取り扱っていない薬剤などについては、代替処方の提案や継続処方の必要性を医師に提案します。
また、調剤室にて調剤も行います。
翌日分の注射薬や臨時処方、変更指示が出た定時処方などの調剤です。
※今回は、調剤室の業務と病棟薬剤業務を混ぜてスケジュールを紹介しましたが、病院によっては病棟担当の日、調剤担当の日など役割を分担しているところもあります。
夜勤のスケジュール
2交代制の場合、夜勤の薬剤師は16時〜17時ぐらいに出勤し、翌朝9時までの勤務体制の場合が多いです。
夜勤担当の薬剤師は、出勤後に日勤薬剤師からの引き継ぎを受けて交代します。
夜勤薬剤師の主な業務は救急対応となるため、救急の患者さんが来院したり、病棟内で急変した患者さんがいた際にその都度必要な薬を準備していきます。
業務の状況を踏まえ、仮眠が取れそうなタイミングで他の薬剤師と交代で仮眠を取っていきますが、仮眠時間は病院の規定やその日の忙しさによって変わるでしょう。
また、病院によっては、2交代制ではなく、当直体制(朝に出勤し、次の日の朝まで働く)や3交代制(日勤、準夜勤、深夜勤)を採用している病院もあるため、確認が必要です。
病院薬剤師はチームの一員として医療に貢献できる
薬剤師として病院で働くことで、患者さんの状態をタイムリーに把握し、医師や看護師などの他職種とともにチーム医療の一員として専門性を発揮できます。
病院での勤務を通して、薬剤師として治療に関わることができたというやりがいを感じられるでしょう。
病院によって勤務形態や行う業務、専門性を高められる領域は異なります。
自分がどのように働きたいか、どの分野に貢献していきたいかを考えながら、さまざまな病院を比較し、検討していくと良いでしょう。