
近年、医療の高度化にともない、病棟薬剤師の役割がより重要視されるようになりました。
病棟薬剤師の業務内容は、一般的な薬局薬剤師とはかなり異なりますが、薬剤師の職能を発揮できるやりがいのある仕事です。
本記事では、病棟薬剤師の仕事内容や配置の背景とメリットなどについて詳しく解説します。
目次
病棟薬剤師の仕事内容
病棟薬剤師の主な仕事は、病棟での薬剤に関する業務と、入院している患者さんへの服薬指導の2つに分けられます。
また、院内の業務だけでなく、患者さんの退院の際には、かかりつけ病院やかかりつけ薬剤師への申し送りも病棟薬剤師の仕事です。
病棟での薬剤業務
病棟にある薬剤の管理は、病棟薬剤師の重要な仕事の一つです。
病棟では、抗がん剤や麻薬など、深刻な状況の患者さんに使われる薬もあります。また、保管温度や施錠、使用者制限など、取り扱いのルールが厳しい薬品も保管されます。
病棟薬剤師の主な薬剤業務について見ていきましょう。
薬剤の保管管理
薬品は、その法的分類や性質によって適切な保管条件で保管しなければなりません。
薬品によっては、湿度や温度などの変化で変化を起こすものがあります。適切な医療を提供するためには、使用期限を守り薬品ごとに適切な環境で保管する必要があります。
そのため薬剤の在庫管理を行い、使用期限や在庫量を常に把握しておくことも重要な仕事です。
これらの情報は台帳に記録し適切に保管し、必要があれば確認できるようにしておきます。
薬剤のミキシング
病棟薬剤師は、点滴への薬剤添加や抗がん剤の無菌調製など、薬剤のミキシングも行います。
特に、溶解によって変化する薬品は、服薬の直前に病棟でミキシングを実施する必要があります。
また、点滴や注射は血管に直接投与される薬剤ですから、菌や微粒子のコンタミネーションが発生すれば医療事故にもつながりかねません。ミキシングはコンタミネーションを防止できる環境で無菌操作で行われる必要があります。高度な調製作業が求められる薬剤のミキシングを、専門性の高い病棟薬剤師が行うことによって、信頼性の高い薬剤投与が可能になります。
薬剤情報収集・情報提供
病棟薬剤師は、副作用情報や新規処方薬の情報を積極的に収集し、医療スタッフや患者さんに情報提供する役割も担います。
薬剤によって起こりうる副作用の最新情報を入手し、医師や看護師とも連携するのは重要な業務です。
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)には副作用情報など医薬品に関する情報がデータベース化されており、常に更新されています。
病棟薬剤師はチーム医療の一員として、医療チームに最新情報を提供し、リスクを防止しています。
入院している患者さんへの服薬指導
病棟薬剤師は、入院している患者さんに対して服薬指導を行います。
服薬指導は、患者さんに安心して薬物療法に臨んでもらうために重要な業務です。
以下では、病棟薬剤師の服薬指導と、それにともなう業務について解説します。
持参薬の確認
一般に病棟薬剤師は、患者さんの入院時に持参した薬(持参薬)と服用状況について確認するために面談を行います。
持参薬の事前確認は、入院中の薬剤療法や減薬のために欠かせません。
面談では、直接持参薬を確認し、処方歴や紹介状、お薬手帳など、患者さんの背景を整理しつつ服薬状況や病棟内に同じ薬があるかなど、服薬計画書作成に必要な情報を入手します。
服薬計画書の作成
持参薬の確認後、病棟薬剤師は患者さんの服薬状況や薬歴などを考慮して、入院中の服薬計画書を作成します。
服薬計画書は、医師にとって重要な判断材料の一つです。
病棟薬剤師が適切な服薬計画を提案すれば、医師の処方作成の負担が軽減されます。また、医師と薬剤師の複数の視点で処方を検討できるので一物多名称の医薬品の重複投与や副作用といった医療ミスの防止にもつながります。
服薬計画書の作成は、患者さんが安心して入院中の薬物療法を行ううえでも欠かせない業務です。
退院時の申し送り
病棟薬剤師は患者さんが退院する際、病棟薬剤師はかかりつけ病院や在宅サービスなどに対して、入院中の服薬状況の申し送り(退院時カンファレンス)を実施します。
この申し送りは、退院後患者さんがスムーズ在宅医療へ移行するために重要です。
在宅医療に移行すると、入院中のような服薬介助が受けられなくなるケースもあるでしょう。
その場合は、かかりつけ病院や在宅サービスと相談して、服薬方法の変更や処方の再設計も行います。
退院時の申し送りは、患者さんが退院後も安全な薬物治療を行うために欠かせません。
患者情報の収集
病棟薬剤師は、患者さんの服用状況を確認・記録し、管理します。
同じ薬でも患者さんの状態によって、効果や副作用の発現のし方が異なる場合があります。
そのため、薬物療法は患者さんの身体状況を把握し、適切に効果が現れているかどうかを確認しながら進めることが重要です。
また、収集した患者情報は医師や看護師と共有し、安全で効果的な薬物療法ができるようチームでサポートします。
薬物血中濃度についても、医師ではなく薬剤師がTDM(Therapeutic Drug Monitoring:治療薬物モニタリング)を担当する場合もあります。
薬剤師が病棟に配置されるようになった背景は?
医療の高度化が進むなかで、薬剤師の役割が見直され、病棟への配置が進められるようになりました。
ここでは、病棟薬剤師の配置が進められるようになった背景について説明します。
薬機法改定
令和元年の薬機法等改正で、薬剤師の対人業務が見直されました。
薬剤師には調剤時だけでなく、調剤後も服薬指導を行い、継続的に患者さんの服用状況を把握することが義務付けられています。
加えて、患者さんの服薬状況などを処方医にフィードバックすることも努力義務として規定されました。
薬機法改正に基づく、継続的な服薬指導と医師への情報共有をスムーズに行うためにも、病棟薬剤師が必要とされています。
チーム医療の推進
2000年代以降、医師や薬剤師、作業療法士といった多様な医療スタッフの協力による、チーム医療の推進が図られています。
チーム医療の推進の目的は、医療の質と安全性の向上です。
病棟薬剤師は、チーム医療において、医師や看護師の負担軽減と、医療ミスの防止に大きく貢献しています。
医療従事者の負担増
進化する医療技術や、質の高い医療へのニーズに対応するうえで、医師をはじめとした医療従事者の負担は増加するばかりです。
そこで薬剤師がより院内医療に参加し、病棟での業務比率を増やし、医師や看護師の負担軽減を進めるよう求められています。
前述のチーム医療の観点からも、病棟での薬剤師の活躍が期待されているといえるでしょう。
診療報酬の改定
病棟薬剤師の配置を促進するために、診療報酬上の評価も見直されてきました。
平成24年の改定では、病棟薬剤業務実施加算と感染防止対策加算が新設され、チーム医療への薬剤師の参画を推進しています。
さらに、令和2年の改定では、病棟薬剤業務実施加算1が100点から120点に、病棟薬剤業務実施加算2が80点から100点に引き上げられました。
これらの診療報酬の改定が、病棟薬剤師の配置を後押ししています。
病棟薬剤師を配置するメリット
病棟に薬剤師を配置することで、医療の質と安全性の向上が期待できます。
ここでは、病棟薬剤師の配置によるメリットを具体的に見ていきましょう。
医師や看護師の負担が少なくなる
病棟薬剤師が院内に配置するメリットの一つは、医師や看護師の業務負担を軽減できることです。
例えば、薬剤師が服薬計画の立案をすれば、医師は処方を最初から考える必要がなくなり負担が減らせます。
また、薬剤師に服薬指導や薬剤管理を任せることで、看護師やその他医療スタッフは他のの業務に時間を割けます
業務負担が軽減されると、医療ミスなどのリスクも減らせます。
安全でより良い医療を提供できる
安全で質の高い医療の提供に貢献してくれることも、病棟薬剤師を配置するメリットです。
薬剤師は、PMDAのデータベースなどから新しい薬剤情報を収集し、自らの知識を常にアップデートすることが要求されています。
これにより、新しく発見された副作用や処方禁忌、一物多名称などによる重複処方などの薬学的リスクを早期に発見し、適切な対応を取ることが可能です。
また、薬剤師が患者さんの服薬状況を確認・把握していれば、適切な薬物療法が可能になり、より効果的で安全な医療が提供できるでしょう。
病棟薬剤師はチーム医療を支えるやりがいのある仕事
病棟薬剤師は、チーム医療の一員として、他の医療従事者の負担軽減や、良質な医療の提供に貢献する仕事です。
薬剤の専門家として、適切な薬物療法を提案し、副作用などのリスクの早期発見に努めることで、医療の質と安全性を向上させます。
また、患者さんが安心して薬物治療に臨めるように、服薬指導や服薬状況の確認を行います。
病棟薬剤師は、院内の負担軽減と医療の質の向上はもちろん、患者さんの安心感と安全を支えるやりがいのある仕事といえるでしょう。