リハビリテーションの専門職である理学療法士。
病気や怪我、加齢などにより身体に障がいをもつ方を対象に、医師の指示のもと、運動療法や物理療法を行います。
理学療法士になるには、学校や試験、就職活動など、どのようなルートをたどれば良いのか、詳しく解説していきます。
目次
理学療法士になるには国家資格が必要
理学療法士は、理学療法士および作業療法士法に基づく国家資格です。
名称独占資格であるため、国家試験に合格し免許を取得しなければ、理学療法士を名乗ることはできません。
理学療法士国家試験は、誰でも受験できるわけではありません。
基礎教養科目や基礎医学、社会福祉学、臨床実習など、理学療法士になるのに必要な知識と技術を養成校や実習施設で学ぶと、受験資格を得ることができます。
受験資格を得るための教育課程を修了するには、いくつかのルートがあります。
次項で詳しくみていきましょう。
理学療法士の国家試験を受験するために必要な受験資格
理学療法士国家試験の受験資格を得るためには、養成校で3年以上の教育課程を修了する必要があります。
具体的な選択肢は下記のとおりです。
- 大学(4年制)
- 短期大学(3年制)
- 専門学校(3年制・4年制)
- 特別支援学校(視覚障がい者が対象)
また、すでに作業療法士の資格を取得している人は、養成校で2年以上学べば理学療法士の受験資格を得られます。
学校によってカリキュラムの進め方や学費が異なるため、オープンキャンパスや説明会に参加して、どの学校が自分に合っているかよく考えると良いでしょう。
それぞれのルートの特徴を解説していきます。
4年制大学
理学療法士国家試験の受験資格を得ることができる養成校のうち、4年制大学の割合は約40%(総数261校・大学106校)です。
一部の専門学校や短期大学では3年間で課程を修了しなければなりませんが、4年制大学では理学療法の基礎から詳論まで十分に時間をかけて、幅広く学ぶことができます。
また、学校に病院や施設が附属している場合もあり、演習や臨床実習を行うことで学生時代から実践的な経験を積むことができます。
卒業後の進路は臨床への就職に限定されず、大学院や研究機関へ進む道がひらかれているのも、4年制大学の魅力です。
大学の教員は現役の研究者ですので、研究や論文の執筆などのノウハウを学べます。
理学療法の知識や技術をじっくり学びたい、深く究めたいという方に向いているでしょう。
就職先にもよりますが、大卒の初任給は専門学校卒に比べて高く設定されていることが多くなります。
短期(3年制)大学
短期大学は医療系大学に附属している場合が多く、専門学校より大学に近い環境で講義や実習を受けられます。
修了年限も3年間と大学より1年早く卒業でき、その分学費が安く抑えられるのも魅力です。
しかし、大学であれば4年間かけて修了する課程を3年間に詰め込んでいるため、授業や課題で忙しい学生生活になってしまう可能性があります。
また、理学療法士国家試験の受験資格を得られる短期大学は全国で10校以下と、かなり少ないのが現状です。
専門学校(3年制、4年制)
専門学校は、一般的に大学より学費が安くすみます(国公立大学を除く)。
すぐに現場で活躍できる即戦力を求める医療機関や福祉施設も多く、専門的な実践方法を学んだ専門学校卒の理学療法士を高く評価する場合もあります。
夜間に学べる専門学校もあり、一度社会人を経験した方が、働きながら理学療法士をめざすこともできます。
一方、附属病院や施設がない場合は実習が学外で行われる点や、短大同様カリキュラムがタイトである点は大変かもしれません。
また大学と異なり、教員が研究者として所属しているわけではないので、研究や論文の執筆など、研究者としてのノウハウは学びにくいといえるでしょう。
なお、3年制では専門士、4年制では高度専門士と、それぞれ授与される称号が異なります。
高度専門士は学歴的に大卒と同等とみなされ、大学院への入学資格が得られるほか、就職活動時や就職後も大卒相当の待遇を受けます。
社会人で働きながら理学療法士をめざす人には、夜間部のある専門学校や、特別支援金といった援助を利用する選択肢もあるので、以下のリンクをご覧ください。
特別支援学校(視覚障がい者が対象)
視覚障がいをもちながら理学療法士をめざす人は、高校卒業後に理学療法科を設置している特別支援学校で3年間の教育課程を修了すれば、理学療法士国家試験の受験資格を得ることができます。
特別支援学校は、視覚障がいがある人にあわせたカリキュラムがあり、少人数のクラスで教職員から個別的に学べる環境が整っています。
卒業後には、病院や施設、教育機関など、さまざまな場所で活躍できるでしょう。
これらのルートのほかにも、さまざまな事情で学校に通えない人は、通信課程を採用している大学や専門学校を利用する手もあります。
理学療法士の試験について
以上のようなルートを経て理学療法士国家試験受験資格を得ることができたら、いよいよ国家試験です。
理学療法士国家試験の概要を紹介していきます。
理学療法士の試験は指定都市で年1回
理学療法士国家試験は毎年1回、2月下旬から3月上旬に行われています。
年に1回しか行われていないため、不合格となると次の年まで1年間、再受験を待たなければなりません。
すべての都道府県に試験地があるわけではなく、以下に指定されています。
北海道・宮城県・東京都・愛知県・大阪府・香川県・福岡県・沖縄県
自分の居住している県で行われていない場合には、近県まで出向いて受験します。
合格発表は3月下旬です。
なお、特別支援学校を卒業した人を対象に行われる口述試験および実技試験は、東京都でのみ行われています。
理学療法士試験の内容
理学療法士国家試験は、1問1点の一般問題と、1問3点で事例・症例が問われる実地問題からなる試験です。
時間は2時間40分で、形式は五肢択一か五肢択二の選択問題です。
実地問題得点と総得点の両方で合格基準を超えていれば合格になります。
合格基準は年により多少変動しますが、毎年おおむね実地問題35%、総得点60%の得点がボーダーラインとなっています。
直近3年間、55回・56回・57回の理学療法士国家試験合格率は以下のとおりです。
第55回 | 第56回 | 第57回 | |
合格率(%) | 86.4 | 79.0 | 79.6 |
また、視力障がいのある人に対しては、点字や問題の読み上げによる受験が認められるなど、個別的な対応がなされています。
受験願書の請求方法
学生の受験願書は、学校がまとめて準備してくれるでしょう。
自分で準備しなければならない場合には、
- 理学療法士国家試験運営本部事務所
- 厚生労働省医政局医事課試験免許室
以上のどちらかに返信用封筒を同封し郵送で請求します。
また、下記窓口でも受け取れます。
- 理学療法士国家試験運営臨時事務所
- 厚生労働省の受付窓口(医政局医事課試験免許室)
厚生労働省ホームページに詳しく記載されているので、こちらで詳細を確認してください。
理学療法士の職業に就く方法
主な就職先である医療機関のほか、介護施設や福祉施設、在宅医療、スポーツジムなどにも、理学療法士の需要があります。
就職活動は卒業前、最終学年の夏頃に始めるケースが多いでしょう。
しかし、理学療法士の国家試験が2月下旬ですので、日頃の模試の結果が思わしくない場合は、就職活動をなかなか進めづらいかもしれません。
そのため、国家試験の自己採点で合格ラインを超えているのを確認してから、就職活動をする場合もあります。
就職先は、卒業する養成校からの紹介のほか、専門誌の求人に応募したり、リハビリテーション関係者から情報を収集したりして見つけます。
最終学年で行う臨床実習は、約2ヵ月あるため、実習を行った施設に就職するといったケースもあります。
それぞれの職場による就職試験を経て内定を得たら、残る学生生活で卒業論文の作成・発表や国家試験に向けての学習を終え、国家試験に合格すると、晴れて4月から理学療法士として働けるようになります。
理学療法士になるための最短ルートは?
ここまで、理学療法士国家試験の受験資格を得るための教育課程には、複数の選択肢があることを説明してきました。
高校卒業後、理学療法士になるために必要な期間は最短で3年間です。
短期大学か3年制の専門学校を選ぶのが、一番早く理学療法士になるルートです。
しかし、4年制の大学や専門学校に通えば、学士や高度専門士が取得できるなどのメリットがあります。
通学する養成校は、何年制かだけでなく、学校の所在地や学費などもよく調べてから決めましょう。
また、大学では教員がそれぞれの専門としている分野の研究を行っています。
ホームページなどで研究している内容を調べて、将来自分の関わりたい分野の研究をしている教員がいる大学を選ぶのも一つの方法です。
理学療法士になるには最低3年間の養成学校に通って国家試験に合格する必要がある
理学療法士として働き始めるまでの、具体的なルートがイメージできたでしょうか。
理学療法士は患者さんと一対一で接する機会が多く、運動機能を回復したいという目標を患者さんと共有し、ともに困難を乗り越えていく、とてもやりがいのある仕事です。
自分のキャリア形成や、なりたい理学療法士像を明確にしたうえで、養成校の情報を収集していきましょう。