リハビリテーションを専門とする国家資格職には、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の3つがあります。
そのなかでも理学療法士は、日常生活動作のリハビリテーションを専門とする職業です。
この記事では、理学療法士の役割や、具体的な仕事内容、勤務先、理学療法士になるための方法などを紹介します。
目次
理学療法士とは
理学療法士は、病気やケガで身体が思うように動かない人や、先天的に身体的障害がある人などに対して、医師の指示のもと、座る・歩くなど、日常的な基本動作のリハビリテーションをする「動作の専門家」です。
英語では「Physical Therapist」となることから、略して「PT」とも呼ばれます。
また、身体機能の回復だけでなく、身体機能の低下予防や健康増進、スポーツ分野での能力向上なども理学療法士の役割です。
病院だけでなく介護施設、スポーツや健康増進の分野でも活躍しています。
混同されやすい職業として作業療法士がありますが、それぞれリハビリをする目的が異なります。
詳しくは、次の記事をご参照ください。
理学療法士の具体的な仕事内容
働く環境により、理学療法士の仕事内容には多少の違いがありますが、ここでは代表的な仕事内容を紹介します。
なお理学療法士の給料を知りたい人は、次の記事をご参照ください。
リハビリ計画の作成・評価・記録
理学療法士は、医師の指示のもとリハビリを行います。
まずは患者さんの身体能力の評価をもとに、医師や看護師をはじめとする多職種と連携を取りながら、専門知識を活かしてリハビリプランを作成。
そして実際に患者さんにリハビリを実施する段階では、患者さんの状態とリハビリ期間を考慮し、必要な場合は身体能力の評価を見直しつつ、リハビリプランを適宜修正します。
リハビリ計画の目標は「歩いて家に帰る」「車いすに移れるようになり施設に入所する」など、患者さんによりさまざまです。
患者さんとご家族の意向、周りの環境を考慮してリハビリプランを立て、実施と再評価を繰り返すのが理学療法士の仕事です。
また、実施したリハビリ内容の記録や必要書類の作成なども行います。
運動療法
理学療法士は、患者さんが日常生活動作を自立して行えるよう、運動療法をメインとしたリハビリを実施します。
運動療法は、患者さん自身の力や理学療法士の手技、器具などを使用し、運動することで身体機能の回復や機能低下の予防をめざすものです。
運動療法の具体的な内容としては、関節可動域練習や筋力増強練習、歩行訓練、筋持久力運動、バランス運動などがあります。
また、患者さんやご家族に対し、自宅で実施できるリハビリ方法を指導することもあります。
物理療法
物理療法は、温熱や電気刺激、光線、水流、超音波などの物理的な刺激を用いて、主に痛みの軽減や不快感の緩和、血液循環の改善、むくみの緩和などをめざすリハビリです。
具体的には、牽引療法マッサージなどが物理療法に含まれます。
なお、マッサージについてはあん摩マッサージ指圧師という別の国家資格もあります。
理学療法士が行うマッサージの詳しい内容は、次の記事をご参照ください。
他部署と連携を取り患者さんの生活を支える
理学療法士は患者さんの生活を支えるため、施設内だけでなく、他事業所やご家族とも連携を取ります。
例えば、車いすや歩行器といった補助器具や、義肢やサポーターなどの装具が必要な患者さんに対しては、介護用品業者や義肢装具士と連携を取って準備し、使い方を指導します。
装具の使用や介護用品には、医師の意見書が必要な場合があるため、医師と連携を取るのも理学療法士の仕事です。
また退院後、患者さんとご家族が自宅で不都合なく生活できるようにしなければなりません。
そのため理学療法士は、必要時には作業療法士らと協力して、自宅の環境調査も行います。
自宅の玄関に段差があるか、トイレは洋式か、ベッドの有無などを調査し、患者さんの身体状況と生活環境に合わせたリハビリの実施や、手すりの設置など家屋の改修を提案することもあります。
理学療法士が活躍する職場
上記のグラフは、日本理学療法士協会の会員の勤務先データです。
人数の一番多い病院をはじめ、理学療法士は下記のような勤務先で活躍しています。
- 医療の現場
- 福祉の現場
- 行政・ヘルスケア産業
- 教育・研究の現場
医療の現場
- 病院
- 診療所
リハビリは、患者さんの症状の段階に沿って急性期、回復期、生活期に大きく分けられ、それぞれ求められる理学療法士の役割も異なります。
治療を優先する急性期では、安静にしていることで起こる筋力低下の防止などを目的として、リハビリをします。
回復期のリハビリでは退院に向けた身体機能の回復、生活期のリハビリでは在宅生活の質の維持や向上が目標です。
診療所には、入院施設がない無床診療所と、ベッド数が19床以下の有床診療所があり、それぞれで必要とされるリハビリは異なります。
また、整形外科や脳神経外科など、診療科によっても理学療法士の仕事内容や役割に違いがあります。
福祉の現場
- 老人福祉施設
- 障がい者福祉施設
- 訪問看護ステーション
- デイケア・デイサービス
福祉の現場のなかでは、介護老人保健施設で働く理学療法士がもっとも多く、訪問看護ステーションで働く理学療法士も多いです。
デイケア(通所リハビリテーション)やデイサービスでも理学療法士は活躍しており、その背景には高齢化による在宅医療の促進が関係しているでしょう。
働く人の人数は少ないものの、障がい者や障がいを持って生まれた子どもを対象とした、障がい者福祉施設に在籍する理学療法士もいます。
障がい者福祉施設では、対象者の潜在能力を引き出し、身体機能の回復や新たな機能の獲得をめざしリハビリテーションを実施するのが理学療法士の役割です。
行政・自治体
- 市・区役所
- 保健所
- 地域包括支援センター
市役所や保健所といった行政機関では、健康増進や予防を目的とし、啓蒙活動や運動指導をするのが理学療法士の役割です。
子どもから高齢者まで、幅広い年齢を対象とし、乳児検診での運動機能の相談や、高齢者向けの体操教室の開催などを行います。
理学療法士の知識を活かし、フィットネス施設やスポーツチームでトレーナーとして勤務する場合もあります。
スポーツ分野で活躍する理学療法士については、次の記事をご参照ください。
教育・研究の現場
- 大学
- 専門学校
- 一般企業
教育・研究の現場では、大学や専門学校の教員として働く理学療法士がいます。
養成校で学生指導に携わるためには、理学療法士として5年以上の実務経験と、講習の受講が必要です。
また、大学や一般企業でリハビリ分野の研究や、義肢開発のような研究に携わる人もいます。
ごく一部ですが、整体院や一般企業で働く、または開業する人もいます。
ただし、理学療法士は医師の指示のもとでしかリハビリを実施できないため、整体院や一般企業では、整体として施術をするか、介護予防医療事業の一環としてのサービス提供しかできません。
理学療法士は国家資格の取得が必要
理学療法士は、理学療法士及び作業療法士法に基づく国家資格です。
国家資格に合格しても、厚生労働大臣より免許が交付されないと理学療法士として働くことはできません。
また国家試験を受験するためには、養成校で3年以上学び、知識と技術を習得する必要があります。
高校卒業後、専門学校や大学で専門知識を学ぶ人が多いですが、なかには社会人経験を経て養成校に入学し、理学療法士をめざす人もいます。
理学療法士になるためのルートを詳しく知りたい人は、次の記事をご参照ください。
理学療法士の資格や仕事内容を詳しく理解しよう
理学療法士は、リハビリ分野のなかでも「立つ・歩く」のような基本的な日常生活動作を支援するプロです。
日常生活動作は、子どもから高齢者まで自立する生活を送る基本となるため、理学療法士は幅広い職場で活躍しています。
今後、高齢化が進むにつれ理学療法士の需要は幅広くなるとの予想もあります。
理学療法士の資格や仕事内容を理解し、「やりがいがある」と感じた人は、ぜひチャレンジしてみてください。