
ソーシャルワーカーとは、病気や障害など、さまざまな理由によって生活に問題を抱える人の支援を行う専門職です。
働く場所や仕事内容は多岐にわたりますが、そのなかでも、医療機関で働くソーシャルワーカーを「医療ソーシャルワーカー」と呼びます。
医療ソーシャルワーカーは、患者さんやご家族が抱える悩みや問題を解決するのが主な役割です。
今回は、医療ソーシャルワーカーの具体的な仕事内容や役割、必要な資格と対策などについて解説します。
目次
医療ソーシャルワーカーとは
医療ソーシャルワーカーとはどのような仕事でしょうか。
ここでは、医療ソーシャルワーカーの仕事を紹介します。
医療における問題を社会福祉の立場から支援する仕事
医療ソーシャルワーカーとは、医療における問題を社会福祉の立場から解決し、患者さんやそのご家族を支援する仕事です。
例えば、ケガや病気で治療が必要になった際の治療費や病気に対する不安の解消、職場復帰のサポートなどです。
患者さんやそのご家族と面談を重ね、信頼関係を築きながら、問題を解決していきます。
医療ソーシャルワーカーは、「Medical Social Worker」の頭文字を取って「MSW(エム・エス・ダブリュー)」と呼ばれることもあります。
主な勤務先は病院と保健所
医療ソーシャルワーカーの主な勤務先は、病院と保健所です。
病院で医療ソーシャルワーカーが勤務するのは、地域医療と連携するための部署である地域医療連携室などです。
入院中の患者さんやご家族と面談して相談を受けたり、医師や看護師などに患者さんの情報をシェアしたりします。
保健所では、医療に関する相談窓口や医療相談室などで働きます。
病気や健康に関して、一般的な相談に対応するのが仕事です。
他にも、医療機関に直接関わる立場ではないことから、医療従事者から受けた対応によるトラブルの相談を受けるケースもあります。
医療ソーシャルワーカーの業務内容
日本医療ソーシャルワーカー協会による業務指針では、医療ソーシャルワーカーの標準的な業務内容を以下の6つとしています。
- 療養患者の心理的・社会的問題解決
- 退院支援
- 退院・退所後の社会復帰援助
- 受診・受療支援
- 社会福祉・社会保険などの制度紹介と支援
- 地域の保健医療福祉
それぞれ紹介します。
療養患者の心理的・社会的問題解決
医療ソーシャルワーカーの主な業務内容の一つに、療養患者の心理的・社会的問題解決があります。
これは、入院中の患者さんが抱える心理的・社会的問題を、社会福祉の知識と技術を駆使して早期発見・解決するものです。
例えば、次のような内容が挙げられます。
- 入院中の患者さんの不安や問題を取り除くための支援
- 疾病・看病における問題と対応
- 在宅療養整備支援
- 難病をはじめとする受容困難な問題解決に向けた支援
- 亡くなった患者さんとそのご家族の心理的不安や苦痛の軽減
- 生活再設計支援
退院支援
退院が見込まれる患者さんに対して、自宅に帰ってから起こるさまざまな問題を予測・予防し、必要な支援を行います。
患者さんの状態に合わせて、退院後の選択肢を提示し、相談に応じるのが主な役割です。
介護が必要な患者さんに対しては、担当ケアマネジャーと連携しながら適切な在宅ケアサービスや介護保険制度利用支援、利用可能な社会福祉サービスなどを提案します。
退院・退所後の社会復帰援助
退院・退所後の社会復帰に向けた援助も、医療ソーシャルワーカーの大切な仕事です。
社会福祉に関する専門的な知識や技術を活かして、患者さんが通う学校や職場などと調整し、復学や復職を目的としたサポートを行います。
受診・受療支援
医療ソーシャルワーカーは、患者さんやご家族に対する受診や受療支援も行います。
患者さんの状況に応じて、医療機関の利用方法の提案や、病院・診療所に関する情報を提供します。
患者さんが診療を拒んだ場合は、その背景にある心理的な問題や社会的な問題を解決するための支援を行います。
社会福祉・社会保険などの制度紹介と支援
患者さんのなかには、医療費や生活費に困っている人もいます。
そのような場合に、社会福祉制度を活用し、社会保険などに関する機関と連携しながら、利用できる制度を紹介・支援します。
お金に関する問題は社会復帰後の生活に大きな影響を与えるため、この業務はとても重要な意味を持ちます。
地域の保健医療福祉
患者さんのニーズに合わせて地域で提供されている保健医療福祉に関する情報提供も、医療ソーシャルワーカーの業務の一つです。
市区町村などと連携して、患者会や家族会の運営サポートや、地域ボランティアの育成を行います。
また、地域ケア会議などを通して地域のネットワーク作りに貢献し、高齢者や精神障がい者などの在宅ケアに関する啓もう活動を行う場合もあります。
医療ソーシャルワーカーのなり方
特に資格がなくても、医療ソーシャルワーカーとして働くことは可能です。
とはいえ、現場で活躍する医療ソーシャルワーカーの多くは、社会福祉士か精神保健福祉士の資格を取得しています。
採用にあたって、資格を保持していることを条件として挙げているケースが多いため、取得しておいたほうが良いといえます。
社会福祉士や精神保健福祉士の資格を取得するには、大学や短大、専門学校などで社会福祉や医療福祉を学んだうえで、国家試験の合格が必要です。
国や自治体の公的機関の医療ソーシャルワーカーとして就業したい場合は、資格試験とあわせて公務員試験の合格も必要です。
医療ソーシャルワーカーは、資格なしでもなれるかどうかに関しては、以下の記事をご参照ください。
社会福祉士を取得する
社会福祉士は、保健や医療、介護の現場と連携して、病気や障がいなど、さまざまな理由によって生活に問題を抱える人の支援を行う専門職です。
療育施設や学校、障がい者施設、介護施設、医療機関など、多岐にわたって活躍します。
福祉系の4年制大学で指定科目を履修している場合は、実務経験がなくても社会福祉士の国家試験を受験できます。
指定科目ではなく基礎科目を履修している場合は、短期養成施設で必要なカリキュラムの履修が必要です。
社会福祉士の試験の合格ラインは、総得点の60%程度を基準とし、18科目のすべてで得点を得ることです。
精神保健福祉士を取得する
精神保健福祉士は、精神科病院において精神障がいの治療を受けている患者さんのサポートを行う職業です。
社会復帰に関する相談やアドバイス、日常生活に適応するために必要な訓練を行います。
精神保健福祉士の試験を受験するには、保健福祉系の4年制大学で指定科目を履修する必要があります。
3年制(もしくは2年制)の短大等で指定科目を履修した場合は、1年(もしくは2年)の相談援助の実務経験も必要です。
精神保健福祉士の試験は、総得点の60%程度を基準とし、16科目すべてに得点していることが合格ラインです。
医療ソーシャルワーカーについて知っておくべきこと
医療ソーシャルワーカーとして働くうえで知っておくべきことを、以下の項目ごとに紹介します。
- 働き方
- 給料
- 大変さ
- 将来性
働き方
相談業務が中心の医療ソーシャルワーカーは、基本的に日勤で週休2日制が採用されている場合が多いです。
ただし、休日や夜間に開催されることが多い患者さんの会やグループワークに対応する場合は、時間外勤務や休日出勤するケースもあります。
また、介護老人保健施設などで働く場合は遅番もあり、働く場所によっても異なります。
給料
厚生労働省の「医療ソーシャルワーカー」によると、医療ソーシャルワーカーの全国の平均年収は405.8万円となっています。月額にすると33.8万円です。
地域や勤務形態、経営母体の規模、経営母体の経営状況によって給料に差が出ます。
また、公立病院や保健所の場合は公務員給与規定に基づいて給料が支給されます。
大変さ
患者さんやそのご家族をサポートする医療ソーシャルワーカーは、非常にやりがいがある仕事です。患者さんの問題を多角的な視点で分析し、解決に導けたときの喜びは大きいでしょう。
一方で、親身になって患者さんの相談に乗り、一人ですべて抱え込んでしまうこともあります。業務に慣れるまでの間は、仕事とプライベートのオン・オフを切り替え、うまくバランスを保つことを意識する必要があります。
また、病院によっては「各病棟に医療ソーシャルワーカーが一人」という体制のところもあり、相談相手がいないなどの悩みを持つ医療ソーシャルワーカーもいるようです。
就職先を選ぶ際は、医療ソーシャルワーカーのサポート体制についても確認しておくとよいでしょう。
医療ソーシャルワーカーへの適性は、以下の記事をご参考ください。向いている人・向いていない人の特徴を挙げています。
将来性
医療ソーシャルワーカーは、保健医療機関で患者さんやご家族の相談などに応じる医療福祉の専門職であり、将来性があります。
なぜなら、高齢化にともなって、高齢者医療だけでなく精神医療の問題も多くなっているからです。
医療の現場では病気を治療するだけでなく、患者さんが抱える心理的・経済的な問題に対して、総合的に支援する専門職が求められています。
患者さんに寄り添える医療ソーシャルワーカーを目指そう
医療ソーシャルワーカーは、医療現場にとって重要な役割を持ち、患者さんやそのご家族にとって非常に頼りになる存在です。
やりがいが大きい一方、大変なこともありますが、患者さんの問題を解決できたときの達成感や、心からの「ありがとう」を聞いたときの喜びは何物にも代えがたいでしょう。
医療ソーシャルワーカーとして働く上で必須となる資格はありませんが、実際に現場で働くスタッフは社会福祉士や精神保健福祉士の資格を保有しているケースが多いことから、無資格・未経験よりも、資格保有者のほうが即戦力として採用される可能性が高まります。
ぜひ、資格試験にチャレンジし、患者さんに寄り添える医療ソーシャルワーカーを目指しましょう。