
作業療法士は、病院や介護福祉施設など活躍できる場所が多くあり、高齢化が進む日本では需要の高い職業であるため、めざす方も多いでしょう。
一方で、近年では作業療法士の数が増加しており、作業療法士の将来性に不安を感じる方も多いかもしれません。
今回の記事では、作業療法士の人数の推移や今後のニーズを解説しつつ、作業療法士としてスキルアップするためにおすすめの資格を紹介していきます。
目次
2022年の作業療法士の有資格者は約10万人
全国にいる作業療法士の有資格者の人数は、2022年3月時点で104,286人です。
文部科学省または厚生労働省が指定する作業療法士の養成施設で3年以上学習し、例年2月に実施される国家試験に合格することで、作業療法士として活躍できます。
作業療法士の国家試験は例年約6,000人が受験し、都度約4,500人の作業療法士が新たに誕生しています。
日本作業療法士協会に所属している作業療法士の人数の推移は?
日本作業療法士協会に所属している作業療法士の人数の推移は、どのようになっているのでしょうか?
日本作業療法士協会が発行している資料によると、以下のグラフのように作業療法士の人数は増加傾向にあります。
参考資料:機関誌『日本作業療法士協会誌』
人数が増加し続けているため、就職が困難になっているのではないかと感じる方もいるかもしれません。
しかし作業療法士の勤務先は、病院をはじめ介護福祉施設、児童福祉施設、特別支援学校、保健所などと多岐にわたります。
また、作業療法士協会によると作業療法士の就職率は100%であり、さまざまな場所で求められている職種であるといえるでしょう。
作業療法士の人数が増加している背景として、以下の要因が考えられます。
1999年に作業療法士のカリキュラムが変更
1998年12月に「理学療法士及び作業療法士学校養成施設指定規則」の大綱化が決定し、1999年4月から施行され、養成施設のカリキュラムに影響を与えました。
具体的には、教育時間数で示されていたものが単位数に変更されたり、教員要件の改訂などがありました。
これらの変更によって、作業療法士の養成施設はカリキュラム編成の裁量が大きくなり、施設数の増加につながったと考えられます。
作業療法士の養成施設が増加
以下のグラフのように、作業療法士の養成施設数や入学定員数は、1999年以降急激に増加しました。
そのため、作業療法士の国家試験受験者数および有資格者の数も増加傾向にあります。
日本作業療法士協会による作業療法士の構成・人数比
作業療法士の構成や人数比は、どのようになっているのでしょうか?
日本作業療法士協会の統計をもとに解説します。
男女比では女性が多い
2021年の時点で、日本作業療法士協会に入会している男性作業療法士は24,916人、女性作業療法士は39,314人でした。
男女比は女性の比率が高く、男性38.8%、女性61.2%となっています。
参考資料:今後の協会組織体制について③
作業療法士の約70%は医療機関勤務
作業療法士の71.5%は病院や診療所などの医療機関で働いており、多くの作業療法士が医療機関で活躍していることがわかります。
医療機関のなかでも、一般病院や精神科病院など、病院で働いている人の割合が68.3%と高い傾向です。
また、介護関連施設で働いている作業療法士の割合は19.5%です。
そのなかでは通所リハビリテーション、訪問看護、訪問リハビリテーションで活躍する作業療法士が多いことがわかっています。
作業療法士の勤務先の割合を、以下のグラフで確認してみましょう。
作業療法士の平均年齢は36歳
作業療法士の平均年齢は36歳です。
内訳としては、男性が36.4歳、女性は35.6歳となっています。
以下は、2021年度時点での作業療法士の年齢別会員数をグラフにまとめたものです。
先述したように、1999年頃から養成学校数が増加し有資格者も増加したことから、現在は若い作業療法士の割合が大きくなっており、平均年齢が低くなっていることが考えられます。
作業療法士の供給は需要を上回る?
人数が増え続ける作業療法士に、将来性はあるのでしょうか?
将来の人数の推計とともに、今後活躍が期待される領域について見ていきましょう。
人口10万人に対する2040年の作業療法士数は2017年の約2.3倍
2022年時点で作業療法士は約10万人いますが、現在の養成施設数や定員数が継続すると仮定した場合、人数は年々増加し、2040年には15万人を突破すると考えられています。
画像引用元:理学療法士・作業療法士の 需給推計について
また、人口10万人に対する作業療法士の数は2017年時点で約60人だったのに対し、2040年には約141人と、およそ2.3倍になることが予想されています。
介護福祉施設での作業療法士の需要は増加が期待できる
現在の日本では高齢化が進んでおり、2025年には高齢者の数が3,677万人、2042年には3,935万人と、ピークに達する見込みです。
また、作業療法士の大半が医療機関で働いており、介護福祉関連の施設で働いている作業療法士はまだ少ないのが現状です。
これらのことから、高齢者を支える介護福祉の現場では作業療法士はまだ不足しており、今後も作業療法士のニーズが高まってくることが考えられます。
心や身体の障がいを持つ高齢者一人ひとりに合った方法を計画し、その人らしい日常生活を送れるようにリハビリを実践していきます。
これからも活躍するために、高齢者の体の機能や社会的背景を踏まえたリハビリを提供できる作業療法士をめざすことも考えると良いかもしれません。
作業療法士の将来性については、こちらの記事でも紹介しています。
作業療法士としてスキルアップする方法
作業療法士の数が増加していくなかで、人気の高い職場の求人はすぐに埋まってしまうこともあるかもしれません。
方向性を定めて専門性を高めたり、スキルアップを図ることによって、自身の作業療法士としての価値を高めることが重要となるでしょう。
作業療法士としてスキルアップをめざす方法を紹介していきます。
認定作業療法士をめざす
認定作業療法士とは「臨床実践能力」「教育」「研究」「管理運営」に対して一定の水準があると認められた作業療法士のことです。
日本作業療法士協会により、質の高い作業療法の提供を目的として、認定制度が設立されました。
認定作業療法士になることで一定の能力が認められ、他の作業療法士と差別化できるでしょう。
認定作業療法士になる要件は、以下のとおりです。
- 日本作業療法士協会に入会後、作業療法士の臨床経験を5年以上積み、生涯教育基礎研修を修了していること
- 教育、研究、管理運営に関する研修を36時間以上受講していること
- 自身の専門領域に関する研修を24時間以上受講し、修了試験に合格していること
- 事例報告登録制度により3例以上の事例を報告していること
専門作業療法士をめざす
専門作業療法士制度も認定作業療法士制度と同様、日本作業療法士協会により設立されました。
専門作業療法士とは、認定作業療法士のうち特定の専門領域について深い知識があり、高度な実践能力や課題解決能力を持つ作業療法士のことです。
現時点(2022年12月)では、142名が認定を受けて活躍しています。
専門作業療法士になることで、特定の専門作業療法分野におけるスペシャリストとして認められるでしょう。
専門作業療法士になる要件は以下のとおりです。
- 認定作業療法士であること
- 「研修実践」「臨床実践」「研究実践」「教育と社会貢献の実践」のすべてを修了または満たすこと
- 専門作業療法士資格認定審査に合格すること
短期間で取得できる資格ではないため、長期的な計画をもって行動すると良いでしょう。
その他の資格を取得する
作業療法士としてさらに活躍するために、作業療法に関わる他の資格を取ることも有効です。
以下のような資格を取得するうえで得た知識を作業療法士の知識とかけ合わせながら、利用者に対してより効果的なリハビリを提供できるようになるでしょう。
- 介護支援専門員(ケアマネジャー):介護を必要としている方に対して、必要な介護サービス計画や事業所との調整を行う資格
- 福祉住環境コーディネーター:高齢者や障がい者など自宅での生活に困難を感じている方に対して、住宅環境のアドバイスを行う民間資格
- 心臓リハビリテーション指導士:心臓リハビリに安全で効果的な運動や生活習慣の指導ができる資格
作業療法士の更なる能力向上が求められている
作業療法士の人数は増加傾向ですが、介護福祉分野では今後も作業療法士の需要が増え続けることが考えられます。
作業療法士として活躍し続けるために、自身の得意分野や活躍したい分野を探り、専門性を持った作業療法士をめざすことが必要となるでしょう。